ほら、ホラーだよ

根津美也

文字の大きさ
上 下
59 / 77

59.再び座敷オヤジの登場

しおりを挟む
 その後、八木沢由美子はおばさんに電話をかけたらしい。そしてその雑誌のページにサインを貰いにうちにくることになった。しかも八木沢由美子は一緒に行きたいという子を何名か募ったらしい。

 だいたい、こういう話はぼく抜きで進む。まあ、最初のうちはぼくはこういう話を全然受け付けなかったので、八木沢由美子がぼく抜きでダイレクトにおばさんと話しを付けるのは仕方がないと言える。

 だもんで、会見の全容を聞いたときはびっくらこいた。

 なんと! クラスメートが全員来るんだと! 
 その団体さんは金曜日の夜、塾がえりの21時30分という時間に、送迎の親とともにやってくるというのだった!
 その夜はうちの古屋も賑わった。
 ママはピザをとったり、オニギリをにぎったりして大忙しだったが、付き添いのママたちとおしゃべりをしながらとても楽しそうだった。

 また、みんな同じ塾に行っているわけではないので、バラバラと玄関のチャイムが鳴った。

 おばさんは再び和服を着用し、求めに応じて、小学生たちが持参してきた掲載誌にサインしたりしていた。

 サインが一段落すると、心霊現象の話に移った。

「見て、今、花鳥風月の掛け軸が架かっているでしょう?」

 小学生、「ふんふん」

「ところが、この雑誌の掛け軸はじいさんの絵が描いてある」

 小学生、「あ、ほんとだ!」

「大きな声では言えないけれど、実はこれは心霊写真なのよ」

 小学生「ほんとう?」

「本当です。この絵のお方はね、うちの家神様、座敷わらし様なのです」

 みんな改めて雑誌に掲載された写真をまじまじと見た。

「座敷わらしって子供じゃないの?」
 八木沢由美子が聞いた。

「子供じゃないの?」
 他の子もそこのところが聞きたいというようにおばさんの顔を見た。

「うちのはね、書斎にある本を読むうちに大人になり、さらにじいさんになったのだそうです」

 親たちは親同士でおしゃべりをしながら、時折それとなくおばさんと子供たちの話をニコニコと聞いている。妖怪作家が職業上のノウハウを子供たちに語って聞かせる課外授業くらいに思っているんじゃないかな。

 でもおばさんはけっこうマジみたいだ。なにしろ妖怪のスポークスマンだからね。

「だから、うちでは家神様のことを座敷オヤジって呼んでいるんです」

 小学生、「へー」

「じゃあさ、じゃあさ」
 小学生たちは口々に疑問を口に出した。
「どのうちにも家神様っているの?」
「座敷わらしだよ」
「わかってるよ。ねえねえ、座敷わらしって、どの家にもいるの?」

 おばさんはおごそかに答えた。

「います」

「新しい家の座敷わらしって赤ちゃん?」

「多分」

「で、家が古くなって本がたくさんおいてあるような家の座敷わらしは座敷オヤジになるの?」

「本人がそう言っていました」

「え?本人がって、先生のうちの座敷オヤジが直接しゃべったの?」

「はい」

 そこで一同がうわーっと湧いた。
「じゃあさ、じゃあさ、家に置いてある本が漫画ばかりだったら?」

「どんな漫画かによりますが、小学生から大学生くらいまでの年齢の座敷チャラオになるんじゃないですかねえ」

「じゃあ、パソコンが置いてあって、家の人がパソコンばっかりやっていたら?」

「多分、座敷オタクって感じでしょう」

「こぶとりで!」
「メガネで!」
「リュックしょって!」
「秋葉系!」

 その時玄関のチャイムが鳴った。
「今度は誰だ?」

 インターフォンのテレビ画面を見た子が言った。

「明日香ちゃんだ!」

 ぼくをはじめ、男の子たちが総立ちになり、みんなでぞろぞろ玄関まで出迎えた。

「遅くなりまして。お邪魔します」
 明日香ちゃんは明日香ちゃんのママの車でやってきた。
「どこに停めたらいいでしょう?」と明日香ちゃんのママが言うので、うちのママが「ここにこういうふうに」などと指示をした。明日香ちゃんは自分のママが来るまで玄関で待っていたため、ぼくらも玄関で待っていた。そして、みんなでリビングに戻ったとき、マサルが和室の掛け軸を指差して立ちすくんだ。

 掛け軸の絵は座敷オヤジになっていたのだ。

「オー!」

 満座はどよめいた。

「先生、架け替えたの?」
「架け替えていません。うちの座敷オヤジが皆様にご挨拶をしにきたのです」

「オー!」

 小学生たちもママたちも沸きに沸いたが実の所、誰もが心霊現象とは思っていなかったみたいだ。

「架け替えなんかしてませんよ。ここに残っていた人もいるでしょう? 私、架け替えていました?」
おばさんは残っていた人たちに聞いた。

「うーん、明日香ちゃんに気をとられていたから・・・」

 要するに、神無月先生に注意を払っていない時間が少しあったというわけだ。そしたら八木沢由美子がこんなことを言った。

「この掛け軸を替えるにはまず、この掛け軸を外すでしょう? そして新しい掛け軸を掛ける。外した掛け軸はどうするの? 巻くかなにかしてしまうのでしょう? するとけっこう時間がかかりますね。そしてそんなことしていたら、誰もが気付くでしょう? でも誰も気付かなかった。ということは、神無月先生のおっしゃるとおり、掛け軸は架け替えていないんじゃないですか?」

 それを聞くと、おばさんの相好がくずれ、「由美ちゃん、由美ちゃん」と八木沢由美子を招きよせて抱きしめた。

「あんた頭いいねえ」

 八木沢由美子はおばさんの腕の中で「それ程でも」と言いながら実にうれしそうな顔をしていた。

「わかった!」

 男の子たちがさけんだ。
「OHPだ!」

 そして電気のコードなどの仕掛けがないかどうか床の間に上がって掛け軸の裏側などをめくろうとした。がこれは親たちの方からストップがかかった

「こらこらこら、床の間に上がっちゃいけません!お行儀が悪い!」

「あ、掛け軸が破れる。やめなさい!」

「奥様、すみません、うちの行儀がわるくて」

「いいえぇ」

 というわけで現場検証は中断されたものだからみんなの頭の中にOHPが残ったままになった。

 再び玄関のチャイムがなった。
「こんどは誰かな」
「どなた?」
 ママがテレビ画面を見た。
「おや、マミさんとこの・・・」
 マミさんとは、マミアナ タイコさん、うちに来ていたお手伝いさんのことだ。ママはマミさんと呼んでいる。
 ぼくも画面を覗いたら、あのポン吉が不安そうな面持ちでインターフォンの画面に映っていた。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

台風ヤンマ

関谷俊博
児童書・童話
台風にのって新種のヤンマたちが水びたしの町にやってきた! ぼくらは旅をつづける。 戦闘集団を見失ってしまった長距離ランナーのように……。 あの日のリンドバーグのように……。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐︎登録して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...