ほら、ホラーだよ

根津美也

文字の大きさ
上 下
23 / 77

23.あなたは何者?

しおりを挟む
「で?」
 おばさんは詰問するようにお手伝いさんの答えを促しているところだった。お手伝いさんはひどく動揺した様子できょときょとしている。
 ぼくが覗き込むと、おばさんは例によって手招きをしてぼくを呼んだ。お手伝いさんはぼくを見ると首をすくめるようにして挨拶をした。
「あなたも私たちと同じように普通の人が見えないものが見える、ということはわかったわよ。で、ショウちゃんとはどんな関係なのよ」
「いえ、関係だなんて・・・ショウイチ様とは昨日こちらで初めてお目にかかったんでございますです。」
「それで、ショウちゃんはあなたにはなんて言ったの?」
「石を捨てるな、と」
「それだけ?」
「はい」
「あなたはそれだけで捨ててはいけないと思ったわけ?」
「はい」
「ふつう、こんな何の変哲もない石を見たら、何でかなと思うわよね。あなたは思わなかったわけ?」
「はぁ・・・・・・」
「埃を払うだけでなく、品物のリストを作れと言われたそうだけど、リストを見ると、リストに石のこと、書いてないじゃない。 他のものは品物ひとつひとつに番号をふって、リストアップしてるのに。ところがこの石はリストアップせずにしまっただけ、ということは、この石の存在をママには知らせたくなかったんじゃない?なぜなら、捨てられてしまうから」
「ええ、まあ・・・」
「イシ、ステルナだけでそこまでするというのは、何かあなた知ってるでしょう?」
「いええ、知りませんですよぉ。ただ、あの方はショウイチ様ですから、あの方のおっしゃることなら従っていた方がいいと思いましたんですぅ」
「あ、ほら、やっぱりあなた、ショウちゃんとは知り合いなんじゃない」
「いえ、初対面ですよ」
「えー?  だって今あなた言ったでしょう? あの方はショウイチ様ですからって」
「はあぃ。ショウイチ様だってことは一目でわかりますよ。お名前まではわかりませんけど」
「え?  え?  え?  ショウイチって名前じゃないの?」
「いええ。位でございますです。正一位様です」


「その、正一位だってことが一目でわかるって、名札かなんかついているの?」
「名札はついていませんですよ」
「どこを見りゃわかるの?」
「はい。オーラですね」
「オーラ?」
「はい、御神体を包み込むような光ですね。」
「ご身体を包み込むような光?」
 ぼくとおばさんは顔を見合わせた。
 確かに暗闇の中でその者は光っていたので、部屋が明るくなっていたことはなっていた。

 おばさんはおずおずと聞いた。
「その位って、正一位って、偉いの?」
「すごく偉いですよ」
(※注:正一位は宮中が人臣に与える官位の中での最高位。神様にも与えられ、その場合は神階といわれる。お稲荷さんの正一位がポピュラー)
「このお宅もすごいですね。あんな偉い方に守っていただいてるなんて、はい」
 おばさんとぼくは再び顔を見合わせた。すごいといわれたって、「イシ、ステルナ」みたいなことしか言わないし、「ショウちゃん」とか呼ばれてタイやヒラメの舞い踊りをしていた幽霊がそんなに偉い幽霊だとはにわかに信じられなかった。
 おばさんも半信半疑のようだったが、子供の時の思い出の品でもあるからなのだろう、押し頂いて言った。
「わかったわ。これ、捨てられないようにあたしが管理するわ。ヨシヒコもこの石のことは憶えておいてね。それからあたしやヨシヒコが死んでも子孫がちゃんとこの石を大切にするよう、説明書作ってこの中に入れておくわ・・・しかし・・・」
 しんみりと言った後でおばさんの目が一転してキラリと光った。
「やっぱりあなた!」
 再びお手伝いさんに矛先をむけた。
「あなたは何者? なんでそんないろんなこと知ってるの? それに守ってもらってるって? ショウちゃんが? うちを? どうしてイシ、ステルナだけでそんなことがわかるの? やっぱりあなたはだだものじゃない。いったいあなたは誰?」
 お手伝いさんのキョトキョト度は激しくなった。脂汗までにじませている。
「・・・わたし・・・ただのお手伝いさん・・・」
「じゃあ、質問を変えよう。座敷オヤジは知ってるね?」
「・・・はあ・・・」
「やっぱり。じゃ、座敷オヤジとはどんな関係?」
 お手伝いさんの動揺は頂点に達したようだった。姿かたちがゆらゆらとゆらいで、写りの悪いテレビの画面みたいになってきた。
 が、そこでお手伝いさんは「ご、ごめんなさい!ちょっとトイレ!」と叫んで席をたち、階段をどたばたと駆け下りた。その後、ドタドタドタンとものすごい音がしたから、どうやら階段を2~3段は踏み外したようだ。そして、バタンバタンとドアを開け閉めする音がひびき、お手伝いさんはトイレに駆け込んだようだった。そしてその後、いくら待ってもお手伝いさんは戻ってこなかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

湖の民

影燈
児童書・童話
 沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。  そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。  優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。  だがそんなある日。  里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。  母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

台風ヤンマ

関谷俊博
児童書・童話
台風にのって新種のヤンマたちが水びたしの町にやってきた! ぼくらは旅をつづける。 戦闘集団を見失ってしまった長距離ランナーのように……。 あの日のリンドバーグのように……。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐︎登録して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

ターシャと落ちこぼれのお星さま

黒星★チーコ
児童書・童話
流れ星がなぜ落ちるのか知っていますか? これはどこか遠くの、寒い国の流れ星のお話です。 ※全4話。1話につき1~2枚の挿絵付きです。 ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...