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2 事の始まり
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最初の不幸は僕が中学二年生だったあの夏、ポチが……飼っていた犬が死んだこと。
あの日の前後四、五日くらいはずっと晴れていたのに、ポチが死んだ日だけザーザー振りだった。だから余計に印象に残っている。
ポチは前日まで元気に走り回っていたのに、それなのに……
犬は人間である僕よりも短命なのは理解していた。それでも大事な家族が死んだことのショックは大きかった。
何ヶ月か経って、ようやくポチの死から立ち直った頃。この日は秋雨の時期だったから、やっぱり雨が降っていた。
次の不幸は、幼馴染が僕の元から去っていったことだった。
僕は元来人と関わるのが得意ではない。だから一人でいることに辛さを感じたことはない。むしろお弁当とか一人で食べたい派だ。
しかしそんな僕にも幼馴染がいた。そいつとは幼稚園の頃からの腐れ縁で、小中も同じ学校だった。
あいつは僕とは正反対、人と群れるのが大好きなやつで。それでも人がいいやつだったから、僕とも仲良く出来ていた。あいつだけは一緒にいても苦痛がなかった。
もしかしたら僕が学校で唯一話せる人、だったかもしれない。それなのに……
あの日、秋雨が降る中傘をさしてあいつと共に下校していた時。ふとあいつは話し始めた。
「お前、あいつらに目、付けられてんぞ。」
「あいつらって?」
「ほら、スクールカースト上位の××達だよ。」
「ああ、名前、聞いたことはある気がする。」
「だろ? そいつがお前をターゲットにし始めたらしいぞ。」
「え、なんのターゲット?」
「ここまで言ってて分かんないのかよ。やっぱり馬鹿だな。いじめだよい、じ、め。」
「……え?」
「だからさ、お前といる旨味がないからお前とは縁を切るわ。じゃ、一人で頑張って~」
そう言って僕を一人置き去りにして帰っていった。あいつの背中と青い傘が今でも印象に残り続けている。
それからの僕の学校生活は、平穏とは程遠いものになった。
あの雨の日、僕は幼馴染を失い、さらに平穏な学校生活も失った。いじめは中学を卒業するまで続いた。
次の不幸は、高校一年生の春。この時にはもう人を信じられなくなり、両親としか話さなくなっていた。
いじめっ子達が行かない学校を選んだから高校では普通に生活出来るかな、とほんの少し期待しながら、しかし高校に上がってもきっとまたいじめられるのだろうな、そんな風に卑屈になっていた。
そんな僕が絶望したのが、桜雨が降った日。
あの日、僕と両親はお花見に来ていた。お昼ご飯を食べている途中までは晴れていたのに、急に雨が降ってきたのが始まり。
雨が降ってはお花見出来ないな、と帰ることになり、雨と桜が落ちていくのを敷物をしまいながら見ていたのを覚えている。
傘をさしながら両親と僕の三人で駐車場までの道を歩いていたその時。暴走した車が僕達の方に向かってきた。
僕は驚いて立ち尽くしてしまったのだが、ふわりと母親に抱きしめられたおかげ……と言っていいのだろうか、それによって僕だけ生き延びた。一緒に歩いていた父親と母親は打ち所が悪く、そのまま帰らぬ人に。
二人の葬式の日も雨だった。その日の天気予報を流し見していたら、その雨で桜も散ってしまうだろうことが分かった。
しかしその時には既に、僕は『全てどうでもいい』と投げやりになっていた。
あの日の前後四、五日くらいはずっと晴れていたのに、ポチが死んだ日だけザーザー振りだった。だから余計に印象に残っている。
ポチは前日まで元気に走り回っていたのに、それなのに……
犬は人間である僕よりも短命なのは理解していた。それでも大事な家族が死んだことのショックは大きかった。
何ヶ月か経って、ようやくポチの死から立ち直った頃。この日は秋雨の時期だったから、やっぱり雨が降っていた。
次の不幸は、幼馴染が僕の元から去っていったことだった。
僕は元来人と関わるのが得意ではない。だから一人でいることに辛さを感じたことはない。むしろお弁当とか一人で食べたい派だ。
しかしそんな僕にも幼馴染がいた。そいつとは幼稚園の頃からの腐れ縁で、小中も同じ学校だった。
あいつは僕とは正反対、人と群れるのが大好きなやつで。それでも人がいいやつだったから、僕とも仲良く出来ていた。あいつだけは一緒にいても苦痛がなかった。
もしかしたら僕が学校で唯一話せる人、だったかもしれない。それなのに……
あの日、秋雨が降る中傘をさしてあいつと共に下校していた時。ふとあいつは話し始めた。
「お前、あいつらに目、付けられてんぞ。」
「あいつらって?」
「ほら、スクールカースト上位の××達だよ。」
「ああ、名前、聞いたことはある気がする。」
「だろ? そいつがお前をターゲットにし始めたらしいぞ。」
「え、なんのターゲット?」
「ここまで言ってて分かんないのかよ。やっぱり馬鹿だな。いじめだよい、じ、め。」
「……え?」
「だからさ、お前といる旨味がないからお前とは縁を切るわ。じゃ、一人で頑張って~」
そう言って僕を一人置き去りにして帰っていった。あいつの背中と青い傘が今でも印象に残り続けている。
それからの僕の学校生活は、平穏とは程遠いものになった。
あの雨の日、僕は幼馴染を失い、さらに平穏な学校生活も失った。いじめは中学を卒業するまで続いた。
次の不幸は、高校一年生の春。この時にはもう人を信じられなくなり、両親としか話さなくなっていた。
いじめっ子達が行かない学校を選んだから高校では普通に生活出来るかな、とほんの少し期待しながら、しかし高校に上がってもきっとまたいじめられるのだろうな、そんな風に卑屈になっていた。
そんな僕が絶望したのが、桜雨が降った日。
あの日、僕と両親はお花見に来ていた。お昼ご飯を食べている途中までは晴れていたのに、急に雨が降ってきたのが始まり。
雨が降ってはお花見出来ないな、と帰ることになり、雨と桜が落ちていくのを敷物をしまいながら見ていたのを覚えている。
傘をさしながら両親と僕の三人で駐車場までの道を歩いていたその時。暴走した車が僕達の方に向かってきた。
僕は驚いて立ち尽くしてしまったのだが、ふわりと母親に抱きしめられたおかげ……と言っていいのだろうか、それによって僕だけ生き延びた。一緒に歩いていた父親と母親は打ち所が悪く、そのまま帰らぬ人に。
二人の葬式の日も雨だった。その日の天気予報を流し見していたら、その雨で桜も散ってしまうだろうことが分かった。
しかしその時には既に、僕は『全てどうでもいい』と投げやりになっていた。
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