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9 笑顔
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もっと生きたかった。そう言ってさらはわんわん泣き出した。その涙がさらの辛さを洗い流してくれればと思う。
ただ、しかし……僕もさらに生きてて欲しかったとも思ってしまう。生きて出会いたかった、と。
だって今、さらが僕の目の前で泣いているのに、僕はその涙を拭ってやれないのだから。
「るか、るか~」
「さら……」
触れられないと分かっていても、さらの頬を流れる涙を拭おうと手を動かす。しかしやっぱり拭えない。当たり前だ。実体が無いのだから。
さらは僕の目の前に見えるのに。声も聞こえるのに。それなのに触れられない。ああ、途轍もなくもどかしい。
「うぅ……るかにみっともないところ見せちゃったぁ……」
それから十分ほどして、一頻り泣ききったらしい。さらはぐすぐすと鼻を鳴らしながらゴシゴシと目を擦る。
「なんでそう考えるかな。……ああほら目は擦らないで。腫れるから。」
「幽霊なのに?」
「それでも。」
僕のその言葉を聞いたさらは一瞬ぽかんと口を開ける。
「……ぷっ、」
あれ、さら……今度は急に笑い出したよ。はて、どうして笑い出したのだろうか。よく分からない変化に僕が首を傾げてみるとさらはもっと笑い出した。
「あはは、私は幽霊なんだよ? 泣きはするけど、(多分)目は腫れないよ。」
「ちょっと、括弧の中見えてる見えてる。」
「分かっちゃったか。でも……本当に腫れるのかな?」
どうなんだろう、と数秒程二人で考え込み、その後どちらともなく笑い出した。なんか楽しくなってきて、ね。
「あはは、」
「ふふ、るかが笑ったあ。」
さらは嬉しそうに目を細める。僕がさらの前で笑ったことなんていくらでもあっただろうに。
何故そんなに嬉しそうなのか分からず、僕はきょとんとする。
「え? 僕、結構さらの前では笑ってるよね?」
「違う違う。るかはにこーってはするけど、声を出して笑ったのは初めて見たよ。」
「そう、だっけ。」
さらと一緒にいる時の僕は常に楽しんでいたから、声を出して笑ったこともあると思っていたが……そうでもなかったらしい。
笑わないようにだなんて考えてもいなかったけど、やっぱり雨嫌いな自分もまだ僕の中に居座っていたのだろうか。
「うん。でもやっぱりるかには笑顔が似合うよね。」
そう言ってふわりと笑うさら。でも僕の笑顔なんかよりも……
「それを言うならさらの笑顔だって可愛……んん、何でもない。」
危ない危ない。思っていたことをそのまま伝えてしまうところだった。僕の口、よく留まった。褒めて遣わそう。
面と向かって可愛いだなんて恥ずかしくて言えないよ。しかし言いかけてしまったことで少し顔が熱くなる。
「私の笑顔は川? どういうこと?」
「さらの笑顔は川……のように穏やかな気持ちになる。かな。」
「そう? えへへ。」
僕の答えにさらは嬉しそうに照れた。何それ可愛い。
さらの笑顔は可愛い、そう伝えたらどんな反応をしてくれるのか気になったが、それ以上に恥ずかしさが僕の中に居座る。
きっと本当のことを伝えるまでにはまだ時間がかかるだろうな。
ただ、しかし……僕もさらに生きてて欲しかったとも思ってしまう。生きて出会いたかった、と。
だって今、さらが僕の目の前で泣いているのに、僕はその涙を拭ってやれないのだから。
「るか、るか~」
「さら……」
触れられないと分かっていても、さらの頬を流れる涙を拭おうと手を動かす。しかしやっぱり拭えない。当たり前だ。実体が無いのだから。
さらは僕の目の前に見えるのに。声も聞こえるのに。それなのに触れられない。ああ、途轍もなくもどかしい。
「うぅ……るかにみっともないところ見せちゃったぁ……」
それから十分ほどして、一頻り泣ききったらしい。さらはぐすぐすと鼻を鳴らしながらゴシゴシと目を擦る。
「なんでそう考えるかな。……ああほら目は擦らないで。腫れるから。」
「幽霊なのに?」
「それでも。」
僕のその言葉を聞いたさらは一瞬ぽかんと口を開ける。
「……ぷっ、」
あれ、さら……今度は急に笑い出したよ。はて、どうして笑い出したのだろうか。よく分からない変化に僕が首を傾げてみるとさらはもっと笑い出した。
「あはは、私は幽霊なんだよ? 泣きはするけど、(多分)目は腫れないよ。」
「ちょっと、括弧の中見えてる見えてる。」
「分かっちゃったか。でも……本当に腫れるのかな?」
どうなんだろう、と数秒程二人で考え込み、その後どちらともなく笑い出した。なんか楽しくなってきて、ね。
「あはは、」
「ふふ、るかが笑ったあ。」
さらは嬉しそうに目を細める。僕がさらの前で笑ったことなんていくらでもあっただろうに。
何故そんなに嬉しそうなのか分からず、僕はきょとんとする。
「え? 僕、結構さらの前では笑ってるよね?」
「違う違う。るかはにこーってはするけど、声を出して笑ったのは初めて見たよ。」
「そう、だっけ。」
さらと一緒にいる時の僕は常に楽しんでいたから、声を出して笑ったこともあると思っていたが……そうでもなかったらしい。
笑わないようにだなんて考えてもいなかったけど、やっぱり雨嫌いな自分もまだ僕の中に居座っていたのだろうか。
「うん。でもやっぱりるかには笑顔が似合うよね。」
そう言ってふわりと笑うさら。でも僕の笑顔なんかよりも……
「それを言うならさらの笑顔だって可愛……んん、何でもない。」
危ない危ない。思っていたことをそのまま伝えてしまうところだった。僕の口、よく留まった。褒めて遣わそう。
面と向かって可愛いだなんて恥ずかしくて言えないよ。しかし言いかけてしまったことで少し顔が熱くなる。
「私の笑顔は川? どういうこと?」
「さらの笑顔は川……のように穏やかな気持ちになる。かな。」
「そう? えへへ。」
僕の答えにさらは嬉しそうに照れた。何それ可愛い。
さらの笑顔は可愛い、そう伝えたらどんな反応をしてくれるのか気になったが、それ以上に恥ずかしさが僕の中に居座る。
きっと本当のことを伝えるまでにはまだ時間がかかるだろうな。
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