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わんわんわんわん(4章)
つー・わんわんわんわん
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誕生日プレゼントは桃が良いと言ったのだが、佐藤さんからは形に残るものを贈りたいと言われてしまった。
そして、桃を買うなら最後だ、とも言われた。この暑い中それを持って回るのも、車に置いておくのも良くないだろう、という佐藤さんの判断で。
確かにそりゃあそうだわな。桃があると思ってついはしゃいでしまったが、冷静になって考えれば分かるよな。
そして落ち着いたことで、先程までの異様なテンションに対して羞恥心が湧いてきた。ああ、なんて子供っぽいことをしてしまったんだ……!
パタパタと顔に集まった熱をなんとか逃しながら、この八百屋には美味しそうな桃がある、という情報だけを仕入れて店を後にした。
「で、今日の目的はサキちゃんのプレゼントを選ぶことだ。本当はサプライズが出来たら良かったんだが、その、俺のセンスは山葵田から酷評を受ける程で……」
だから、サキちゃんが本当に欲しいものを一緒に選びたかったんだ。そう佐藤さんは言う。本音を言えばその酷評されるセンスがいかほどか少し見てみたい気持ちもなくはない。
それにしても、形に残るもの、か……
それに拘るなら、佐藤さんの誕生日プレゼントも形に残るものが良いのだろうか。今日はそれの偵察も兼ねているから、良いものが見つかれば良いと思う。
「サキちゃん、あのお店に入ってみないか?」
「勿論!」
何のお店かは知らないけど、佐藤さんが入ってみたいなら良いんじゃない? そんな軽い気持ちで了承したのだが。
まさかあんなことになるとは。予想だに出来なかった。
…………
「ポメラニアン柄……! あっちも、こっちも、ポメラニアン……!!」
どうやらここは動物柄、動物モチーフの雑貨を売っているお店らしい。で、ここまで聞けば何となく察していただけるだろう。
そう、佐藤さんの暴走だ。
どうやら今ちょうどこのお店ではポメラニアンのフェアを開催しているらしく、お店の一角が全てポメラニアングッズになっていた。
「こっちのポメラニアンはサキちゃんに似てる。買う。あっちのポメラニアンは、そっちのポメラニアンは……」
僕も佐藤さんに倣って犬のグッズをサッと見る。確かに可愛いが、佐藤さん程テンションは上がらない。
それなら猫ならどうか。これもまた佐藤さん程ではない。やっぱり僕には動物を愛でる感性というものが備わっていないらしい。
少しの落胆を経て──佐藤さん程熱狂できる何かが僕も欲しかった──ふと次目に入ったのは……
「こ、これは……!」
ええと、ち、ちべっとすな、ぎつ、ね? 値札に書かれていた文字をそのまま読むと、そう書いてあった。それのぬいぐるみがデデンと置かれていたのだ。
スンッとした表情が、中々可愛いな。
そうか、僕は犬猫ではなくこの種類が好きなのか……! 一個自分のことについて知れた気がして少しだけ嬉しくなった。
それを佐藤さんにも報告しようと振り返ると、未だにポメラニアングッズの前を陣取り、端から全て買い物カゴに入れようとしているところだった。
ポメラニアンなら、ここにもいるのに。
何故かそう感じてプクーッと頬が膨れ、ポメラニアングッズに殺気を向けてしまうのだった。
──楓真side
ここは天国か。そう高らかに言いたくなるのも仕方ないだろう。何たってここはポメラニアングッズの宝庫なのだから……!
あっちもこっちもと買い物カゴに入れ、我が家に潤っていくポメラニアングッズの数々を想像してはまた幸せになる。
今度はポメラニアン柄のキーケースを、と手に取ったその時、くいっと控えめに裾を引かれる。
「ん? ……サキちゃん?」
その主、サキちゃんはプクーッと頬を膨らませていかにも不機嫌ですと言わんばかりな表情を浮かべていた。
「さ、サキちゃん? どうした?」
この店に入ってきた時は全然楽しそうだったのに、急にどんな変化が? 不思議に思ってそう聞くと、これまた不機嫌そうな声で一言だけ呟いた。
「ポメラニアンならここにもいる。」
それってつまり……嫉妬ですね?
さすがにこの状況でそれを聞くのはあまりにも空気読めなさすぎるので、黙りを決める。が、これはもしかしなくても、もしかするのでは?
俺があまりにもポメラニアングッズに構っているから、拗ねてしまった、ということですかね?
何それ可愛い。ポメラニアングッズでそもそも可愛いの過剰摂取だったのに、サキちゃんがプラスされてはもはや致死量に値する。それくらい可愛い。今倒れなかった自分を褒めたい。
……ゴホン、じゃなくて。
サキちゃんがいるのに他のことばかりにかまけていただなんて、彼氏失格だ。
「かわ……ゴホン、ごめんね。サキちゃんに似ていると思ったらつい。」
「……良いんです。僕は自力でポメラニアンにはなれませんから。」
プクーッと拗ねたままそう妥協するサキちゃん。
「でも、僕が一番でいたいです。」
「はわっ」
あーなんて殺し文句! 心臓に矢が何本も刺さった気がする! 何回も好きを更新させてくるサキちゃんって本当魔性!!!
「勿論サキちゃんが一番だ! ただ、犬を愛でたい気持ちはやっぱりあるから……」
「それは理解しているつもりです。だからやめてほしいんじゃなくて、僕が一番のポメラニアンであれたら、それで良いんです。僕の気持ち……嫌、ですか?」
「嫌なんかじゃない!」
なんだかんだいつも一方的に俺ばかりがサキちゃんを好きであるような気がしていたが、全然そんなことは無かったらしい。両思いって素晴らしい。改めて実感した。
サキちゃんの機嫌を損ねてしまったが、それが分かったのは収穫だった。
ただまあ、もうサキちゃんを悲しませることはしないと決めているんでね! これっきりですよ! 多分!
そして、桃を買うなら最後だ、とも言われた。この暑い中それを持って回るのも、車に置いておくのも良くないだろう、という佐藤さんの判断で。
確かにそりゃあそうだわな。桃があると思ってついはしゃいでしまったが、冷静になって考えれば分かるよな。
そして落ち着いたことで、先程までの異様なテンションに対して羞恥心が湧いてきた。ああ、なんて子供っぽいことをしてしまったんだ……!
パタパタと顔に集まった熱をなんとか逃しながら、この八百屋には美味しそうな桃がある、という情報だけを仕入れて店を後にした。
「で、今日の目的はサキちゃんのプレゼントを選ぶことだ。本当はサプライズが出来たら良かったんだが、その、俺のセンスは山葵田から酷評を受ける程で……」
だから、サキちゃんが本当に欲しいものを一緒に選びたかったんだ。そう佐藤さんは言う。本音を言えばその酷評されるセンスがいかほどか少し見てみたい気持ちもなくはない。
それにしても、形に残るもの、か……
それに拘るなら、佐藤さんの誕生日プレゼントも形に残るものが良いのだろうか。今日はそれの偵察も兼ねているから、良いものが見つかれば良いと思う。
「サキちゃん、あのお店に入ってみないか?」
「勿論!」
何のお店かは知らないけど、佐藤さんが入ってみたいなら良いんじゃない? そんな軽い気持ちで了承したのだが。
まさかあんなことになるとは。予想だに出来なかった。
…………
「ポメラニアン柄……! あっちも、こっちも、ポメラニアン……!!」
どうやらここは動物柄、動物モチーフの雑貨を売っているお店らしい。で、ここまで聞けば何となく察していただけるだろう。
そう、佐藤さんの暴走だ。
どうやら今ちょうどこのお店ではポメラニアンのフェアを開催しているらしく、お店の一角が全てポメラニアングッズになっていた。
「こっちのポメラニアンはサキちゃんに似てる。買う。あっちのポメラニアンは、そっちのポメラニアンは……」
僕も佐藤さんに倣って犬のグッズをサッと見る。確かに可愛いが、佐藤さん程テンションは上がらない。
それなら猫ならどうか。これもまた佐藤さん程ではない。やっぱり僕には動物を愛でる感性というものが備わっていないらしい。
少しの落胆を経て──佐藤さん程熱狂できる何かが僕も欲しかった──ふと次目に入ったのは……
「こ、これは……!」
ええと、ち、ちべっとすな、ぎつ、ね? 値札に書かれていた文字をそのまま読むと、そう書いてあった。それのぬいぐるみがデデンと置かれていたのだ。
スンッとした表情が、中々可愛いな。
そうか、僕は犬猫ではなくこの種類が好きなのか……! 一個自分のことについて知れた気がして少しだけ嬉しくなった。
それを佐藤さんにも報告しようと振り返ると、未だにポメラニアングッズの前を陣取り、端から全て買い物カゴに入れようとしているところだった。
ポメラニアンなら、ここにもいるのに。
何故かそう感じてプクーッと頬が膨れ、ポメラニアングッズに殺気を向けてしまうのだった。
──楓真side
ここは天国か。そう高らかに言いたくなるのも仕方ないだろう。何たってここはポメラニアングッズの宝庫なのだから……!
あっちもこっちもと買い物カゴに入れ、我が家に潤っていくポメラニアングッズの数々を想像してはまた幸せになる。
今度はポメラニアン柄のキーケースを、と手に取ったその時、くいっと控えめに裾を引かれる。
「ん? ……サキちゃん?」
その主、サキちゃんはプクーッと頬を膨らませていかにも不機嫌ですと言わんばかりな表情を浮かべていた。
「さ、サキちゃん? どうした?」
この店に入ってきた時は全然楽しそうだったのに、急にどんな変化が? 不思議に思ってそう聞くと、これまた不機嫌そうな声で一言だけ呟いた。
「ポメラニアンならここにもいる。」
それってつまり……嫉妬ですね?
さすがにこの状況でそれを聞くのはあまりにも空気読めなさすぎるので、黙りを決める。が、これはもしかしなくても、もしかするのでは?
俺があまりにもポメラニアングッズに構っているから、拗ねてしまった、ということですかね?
何それ可愛い。ポメラニアングッズでそもそも可愛いの過剰摂取だったのに、サキちゃんがプラスされてはもはや致死量に値する。それくらい可愛い。今倒れなかった自分を褒めたい。
……ゴホン、じゃなくて。
サキちゃんがいるのに他のことばかりにかまけていただなんて、彼氏失格だ。
「かわ……ゴホン、ごめんね。サキちゃんに似ていると思ったらつい。」
「……良いんです。僕は自力でポメラニアンにはなれませんから。」
プクーッと拗ねたままそう妥協するサキちゃん。
「でも、僕が一番でいたいです。」
「はわっ」
あーなんて殺し文句! 心臓に矢が何本も刺さった気がする! 何回も好きを更新させてくるサキちゃんって本当魔性!!!
「勿論サキちゃんが一番だ! ただ、犬を愛でたい気持ちはやっぱりあるから……」
「それは理解しているつもりです。だからやめてほしいんじゃなくて、僕が一番のポメラニアンであれたら、それで良いんです。僕の気持ち……嫌、ですか?」
「嫌なんかじゃない!」
なんだかんだいつも一方的に俺ばかりがサキちゃんを好きであるような気がしていたが、全然そんなことは無かったらしい。両思いって素晴らしい。改めて実感した。
サキちゃんの機嫌を損ねてしまったが、それが分かったのは収穫だった。
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