雨、アメ、あめ 【完結、おまけ追加】

君影 ルナ

文字の大きさ
上 下
5 / 14

5 条件

しおりを挟む
 結果から言おう。この学校のどの学年クラスにも『雨宮 さら』という人物はいなかった。はてさて、一体どういうことなんだ……?

 やはり昨日出会ったさらという人物は、雨を嫌うあまりに僕の頭が創り出した幻だったのだろうか。それとも雨宮 さらという名前は偽名だったとか?

「さら……」

 いつもは雨が何か大切なものを奪っていくが、今回は雨が上がってから別れたのだから雨は関係ない。だから失ったわけではなさそう。ならばなんだというんだ……?

「そうだ。昨日と同じように、放課後になったら教室に戻ればもしかして……?」

 昨日と同じ状況を作ればあるいは……?

 そう考えた僕は放課後まで待った。ずっとさらのことを考えていて、午後の授業はほとんど聞いていなかった。



















 昨日と同じように一度生徒玄関まで歩き、ふっと深呼吸する。もしこの当てが外れたらどうしようか。そんな後ろ向きな考えしか出てこない自分に自嘲の笑みが浮かぶ。

 無理だったらその時考えればいい。それくらいの心持ちで挑んだ方がいい気がする。よし、そう思おう。

「さら……」

 また会えたら何を聞こうか。何を話そうか。そんな風に少し前向きなことを考えてみる。そうすると口角が少しだけ上がったのが分かった。

 よし、と気合を入れて三年二組に向かう。

















 ガラ、と扉を開けると、教室の中はがらんどう。誰一人としていなかった。

「さら……」

 いない、のか。呼びかけに応える声はなく、ただただ僕の声だけが教室の中に響いた。

 やっぱりさらは僕の頭が創り出した幻だったのだろうか。それか、何か条件が足りないのか。

「条件……あ。」

 条件条件、と頭を捻らせて考えると、一つ思い当たることがあった。

 そうだ、雨だ。昨日は雨が降っていた。しかし今日は晴れている。窓の外を見ると陽の光が斜めに差し込んでいるのが分かった。

「そうか、そうか。雨が降った日の放課後になればもしかしたら……!」

 この仮説が外れたら、だなんてことは何故か考えなかった。謎の確信がこの時の僕にはあった。

「毎日天気予報見てないと、だな。」

 そうと決まれば雨になるまで待つしかない。

 そこまで考えて、ふとあんなに嫌っていた雨の日を僕は待ち遠しく思っていることに気がついた。

















 あれから数日が経った。今日は朝から晩までずっと雨の予報。確かに今も雨は降っている。

 今日はきっと会える。そう信じて同じ手順を踏む。ガラ、と教室の扉を開けるとそこには……

「さら!」

 前回のように窓の外を眺めるさらの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある雪の日に…

こひな
ライト文芸
あの日……貴方がいなくなったあの日に、私は自分の道を歩き始めたのかもしれない…

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

あなたと私のウソ

コハラ
ライト文芸
予備校に通う高3の佐々木理桜(18)は担任の秋川(30)のお説教が嫌で、余命半年だとウソをつく。秋川は実は俺も余命半年だと打ち明ける。しかし、それは秋川のついたウソだと知り、理桜は秋川を困らせる為に余命半年のふりをする事になり……。 ―――――― 表紙イラストはミカスケ様のフリーイラストをお借りしました。 http://misoko.net/

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

アマツバメ

明野空
青春
「もし叶うなら、私は夜になりたいな」 お天道様とケンカし、日傘で陽をさえぎりながら歩き、 雨粒を降らせながら生きる少女の秘密――。 雨が降る日のみ登校する小山内乙鳥(おさないつばめ)、 謎の多い彼女の秘密に迫る物語。 縦読みオススメです。 ※本小説は2014年に制作したものの改訂版となります。 イラスト:雨季朋美様

処理中です...