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第3部 復讐の輪廻
第8章 修輔と朱里そして晃介
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聖歌がロサンゼルスへ旅だって2週間が過ぎた。
恭介はまだ、学校へは行っていない。
それは、聖歌との問題ではなく、修輔のお願いから学校を休むことになり行けなかった。
それは10日前の事。
「晃介先輩、俺のお願いを聞いてください。お願いします。」
修輔が珍しく3年の教室に来たと思えば、つぐみと優悟ではなく晃介目当てで来ていた。
つぐみは、外の天気を見て言った。
「雨降ってないよ。おかしくない。絶対おかしいよね。雨降るよね。」
そんなつぐみに優悟は呆れて溜息をつくが、優悟自体この組み合わせを不思議に思った。
「修輔、晃介に何か弱みを握られたか。」
思わず、優悟は修輔に聞いた。
「違いますよ。俺は晃介先輩に用事があるんですって。」
修輔はそう言うと、晃介に土下座した。
「お願いです。妖槍朱那の封印がどうしても開放しないんです。
晃介さんは、そういうこと詳しいですよね。だから教えてください。
妖槍朱那の封印の解き方を。」
修輔の話を聞いて、つぐみも優悟も納得した。
「なるほどね。それはさすがに私達では無理だ。
でも、晃介よりも恭介の方が分かるじゃないの。」
つぐみが言うが、この時、まだ聖歌問題で自宅謹慎で外出ができなかったので、
仕方がなく、晃介に聞いていた。
「俺もさすがに妖槍朱那の封印は分からないって。それは、恭介が来た時に聞けよ。」
晃介もつぐみの意見に賛成だった。
それでも、修輔は晃介に更なる違うお願いをする。
「だったら、晃介先輩、俺に実戦の稽古つけてください。お願いします。」
修輔はみっともなく恥をさらしてまで、お願いする。
「俺、文化祭の時、何もできなかった。危うく、朱里を危ない目に
合わせるところだった。
晃介先輩があそこで朱里を助けてくれなかったら、朱里は死んでいたかもしれない。
俺はそれが怖かった。だからお願いです、俺に稽古を。」
そう言うと晃介は修輔に言った。
「稽古と言っているうちは、お前、朱里どころか自分も死ぬぞ。」
晃介はそう修輔に鋭い目を光らせて言った。
「晃介、何もそこまで言わなくても良いじゃない。稽古つけてあげなよ。」
つぐみが修輔のフォローに入ると、晃介はまた冷たく言い放つ。
「稽古なんかそんな生ぬるいこと言ってるから、実戦で負けるんだよ。
実戦は稽古とは違う。生きるか、死ぬかの瀬戸際で生きると思ったやつが
生き残るんだ。真剣勝負はそんなに甘くない。」
晃介の言葉に、つぐみも優悟もそして修輔も何も言えなかった。
そんな時、朱里が教室に入ってきて、土下座している修輔に言った。
「修輔兄、何て格好しているのこんなところで恥ずかしいよ。ねぇ帰ろう教室。」
修輔は、朱里を振り払いそして朱里に言った。
「朱里、お前は黙ってろ。俺はどうしても超えなきゃいけない壁があるんだ。
女のお前は黙ってろ。」
修輔は朱里にそう言うと、朱里は目に涙をためて教室から走って出ていった。
「朱里ちゃん待って。修輔、そんな言い方しなくてもいいでしょう。最低だよ。」
つぐみはそう言うと、朱里を追って教室から出ていった。
「おっ、今のは良かった。分かった。修輔、見てやるよ。
ただし、死ぬ気でかかってこい。それが強くなる一歩だ。」
晃介がそう言うと、優悟と修輔は驚いて聞いてきた。
「晃介、なぜ気が変わった。」
「晃介先輩どうして。」
二人の質問に晃介はこう答えた。
「修輔、お前はいつも朱里に対してどうも甘いよな。
だけど、さっきはなりふり構わず、朱里に対しても構わずに朱里を拒んだ。
それはどうしてだ。
それはお前が朱里の事を目もくれず、己の意思を通したからじゃないのか。
それは、正しく、お前が真剣に誰よりも強くなりたいって思ったからだ。
そう言うやつが強く、生き残れるんだ。だからだよ。」
晃介の下手な説明だが、修輔も優悟でさえ納得した。
校庭のベンチに朱里は座って泣いていた。
『あんなの修輔兄じゃない。どうして、どうして、学園祭から変わってしまったの。
私が言ったせいなの。私が、修輔兄に言ったからなの。』
朱里は学園祭の時、修輔に言った言葉を思い出しながら後悔した。
『でも、こんな状況を作ったのは、修輔兄が抜かれたからですよ。
それに、晃介さんが助けてくれなかったら、私もう逝ってますから。
修輔兄、反省してください。分かりましたか。』
朱里は学園祭で言った言葉が何度も頭の中で繰り返し、また泣き出す。
そこへつぐみがやってくる。
「見つけた。朱里ちゃん、修輔には私からきつく言っておいたから、
もう泣くのはよそう。はい、ハンカチ使って。」
つぐみは朱里にハンカチを渡す。
朱里はそれで涙をふくが、あとから、あとから涙が出てくる。
「つぐみさん、最近、修輔兄が変わって私怖い。
私が学園祭の時、言った言葉がきっかけだったらどうしよう。
私、今の修輔兄が怖い。私の知らない兄さんになってしまいそうで。」
朱里はそう言うと、また大粒の涙が零れてくる。
つぐみは、朱里を抱きしめて囁くように言った。
「大丈夫、修輔は変わらないよ。朱里ちゃんの大好きな修輔兄は絶対変わらない。
もし、変わろうとしたら、私が目を覚まさせてあげるから。
朱里ちゃんは安心して良いよ。私達がついているから。」
つぐみがそう言うと、朱里はつぐみに抱きつき大声で泣くのであった。
その日の放課後、晃介と修輔は特別に許可を得てⅤR空間で対峙していた。
晃介が妖刀三日月、修輔が妖槍朱那を構える。
「優悟、安全装置を外してくれ。邪魔だ。修輔、真剣勝負だ。本気で来い。
でないと手か足か無くなるぞ。」
晃介の言葉に修輔が縮こまる。
「ビビるな。本番はこんなもんじゃない。気合い入れろ。」
晃介は三日月を振り下ろす。
モニター越しに見る優悟は、晃介の指示を思い出し緊張する。
(回想)
「優悟、ⅤRに入ったら一度安全装置を切れ。修輔が恐怖に打ち勝つためだ。
俺が合図したら入れろ。その時は、修輔が恐怖を乗り超えた時だ。
それが分かれば、今後の戦いで負けなくなる。
誰にも悟らせるな。」
(回想終わり)
戦いが始まるが、修輔の動きは鈍い。
「もっとよく見ろ。感じろ。そして自分を信じろ。」
晃介の斬撃が修輔の首筋で止まる。
「今日はここまでだ。」
開始から1時間もしないうちに晃介は戦いを止めた。
優悟も修輔も驚く。
「何か間違えましたか?」
修輔の問いに晃介はシンプルに答える。
「いや、ただ腹が減っただけだ。優悟、戻してくれ。」
優悟はⅤR転送をして現実に戻す。
「晃介、なぜ止めた?」
優悟が尋ねると、晃介は本当の理由を明かす。
「修輔には黙っておけよ。止めたのは寸止めの機会を与えるためだ。
紙一重の感覚を覚えさせることで、生きる力を植え付けるためだ。
それ以上続けると恐怖心が身に付いてしまうからな。」
晃介はそう言ってシャワー室に向かう。
『荒っぽいが理にかなっている。』
優悟はそう思いながら、修輔に目を向ける。
「今日はここまでだ。また明日な。修輔、今日は大きく成長したと思うぞ。」
優悟は修輔のやる気を継続させ、訓練を終わらせた。
それから6日間毎日この訓練は続いた。
つぐみと朱里は晃介の考えでこの訓練を見ることはできなかった。
「なによ、晃介のヤツ私達は邪魔だっていうの。ねぇ朱里ちゃん。」
朱里は拒絶された以来、修輔と学校でも自宅でも話してはいなかった。
しかも、二人同じ部屋だったのに、今は俊輔は違う部屋にいて別々だったらしい。
「ねぇ優悟からも修輔に言ってやってよ。このままだと朱里ちゃんが可愛そうだよ。」
つぐみが優悟に言うが、優悟も朱里に一言だけ言った。
「今は兄貴を信じてやれ。」
その言葉を言って晃介の所へ行った。それは7日目の放課後だった。
つぐみはそんな態度に腹を立てて、朱里と共に学校をあとにした。
「一体何なのよう、何が悪いって言うの。悪いのは晃介のバカとそれに加担する優悟だ。
二人して、バカやっているから、修輔もバカになっていくんだ。」
つぐみは公園でスペシャルクレープを食べながら、怒っていた。
朱里もバナナクレープを少しかじった所で考えにふけっていた。
そんな朱里にどう接したらいいか、つぐみも困惑していた。
『あぁ、こんな時、奏ちゃんか聖歌ちゃんが居れば、和めるのに
やっぱり二人の存在は大きいのかな。恭介はどちらかだと優悟側につくだろうし。』
つぐみは、ロスに旅立った聖歌と恭介と共に自宅で謹慎している奏の不存在を痛感していた。
クレープを食べ終わると、つぐみは朱里に提案する。
「ねぇ、もう一度学校へ行ってみない。あいつらにもう一度文句言いに行きましょう。」
つぐみは朱里の回答を待たずに、学校へ向かった。
一方、晃介たちは修輔の特訓をしていた。
修輔の動きは、初日よりもかなり良くなってきていた。
「そうだ、そこから打ち込んで来い。」
晃介が修輔に言うと、修輔は朱那を巧みに動かし攻撃をしてくる。
『悪くない。この1週間で確実に寸前の見切りが身体に身についている。
あとは、紙一重の感覚を身に着ければ、実戦でも同じ動きが出来るはずだ。』
晃介は修輔の動きに合わせて、三日月で朱那を受け流していた。
そこへ。つぐみ達がⅤR管理室に入ってきた。
すると、安全装置が切られていたことに気が付く。
モニター越しでは晃介に修輔がただやられる姿だけが映されていて、
朱里の表情が青ざめていく。
「優悟さん、安全装置を入れてください。修輔兄が、兄さんが死んじゃいます。」
朱里の訴えに優悟は何もしなかった。
「優悟、何故入れてあげないの。あなたまで晃介のバカ移ったの。
あなたがやらないなら、私がやるわ。」
つぐみは安全装置のスイッチに手をかけると優悟は慌てるようにつぐみに言った。
「つぐみ、今はだめだ。」
つぐみがスイッチをいれる瞬間。
晃介は修輔の胴に三日月を入れ込み切ろうとした。
俊輔はそれを回避行動に入るが少し遅かった。
でも、修輔の目は諦めてはなく、必死に身体をひねってかわそうとした。
『よし、修輔、そのまま回避を続けろ。その刹那の行動がお前の持つ恐怖に勝てるんだ。』
晃介は修輔のまさに今殻を破る瞬間を喜んでいた。
しかし、突然アナウンスが入る。
『安全装置が作動しました。』
このアナウンスに修輔は一瞬気が緩んでしまい、かわす動作を止めてしまった。
そして、晃介もまた刹那の寸止めをすることができなくなり、
晃介は修輔の胴体を叩ききってしまった。
モニター越しで朱里が泣き出し叫んだ。
「修輔兄ぃぃぃぃ。」
その叫びは優悟もつぐみにも心を痛めてしまう。
そして、そこに晃介からの通信が入る。
「優悟、なぜ安全装置を入れた。」
晃介の声は絶望感を感じさせる声だった。
その返答に答えたのはつぐみだった。
「なぜって、あなたねぇ、今みたいなことが起こるからじゃない。」
つぐみの返答に晃介がさらに怒りを込めて叫んだ。
「つぐみか。邪魔するんじゃねぇ。優悟元の世界に戻してくれ。」
そう晃介が言うと、優悟は転送装置を動かし、晃介と修輔は戻ってきた。
晃介は、戻ってくるなり、つぐみの方へ駆け寄り、つぐみの頬を思いっきり引っ叩く。
そこにいた誰もが驚きを見せた。
そして、晃介はつぐみに言った。
「なんで、あんな事した。お前はなんであんな事した。」
晃介はつぐみに怒りをぶつけた。
つぐみは頬を押さえ、晃介をにらみながら答えた。
「あぁしなければ、修輔は死んでいた。あなたは修輔を殺す気なの。
朱里ちゃんがどんな思いでこれまで耐えてきたか知ってるの。
朱里ちゃんは修輔の事をどれだけ心配しているのか、晃介は分かっているの。」
つぐみは晃介に言うが、晃介はつぐみに言い返した。
「つぐみ、お前はその朱里を絶望へと導いたのが分かってないのか。
朱里は修輔の事を気にしている事は百も承知だ。そして修輔も朱里の為に
強くなるためにこの1週間耐えてきたんだ。それをお前は台無しにした。」
晃介がそう言うと、つぐみは晃介の顔を見て言った。
「私が台無しにした。」
「そうだ。お前は修輔があともう少しで会得できた刹那のかわしを邪魔をして、
安全装置を入れて、俊輔に安心感を与えてしまった。
それがどういう意味か知っているのか。
避けきれたものを無駄にして、修輔は一生消えない恐怖を感覚で
覚えてしまったんだぞ。
それはもう消えない。誰かが目の前で死なない限り、消えないその恐怖を
お前が、お前が。」
晃介がつぐみに言い切った時、修輔が目覚める。
朱里は俊輔に寄り添うが、修輔の顔は死の恐怖に怯えるような表情で絶望していた。
そんな修輔を目の当たりした朱里は修輔を抱きしめる。
修輔は震えが止まらず、また朱里もそんな修輔を思うと震え出して言った。
「ねぇ、お兄ちゃんどうしてこんなに震えているの。ねぇお兄ちゃん。」
朱里はそう言って、その場に倒れた。修輔もまた恐怖に負けて気絶した。
つぐみの身体は震え出し、目に涙が溢れだした。
『私のせい、私のせいで朱里ちゃんを、修輔をダメにしてしまったの。』
つぐみはそう思いながら、うずくまって泣き出した。
晃介は修輔を、優悟は朱里を抱いて保健室へ向かおうとした時、
優悟はつぐみに声をかけた。
「今回は、つぐみが悪い。」
晃介と優悟はつぐみを横目に、保健室に連れて行くため修輔と朱里を管理室をあとにした。
管理室で残されたつぐみは、ただただ、1人泣き続けていた。
つぐみが学校を休んで3日たった。
「今日も、つぐみ休みか。あのバカ、気にしすぎだ。
あんなことすぐに忘れたらいいのに。かえって考えたら次に進まないだろ。」
晃介は優悟に言った。
「そうだな。あいつは昔から人の事を考えすぎている。
まぁ、そこがあいつらしいんだがな。
それよりも、修輔と朱里も休んでいるみたいだ。
どうする。このまま、ほっとくことは出来ないだろ。」
優悟はそう言うと晃介はこう思った。
『なんだかんだ優悟もつぐみと同じなんだな。よく似ているよ。
その他人を心配するところ。
あっ、左之助兄ちゃんもそうだったな。
人の事ばっか考えてそれで俺と音羽を助けてくれたんだよな。
俺も同じことできれば、こんなことにはならないのだがなあ。』
晃介はそう思いながら、ふと窓の外を見ると、久しぶりに登校してきた恭介と奏を
見つけた。
晃介は、急に教室から出ていくと、優悟はそのあとを追う。
「晃介どうしたんだ急に。どこへいく。もう授業が始まるんだぞ。」
優悟はそう言うが、晃介は登校する恭介と奏の所へ行った。
「晃介、久しぶり。どうしたそんな顔をして。」
恭介が晃介に話しかけると、晃介はそのまま学校の外に恭介を連れ出した。
奏も優悟も、二人を追いかけた為、4人は学校をサボることとなった。
「晃介、どこ行くの。俺と奏は今日久々の学校なんだから。」
恭介は晃介に言ったが、晃介はそのまま地下鉄に乗る為に、駅に向かう。
「黙ってついてこい。」
晃介はそう言うと、地下鉄改札口を抜けて、環状線右回りの路線に乗った。
そして、5つ目の駅で降りると、優悟は晃介の行き場所に気が付いた、それは・・・。
「なんで、つぐみの家へきた。」
優悟は晃介に言い寄った。
晃介は優悟にチャイムを押す様に首で促す。
恭介と奏は唖然と二人の行動をただ見ていた。
優悟がチャイムを押すと、インターホンに女性の声がでた。
「どちら様ですか。あら優ちゃん。あっちょっと待ってね。今開けるから。」
そう言って、インターホンの声が切れると、バタバタと玄関から40代の女性が出てきた。
「優ちゃん、つぐみの為に来てくれたの。でも今日は学校よね。
それでも来てくれて、おばさん嬉しいわ。
あら、そちらはつぐみの友達の晃介君に、あとはどなた。」
その女性はつぐみの母親だった。
恭介と奏は母親に挨拶して、家に入れてもらった。
そして、つぐみの部屋に連れて行かれ、母親がつぐみに呼びかけた。
「つぐみ、起きてる。開けるわよ。」
そう言うと、母親はつぐみの部屋を開けて、優悟たちを中に入れようとする。
母親はリビングへお茶を取りに行った。
「なに、お母さん、勝手に入って・・・。」
つぐみの言葉がここで止まる。
優悟たちの前に、薄い紫の下着だけ着ているつぐみがいた。
優悟はもちろん、恭介も晃介もその姿をしっかりとじっくりと眺めるように見てしまった。
「おぉ、つぐみの身体も悪くないなぁ。良いスタイルだ。」
晃介は、適度に大きい胸に、引き締まった腰、少し大きめのお尻に、窓の外から入ってくる光がつぐみの白い肌を一層美しく輝かせる身体を誉めた。
優悟はその場で固まりながらも、その美しい身体から目が離れなくなり、
恭介は奏と聖歌の身体とは違うその身体に釘付けになるが、
奏の両手で視界がさえぎられる。
つぐみは顔を急速に赤くして家全体に響く叫び声をあげた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
なんでいるのよ。なんで優ちゃんがいるの。そして、恭介も奏ちゃんも、バカも、
見ないで、見ないで、私の身体を見るなぁぁぁぁぁぁ。」
つぐみは半べそをかき、両手で胸を隠してしゃがんでしまった。
恭介と晃介は奏が部屋から引きずり出したが、優悟だけはそのままつぐみの部屋に残り、
つぐみに掛け布団を優しく掛けて、つぐみの耳に囁いた。
「つぐみ見てしまって悪い。俺らは外で待っているから、着替えたら呼んでくれ。」
そう言うと、つぐみの側を離れようとするので、つぐみは優悟の手を取って引き寄せ、
そして、優しく口づけた。
「優ちゃん、ありがとう。」
そう言って、つぐみは優悟を放し、優悟は外へ出ていった。
つぐみが着替えを終え、再び優悟たちを部屋に入れると、恭介と晃介の頬には
真っ赤に晴れ上がった手形がくっきりと残っていた。
しかし、優悟にはそのあとが残っていなかった。
「優悟だけなんで、どうして俺たちだけ。」
晃介は奏に聞くが、奏はこう答えた。
「優悟さんはいいんです。
だって、つぐみさんの彼氏だから、つぐみさんの身体を見る権利はあります。」
そう奏が答えると、晃介は奏と恭介を見て言った。
「だったら、奏ちゃん生まれた姿は、もう恭介が見たってことになるな。
だって、恭介は奏ちゃんの彼氏なんだから、
もちろん、いつでも、どこでも奏ちゃんは見せれるということだな。
あとは、聖歌ちゃんも同じって言うことか。
良かったな、恭介、奏ちゃんの身体も、聖歌ちゃんの身体もお前のしたい放題で。」
晃介がそう言うと、奏は拳を握りしめ、晃介の頬にスクリューパンチがさく裂した。
そんな晃介を見て、つぐみと優悟は微笑んだ。
「やっぱり、つぐみさんと優悟さんは良いカップルですよね。
なんていうか、気を許しあえるというか、全てをお互いが知ってるというか。
優悟さんもつぐみさんのこと全て知っていて、その身体も隅々まで知ってそうです。」
奏がそう言うと、つぐみは答えた。
「そうね。優ちゃんとは本当に昔から知ってるし、お互い理解できると思っている。
でも、優ちゃんでも私の身体の事までは知らないわ。
だって私達そんな経験してないもの。
でも優ちゃんが知りたいなら私は良いと思ってるわ。」
つぐみが言うと、奏は顔を紅潮させ、顔を両手で覆ってしまう。
つぐみはそのしぐさを見て、自分が今言った恥ずかしいことに顔を紅潮させていった。
優悟もつぐみの言葉に釣られて、つぐみの身体をじっくり見てしまった。
「なに、優ちゃん、じっと私の身体見て、なんかニヤけてるよ。
優ちゃんも、やっぱり興味あるんだ私の身体に。」
つぐみはそう言うと、優悟は固まってしまう。
「いつも、こうなのよね。この二人を見ていると私までなんで押し倒さないのって
思っちゃうわ。早く関係持っちゃえばいいのに。」
急に現れたつぐみの母が、つぐみと優悟を見て溜息をつく。
恭介たちはそんな母親にびっくりして少し引いてしまう。
「母親なら、もっと娘を大事にしてよね。なんでそんなに関係を持たせようとするのよ。
私達のペースってもんがあるんだから。じっくりと育ませろって言うんだ。」
つぐみが言うと、母はつぐみに言った。
「お母さん、優ちゃんとつぐみの子供早く見たいもん。孫の顔みたいもん。
だから優ちゃん、ささっとつぐみとやっちゃって。つぐみを早く妊娠させて。」
母親らしからぬ発言に、つぐみは母親を部屋から追い出した。
「で、なんで私の家まで来たの。」
つぐみが優悟と恭介に聞くが、二人とも首を横に振る。
「じゃあ。奏ちゃんは、なんでここにきたの。」
つぐみは奏に聞いても首を横に振り、3人は晃介を見る。
「おい、そこのバカ、私にようって何。」
つぐみは晃介に聞いたが、晃介も両手を広げてさあというジェスチャーをするので、
つぐみに張り倒される。
「でも、元気そうでなりよりだ。だってお前こないだ管理室で立ち直れないまでに
落ち込んでたじゃないか。今は吹っ切れっているから、安心した。
悪かったな、こないだはあんなこと言って、そして叩いてしまって。」
晃介はつぐみにそう言うと、優悟は穏やかな微笑みをした。
『晃介はつまり、ただ単に私に謝りに来たってこと。』
つぐみは晃介の突然の訪問をそう感じていた。
恭介と奏は何がなんだかさっぱりわからないままあっけに取られていた。
「そんなこと言いにわざわざ来たわけ、くだらない。そりゃあ痛かったわよ。
思いっきり叩かれたんですからね。そのまま治らなかったらどうするのよ。
まぁ、私には優ちゃんがいるから、どんな顔でも優ちゃんは受け入れてくれるし。
でも、その、悪かったわよ、私も。あなたがあそこまで修輔と朱里ちゃんのこと
思っていたなんて知らなかった。謝るわ、ごめん。」
つぐみがそう言うと、優悟はつぐみの頭を撫でてやった。
「あの、詳しく説明してもらってもいいですか。俺と奏、蚊帳の外なんで。」
そう恭介と奏が優悟に聞いてきた。
「そうですか、そんなことがあったのですね。
でも困ったな、修輔の恐怖心は確かにもう難しいですね。」
恭介はそう言うと、頭を悩ませた。
「そう言えば、恭介はどうやってその恐怖心に打ち勝ったの。
どういう修行をやったの。」
つぐみは恭介に聞いてきた。
「俺ですか。俺も似たような感じでしたよ。俺も初めは怖くて刀が抜けなかった。
親友がバケモノに目の前で殺され、父上も、里のみんなも俺だけを逃がすために
犠牲になってくれた。復讐でいざ戦う時、怖くて刀さえ抜くことが出来ず、
葵たちに稽古つけてもらったけど全然だった。」
恭介はそう語ったが、でもつぐみはさらに聞いてきた。
「どうやって、克服したの。」
恭介は奏を見て話し出した。
「逃げて、伊賀の里に着いた俺たちはそこで百地丹波さんと、新右衛門さん、朝陽に
であった。俺の無念を話すと新右衛門さんが獣の檻というところで修行をしないかと
提案されて、俺はお願いした。でもそこは野生の狼がいて、とても厳しい環境に
上忍もが恐れる所だった。」
恭介は奏の頭を急に撫でながら話を続けた。
「何度も続ける俺を、奏いや、朝陽はバカですかって言われたよ。本当に心配して
くれて、でもおれのわがままに付き合ってくれて、そしてこの妖刀朱星光月を
初めて抜いた時も、朝陽は命がけで俺にこの妖刀朱星光月を届けてくれた。
そして、二人で抜くことが出来たんだ。それからはただ朝陽を守りたくて
ひたすら相手を倒して、その時には恐怖は無くなっていた。」
恭介が語り終わると、奏は申し訳なさそうに恭介を見つめた。
「心配しなくていいよ奏。俺は今奏がいてくれるだけで幸せなんだ。」
恭介はそう言うと、奏を抱き寄せた。
「二人の愛って感じね。これって、恋人ではないけれど、
なんか修輔と朱里ちゃんも同じ関係じゃない。
あの二人なんだか恋人以上って感じだもの。」
つぐみはそう言って、優悟たちも納得した。
「じゃあ、恭介と奏ちゃんは修輔と朱里ちゃん頼めるかしら。」
つぐみの言葉に恭介と奏は頷くと、晃介が言い出した。
「俺は修輔の師匠だ。俺も責任を持つから明日修輔達の所へ行こう。」
そう決まって、今日は解散した。
帰り際、奏は寄るところができたと言って、恭介と晃介を連れて先につぐみの家を出た。
そこにつぐみの母親が買い物だと言って付いてきた。
取り残された優悟とつぐみはなんだかそわそわして落ちつかない様子で沈黙する。
どちらかが話しかけようとすると、びっくりした様に緊張する二人。
切り出したのはつぐみだった。
「ねぇ、優ちゃん、お母さんが言ったこと気にしているの。
冗談よ、冗談に決まってるじゃない。でも興味ある、その私の身体。」
つぐみは恥ずかしそうに言うと、優悟は突然つぐみを押し倒してきた。
「優ちゃん、顔が怖いよ。そんな怖い顔しなくても、私は大丈夫だから。
してみる。最後まで、私はいいよ。優ちゃんが望むなら。」
つぐみはそう言うと、着ていた服を全て脱ぎだした。
優悟も制服を脱いで、互いを見つめて合う。
つぐみの身体は夕陽で赤く染まって、とても美しかった。
優悟はつぐみを抱きしめてそのままベットへつぐみを寝かせた。
そして、ベットがキシキシと揺れ出していく。
時よりつぐみの甘い吐息が漏れて、優悟もまたつぐみの柔らかい身体に身を寄せていく。
だんだんとベットのきしむ音が大きくなり、つぐみと優悟は繋がったまま痙攣した。
「優ちゃんのあったかい。私、今がとっても幸せだよ。」
つぐみが言うと、優悟はつぐみに優しくキスをして言った。
「俺も幸せだ。つぐみをずっと大切にする。」
そう言って、またつぐみと口づけをした。
するとつぐみが恥ずかしそうに言った。
「もう、優ちゃんってば、いいよ。続きしよ。」
そして、月が高くなるまで、ベットのきしみが続いた。
『このぶんだと、孫の顔早く見られるかも。』
そう思うつぐみの母だった。
翌日、待ち合わせした場所。
「つぐみ、今日なんか歩き方おかしくないか。足の開き方がおかしいぞ。」
晃介はつぐみに言うと、優悟とつぐみは顔を紅潮させた。
恭介と奏は二人を見て、二人のシーンを想像して自分たちも顔を紅潮させていった。
高坂修輔と朱里の家。
恭介と奏、つぐみと優悟、晃介の5人は門の前に立ってインターホンの返答を待っていた。
「はい。どちら様ですか。」
その声は朱里の声でない女性の声だった。
「私、旭日高校3年百地つぐみと申します。今日は修輔君と朱里さんに逢いに来ました。
お二人は、お見えになりますか。」
つぐみの社交性の挨拶はいつ見ても冷静で、品のある物言いだった。
「百地さん。もしかして、伊賀の里の方ですか。少しお待ちになって。」
インターホンの女性が急に慌てるようにインターホンを切ると、玄関から出てきた。
「お待たせしました。百地葵様のご関係の方ですよね。
私はこの時を長年待っておりました。さあ中にお入りください。」
そう言うと、つぐみ達は、居間まで通され、少し待つと当主らしき男とその妻が
居間に入ってきた。
「お待たせしました。私は高坂第12代当主高坂悟と申します。
いつも修輔と朱里がお世話になっておる。」
悟と名乗る当主は筋肉ムキムキのゴツイ男だった。そしてその隣にいる女性が名乗る。
「お初にお目にかかります。私は第12代霞冬華と申します。
娘たちが大変お世話になっております。」
名前を聞いて、優悟が驚く。
「高坂さんではなく、霞ですか。すみません、名乗りが遅くなりました。
私は旭日高校3年霞優悟です。」
優悟が名乗ると冬華が驚く。
「そうですか、あなたが左之助様と立夏様のご子息の末裔なのですね。」
そう言うと、冬華は微笑んだ。
また、恭介と奏も名乗って、恭之介と朝陽の認識もされた。
「俺は霞晃介だ。」
最後に晃介が名乗ると、悟も冬華はこれまで以上に驚いたのであった。
「そうですか、あなたが霞鷹乃介様ですね。音羽大おばあさまのお兄様なんですね。」
晃介は急に音羽の名前が出てきたのでびっくりした。
「なんで、音羽の事が分かる。それじゃ霞って・・・・。」
晃介が言おうする前に冬華が言った。
「はい、音羽大おばあさまは、高坂丈太郎大お爺様と結ばれました。
私は霞の正当の純血を引く者です。」
冬華はそう答え、音羽の起こった異変も説明した。
「納得したよ。なんで朱里が妖刀三日月を持ったらあの力が出せたのかの理由がよ。
朱里は霞の純血だな。だから、修輔は朱里を守っているんだな。」
晃介の言葉に、恭介だけは納得した。
「丈太郎殿と音羽ちゃんの子孫だったのか。納得した。」
恭介と晃介だけが話を進めてしまうので、つぐみたちも分かるように説明が行われた。
「なるほどね、だからあの二人は兄妹というよりも恋人に見えるのか。
いや、実際に恋人なのかな、あれ。」
つぐみは頭が混乱した。
詳しく説明すると、丈太郎と音羽は婚姻して、その子孫は必ず男の子、女の子が生まれるよう、必ず双子を産む。これは霞の里の純血の正当な証でもある。
そして、音羽は綾乃というもう一人の人格(魂)を持っているため
丈太郎と綾乃の混血児が男の子に宿り、丈太郎と音羽の混血児は女の子に宿る。
その男の子と女の子は遺伝子が違うため、近親婚でも血の濃い子は生まれずに、
いつまでも綾乃の子と音羽の子が生まれてくるから、
ずっと近親関係でも遺伝子が別な子供が出てくる。
「でも、それだと、丈太郎さんの遺伝子だけが増えるんじゃないの。」
つぐみが疑問に思った。
「確かにいくら、女性の遺伝子が違ったとしても、
丈太郎さんの血が濃くなるんじゃないの。だって兄妹でも半分は丈太郎さんの
血があるわけだから。」
奏もつぐみの意見に賛同する。
「いや、それを打ち消すのが霞の純血の力なんだ。
確かに本来は例に立夏さんを上げると、男と結ばれ、子供は男と女が生まれると
男の方はその代だけが凄い力を持つがその子孫には反映しない。
女の方は純血を引き継がれまた子供が男と女なら永遠に引き継がれる。
だけど、男しか産まれなかったら、その能力はその代までだ。
しかし、音羽はその綾乃っていう魂を取り込んでいて、正当の霞の純血の子は永遠に
男と女が出てくる。霞の純血は相手の遺伝子よりも強い為、結局男の遺伝子を
相殺し、純血の遺伝子が勝ってしまうから、永久に繁栄されるってこと。」
晃介は頭が悪いがこの知識だけはものすごく知っていた。
「はい、仰る通りです。ですから修輔と朱里もいずれ結ばれてその子供を宿すことに
なります。しかし、こないだの学園祭で、もし朱里が殺されてしまったら、
霞の純血は途絶えてしまうところでした。
私もそんなに若くないのでさすがにもう・・・・・。」
冬華さんは顔を赤くして照れてしまった。
つぐみ達も冬華さんを見て一緒に照れてしまった。
「だから、修輔は土下座してまでも強くなりたかったわけか。」
晃介はつぐみを見て、溜息をつく。
つぐみも罰が悪そうに晃介の溜息を素直に受け取る。
「ごめんなさい。ところで、修輔君と朱里ちゃんはどうしてますか。」
つぐみは二人を気にする。
「修輔は部屋に閉じこもってままで、朱里は妖槍朱那を持ち出そうとして。」
冬華が言いかけたが、恭介は続きを言う。
「朱里、持ち出せなかったですね。資格がないから。」
「資格?」
つぐみは恭介に聞いたが、その答えを晃介が答えた。
「俺たちの妖刀、妖槍は決められた者しか持てないんだ。
恭介の妖刀朱星光月は恭介だけが、修輔の妖槍朱那は現所有者の修輔だけが
そして、俺の妖刀三日月は俺と・・・いえ俺だけしか扱えない。」
晃介は意味ありげに言ったが、誰も気づかなかった。
しかし、つぐみがまた疑問になる。
「あれ、確か、奏ちゃん恭介の妖刀持ってなかった。」
それは恭介が答えた。
「俺の妖刀朱星光月は奏、朝陽と共同に持てるようになっているから。」
「話を戻すが、朱里さんは今どうしています。」
優悟が話を戻した。
「朱里ならたぶん、修輔の所だと思います。お会いになりますか。」
冬華はそう言ったので、つぐみ達は当初の目的を果たすため、朱里に会った。
「修輔兄、出てきてよ。私修輔兄がいないと淋しい。だから出てきてよ。
学園祭の事謝るから、お願い出てきて。」
部屋の前で必死になって朱里は叫んでいるが、修輔は言葉さえも出さない。
「毎日、こんな調子です。朱里つぐみさんたちが見えたましたよ。
ご挨拶しなさい。」
冬華がそう言うと、気まずそうに朱里は挨拶をしてきた。
「先輩たちこんにちわ。私は元気ですが、修輔兄はこんな調子です。」
さっきまでとは違う態度で朱里は言ってきた。
そんな朱里はどこか無理をしているようにも見えた。
しかし、晃介は朱里に対して厳しい態度を取った。
「朱里、お前がそこでいくら叫んでも、修輔の腰抜けはもう出てこない。無駄だ。
諦めろ。あいつはもうだめだ。一度知った恐怖は二度と消えない。
諦めて、俺の女になれ。それがお前自身が生き残っていく道だ。」
突然、晃介は朱里の手を引いて自分に引き寄せる。
そして部屋の中に閉じこもっている修輔に言った。
「おい、腰抜け、俺は今から朱里の唇も身体も全ててめぇから奪ってやる。
今から朱里を抱く。愛し合う。それがイヤだったらめそめそしないで出てこい。」
晃介は朱里を無理やり引っ張って部屋を探し始めた。
「ちょっと、晃介あんた何やっているのよ。朱里ちゃんから離れなさい。」
突然の晃介の暴挙に、恭介も優悟もつぐみも奏も、朱里を取り戻そうと、
晃介を止めにかかるが、晃介は朱里を離さない。
当然、朱里も悲鳴を上げて、叫ぶ。
「いや、いや、助けて、修輔兄、助けて。いやぁぁぁ。」
晃介は恭介達を振り切り、朱里と修輔の部屋らしき部屋に入って、ドアを閉め、
タンスをドアに倒した。
誰も部屋に入ることが出来ない。
「おい、晃介、止めろ。」
「晃介、朱里ちゃんを放しなよ。あんた何やっているのか分かってる。」
つぐみと優悟がドアを叩くが、ビクともしない。
「なぁ、朱里、今からお前の色っぽい声をあの腰抜けに大声で聞かせてやろうぜ。
どうせ、あいつはあそこから出てこないだ。」
晃介はそう言うと、無理やり朱里の服を破り、唇を奪おうとする。
「いやぁぁぁ。やめて晃介さん、やめて、助けて、修輔兄、お兄ちゃん助けて。」
朱里の声が修輔の部屋まで届いていく。
つぐみ達は焦り、ドアを開ける為、必死になっているが、
なぜだか悟と冬華はだけは、修輔の部屋を見つめている。
そして、晃介は朱里に手を伸ばし、朱里の悲鳴が家全体に轟く。
その時、晃介たちの部屋のドアが吹き飛んだ。
晃介はニヤリとして、ドアの所に立っている男に言った。
「よう、腰抜け。やっとお目覚めか。でも、もう遅い。
朱里の唇も身体も今から俺が全部頂く。そこで指をくわえて見てろや。
なぁ、朱里、俺が満足させてやるよ。今後俺無しでは満足出来ねえぐらいによ。
腰抜けよ、お前が朱里を抱いても朱里が満足出来ないぐらい滅茶苦茶にしてやるよ。」
晃介が言った瞬間、晃介の身体が宙をまった。
「うぐぅ。」
晃介のうめき声があがった。
「朱里に手を出すな。朱里は俺の物だ。晃介おめえは許さない。絶対許さない。」
修輔はそう言って、妖槍朱那を晃介に向けて突進してきた。
晃介は窓から外へ飛びだし、妖刀三日月を出して迎え撃つ。
修輔も外に飛び出してきて、晃介に斬りかかった。
俊輔の目からは怒りの殺気が晃介にビンビンとぶつけてくる。
晃介も殺気を修輔に飛ばし、斬りかかった。
そんな二人を朱里は見ている。
つぐみは朱里に自分の上着を掛けて晃介と修輔を見ていた。
物凄い金属音が鳴り響き、激しさが増したとき、決着の時を迎えようとした。
晃介が修輔の懐に飛び込み胴体を切り裂こうとする。
修輔は目いっぱい引こうとするが、瞬間、目を切らし瞑ろうとする。
「修輔、目を瞑るな。最後まで見ろ。そして、かわせ。」
修輔の耳に確かに聞こえた声で、修輔は目を切らすことなくかわして、
晃介の左肩に妖槍朱那を突き刺した。
晃介の肩から大量の血が拭き出したが、そこで悟が二人を止めた。
「そこまで。晃介君、ありがとう。最後まで修輔を信じてくれてありがとう。」
悟がそう言うと、晃介は意識を失くした。
晃介は目を開けた。その瞬間、目の前に刃物が襲ってきた。
晃介はとっさに右側に回転して一撃目を避けるが、すぐに二撃目が右から襲ってきた。
左肩を痛めているので、左側に回転して避ける事が出来ず、そのまま刃物を目で追うしか出来なかった。
刃物は右耳のすぐ隣を通過してそのまま、畳に食い込む。
そして、晃介の上にまたがってきた襲撃者は晃介の左頬に拳をヒットさせた。
物凄い痛みが左頬に広がり、その振動で左肩の傷の痛みも増して、
晃介は苦痛の表情になった。
そこで優悟の声がした。
「おい、つぐみ、やりすぎだ。もうやめろ。」
つぐみを後ろから引きはがそうと優悟がつぐみを抱きとめるが、なかなか離れないので優悟がわざとつぐみの胸を掴み、持ち上げるとつぐみは力が入らなくなった。
優悟はその時を狙って晃介からつぐみを引き離した。
当然、つぐみは顔を真っ赤にして行動不能になった。
「ちょっと、優ちゃんなにどさくさになって胸を触っているのよ。」
「つぐみ俺はお前を愛している。だから今も触っている。」
優悟はそう言って、つぐみを骨抜きにさせ、奏と恭介に足を押さえられるが、
晃介に向かって、まだわめいていた。
「このバカに恐怖を刻み込んでやる。朱里ちゃんの仇だ。」
つぐみは完全にさっきの晃介の行動にキレていた。
「つぐみさん、仇って私まだ死んでないです。生きてますから。」
朱里の声も聞こえる。
「修輔、お前はどれだけの人を巻き込めば気が済むんだ。反省しろ。」
「そうですよ、晃介さんがああやってあなたを励ましてくれたから今あなたはここに
いるんですよ。だから、晃介さんに感謝しなさい。」
壁際で修輔が悟と冬華に怒られてた。
晃介はこの光景に、思わず笑みが零れ、笑い出した。
「あっはははは。わっはははは。」
これを見たつぐみがまた言い出す。
「こら、バカ、何笑っているんだ。反省しろ。」
必死で抑える奏と優悟。恭介はそれをただおろおろと見ている。
『左之助兄ちゃん、俺兄ちゃんに近づけたかな。俺お節介出来たかな。』
晃介はそう思いながら、笑っていた。
この騒動がやっと収まったのはそれから1時間後だった。
「改めまして、晃介さん、今回はあなたに多大な迷惑を掛けて本当に申し訳ない。」
悟が晃介に頭を下げる。
「俺は修輔の師匠としてやっただけだ。意味はない。」
晃介はこう言って、悟の頭を上げさせた。
「本当にうちのバカ修輔の為に怪我までされて、なんてお詫びを言えばいいか。
修輔より晃介さんの方が朱里の相手に相応しいです。
朱里、修輔をやめて、晃介さんに嫁ぎなさい。その方があなたは幸せです。」
冬華は朱里を晃介の隣に座らせる。
これに、修輔はムッとするが、それ以上につぐみが怒る。
「冬華さん、このバカを誉めないで下さい。図に乗ります。」
しかし、冬華と悟は朱里に聞く。
「朱里、晃介さんの事どう思う。」
朱里は少し考えて答えた。
「そうですねぇ、確かに修輔兄より男らしいし、さっき迫られて本当にドキドキ
しました。とても演技だとは思えないほどに。
あのまま、修輔兄が来なかったら、私は間違いなく落とされていましたし、
修輔兄では満足さしてもらえない身体になっていたかもしれません。
晃介さん、さっきの続きしてもらっていいですか。
私は晃介さんに惚れました。私を一杯満足させてください。
私を愛してください。」
朱里は目を潤ませ晃介に迫ってきた。
「朱里、あのな、あれは演技だって。本気にするな。
それに俺達はそれこそなんだ、近親者でそのお前の叔父さん的存在だ。
だから、子供を作ることはできない。分かってくれ。」
晃介は真剣に朱里に断りを入れるが、朱里は引かない。
「それじゃあ、これだけ私を本気にさせておいて、私を捨てるんですか。
そんなことさせません。親公認ですからここで私を貰ってください。」
朱里は着ている服に手を掛ける。
修輔はもう魂が抜け殻のようになって、つぐみ達もまた慌てて朱里を止めようとする。
悟も冬華はにっこりして見届けている。
晃介は身体を後ろずさりして、朱里から距離を取ろうとする。
朱里が一枚脱ぎ捨て、キャミソールの姿になって晃介に迫り耳打ちする。
「それじゃあ、行きますよ。私を満足させてください。」
朱里はそういって、晃介の耳たぶを噛んだ。
「嘘ですよ。驚きました。私晃介さんには興味がありません。修輔兄だけです。」
そう言って、朱里はお茶目に微笑み小さいドッキリの旗を晃介に見せた。
「なに、本気になっているのです。晃介さんの面白い顔、頂きました。」
朱里の行動に悟と冬華以外は唖然とただ茫然と見てるしかなかった。
「でかしたぞ朱里。お前はお笑いのセンスがある。」
「そうですね、あなたに似て本当に面白かったわ。
この才能をもっと伸ばしていきましょう、朱里あなたはその素質があるわ。」
悟も冬華もそして朱里もみんなを騙せてとっても満足な笑みを浮かべた。
この一家に生まれながら一切この素質を受け継がなかった修輔は項垂れ、
巻き込まれた、つぐみ達もぐったりとする。
晃介も訳の分からないままただみているだけであった。
しかし、朱里は最後に晃介にそっと口づけして、言った
「これはお礼です。晃介さん本当にありがとう。」
朱里は微笑み、晃介はその口づけが本当なのか、嘘なのかわからないまま、
自分の唇をさわるだけだった。
修輔と朱里の騒動からさらに翌日の午後。
恭介達、7人は山梨県の杓子山付近駅に来ていた。
ここは丈太郎の故郷があった場所で妖槍朱那の封印覚醒のヒントが隠されている。
丈太郎の古門書には長のの里から少し離れた山の山頂付近に山々に覆われた湖があり、
そこに今も綾乃の遺体が眠っている。
その綾乃の持つ朱那の証を見つければ、妖槍朱那は本来の力を取り戻すというので
学校を休んで来ることになった。
「しかし、空気の美味しい所ですね。」
奏は胸いっぱい空気を吸い込んで、楽しんでいる。
奏の両隣りでつぐみも、朱里も並んで同じことをする。一方で優悟を除く、恭介を初めとする男たちは、彼女らの息を吸い込む所だけを見ている。息を吸い込むことで彼女らのそれぞれ大きさの違う胸が主張するのを楽しんでいる。優悟は深く溜息をついていた。
「さて、目の保養も済んだことだし、今晩の宿にチェックインして探索は明日からに
しようか。」
恭介はそう言って、ホテルを探す。
「予約したホテル、結構いいホテルなんでしょう。本当に私達が泊っても良いの。
だって、一泊片手はいるわよ。しかも全て朱里ちゃんのところが全て出すって。
そんな厚かましいことしていいのかな。」
つぐみは朱里と修輔の聞いている。
「あぁ、大丈夫ですよ。昨日の修輔兄の事で迷惑かけたのでそのお礼だし、
なんかうちの親戚の経営してるホテルなので自由に使ってください。」
朱里はそう答えた。
駅からバスに乗り継いで、目的のホテルに着いた。
そのホテルは15階建てで3階から10階までが一般用客室各階20室ずつ、
2階、11階がプールを初めとするジム施設と図書館があり、12階がレストランが、
13階がセミスイートルーム5部屋、14階がエグゼクティブスイートルーム4部屋、
15階がアルティメットスイートルーム2部屋の構成になっていた。(参照)
一般客室の代金は食事付けで4万5千はする。
朱里と修輔以外はその豪華さに入口で身分相応感を出していた。
「なんか、今週は予約が一杯みたいなので、小部屋が手配できないみたいなので
つぐみさん達と、恭介さん達はこの部屋を、晃介さんは申し訳ないのですがこちらを、
そして、私と修輔兄はここを使います。」
渡された部屋のカードキー番号はつぐみ達1501、恭介達は1502、晃介は1305、
そして朱里たちが1403だった。
「すいません。今日はそこしか空いていなくて、あとは満室だって言ってました。」
朱里は少し微笑みながらそう言った。
つぐみはホテルのパンフレットを見て驚愕した。
渡された部屋のキーは、15階のアルティメットスイートルームだったのだ。
「ちょっと、朱里ちゃん、ここの部屋ってもしかして。」
つぐみが青ざめた顔で朱里に聞く。
「はい。最上階の部屋です。どうぞ、楽しんできてください。」
普通に話す朱里につぐみが茫然とするが、奏は朱里に価格を聞く。
「ざっと、一泊50万はしますね。
その部屋はカップル限定なんで、そこに泊るペアは必ず結ばれる見たいです。
子宝に恵まれる見たいで、若い世代から適齢期世代の夫婦にも大人気みたいですね。
だから、つぐみさんと優悟さんペア、恭介さんと奏さんペアが来てくれて、
本当に助かりました。もし、聖歌さんが来ていたらどういう風になっていたか。」
朱里の初めから計画されたような言い回しに、恭介と優悟はハメられた感を出していた。
つぐみと奏は、口をパクパクして茫然としていた。
「晃介さんには本当に申し訳ないです。もし良かったら私達の部屋にご一緒でも、
私は良かったのですが、修輔兄がどうしても3Pはイヤっていうのですいません。
でも、滞在期間が長いので、修輔兄に飽きたら、私が行くので待ってて下さい。」
修輔は晃介を睨みつけ、晃介は呆れた顔で朱里の顔を見ていた。
結局、朱里の思惑通りの作戦に、みんな振り回されていた。
朱里たちとエレベーターで別れた後、 さらに、つぐみと優悟、恭介と奏に驚愕な試練がやってくる。
まず、部屋の施錠はカードを差し込み、センサーにそれぞれの指紋を登録すると
ドアが開いた。中を見渡すと、シングルより少しだけ幅が広いベットが1つ、カップル椅子が1つ、キッチンに、ペア用のアトラクションゲームに、ベランダ、小さなプール、
露天風呂、室内用お風呂、洗面所がガラスの壁に仕切られていて、全て二人の認証が
ないと入れなくなっている。
この部屋は常に二人で過ごすまさに究極のカップル使用になっていて、いかなる時も
二人は行動を共にしなければならない、ある意味、拷問部屋だった。
つぐみは思考回路が燃えついてその場に固まって、あの冷静な優悟でさえ慌ててる。
奏は身体をプルプルと震わせ、この状況とこの先起こるであろう事実から逃避行し始め、
恭介は奏を見て顔面が崩壊してにやけていた。
『この部屋で俺達、私達なにさせる気なんだぁぁぁぁ。』
つぐみ、雄吾、奏、恭介は一斉にそう思った。
つぐみと奏はグループラインで朱里に連絡を取る。
(つぐみ)朱里ちゃん、今すぐ、この部屋を替えて。
(朱里) 今週はすべて満室ですので、諦めてください。
(奏) だったら、朱里ちゃん達の部屋と交換して。
(つぐみ)奏ちゃんずるい。朱里ちゃん、私達と替わって。
(奏) つぐみさんだってずるいです。朱里ちゃんお願い私達と。
(つぐみ)奏ちゃん、恭介と仲良くやればいいじゃん。
(奏) つぐみさんだって、優悟さんと仲良いじゃないですか。
(奏・つぐみ)とにかく朱里ちゃん替わってぇぇ。
(朱里) あっすみません。私達の部屋、
おばさんに頼んでお二人の部屋と同じ使用になっています。
ごめんなさい。恭介さんと優悟さんにいっぱい可愛がって貰って下さい。
それでは通信終わり。
奏・つぐみ)えぇぇ。そんなぁぁぁぁ。 通信終わり。
奏とつぐみは半泣き状態で恭介と優悟をそれぞれの部屋で見た。
すると、恭介がモジモジしている。
「恭介、なにもじもじしているの。」
奏が恭介に聞くと、その返答に奏は顔を赤くして茫然とする。
「ちょっと待って、外に行けばいいじゃない。」
奏が叫んで言った。
「俺も思ったけど、12階まで降りないといけないから無理。」
ここのスイートルームのエレベーターは直通でこのフロアには部屋しかトイレがない。
「私はイヤよ。あなたと一緒なんて、絶対いやぁぁぁ。」
奏の声が虚しく部屋の中に響く。
ちなみにこの部屋は聖歌の部屋と同じサイレントルームになっていた。
12階のレストラン、つぐみと奏は何か呟いてぐったりしていた。
「フランクフルトからいっぱい。フランクからいっぱい出た。」
「アメリカンドックからジョボ、ジョボと落ちていった。」
二人は先ほどまでの光景を鮮明に、もはや忘れることのないモノを見てしまった。
「つぐみも奏もなんでぐったりしていているんだ。
しかも、フランクとかアメリカンドックそんなにも腹減っているのか。」
晃介の言葉に、つぐみと奏はまたテーブルに顔を押し付けた。
「それより、明日どこから探す。山周辺からいくか。」
優悟はスマホで地図を検索して目ぼしいところに目印を入れていく。
「そうですね。湖のある所を中心にしましょう。」
恭介も話を合わせて進めていく。
「それよりも、裏生徒会の他の奴ら今どうしている。」
晃介が優悟に聞くが、あれ以来その姿は消えていた。
そんな会話が続き中、頼んだ料理が箱まれてきた。
「やっと来たか、さあ食べよう。」
晃介は誰よりも早く食べ始める。
ぐったりしていたつぐみ達もさっきの事は忘れて食べ始めるのであった。
すると、ホテルマン関係者が挨拶に来て、朱里と修輔に話している。
「これは、当ホテルからのサービスです。お召し上がりください。」
男性陣には牡蠣とレバーのオイスターソース炒めと羊肉のマカ入り薬膳スープ、
クコの実入り中華粥の3種類料理が出てきた。
そして、その3種にトッピングする粉末があり、特に男性が使用すると体力向上すると
説明を受けた。そして食後に飲む胃薬の錠剤を渡される。
女性陣には鶏皮とレモンの炒め物、フカヒレとアボカドのサラダ、豚足とキウイのスープ
そして、翌日の朝一番に飲むと美肌効果が促進する錠剤が出てきた。
お腹いっぱいに食べた恭介たちはそれぞれの部屋に帰っていった。
部屋に着くと朱里からグループラインが女子たちに送ってきた。
(朱里)検討を祈る。結果は明日朝聞く。
奏もつぐみも訳の分からないラインに首を傾げるが、この後を考えると先が重かった。
最初の難関のお風呂が迫っているのであった。
翌朝、朱里からつぐみと奏にラインが送られてきた。
(朱里)回数と内訳、私は7回(Ⓕ3回K1回S2回、Ⓑ5回K1回S3回、
Ⓡ1回S1回。2時半終了。別室にて3回(Ⓣ2回Ⓚ1回)。終了4時。
必ずSを表示した人は錠剤を飲むこと。あと返信は10分以内。
このように書かれていた。
4分後に奏から、7分後につぐみから連絡があった。
(奏)5回(Ⓕ3回T2回M1回、Ⓑ2回M1回T1回
終了2時半。IN無し。
(つぐみ)9回(Ⓕ4回S2回K1回M1回、Ⓑ4回S3回M1回、Ⓡ1回S1回
継続中の為のちほど。
朱里は二人を思い浮かべてお疲れさまと思うのであった。
翌日朝、晃介を除く恭介、奏、朱里、修輔は眠そうだが、つぐみと優悟は既に疲れていた。
朱那の証を求めて、恭介たちは山に向かうために早くホテルを出発し、丈太郎の古門書を頼りに湖を探し始めた。
「今日は何か手がかりが見つかるといいな。」
恭介はすっきりした顔で皆に言った。
探索初日は丈太郎の記述に従って山道を進むが、道は険しく、なかなか進展がない。
急な斜面や密生する木々が行く手を阻む。
「この道、本当に合っているの?」つぐみが不安そうに言う。
途中、道に迷い、何度も同じ場所に戻ってしまう。
疲労が蓄積し、みんなの顔には疲れの色が浮かぶ。
「一旦休憩しよう。このままだとみんな倒れてしまう。」
優悟が提案する。
彼らは木陰で休憩し、水分を補給しながら再度計画を練り直す。
時計を見ると、午後3時過ぎだったこともあり、今日の探索はここまでになった。
探索2日目、早朝早くホテルを出るが、依然として困難が続く。
丈太郎の古文書の内容を再確認し、湖への道を探し続けるが、成果は出ない。
「どうしても見つからないのよ。ただ疲れるだけだよ。」
朱里が声を落とす。
彼らは細心の注意を払いながら、丈太郎の記述にある手がかりを探し続ける。
道中で出会う不自然な岩や木々に注目し、慎重に進んでいく。
しかし、時間が立つばかりで、結局リミットの3時が過ぎ、恭介達は下山した。
その日の夜のレストラン。
「この2日、古門書があるとはいえ、やみくもに探してもダメだったな。
何か手掛かりがないと時間が立つばかりで。体力がもたん。」
優悟はそう言うが、朱里と奏はつぐみのラインで二人の事を知っているため、
優悟に忠告する。
「優悟さんは、もっとつぐみさんに睡眠を取らせるよう努力してください。」
朱里はいうと、奏も続く。
「そうですよ。優悟さんも日に日に顔色が悪くなってます。無理はだめです。」
優悟は朱里と奏に言われ、気まずそうに言う。
「分かった。今日は早く休むようにする。」
「そう言えば、恭介、妖刀伝承書に何か更新されてないの。
だってあれは未来書なんでしょう。」
奏が恭介に聞いて、改めて見ても何も記されていなかった。
「結局、今日も手がかりは無しか。何かヒントでもあれば。」
「そんなに早く分かったら、苦労はしてねぇって。地道に探すしかねぇ」
恭介のなきごとに、珍しく晃介が答えたので、つぐみ達は驚く。
「バカが真面目なこと言ってる。明日は雨かもしれない。」
つぐみがそう言うと、晃介が反撃してきた。
「雨が降るとか言ってないで、つぐみ、お前は優悟をサル化しないことを考えろ。
お前たち、毎日盛ってるから、一日の行動範囲が短くなってるだろうが。
少しは、恭介と奏を見習え。そうしないとつぐみ、いつかは当たるぞ。」
晃介の見透かした鋭い突っ込みに、つぐみと優悟は顔を真っ赤にして狼狽えた。
「あんた、何言ってるのよ。私達は健全なお付き合いしているのよ。
変なこと言わないで。当たるって、ちゃんと避妊ぐらいしてるわよ。」
つぐみはついつい口を滑らしてしまった。
「さすがは優悟さんですね。サル化しても健全な性活はしてるんですね。
でも、つぐみさんはそうでもないですよね。」
朱里の追撃につぐみは口をパクパクさせ、優悟は壊れていった。
『いいなぁ。つぐみさん幸せそう。私もいつか恭介と・・・今はやっぱり無理。』
奏はそう思いながら恭介を見て、恥ずかしがっていた。
『あの、優悟さんがサル化。俺も奏と早く関係を進めたい。あっ聖歌ともどっち先に
すればいいのか。』
恭介は、奏の顔を見ながら、頭では、聖歌の身体を思い出していた。
その晩は、奏の優しい手で、恭介は癒されていた。
「修輔兄、激しいよ。もっと優しく。」
朱里が修輔の腕に爪をひっかけ、修輔の腕から血が流れた時、
ストレージの中の妖槍朱那が光出して、その光線は上の階を照らした。
息を切らした朱里が修輔の腕の中で満足げな笑みをこぼしていた。
「修輔兄、私とつぐみさん、どっちが早いかな。」
そんな朱里を修輔はデコピンして、朱里を優しく抱きしめて、眠りについた。
翌日朝、恭介はみんなに報告した。
「みんな、昨日の夜、急に妖刀伝承書が輝き出して、新たな予言が浮かび上がった。」
恭介はそう言うと、妖刀伝承書をストレージから出し、皆に見した。
「本当だ。湖の道の手がかりが書かれている。しかし、急になんで浮かび上がったんだ。
昨日まで、何にも変化がなかったのに。」
晃介は恭介に聞くが恭介も説明がつかなかった。
「恭介、こないだこの妖刀伝承書が予言する時、奏ちゃんが関係してるって、
言ってたよな。お前、まさか、奏ちゃんに変なことしてないだろうな。」
晃介がまた鋭い突っ込みを入れるが。恭介は平然と首を横に振った。
しかし、奏はあからさまに、顔を隠した。
『あっ、何かしていたんだ。恭介は上手く隠したけど、奏ちゃん分かりやすい。』
そこの誰もがそう思った。
「とりあえず、手がかりになるのは、『川のせせらぎが導く先。』という言葉だ。
川は、山頂付近だと、この二つだけだ。そして『特徴的な花が咲く場所』だな。
これは、さっきここの住人に聞いたのだが、こちらの川の近くに、なんでも
年中枯れることの無い花畑があるそうだ。だから、今日はこっちの川の方へ
行ってみよう。」
優悟は最近見られなかった、冷静な分析で目標を決めた。
『やっぱり、サル化じゃない優先輩は頼りになる。』
そう、修輔は思いながら、朱里の手を引っ張って、歩き出した。
「今日こそは、絶対にみつけてやるからなぁ。」
修輔と朱里は笑顔で歩き出していった。
修輔達は、険しい山道を通り、木々の囲まれた不自然に咲いている花畑を見つける。
咲いてる花は太陽の光を浴びずとも、青々とその花びらを広げている。
「ここか、特徴的な花が咲く場所っていうのは。確かに不思議な花だ。
太陽が振り込まないのに、元気よく咲いている。」
優悟が花の花弁を持って、監察している。
「優悟先輩、警戒しなくても大丈夫です。」
修輔が優悟に微笑んだ。
「なぜそう言える、おかしいだろ太陽が無いところに咲く花なんて。」
優悟が言うのを修輔がさえぎって話始めた。
「俺の中にある綾乃さんの細胞がそう言っているように感じる。
この花は大丈夫だよって。」
優悟は優しい表情で花を一輪、自分の胸に当てた。
すると、いままで木で覆われて日影だった所に太陽が差し込んできた。
一面の花畑が、眩しい太陽の光で七色に輝き出す。
「これは。」
先ほどの薄暗かった場所が嘘のように、太陽の光でいっぱいに照らされて、
まるで、虹の絨毯の上に立っているようだった。
「なにこれ、とても綺麗。こんなの生まれて初めて見る。」
つぐみがそう言うと、朱里も奏も頷き、七色の花を積み出す。
「ねぇ、少し早いけどここでお昼にしない。」
「まだ、目的地についてないんだ。こんなところでモタモタ出来るか。
先を急ごうとする晃介は言ったが、時間は11時過ぎていた。
つぐみも、奏も、朱里も花畑に座り、花を積み出して、花飾りを作り出していた。
「仕方がない、どのみちどっかで休憩は取らないといけなかったし、
それに、こんな良い景色で食べる弁当は絶対うまいと思うよ。」
恭介は、ホテルで用意してくれた、弁当をストレージから取り出した。
修輔と朱里は恭介の言った言葉に、なぜか心が安らいでいた。
それは、まるで修輔と朱里の中に流れる、丈太郎と彩乃の血が微笑んでいたような、
感じだった。
「みんな、見てみて、じゃーん。上手く出来ているでしょう。
奏ちゃんと朱里ちゃん、と私が作ったんだよ。」
つぐみの手には、七色の花で作った綺麗は花飾り3つを持っていた。
「いいんじゃないか。折角作ったんだから土産の持っていったら・・・。」
優悟がつぐみに言いかけた時、優悟はつぐみに頼みごとをした。
「つぐみ、それをもう一つ作ってくれないか。」
優悟はつぐみに真剣な顔で言ってきた。
「作ることは良いけど、どうするの。ペアルックで優ちゃんも頭に乗せるの。」
つぐみの言葉に、恭介達は、頭の上に花飾りを乗せる優悟のイメージを浮かべ苦笑した。
「優悟、つぐみはともかくお前が乗せているのを俺はさすがに見たくないぞ。」
晃介は優悟をからかうが、優悟は返した。
「別に俺が欲しくて言ってるんじゃない。今から綾乃さんの所へ行くんんだ。
土産の1つぐらい持って行っても良いんじゃないか。」
優悟がそう言うと、つぐみも、奏も、朱里も優悟に感動する。
「さすがは優ちゃん。そう言うところが私、大好きなんだよぅ。」
つぐみがそう言うと、優悟が照れてしまった。
「そうよ、恭介も見習ってよ。そうしたら・・・。」
奏はなんか、照れてしまった。
恭介もそんな奏をみて、自分まで照れてしまった。
「そうですよ。男のそう言う気づかいが、女を惚れさせるんです。
分かりましたか。修輔兄、晃介さん、これが大事なんです。」
朱里は、修輔と晃介に説教じみたことを言うが、晃介は反論した。
「そんなのはカップルがすることだ。優悟も恭介も修輔もみんなお前らがついているが、
ひとり身の俺にとっては関係ない。」
晃介がふてぶされていると、朱里は晃介の背中のシャツを掴み言った。
「晃介さんは1人でありません。私は修輔兄も大好きですが、晃介さんも同じくらい
大好きです。だから多夫多妻で良いじゃないですか。私を愛してください。」
朱里の冗談とも冗談でないとも言える表情で言い、潤んだ瞳で晃介を見ている。
当然、修輔はプルプルと拳を震わせるが、朱里に言われてしまう。
「修輔兄は、まだまだ、晃介さんより弱いじゃないですか。
私を守るって言うレベルではありませんよ。
それに比べ晃介さんは、私どころか修輔兄まで助けてくれたので、
修輔兄は晃介さんには感謝は言えても、怒るような事何も言えないですよ。
それに、嫉妬はみっともないですから、もっと強くなってください。」
朱里に言われ、項垂れた修輔を見て、恭介たちは微笑んだ。
昼食も終わり、次の行動に移ろうと、雄吾は言った。
「さて、これからどうするか。」
すると、朱里が何かに気づき言った。
「なにか、水の音が聞こえませんか。川が流れているような。」
朱里の言葉に、全員が耳を澄ませる。
確かに、川のせせらぎの音が聞こえている。
修輔達は、聞こえるほうに歩いていくと、目の前には山々を映し出す大きな湖が
景色いっぱいに広がっていた。その湖から町に繋がっているのだろう、川が流れていた。
「ここが、彩乃が眠っている湖なのか。なんというか不思議な感じがする。
何かに守られているような、そして暖かく包まれているような感じがする。」
つぐみが真っ先に思ったことを言った。
「でも、ここの辺りは一昨日来てるはずだが、その時は何もなかったぜ。」
晃介は頭をひねりながら言った。
「確かに、一昨日ここらは探索したよな。」
恭介も不思議そうに話した。
「たぶん、ここは結界に守られていたんだろう。それが、解けたのだと思う。」
優悟は状況を分析そう判断した。
そして、湖を調べる為、優悟は班を3つに分け、優悟とつぐみ、恭介と奏、
修輔と朱里と晃介で湖の探索が始まった。
暫くすると、湖の景色が最も綺麗に見える場所に墓標があった。
優悟は墓標に彫られている文字を読む。
『ここに二人の思い出と共に、綾乃の魂を永遠に眠らせる
綾乃よ、安らかに眠れ。』
と刻まれていた。
「それじゃあ、ここが綾乃さんが眠っている場所なんだ。やっと見つけた。」
つぐみは大喜びをする。
「さて、朱那の証はどこにあるんだ。」
修輔が辺りを見渡すが、それらしきモノは見当たらない。
そして、修輔は湖を覗くが、湖の淵であるが、底が全く見えなかった。
「とても、潜っていけそうもないな。」
修輔達は手を尽くしたが、ここへ来てまた足踏みを踏むことになった。
「あっ、忘れていた。これこれ。」
急につぐみは何かを思い出したかのように、リュックから先ほど作った花飾りを
取り出し、それを墓標にお供えした。
すると、妖槍朱那が輝き出して、それに釣られるように妖刀伝承書が光出した。
恭介は、妖刀伝承書を見ると新しい記述が増えていて、それを読んだ。
そして、修輔にそれを伝えた。
修輔は妖槍朱那で自分の指を少し切り、出た血を墓標に垂らした。
すると、湖周辺が揺れ出し、湖の鏡のような水面が大きく波打ちたつ。
暫くすると、揺れが落ち着き、修輔達は再び墓標を見ると、何とそこに
赤く、光る円形の印が現れた。
印は意思があるように、修輔の手に導かれるように飛んできた。
修輔はそれを受け取った瞬間、妖槍朱那のカギが外されたような音が鳴って
その音が聞こえなくなると、妖槍朱那が物凄い力をオーラと共に開放した。
「修輔兄、これって。」
朱里が修輔に聞くと、修輔も確信したように答えた。
「ああ、妖槍朱那の封印が解けた。」
朱里は修輔に飛びつき、みんながいる前で修輔に口づけした。
つぐみ達は双子達の口づけを見のあたりにして、理屈では知っていた二人の仲を
現実でも知るようになった。
『わぁあ、兄妹でキスしてる。しかも、濃いいのを。これは論理的にいいのか。』
つぐみは二人のキスの前に見てそう思ってしまっていた。
「とりあえず、これで目的は完了したのよね。」
奏も二人のキスで少し戸惑ったが、口に出して答えた。
「それにしても、なんて情熱的なキスなんでしょう。恭介とあれと同じのしたいなぁ。」
奏が心で言おうとしたことを口の出して自爆した。
「はいはい、それはホテルに戻ってから一杯してもらえよ。
恭介、奏姫が熱くとっても濃いキスがご所望だ。答えてやれよ。」
晃介は恭介を揶揄う様に言うと、朱里もつぐみも、みんなが奏と恭介を揶揄う様に笑った。
晃介の目の前に朱里が来て、晃介にとんでもないこと言ってきた。
「晃介さん、ホテル着いた時に私が言ったこと覚えていますか。私は
『晃介さんには本当に申し訳ないです。もし良かったら私達の部屋にご一緒でも、
私は良かったのですが、修輔兄がどうしても3Pはイヤっていうのですいません。
でも、滞在期間が長いので、修輔兄に飽きたら、私が行くので待ってて下さい。』
って、言いましたよね。でも、今日で泊るのが最後になってしまうので、今日は
晃介さんの部屋に行きますね。ではその前に、晃介さんの唇を頂きます。」
朱里はそう言って、晃介の唇に、自分の唇を当てようとした瞬間、晃介は朱里を抱えて
横に飛んだ。
その時、朱里の幼い胸に晃介の手がしっかりと掴まれて朱里は思った。
『晃介さんも意外と積極的ですね。私今日の夜待てないかもしれませんね。』
でも朱里の思いとは裏腹に、晃介が誰かに叫んだ。
「なんで、ここにいる城之内虎丸。」
晃介の睨むその先に、片腕を失くした虎丸が武装して不気味に笑みをこぼした。
「山の上が急に揺れ出したので、来てみれば、こんなところにいたのか、霞晃介。
俺は貴様をずっと探していたんだ。貴様に潰された利き腕の借りを返すために。
貴様の命で償ってくれるわ。死ね。」
虎丸が晃介と朱里に襲い掛かってきたが、一撃を外した所で朱里の存在に気づいた。
「そこの女は、あの時一緒に俺の腕を浮き飛ばした時居やがった女ではないか。
お前にも一緒に死んでもらう。」
虎丸は、晃介と共に朱里も攻撃の対象にした。
突然の襲撃に、恭介も修輔も初動が遅れてしまい、つぐみ達を避難させる事にした。
虎丸が現れた時に、一緒に召喚されたバケモノ達が恭介達に襲ってくる。
「このままでは、晃介先輩と朱里が危ない。」
修輔はバケモノを斬っていくが、バケモノに囲まれて、晃介と朱里との距離が徐々に
放されていく。
晃介は右手に朱里を抱えていて、妖刀三日月をを出せていない。
虎丸の攻撃をかわすので一杯だった。
虎丸は、反撃してこない晃介に言った。
「なぜ、反撃してこない。その女を放したら抜けるではないか。早く放せよ。」
晃介はここでは降ろせないことが分かっていた。
もしここで朱里を放してしまったら、間違いなく朱里が真っ先に狙われることを。
だからもう少し朱里が隠せる所まで晃介は逃げていた。
だが、晃介は急に動きを止めた。それは、崖に追い詰められたからだった。
仕方がなく朱里を降ろし、妖刀三日月を抜いて右手一本で構える。
それは、晃介は修輔の真剣勝負の時、左肩を負傷していたので完治していない以上上手く
動かせなかったからだ。
「やっと本気になってくれたか。だが、その女と共に死ねや。」
虎丸の重い斬撃が晃介を襲う。しかし、本来の力が発揮できないので、
その重い攻撃に、晃介は体制を崩した。そして朱里が無防備になった所を虎丸が狙う。
「朱里りぃぃぃ。」
晃介は左腕を伸ばし、朱里を跳ね飛ばした時、虎丸の斬撃が晃介の左腕を斬り飛ばした。
朱里の目の前に斬られた左腕が転がってきた。
「いやぁぁぁぁぁ。」
朱里は晃介の左腕を持って、晃介の側に近づいてくる。
晃介は痛みをこらえながら、朱里を抱えて、崖に向かって飛び降りた。
「逃げるなぁ。こんな形で決着ついたとは俺は思わん。絶対探し出してやる。
それが例え死体だったとしても、八つ裂きにしてやるぞ。」
虎丸はその光景に吠えた。
恭介はまだ、学校へは行っていない。
それは、聖歌との問題ではなく、修輔のお願いから学校を休むことになり行けなかった。
それは10日前の事。
「晃介先輩、俺のお願いを聞いてください。お願いします。」
修輔が珍しく3年の教室に来たと思えば、つぐみと優悟ではなく晃介目当てで来ていた。
つぐみは、外の天気を見て言った。
「雨降ってないよ。おかしくない。絶対おかしいよね。雨降るよね。」
そんなつぐみに優悟は呆れて溜息をつくが、優悟自体この組み合わせを不思議に思った。
「修輔、晃介に何か弱みを握られたか。」
思わず、優悟は修輔に聞いた。
「違いますよ。俺は晃介先輩に用事があるんですって。」
修輔はそう言うと、晃介に土下座した。
「お願いです。妖槍朱那の封印がどうしても開放しないんです。
晃介さんは、そういうこと詳しいですよね。だから教えてください。
妖槍朱那の封印の解き方を。」
修輔の話を聞いて、つぐみも優悟も納得した。
「なるほどね。それはさすがに私達では無理だ。
でも、晃介よりも恭介の方が分かるじゃないの。」
つぐみが言うが、この時、まだ聖歌問題で自宅謹慎で外出ができなかったので、
仕方がなく、晃介に聞いていた。
「俺もさすがに妖槍朱那の封印は分からないって。それは、恭介が来た時に聞けよ。」
晃介もつぐみの意見に賛成だった。
それでも、修輔は晃介に更なる違うお願いをする。
「だったら、晃介先輩、俺に実戦の稽古つけてください。お願いします。」
修輔はみっともなく恥をさらしてまで、お願いする。
「俺、文化祭の時、何もできなかった。危うく、朱里を危ない目に
合わせるところだった。
晃介先輩があそこで朱里を助けてくれなかったら、朱里は死んでいたかもしれない。
俺はそれが怖かった。だからお願いです、俺に稽古を。」
そう言うと晃介は修輔に言った。
「稽古と言っているうちは、お前、朱里どころか自分も死ぬぞ。」
晃介はそう修輔に鋭い目を光らせて言った。
「晃介、何もそこまで言わなくても良いじゃない。稽古つけてあげなよ。」
つぐみが修輔のフォローに入ると、晃介はまた冷たく言い放つ。
「稽古なんかそんな生ぬるいこと言ってるから、実戦で負けるんだよ。
実戦は稽古とは違う。生きるか、死ぬかの瀬戸際で生きると思ったやつが
生き残るんだ。真剣勝負はそんなに甘くない。」
晃介の言葉に、つぐみも優悟もそして修輔も何も言えなかった。
そんな時、朱里が教室に入ってきて、土下座している修輔に言った。
「修輔兄、何て格好しているのこんなところで恥ずかしいよ。ねぇ帰ろう教室。」
修輔は、朱里を振り払いそして朱里に言った。
「朱里、お前は黙ってろ。俺はどうしても超えなきゃいけない壁があるんだ。
女のお前は黙ってろ。」
修輔は朱里にそう言うと、朱里は目に涙をためて教室から走って出ていった。
「朱里ちゃん待って。修輔、そんな言い方しなくてもいいでしょう。最低だよ。」
つぐみはそう言うと、朱里を追って教室から出ていった。
「おっ、今のは良かった。分かった。修輔、見てやるよ。
ただし、死ぬ気でかかってこい。それが強くなる一歩だ。」
晃介がそう言うと、優悟と修輔は驚いて聞いてきた。
「晃介、なぜ気が変わった。」
「晃介先輩どうして。」
二人の質問に晃介はこう答えた。
「修輔、お前はいつも朱里に対してどうも甘いよな。
だけど、さっきはなりふり構わず、朱里に対しても構わずに朱里を拒んだ。
それはどうしてだ。
それはお前が朱里の事を目もくれず、己の意思を通したからじゃないのか。
それは、正しく、お前が真剣に誰よりも強くなりたいって思ったからだ。
そう言うやつが強く、生き残れるんだ。だからだよ。」
晃介の下手な説明だが、修輔も優悟でさえ納得した。
校庭のベンチに朱里は座って泣いていた。
『あんなの修輔兄じゃない。どうして、どうして、学園祭から変わってしまったの。
私が言ったせいなの。私が、修輔兄に言ったからなの。』
朱里は学園祭の時、修輔に言った言葉を思い出しながら後悔した。
『でも、こんな状況を作ったのは、修輔兄が抜かれたからですよ。
それに、晃介さんが助けてくれなかったら、私もう逝ってますから。
修輔兄、反省してください。分かりましたか。』
朱里は学園祭で言った言葉が何度も頭の中で繰り返し、また泣き出す。
そこへつぐみがやってくる。
「見つけた。朱里ちゃん、修輔には私からきつく言っておいたから、
もう泣くのはよそう。はい、ハンカチ使って。」
つぐみは朱里にハンカチを渡す。
朱里はそれで涙をふくが、あとから、あとから涙が出てくる。
「つぐみさん、最近、修輔兄が変わって私怖い。
私が学園祭の時、言った言葉がきっかけだったらどうしよう。
私、今の修輔兄が怖い。私の知らない兄さんになってしまいそうで。」
朱里はそう言うと、また大粒の涙が零れてくる。
つぐみは、朱里を抱きしめて囁くように言った。
「大丈夫、修輔は変わらないよ。朱里ちゃんの大好きな修輔兄は絶対変わらない。
もし、変わろうとしたら、私が目を覚まさせてあげるから。
朱里ちゃんは安心して良いよ。私達がついているから。」
つぐみがそう言うと、朱里はつぐみに抱きつき大声で泣くのであった。
その日の放課後、晃介と修輔は特別に許可を得てⅤR空間で対峙していた。
晃介が妖刀三日月、修輔が妖槍朱那を構える。
「優悟、安全装置を外してくれ。邪魔だ。修輔、真剣勝負だ。本気で来い。
でないと手か足か無くなるぞ。」
晃介の言葉に修輔が縮こまる。
「ビビるな。本番はこんなもんじゃない。気合い入れろ。」
晃介は三日月を振り下ろす。
モニター越しに見る優悟は、晃介の指示を思い出し緊張する。
(回想)
「優悟、ⅤRに入ったら一度安全装置を切れ。修輔が恐怖に打ち勝つためだ。
俺が合図したら入れろ。その時は、修輔が恐怖を乗り超えた時だ。
それが分かれば、今後の戦いで負けなくなる。
誰にも悟らせるな。」
(回想終わり)
戦いが始まるが、修輔の動きは鈍い。
「もっとよく見ろ。感じろ。そして自分を信じろ。」
晃介の斬撃が修輔の首筋で止まる。
「今日はここまでだ。」
開始から1時間もしないうちに晃介は戦いを止めた。
優悟も修輔も驚く。
「何か間違えましたか?」
修輔の問いに晃介はシンプルに答える。
「いや、ただ腹が減っただけだ。優悟、戻してくれ。」
優悟はⅤR転送をして現実に戻す。
「晃介、なぜ止めた?」
優悟が尋ねると、晃介は本当の理由を明かす。
「修輔には黙っておけよ。止めたのは寸止めの機会を与えるためだ。
紙一重の感覚を覚えさせることで、生きる力を植え付けるためだ。
それ以上続けると恐怖心が身に付いてしまうからな。」
晃介はそう言ってシャワー室に向かう。
『荒っぽいが理にかなっている。』
優悟はそう思いながら、修輔に目を向ける。
「今日はここまでだ。また明日な。修輔、今日は大きく成長したと思うぞ。」
優悟は修輔のやる気を継続させ、訓練を終わらせた。
それから6日間毎日この訓練は続いた。
つぐみと朱里は晃介の考えでこの訓練を見ることはできなかった。
「なによ、晃介のヤツ私達は邪魔だっていうの。ねぇ朱里ちゃん。」
朱里は拒絶された以来、修輔と学校でも自宅でも話してはいなかった。
しかも、二人同じ部屋だったのに、今は俊輔は違う部屋にいて別々だったらしい。
「ねぇ優悟からも修輔に言ってやってよ。このままだと朱里ちゃんが可愛そうだよ。」
つぐみが優悟に言うが、優悟も朱里に一言だけ言った。
「今は兄貴を信じてやれ。」
その言葉を言って晃介の所へ行った。それは7日目の放課後だった。
つぐみはそんな態度に腹を立てて、朱里と共に学校をあとにした。
「一体何なのよう、何が悪いって言うの。悪いのは晃介のバカとそれに加担する優悟だ。
二人して、バカやっているから、修輔もバカになっていくんだ。」
つぐみは公園でスペシャルクレープを食べながら、怒っていた。
朱里もバナナクレープを少しかじった所で考えにふけっていた。
そんな朱里にどう接したらいいか、つぐみも困惑していた。
『あぁ、こんな時、奏ちゃんか聖歌ちゃんが居れば、和めるのに
やっぱり二人の存在は大きいのかな。恭介はどちらかだと優悟側につくだろうし。』
つぐみは、ロスに旅立った聖歌と恭介と共に自宅で謹慎している奏の不存在を痛感していた。
クレープを食べ終わると、つぐみは朱里に提案する。
「ねぇ、もう一度学校へ行ってみない。あいつらにもう一度文句言いに行きましょう。」
つぐみは朱里の回答を待たずに、学校へ向かった。
一方、晃介たちは修輔の特訓をしていた。
修輔の動きは、初日よりもかなり良くなってきていた。
「そうだ、そこから打ち込んで来い。」
晃介が修輔に言うと、修輔は朱那を巧みに動かし攻撃をしてくる。
『悪くない。この1週間で確実に寸前の見切りが身体に身についている。
あとは、紙一重の感覚を身に着ければ、実戦でも同じ動きが出来るはずだ。』
晃介は修輔の動きに合わせて、三日月で朱那を受け流していた。
そこへ。つぐみ達がⅤR管理室に入ってきた。
すると、安全装置が切られていたことに気が付く。
モニター越しでは晃介に修輔がただやられる姿だけが映されていて、
朱里の表情が青ざめていく。
「優悟さん、安全装置を入れてください。修輔兄が、兄さんが死んじゃいます。」
朱里の訴えに優悟は何もしなかった。
「優悟、何故入れてあげないの。あなたまで晃介のバカ移ったの。
あなたがやらないなら、私がやるわ。」
つぐみは安全装置のスイッチに手をかけると優悟は慌てるようにつぐみに言った。
「つぐみ、今はだめだ。」
つぐみがスイッチをいれる瞬間。
晃介は修輔の胴に三日月を入れ込み切ろうとした。
俊輔はそれを回避行動に入るが少し遅かった。
でも、修輔の目は諦めてはなく、必死に身体をひねってかわそうとした。
『よし、修輔、そのまま回避を続けろ。その刹那の行動がお前の持つ恐怖に勝てるんだ。』
晃介は修輔のまさに今殻を破る瞬間を喜んでいた。
しかし、突然アナウンスが入る。
『安全装置が作動しました。』
このアナウンスに修輔は一瞬気が緩んでしまい、かわす動作を止めてしまった。
そして、晃介もまた刹那の寸止めをすることができなくなり、
晃介は修輔の胴体を叩ききってしまった。
モニター越しで朱里が泣き出し叫んだ。
「修輔兄ぃぃぃぃ。」
その叫びは優悟もつぐみにも心を痛めてしまう。
そして、そこに晃介からの通信が入る。
「優悟、なぜ安全装置を入れた。」
晃介の声は絶望感を感じさせる声だった。
その返答に答えたのはつぐみだった。
「なぜって、あなたねぇ、今みたいなことが起こるからじゃない。」
つぐみの返答に晃介がさらに怒りを込めて叫んだ。
「つぐみか。邪魔するんじゃねぇ。優悟元の世界に戻してくれ。」
そう晃介が言うと、優悟は転送装置を動かし、晃介と修輔は戻ってきた。
晃介は、戻ってくるなり、つぐみの方へ駆け寄り、つぐみの頬を思いっきり引っ叩く。
そこにいた誰もが驚きを見せた。
そして、晃介はつぐみに言った。
「なんで、あんな事した。お前はなんであんな事した。」
晃介はつぐみに怒りをぶつけた。
つぐみは頬を押さえ、晃介をにらみながら答えた。
「あぁしなければ、修輔は死んでいた。あなたは修輔を殺す気なの。
朱里ちゃんがどんな思いでこれまで耐えてきたか知ってるの。
朱里ちゃんは修輔の事をどれだけ心配しているのか、晃介は分かっているの。」
つぐみは晃介に言うが、晃介はつぐみに言い返した。
「つぐみ、お前はその朱里を絶望へと導いたのが分かってないのか。
朱里は修輔の事を気にしている事は百も承知だ。そして修輔も朱里の為に
強くなるためにこの1週間耐えてきたんだ。それをお前は台無しにした。」
晃介がそう言うと、つぐみは晃介の顔を見て言った。
「私が台無しにした。」
「そうだ。お前は修輔があともう少しで会得できた刹那のかわしを邪魔をして、
安全装置を入れて、俊輔に安心感を与えてしまった。
それがどういう意味か知っているのか。
避けきれたものを無駄にして、修輔は一生消えない恐怖を感覚で
覚えてしまったんだぞ。
それはもう消えない。誰かが目の前で死なない限り、消えないその恐怖を
お前が、お前が。」
晃介がつぐみに言い切った時、修輔が目覚める。
朱里は俊輔に寄り添うが、修輔の顔は死の恐怖に怯えるような表情で絶望していた。
そんな修輔を目の当たりした朱里は修輔を抱きしめる。
修輔は震えが止まらず、また朱里もそんな修輔を思うと震え出して言った。
「ねぇ、お兄ちゃんどうしてこんなに震えているの。ねぇお兄ちゃん。」
朱里はそう言って、その場に倒れた。修輔もまた恐怖に負けて気絶した。
つぐみの身体は震え出し、目に涙が溢れだした。
『私のせい、私のせいで朱里ちゃんを、修輔をダメにしてしまったの。』
つぐみはそう思いながら、うずくまって泣き出した。
晃介は修輔を、優悟は朱里を抱いて保健室へ向かおうとした時、
優悟はつぐみに声をかけた。
「今回は、つぐみが悪い。」
晃介と優悟はつぐみを横目に、保健室に連れて行くため修輔と朱里を管理室をあとにした。
管理室で残されたつぐみは、ただただ、1人泣き続けていた。
つぐみが学校を休んで3日たった。
「今日も、つぐみ休みか。あのバカ、気にしすぎだ。
あんなことすぐに忘れたらいいのに。かえって考えたら次に進まないだろ。」
晃介は優悟に言った。
「そうだな。あいつは昔から人の事を考えすぎている。
まぁ、そこがあいつらしいんだがな。
それよりも、修輔と朱里も休んでいるみたいだ。
どうする。このまま、ほっとくことは出来ないだろ。」
優悟はそう言うと晃介はこう思った。
『なんだかんだ優悟もつぐみと同じなんだな。よく似ているよ。
その他人を心配するところ。
あっ、左之助兄ちゃんもそうだったな。
人の事ばっか考えてそれで俺と音羽を助けてくれたんだよな。
俺も同じことできれば、こんなことにはならないのだがなあ。』
晃介はそう思いながら、ふと窓の外を見ると、久しぶりに登校してきた恭介と奏を
見つけた。
晃介は、急に教室から出ていくと、優悟はそのあとを追う。
「晃介どうしたんだ急に。どこへいく。もう授業が始まるんだぞ。」
優悟はそう言うが、晃介は登校する恭介と奏の所へ行った。
「晃介、久しぶり。どうしたそんな顔をして。」
恭介が晃介に話しかけると、晃介はそのまま学校の外に恭介を連れ出した。
奏も優悟も、二人を追いかけた為、4人は学校をサボることとなった。
「晃介、どこ行くの。俺と奏は今日久々の学校なんだから。」
恭介は晃介に言ったが、晃介はそのまま地下鉄に乗る為に、駅に向かう。
「黙ってついてこい。」
晃介はそう言うと、地下鉄改札口を抜けて、環状線右回りの路線に乗った。
そして、5つ目の駅で降りると、優悟は晃介の行き場所に気が付いた、それは・・・。
「なんで、つぐみの家へきた。」
優悟は晃介に言い寄った。
晃介は優悟にチャイムを押す様に首で促す。
恭介と奏は唖然と二人の行動をただ見ていた。
優悟がチャイムを押すと、インターホンに女性の声がでた。
「どちら様ですか。あら優ちゃん。あっちょっと待ってね。今開けるから。」
そう言って、インターホンの声が切れると、バタバタと玄関から40代の女性が出てきた。
「優ちゃん、つぐみの為に来てくれたの。でも今日は学校よね。
それでも来てくれて、おばさん嬉しいわ。
あら、そちらはつぐみの友達の晃介君に、あとはどなた。」
その女性はつぐみの母親だった。
恭介と奏は母親に挨拶して、家に入れてもらった。
そして、つぐみの部屋に連れて行かれ、母親がつぐみに呼びかけた。
「つぐみ、起きてる。開けるわよ。」
そう言うと、母親はつぐみの部屋を開けて、優悟たちを中に入れようとする。
母親はリビングへお茶を取りに行った。
「なに、お母さん、勝手に入って・・・。」
つぐみの言葉がここで止まる。
優悟たちの前に、薄い紫の下着だけ着ているつぐみがいた。
優悟はもちろん、恭介も晃介もその姿をしっかりとじっくりと眺めるように見てしまった。
「おぉ、つぐみの身体も悪くないなぁ。良いスタイルだ。」
晃介は、適度に大きい胸に、引き締まった腰、少し大きめのお尻に、窓の外から入ってくる光がつぐみの白い肌を一層美しく輝かせる身体を誉めた。
優悟はその場で固まりながらも、その美しい身体から目が離れなくなり、
恭介は奏と聖歌の身体とは違うその身体に釘付けになるが、
奏の両手で視界がさえぎられる。
つぐみは顔を急速に赤くして家全体に響く叫び声をあげた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
なんでいるのよ。なんで優ちゃんがいるの。そして、恭介も奏ちゃんも、バカも、
見ないで、見ないで、私の身体を見るなぁぁぁぁぁぁ。」
つぐみは半べそをかき、両手で胸を隠してしゃがんでしまった。
恭介と晃介は奏が部屋から引きずり出したが、優悟だけはそのままつぐみの部屋に残り、
つぐみに掛け布団を優しく掛けて、つぐみの耳に囁いた。
「つぐみ見てしまって悪い。俺らは外で待っているから、着替えたら呼んでくれ。」
そう言うと、つぐみの側を離れようとするので、つぐみは優悟の手を取って引き寄せ、
そして、優しく口づけた。
「優ちゃん、ありがとう。」
そう言って、つぐみは優悟を放し、優悟は外へ出ていった。
つぐみが着替えを終え、再び優悟たちを部屋に入れると、恭介と晃介の頬には
真っ赤に晴れ上がった手形がくっきりと残っていた。
しかし、優悟にはそのあとが残っていなかった。
「優悟だけなんで、どうして俺たちだけ。」
晃介は奏に聞くが、奏はこう答えた。
「優悟さんはいいんです。
だって、つぐみさんの彼氏だから、つぐみさんの身体を見る権利はあります。」
そう奏が答えると、晃介は奏と恭介を見て言った。
「だったら、奏ちゃん生まれた姿は、もう恭介が見たってことになるな。
だって、恭介は奏ちゃんの彼氏なんだから、
もちろん、いつでも、どこでも奏ちゃんは見せれるということだな。
あとは、聖歌ちゃんも同じって言うことか。
良かったな、恭介、奏ちゃんの身体も、聖歌ちゃんの身体もお前のしたい放題で。」
晃介がそう言うと、奏は拳を握りしめ、晃介の頬にスクリューパンチがさく裂した。
そんな晃介を見て、つぐみと優悟は微笑んだ。
「やっぱり、つぐみさんと優悟さんは良いカップルですよね。
なんていうか、気を許しあえるというか、全てをお互いが知ってるというか。
優悟さんもつぐみさんのこと全て知っていて、その身体も隅々まで知ってそうです。」
奏がそう言うと、つぐみは答えた。
「そうね。優ちゃんとは本当に昔から知ってるし、お互い理解できると思っている。
でも、優ちゃんでも私の身体の事までは知らないわ。
だって私達そんな経験してないもの。
でも優ちゃんが知りたいなら私は良いと思ってるわ。」
つぐみが言うと、奏は顔を紅潮させ、顔を両手で覆ってしまう。
つぐみはそのしぐさを見て、自分が今言った恥ずかしいことに顔を紅潮させていった。
優悟もつぐみの言葉に釣られて、つぐみの身体をじっくり見てしまった。
「なに、優ちゃん、じっと私の身体見て、なんかニヤけてるよ。
優ちゃんも、やっぱり興味あるんだ私の身体に。」
つぐみはそう言うと、優悟は固まってしまう。
「いつも、こうなのよね。この二人を見ていると私までなんで押し倒さないのって
思っちゃうわ。早く関係持っちゃえばいいのに。」
急に現れたつぐみの母が、つぐみと優悟を見て溜息をつく。
恭介たちはそんな母親にびっくりして少し引いてしまう。
「母親なら、もっと娘を大事にしてよね。なんでそんなに関係を持たせようとするのよ。
私達のペースってもんがあるんだから。じっくりと育ませろって言うんだ。」
つぐみが言うと、母はつぐみに言った。
「お母さん、優ちゃんとつぐみの子供早く見たいもん。孫の顔みたいもん。
だから優ちゃん、ささっとつぐみとやっちゃって。つぐみを早く妊娠させて。」
母親らしからぬ発言に、つぐみは母親を部屋から追い出した。
「で、なんで私の家まで来たの。」
つぐみが優悟と恭介に聞くが、二人とも首を横に振る。
「じゃあ。奏ちゃんは、なんでここにきたの。」
つぐみは奏に聞いても首を横に振り、3人は晃介を見る。
「おい、そこのバカ、私にようって何。」
つぐみは晃介に聞いたが、晃介も両手を広げてさあというジェスチャーをするので、
つぐみに張り倒される。
「でも、元気そうでなりよりだ。だってお前こないだ管理室で立ち直れないまでに
落ち込んでたじゃないか。今は吹っ切れっているから、安心した。
悪かったな、こないだはあんなこと言って、そして叩いてしまって。」
晃介はつぐみにそう言うと、優悟は穏やかな微笑みをした。
『晃介はつまり、ただ単に私に謝りに来たってこと。』
つぐみは晃介の突然の訪問をそう感じていた。
恭介と奏は何がなんだかさっぱりわからないままあっけに取られていた。
「そんなこと言いにわざわざ来たわけ、くだらない。そりゃあ痛かったわよ。
思いっきり叩かれたんですからね。そのまま治らなかったらどうするのよ。
まぁ、私には優ちゃんがいるから、どんな顔でも優ちゃんは受け入れてくれるし。
でも、その、悪かったわよ、私も。あなたがあそこまで修輔と朱里ちゃんのこと
思っていたなんて知らなかった。謝るわ、ごめん。」
つぐみがそう言うと、優悟はつぐみの頭を撫でてやった。
「あの、詳しく説明してもらってもいいですか。俺と奏、蚊帳の外なんで。」
そう恭介と奏が優悟に聞いてきた。
「そうですか、そんなことがあったのですね。
でも困ったな、修輔の恐怖心は確かにもう難しいですね。」
恭介はそう言うと、頭を悩ませた。
「そう言えば、恭介はどうやってその恐怖心に打ち勝ったの。
どういう修行をやったの。」
つぐみは恭介に聞いてきた。
「俺ですか。俺も似たような感じでしたよ。俺も初めは怖くて刀が抜けなかった。
親友がバケモノに目の前で殺され、父上も、里のみんなも俺だけを逃がすために
犠牲になってくれた。復讐でいざ戦う時、怖くて刀さえ抜くことが出来ず、
葵たちに稽古つけてもらったけど全然だった。」
恭介はそう語ったが、でもつぐみはさらに聞いてきた。
「どうやって、克服したの。」
恭介は奏を見て話し出した。
「逃げて、伊賀の里に着いた俺たちはそこで百地丹波さんと、新右衛門さん、朝陽に
であった。俺の無念を話すと新右衛門さんが獣の檻というところで修行をしないかと
提案されて、俺はお願いした。でもそこは野生の狼がいて、とても厳しい環境に
上忍もが恐れる所だった。」
恭介は奏の頭を急に撫でながら話を続けた。
「何度も続ける俺を、奏いや、朝陽はバカですかって言われたよ。本当に心配して
くれて、でもおれのわがままに付き合ってくれて、そしてこの妖刀朱星光月を
初めて抜いた時も、朝陽は命がけで俺にこの妖刀朱星光月を届けてくれた。
そして、二人で抜くことが出来たんだ。それからはただ朝陽を守りたくて
ひたすら相手を倒して、その時には恐怖は無くなっていた。」
恭介が語り終わると、奏は申し訳なさそうに恭介を見つめた。
「心配しなくていいよ奏。俺は今奏がいてくれるだけで幸せなんだ。」
恭介はそう言うと、奏を抱き寄せた。
「二人の愛って感じね。これって、恋人ではないけれど、
なんか修輔と朱里ちゃんも同じ関係じゃない。
あの二人なんだか恋人以上って感じだもの。」
つぐみはそう言って、優悟たちも納得した。
「じゃあ、恭介と奏ちゃんは修輔と朱里ちゃん頼めるかしら。」
つぐみの言葉に恭介と奏は頷くと、晃介が言い出した。
「俺は修輔の師匠だ。俺も責任を持つから明日修輔達の所へ行こう。」
そう決まって、今日は解散した。
帰り際、奏は寄るところができたと言って、恭介と晃介を連れて先につぐみの家を出た。
そこにつぐみの母親が買い物だと言って付いてきた。
取り残された優悟とつぐみはなんだかそわそわして落ちつかない様子で沈黙する。
どちらかが話しかけようとすると、びっくりした様に緊張する二人。
切り出したのはつぐみだった。
「ねぇ、優ちゃん、お母さんが言ったこと気にしているの。
冗談よ、冗談に決まってるじゃない。でも興味ある、その私の身体。」
つぐみは恥ずかしそうに言うと、優悟は突然つぐみを押し倒してきた。
「優ちゃん、顔が怖いよ。そんな怖い顔しなくても、私は大丈夫だから。
してみる。最後まで、私はいいよ。優ちゃんが望むなら。」
つぐみはそう言うと、着ていた服を全て脱ぎだした。
優悟も制服を脱いで、互いを見つめて合う。
つぐみの身体は夕陽で赤く染まって、とても美しかった。
優悟はつぐみを抱きしめてそのままベットへつぐみを寝かせた。
そして、ベットがキシキシと揺れ出していく。
時よりつぐみの甘い吐息が漏れて、優悟もまたつぐみの柔らかい身体に身を寄せていく。
だんだんとベットのきしむ音が大きくなり、つぐみと優悟は繋がったまま痙攣した。
「優ちゃんのあったかい。私、今がとっても幸せだよ。」
つぐみが言うと、優悟はつぐみに優しくキスをして言った。
「俺も幸せだ。つぐみをずっと大切にする。」
そう言って、またつぐみと口づけをした。
するとつぐみが恥ずかしそうに言った。
「もう、優ちゃんってば、いいよ。続きしよ。」
そして、月が高くなるまで、ベットのきしみが続いた。
『このぶんだと、孫の顔早く見られるかも。』
そう思うつぐみの母だった。
翌日、待ち合わせした場所。
「つぐみ、今日なんか歩き方おかしくないか。足の開き方がおかしいぞ。」
晃介はつぐみに言うと、優悟とつぐみは顔を紅潮させた。
恭介と奏は二人を見て、二人のシーンを想像して自分たちも顔を紅潮させていった。
高坂修輔と朱里の家。
恭介と奏、つぐみと優悟、晃介の5人は門の前に立ってインターホンの返答を待っていた。
「はい。どちら様ですか。」
その声は朱里の声でない女性の声だった。
「私、旭日高校3年百地つぐみと申します。今日は修輔君と朱里さんに逢いに来ました。
お二人は、お見えになりますか。」
つぐみの社交性の挨拶はいつ見ても冷静で、品のある物言いだった。
「百地さん。もしかして、伊賀の里の方ですか。少しお待ちになって。」
インターホンの女性が急に慌てるようにインターホンを切ると、玄関から出てきた。
「お待たせしました。百地葵様のご関係の方ですよね。
私はこの時を長年待っておりました。さあ中にお入りください。」
そう言うと、つぐみ達は、居間まで通され、少し待つと当主らしき男とその妻が
居間に入ってきた。
「お待たせしました。私は高坂第12代当主高坂悟と申します。
いつも修輔と朱里がお世話になっておる。」
悟と名乗る当主は筋肉ムキムキのゴツイ男だった。そしてその隣にいる女性が名乗る。
「お初にお目にかかります。私は第12代霞冬華と申します。
娘たちが大変お世話になっております。」
名前を聞いて、優悟が驚く。
「高坂さんではなく、霞ですか。すみません、名乗りが遅くなりました。
私は旭日高校3年霞優悟です。」
優悟が名乗ると冬華が驚く。
「そうですか、あなたが左之助様と立夏様のご子息の末裔なのですね。」
そう言うと、冬華は微笑んだ。
また、恭介と奏も名乗って、恭之介と朝陽の認識もされた。
「俺は霞晃介だ。」
最後に晃介が名乗ると、悟も冬華はこれまで以上に驚いたのであった。
「そうですか、あなたが霞鷹乃介様ですね。音羽大おばあさまのお兄様なんですね。」
晃介は急に音羽の名前が出てきたのでびっくりした。
「なんで、音羽の事が分かる。それじゃ霞って・・・・。」
晃介が言おうする前に冬華が言った。
「はい、音羽大おばあさまは、高坂丈太郎大お爺様と結ばれました。
私は霞の正当の純血を引く者です。」
冬華はそう答え、音羽の起こった異変も説明した。
「納得したよ。なんで朱里が妖刀三日月を持ったらあの力が出せたのかの理由がよ。
朱里は霞の純血だな。だから、修輔は朱里を守っているんだな。」
晃介の言葉に、恭介だけは納得した。
「丈太郎殿と音羽ちゃんの子孫だったのか。納得した。」
恭介と晃介だけが話を進めてしまうので、つぐみたちも分かるように説明が行われた。
「なるほどね、だからあの二人は兄妹というよりも恋人に見えるのか。
いや、実際に恋人なのかな、あれ。」
つぐみは頭が混乱した。
詳しく説明すると、丈太郎と音羽は婚姻して、その子孫は必ず男の子、女の子が生まれるよう、必ず双子を産む。これは霞の里の純血の正当な証でもある。
そして、音羽は綾乃というもう一人の人格(魂)を持っているため
丈太郎と綾乃の混血児が男の子に宿り、丈太郎と音羽の混血児は女の子に宿る。
その男の子と女の子は遺伝子が違うため、近親婚でも血の濃い子は生まれずに、
いつまでも綾乃の子と音羽の子が生まれてくるから、
ずっと近親関係でも遺伝子が別な子供が出てくる。
「でも、それだと、丈太郎さんの遺伝子だけが増えるんじゃないの。」
つぐみが疑問に思った。
「確かにいくら、女性の遺伝子が違ったとしても、
丈太郎さんの血が濃くなるんじゃないの。だって兄妹でも半分は丈太郎さんの
血があるわけだから。」
奏もつぐみの意見に賛同する。
「いや、それを打ち消すのが霞の純血の力なんだ。
確かに本来は例に立夏さんを上げると、男と結ばれ、子供は男と女が生まれると
男の方はその代だけが凄い力を持つがその子孫には反映しない。
女の方は純血を引き継がれまた子供が男と女なら永遠に引き継がれる。
だけど、男しか産まれなかったら、その能力はその代までだ。
しかし、音羽はその綾乃っていう魂を取り込んでいて、正当の霞の純血の子は永遠に
男と女が出てくる。霞の純血は相手の遺伝子よりも強い為、結局男の遺伝子を
相殺し、純血の遺伝子が勝ってしまうから、永久に繁栄されるってこと。」
晃介は頭が悪いがこの知識だけはものすごく知っていた。
「はい、仰る通りです。ですから修輔と朱里もいずれ結ばれてその子供を宿すことに
なります。しかし、こないだの学園祭で、もし朱里が殺されてしまったら、
霞の純血は途絶えてしまうところでした。
私もそんなに若くないのでさすがにもう・・・・・。」
冬華さんは顔を赤くして照れてしまった。
つぐみ達も冬華さんを見て一緒に照れてしまった。
「だから、修輔は土下座してまでも強くなりたかったわけか。」
晃介はつぐみを見て、溜息をつく。
つぐみも罰が悪そうに晃介の溜息を素直に受け取る。
「ごめんなさい。ところで、修輔君と朱里ちゃんはどうしてますか。」
つぐみは二人を気にする。
「修輔は部屋に閉じこもってままで、朱里は妖槍朱那を持ち出そうとして。」
冬華が言いかけたが、恭介は続きを言う。
「朱里、持ち出せなかったですね。資格がないから。」
「資格?」
つぐみは恭介に聞いたが、その答えを晃介が答えた。
「俺たちの妖刀、妖槍は決められた者しか持てないんだ。
恭介の妖刀朱星光月は恭介だけが、修輔の妖槍朱那は現所有者の修輔だけが
そして、俺の妖刀三日月は俺と・・・いえ俺だけしか扱えない。」
晃介は意味ありげに言ったが、誰も気づかなかった。
しかし、つぐみがまた疑問になる。
「あれ、確か、奏ちゃん恭介の妖刀持ってなかった。」
それは恭介が答えた。
「俺の妖刀朱星光月は奏、朝陽と共同に持てるようになっているから。」
「話を戻すが、朱里さんは今どうしています。」
優悟が話を戻した。
「朱里ならたぶん、修輔の所だと思います。お会いになりますか。」
冬華はそう言ったので、つぐみ達は当初の目的を果たすため、朱里に会った。
「修輔兄、出てきてよ。私修輔兄がいないと淋しい。だから出てきてよ。
学園祭の事謝るから、お願い出てきて。」
部屋の前で必死になって朱里は叫んでいるが、修輔は言葉さえも出さない。
「毎日、こんな調子です。朱里つぐみさんたちが見えたましたよ。
ご挨拶しなさい。」
冬華がそう言うと、気まずそうに朱里は挨拶をしてきた。
「先輩たちこんにちわ。私は元気ですが、修輔兄はこんな調子です。」
さっきまでとは違う態度で朱里は言ってきた。
そんな朱里はどこか無理をしているようにも見えた。
しかし、晃介は朱里に対して厳しい態度を取った。
「朱里、お前がそこでいくら叫んでも、修輔の腰抜けはもう出てこない。無駄だ。
諦めろ。あいつはもうだめだ。一度知った恐怖は二度と消えない。
諦めて、俺の女になれ。それがお前自身が生き残っていく道だ。」
突然、晃介は朱里の手を引いて自分に引き寄せる。
そして部屋の中に閉じこもっている修輔に言った。
「おい、腰抜け、俺は今から朱里の唇も身体も全ててめぇから奪ってやる。
今から朱里を抱く。愛し合う。それがイヤだったらめそめそしないで出てこい。」
晃介は朱里を無理やり引っ張って部屋を探し始めた。
「ちょっと、晃介あんた何やっているのよ。朱里ちゃんから離れなさい。」
突然の晃介の暴挙に、恭介も優悟もつぐみも奏も、朱里を取り戻そうと、
晃介を止めにかかるが、晃介は朱里を離さない。
当然、朱里も悲鳴を上げて、叫ぶ。
「いや、いや、助けて、修輔兄、助けて。いやぁぁぁ。」
晃介は恭介達を振り切り、朱里と修輔の部屋らしき部屋に入って、ドアを閉め、
タンスをドアに倒した。
誰も部屋に入ることが出来ない。
「おい、晃介、止めろ。」
「晃介、朱里ちゃんを放しなよ。あんた何やっているのか分かってる。」
つぐみと優悟がドアを叩くが、ビクともしない。
「なぁ、朱里、今からお前の色っぽい声をあの腰抜けに大声で聞かせてやろうぜ。
どうせ、あいつはあそこから出てこないだ。」
晃介はそう言うと、無理やり朱里の服を破り、唇を奪おうとする。
「いやぁぁぁ。やめて晃介さん、やめて、助けて、修輔兄、お兄ちゃん助けて。」
朱里の声が修輔の部屋まで届いていく。
つぐみ達は焦り、ドアを開ける為、必死になっているが、
なぜだか悟と冬華はだけは、修輔の部屋を見つめている。
そして、晃介は朱里に手を伸ばし、朱里の悲鳴が家全体に轟く。
その時、晃介たちの部屋のドアが吹き飛んだ。
晃介はニヤリとして、ドアの所に立っている男に言った。
「よう、腰抜け。やっとお目覚めか。でも、もう遅い。
朱里の唇も身体も今から俺が全部頂く。そこで指をくわえて見てろや。
なぁ、朱里、俺が満足させてやるよ。今後俺無しでは満足出来ねえぐらいによ。
腰抜けよ、お前が朱里を抱いても朱里が満足出来ないぐらい滅茶苦茶にしてやるよ。」
晃介が言った瞬間、晃介の身体が宙をまった。
「うぐぅ。」
晃介のうめき声があがった。
「朱里に手を出すな。朱里は俺の物だ。晃介おめえは許さない。絶対許さない。」
修輔はそう言って、妖槍朱那を晃介に向けて突進してきた。
晃介は窓から外へ飛びだし、妖刀三日月を出して迎え撃つ。
修輔も外に飛び出してきて、晃介に斬りかかった。
俊輔の目からは怒りの殺気が晃介にビンビンとぶつけてくる。
晃介も殺気を修輔に飛ばし、斬りかかった。
そんな二人を朱里は見ている。
つぐみは朱里に自分の上着を掛けて晃介と修輔を見ていた。
物凄い金属音が鳴り響き、激しさが増したとき、決着の時を迎えようとした。
晃介が修輔の懐に飛び込み胴体を切り裂こうとする。
修輔は目いっぱい引こうとするが、瞬間、目を切らし瞑ろうとする。
「修輔、目を瞑るな。最後まで見ろ。そして、かわせ。」
修輔の耳に確かに聞こえた声で、修輔は目を切らすことなくかわして、
晃介の左肩に妖槍朱那を突き刺した。
晃介の肩から大量の血が拭き出したが、そこで悟が二人を止めた。
「そこまで。晃介君、ありがとう。最後まで修輔を信じてくれてありがとう。」
悟がそう言うと、晃介は意識を失くした。
晃介は目を開けた。その瞬間、目の前に刃物が襲ってきた。
晃介はとっさに右側に回転して一撃目を避けるが、すぐに二撃目が右から襲ってきた。
左肩を痛めているので、左側に回転して避ける事が出来ず、そのまま刃物を目で追うしか出来なかった。
刃物は右耳のすぐ隣を通過してそのまま、畳に食い込む。
そして、晃介の上にまたがってきた襲撃者は晃介の左頬に拳をヒットさせた。
物凄い痛みが左頬に広がり、その振動で左肩の傷の痛みも増して、
晃介は苦痛の表情になった。
そこで優悟の声がした。
「おい、つぐみ、やりすぎだ。もうやめろ。」
つぐみを後ろから引きはがそうと優悟がつぐみを抱きとめるが、なかなか離れないので優悟がわざとつぐみの胸を掴み、持ち上げるとつぐみは力が入らなくなった。
優悟はその時を狙って晃介からつぐみを引き離した。
当然、つぐみは顔を真っ赤にして行動不能になった。
「ちょっと、優ちゃんなにどさくさになって胸を触っているのよ。」
「つぐみ俺はお前を愛している。だから今も触っている。」
優悟はそう言って、つぐみを骨抜きにさせ、奏と恭介に足を押さえられるが、
晃介に向かって、まだわめいていた。
「このバカに恐怖を刻み込んでやる。朱里ちゃんの仇だ。」
つぐみは完全にさっきの晃介の行動にキレていた。
「つぐみさん、仇って私まだ死んでないです。生きてますから。」
朱里の声も聞こえる。
「修輔、お前はどれだけの人を巻き込めば気が済むんだ。反省しろ。」
「そうですよ、晃介さんがああやってあなたを励ましてくれたから今あなたはここに
いるんですよ。だから、晃介さんに感謝しなさい。」
壁際で修輔が悟と冬華に怒られてた。
晃介はこの光景に、思わず笑みが零れ、笑い出した。
「あっはははは。わっはははは。」
これを見たつぐみがまた言い出す。
「こら、バカ、何笑っているんだ。反省しろ。」
必死で抑える奏と優悟。恭介はそれをただおろおろと見ている。
『左之助兄ちゃん、俺兄ちゃんに近づけたかな。俺お節介出来たかな。』
晃介はそう思いながら、笑っていた。
この騒動がやっと収まったのはそれから1時間後だった。
「改めまして、晃介さん、今回はあなたに多大な迷惑を掛けて本当に申し訳ない。」
悟が晃介に頭を下げる。
「俺は修輔の師匠としてやっただけだ。意味はない。」
晃介はこう言って、悟の頭を上げさせた。
「本当にうちのバカ修輔の為に怪我までされて、なんてお詫びを言えばいいか。
修輔より晃介さんの方が朱里の相手に相応しいです。
朱里、修輔をやめて、晃介さんに嫁ぎなさい。その方があなたは幸せです。」
冬華は朱里を晃介の隣に座らせる。
これに、修輔はムッとするが、それ以上につぐみが怒る。
「冬華さん、このバカを誉めないで下さい。図に乗ります。」
しかし、冬華と悟は朱里に聞く。
「朱里、晃介さんの事どう思う。」
朱里は少し考えて答えた。
「そうですねぇ、確かに修輔兄より男らしいし、さっき迫られて本当にドキドキ
しました。とても演技だとは思えないほどに。
あのまま、修輔兄が来なかったら、私は間違いなく落とされていましたし、
修輔兄では満足さしてもらえない身体になっていたかもしれません。
晃介さん、さっきの続きしてもらっていいですか。
私は晃介さんに惚れました。私を一杯満足させてください。
私を愛してください。」
朱里は目を潤ませ晃介に迫ってきた。
「朱里、あのな、あれは演技だって。本気にするな。
それに俺達はそれこそなんだ、近親者でそのお前の叔父さん的存在だ。
だから、子供を作ることはできない。分かってくれ。」
晃介は真剣に朱里に断りを入れるが、朱里は引かない。
「それじゃあ、これだけ私を本気にさせておいて、私を捨てるんですか。
そんなことさせません。親公認ですからここで私を貰ってください。」
朱里は着ている服に手を掛ける。
修輔はもう魂が抜け殻のようになって、つぐみ達もまた慌てて朱里を止めようとする。
悟も冬華はにっこりして見届けている。
晃介は身体を後ろずさりして、朱里から距離を取ろうとする。
朱里が一枚脱ぎ捨て、キャミソールの姿になって晃介に迫り耳打ちする。
「それじゃあ、行きますよ。私を満足させてください。」
朱里はそういって、晃介の耳たぶを噛んだ。
「嘘ですよ。驚きました。私晃介さんには興味がありません。修輔兄だけです。」
そう言って、朱里はお茶目に微笑み小さいドッキリの旗を晃介に見せた。
「なに、本気になっているのです。晃介さんの面白い顔、頂きました。」
朱里の行動に悟と冬華以外は唖然とただ茫然と見てるしかなかった。
「でかしたぞ朱里。お前はお笑いのセンスがある。」
「そうですね、あなたに似て本当に面白かったわ。
この才能をもっと伸ばしていきましょう、朱里あなたはその素質があるわ。」
悟も冬華もそして朱里もみんなを騙せてとっても満足な笑みを浮かべた。
この一家に生まれながら一切この素質を受け継がなかった修輔は項垂れ、
巻き込まれた、つぐみ達もぐったりとする。
晃介も訳の分からないままただみているだけであった。
しかし、朱里は最後に晃介にそっと口づけして、言った
「これはお礼です。晃介さん本当にありがとう。」
朱里は微笑み、晃介はその口づけが本当なのか、嘘なのかわからないまま、
自分の唇をさわるだけだった。
修輔と朱里の騒動からさらに翌日の午後。
恭介達、7人は山梨県の杓子山付近駅に来ていた。
ここは丈太郎の故郷があった場所で妖槍朱那の封印覚醒のヒントが隠されている。
丈太郎の古門書には長のの里から少し離れた山の山頂付近に山々に覆われた湖があり、
そこに今も綾乃の遺体が眠っている。
その綾乃の持つ朱那の証を見つければ、妖槍朱那は本来の力を取り戻すというので
学校を休んで来ることになった。
「しかし、空気の美味しい所ですね。」
奏は胸いっぱい空気を吸い込んで、楽しんでいる。
奏の両隣りでつぐみも、朱里も並んで同じことをする。一方で優悟を除く、恭介を初めとする男たちは、彼女らの息を吸い込む所だけを見ている。息を吸い込むことで彼女らのそれぞれ大きさの違う胸が主張するのを楽しんでいる。優悟は深く溜息をついていた。
「さて、目の保養も済んだことだし、今晩の宿にチェックインして探索は明日からに
しようか。」
恭介はそう言って、ホテルを探す。
「予約したホテル、結構いいホテルなんでしょう。本当に私達が泊っても良いの。
だって、一泊片手はいるわよ。しかも全て朱里ちゃんのところが全て出すって。
そんな厚かましいことしていいのかな。」
つぐみは朱里と修輔の聞いている。
「あぁ、大丈夫ですよ。昨日の修輔兄の事で迷惑かけたのでそのお礼だし、
なんかうちの親戚の経営してるホテルなので自由に使ってください。」
朱里はそう答えた。
駅からバスに乗り継いで、目的のホテルに着いた。
そのホテルは15階建てで3階から10階までが一般用客室各階20室ずつ、
2階、11階がプールを初めとするジム施設と図書館があり、12階がレストランが、
13階がセミスイートルーム5部屋、14階がエグゼクティブスイートルーム4部屋、
15階がアルティメットスイートルーム2部屋の構成になっていた。(参照)
一般客室の代金は食事付けで4万5千はする。
朱里と修輔以外はその豪華さに入口で身分相応感を出していた。
「なんか、今週は予約が一杯みたいなので、小部屋が手配できないみたいなので
つぐみさん達と、恭介さん達はこの部屋を、晃介さんは申し訳ないのですがこちらを、
そして、私と修輔兄はここを使います。」
渡された部屋のカードキー番号はつぐみ達1501、恭介達は1502、晃介は1305、
そして朱里たちが1403だった。
「すいません。今日はそこしか空いていなくて、あとは満室だって言ってました。」
朱里は少し微笑みながらそう言った。
つぐみはホテルのパンフレットを見て驚愕した。
渡された部屋のキーは、15階のアルティメットスイートルームだったのだ。
「ちょっと、朱里ちゃん、ここの部屋ってもしかして。」
つぐみが青ざめた顔で朱里に聞く。
「はい。最上階の部屋です。どうぞ、楽しんできてください。」
普通に話す朱里につぐみが茫然とするが、奏は朱里に価格を聞く。
「ざっと、一泊50万はしますね。
その部屋はカップル限定なんで、そこに泊るペアは必ず結ばれる見たいです。
子宝に恵まれる見たいで、若い世代から適齢期世代の夫婦にも大人気みたいですね。
だから、つぐみさんと優悟さんペア、恭介さんと奏さんペアが来てくれて、
本当に助かりました。もし、聖歌さんが来ていたらどういう風になっていたか。」
朱里の初めから計画されたような言い回しに、恭介と優悟はハメられた感を出していた。
つぐみと奏は、口をパクパクして茫然としていた。
「晃介さんには本当に申し訳ないです。もし良かったら私達の部屋にご一緒でも、
私は良かったのですが、修輔兄がどうしても3Pはイヤっていうのですいません。
でも、滞在期間が長いので、修輔兄に飽きたら、私が行くので待ってて下さい。」
修輔は晃介を睨みつけ、晃介は呆れた顔で朱里の顔を見ていた。
結局、朱里の思惑通りの作戦に、みんな振り回されていた。
朱里たちとエレベーターで別れた後、 さらに、つぐみと優悟、恭介と奏に驚愕な試練がやってくる。
まず、部屋の施錠はカードを差し込み、センサーにそれぞれの指紋を登録すると
ドアが開いた。中を見渡すと、シングルより少しだけ幅が広いベットが1つ、カップル椅子が1つ、キッチンに、ペア用のアトラクションゲームに、ベランダ、小さなプール、
露天風呂、室内用お風呂、洗面所がガラスの壁に仕切られていて、全て二人の認証が
ないと入れなくなっている。
この部屋は常に二人で過ごすまさに究極のカップル使用になっていて、いかなる時も
二人は行動を共にしなければならない、ある意味、拷問部屋だった。
つぐみは思考回路が燃えついてその場に固まって、あの冷静な優悟でさえ慌ててる。
奏は身体をプルプルと震わせ、この状況とこの先起こるであろう事実から逃避行し始め、
恭介は奏を見て顔面が崩壊してにやけていた。
『この部屋で俺達、私達なにさせる気なんだぁぁぁぁ。』
つぐみ、雄吾、奏、恭介は一斉にそう思った。
つぐみと奏はグループラインで朱里に連絡を取る。
(つぐみ)朱里ちゃん、今すぐ、この部屋を替えて。
(朱里) 今週はすべて満室ですので、諦めてください。
(奏) だったら、朱里ちゃん達の部屋と交換して。
(つぐみ)奏ちゃんずるい。朱里ちゃん、私達と替わって。
(奏) つぐみさんだってずるいです。朱里ちゃんお願い私達と。
(つぐみ)奏ちゃん、恭介と仲良くやればいいじゃん。
(奏) つぐみさんだって、優悟さんと仲良いじゃないですか。
(奏・つぐみ)とにかく朱里ちゃん替わってぇぇ。
(朱里) あっすみません。私達の部屋、
おばさんに頼んでお二人の部屋と同じ使用になっています。
ごめんなさい。恭介さんと優悟さんにいっぱい可愛がって貰って下さい。
それでは通信終わり。
奏・つぐみ)えぇぇ。そんなぁぁぁぁ。 通信終わり。
奏とつぐみは半泣き状態で恭介と優悟をそれぞれの部屋で見た。
すると、恭介がモジモジしている。
「恭介、なにもじもじしているの。」
奏が恭介に聞くと、その返答に奏は顔を赤くして茫然とする。
「ちょっと待って、外に行けばいいじゃない。」
奏が叫んで言った。
「俺も思ったけど、12階まで降りないといけないから無理。」
ここのスイートルームのエレベーターは直通でこのフロアには部屋しかトイレがない。
「私はイヤよ。あなたと一緒なんて、絶対いやぁぁぁ。」
奏の声が虚しく部屋の中に響く。
ちなみにこの部屋は聖歌の部屋と同じサイレントルームになっていた。
12階のレストラン、つぐみと奏は何か呟いてぐったりしていた。
「フランクフルトからいっぱい。フランクからいっぱい出た。」
「アメリカンドックからジョボ、ジョボと落ちていった。」
二人は先ほどまでの光景を鮮明に、もはや忘れることのないモノを見てしまった。
「つぐみも奏もなんでぐったりしていているんだ。
しかも、フランクとかアメリカンドックそんなにも腹減っているのか。」
晃介の言葉に、つぐみと奏はまたテーブルに顔を押し付けた。
「それより、明日どこから探す。山周辺からいくか。」
優悟はスマホで地図を検索して目ぼしいところに目印を入れていく。
「そうですね。湖のある所を中心にしましょう。」
恭介も話を合わせて進めていく。
「それよりも、裏生徒会の他の奴ら今どうしている。」
晃介が優悟に聞くが、あれ以来その姿は消えていた。
そんな会話が続き中、頼んだ料理が箱まれてきた。
「やっと来たか、さあ食べよう。」
晃介は誰よりも早く食べ始める。
ぐったりしていたつぐみ達もさっきの事は忘れて食べ始めるのであった。
すると、ホテルマン関係者が挨拶に来て、朱里と修輔に話している。
「これは、当ホテルからのサービスです。お召し上がりください。」
男性陣には牡蠣とレバーのオイスターソース炒めと羊肉のマカ入り薬膳スープ、
クコの実入り中華粥の3種類料理が出てきた。
そして、その3種にトッピングする粉末があり、特に男性が使用すると体力向上すると
説明を受けた。そして食後に飲む胃薬の錠剤を渡される。
女性陣には鶏皮とレモンの炒め物、フカヒレとアボカドのサラダ、豚足とキウイのスープ
そして、翌日の朝一番に飲むと美肌効果が促進する錠剤が出てきた。
お腹いっぱいに食べた恭介たちはそれぞれの部屋に帰っていった。
部屋に着くと朱里からグループラインが女子たちに送ってきた。
(朱里)検討を祈る。結果は明日朝聞く。
奏もつぐみも訳の分からないラインに首を傾げるが、この後を考えると先が重かった。
最初の難関のお風呂が迫っているのであった。
翌朝、朱里からつぐみと奏にラインが送られてきた。
(朱里)回数と内訳、私は7回(Ⓕ3回K1回S2回、Ⓑ5回K1回S3回、
Ⓡ1回S1回。2時半終了。別室にて3回(Ⓣ2回Ⓚ1回)。終了4時。
必ずSを表示した人は錠剤を飲むこと。あと返信は10分以内。
このように書かれていた。
4分後に奏から、7分後につぐみから連絡があった。
(奏)5回(Ⓕ3回T2回M1回、Ⓑ2回M1回T1回
終了2時半。IN無し。
(つぐみ)9回(Ⓕ4回S2回K1回M1回、Ⓑ4回S3回M1回、Ⓡ1回S1回
継続中の為のちほど。
朱里は二人を思い浮かべてお疲れさまと思うのであった。
翌日朝、晃介を除く恭介、奏、朱里、修輔は眠そうだが、つぐみと優悟は既に疲れていた。
朱那の証を求めて、恭介たちは山に向かうために早くホテルを出発し、丈太郎の古門書を頼りに湖を探し始めた。
「今日は何か手がかりが見つかるといいな。」
恭介はすっきりした顔で皆に言った。
探索初日は丈太郎の記述に従って山道を進むが、道は険しく、なかなか進展がない。
急な斜面や密生する木々が行く手を阻む。
「この道、本当に合っているの?」つぐみが不安そうに言う。
途中、道に迷い、何度も同じ場所に戻ってしまう。
疲労が蓄積し、みんなの顔には疲れの色が浮かぶ。
「一旦休憩しよう。このままだとみんな倒れてしまう。」
優悟が提案する。
彼らは木陰で休憩し、水分を補給しながら再度計画を練り直す。
時計を見ると、午後3時過ぎだったこともあり、今日の探索はここまでになった。
探索2日目、早朝早くホテルを出るが、依然として困難が続く。
丈太郎の古文書の内容を再確認し、湖への道を探し続けるが、成果は出ない。
「どうしても見つからないのよ。ただ疲れるだけだよ。」
朱里が声を落とす。
彼らは細心の注意を払いながら、丈太郎の記述にある手がかりを探し続ける。
道中で出会う不自然な岩や木々に注目し、慎重に進んでいく。
しかし、時間が立つばかりで、結局リミットの3時が過ぎ、恭介達は下山した。
その日の夜のレストラン。
「この2日、古門書があるとはいえ、やみくもに探してもダメだったな。
何か手掛かりがないと時間が立つばかりで。体力がもたん。」
優悟はそう言うが、朱里と奏はつぐみのラインで二人の事を知っているため、
優悟に忠告する。
「優悟さんは、もっとつぐみさんに睡眠を取らせるよう努力してください。」
朱里はいうと、奏も続く。
「そうですよ。優悟さんも日に日に顔色が悪くなってます。無理はだめです。」
優悟は朱里と奏に言われ、気まずそうに言う。
「分かった。今日は早く休むようにする。」
「そう言えば、恭介、妖刀伝承書に何か更新されてないの。
だってあれは未来書なんでしょう。」
奏が恭介に聞いて、改めて見ても何も記されていなかった。
「結局、今日も手がかりは無しか。何かヒントでもあれば。」
「そんなに早く分かったら、苦労はしてねぇって。地道に探すしかねぇ」
恭介のなきごとに、珍しく晃介が答えたので、つぐみ達は驚く。
「バカが真面目なこと言ってる。明日は雨かもしれない。」
つぐみがそう言うと、晃介が反撃してきた。
「雨が降るとか言ってないで、つぐみ、お前は優悟をサル化しないことを考えろ。
お前たち、毎日盛ってるから、一日の行動範囲が短くなってるだろうが。
少しは、恭介と奏を見習え。そうしないとつぐみ、いつかは当たるぞ。」
晃介の見透かした鋭い突っ込みに、つぐみと優悟は顔を真っ赤にして狼狽えた。
「あんた、何言ってるのよ。私達は健全なお付き合いしているのよ。
変なこと言わないで。当たるって、ちゃんと避妊ぐらいしてるわよ。」
つぐみはついつい口を滑らしてしまった。
「さすがは優悟さんですね。サル化しても健全な性活はしてるんですね。
でも、つぐみさんはそうでもないですよね。」
朱里の追撃につぐみは口をパクパクさせ、優悟は壊れていった。
『いいなぁ。つぐみさん幸せそう。私もいつか恭介と・・・今はやっぱり無理。』
奏はそう思いながら恭介を見て、恥ずかしがっていた。
『あの、優悟さんがサル化。俺も奏と早く関係を進めたい。あっ聖歌ともどっち先に
すればいいのか。』
恭介は、奏の顔を見ながら、頭では、聖歌の身体を思い出していた。
その晩は、奏の優しい手で、恭介は癒されていた。
「修輔兄、激しいよ。もっと優しく。」
朱里が修輔の腕に爪をひっかけ、修輔の腕から血が流れた時、
ストレージの中の妖槍朱那が光出して、その光線は上の階を照らした。
息を切らした朱里が修輔の腕の中で満足げな笑みをこぼしていた。
「修輔兄、私とつぐみさん、どっちが早いかな。」
そんな朱里を修輔はデコピンして、朱里を優しく抱きしめて、眠りについた。
翌日朝、恭介はみんなに報告した。
「みんな、昨日の夜、急に妖刀伝承書が輝き出して、新たな予言が浮かび上がった。」
恭介はそう言うと、妖刀伝承書をストレージから出し、皆に見した。
「本当だ。湖の道の手がかりが書かれている。しかし、急になんで浮かび上がったんだ。
昨日まで、何にも変化がなかったのに。」
晃介は恭介に聞くが恭介も説明がつかなかった。
「恭介、こないだこの妖刀伝承書が予言する時、奏ちゃんが関係してるって、
言ってたよな。お前、まさか、奏ちゃんに変なことしてないだろうな。」
晃介がまた鋭い突っ込みを入れるが。恭介は平然と首を横に振った。
しかし、奏はあからさまに、顔を隠した。
『あっ、何かしていたんだ。恭介は上手く隠したけど、奏ちゃん分かりやすい。』
そこの誰もがそう思った。
「とりあえず、手がかりになるのは、『川のせせらぎが導く先。』という言葉だ。
川は、山頂付近だと、この二つだけだ。そして『特徴的な花が咲く場所』だな。
これは、さっきここの住人に聞いたのだが、こちらの川の近くに、なんでも
年中枯れることの無い花畑があるそうだ。だから、今日はこっちの川の方へ
行ってみよう。」
優悟は最近見られなかった、冷静な分析で目標を決めた。
『やっぱり、サル化じゃない優先輩は頼りになる。』
そう、修輔は思いながら、朱里の手を引っ張って、歩き出した。
「今日こそは、絶対にみつけてやるからなぁ。」
修輔と朱里は笑顔で歩き出していった。
修輔達は、険しい山道を通り、木々の囲まれた不自然に咲いている花畑を見つける。
咲いてる花は太陽の光を浴びずとも、青々とその花びらを広げている。
「ここか、特徴的な花が咲く場所っていうのは。確かに不思議な花だ。
太陽が振り込まないのに、元気よく咲いている。」
優悟が花の花弁を持って、監察している。
「優悟先輩、警戒しなくても大丈夫です。」
修輔が優悟に微笑んだ。
「なぜそう言える、おかしいだろ太陽が無いところに咲く花なんて。」
優悟が言うのを修輔がさえぎって話始めた。
「俺の中にある綾乃さんの細胞がそう言っているように感じる。
この花は大丈夫だよって。」
優悟は優しい表情で花を一輪、自分の胸に当てた。
すると、いままで木で覆われて日影だった所に太陽が差し込んできた。
一面の花畑が、眩しい太陽の光で七色に輝き出す。
「これは。」
先ほどの薄暗かった場所が嘘のように、太陽の光でいっぱいに照らされて、
まるで、虹の絨毯の上に立っているようだった。
「なにこれ、とても綺麗。こんなの生まれて初めて見る。」
つぐみがそう言うと、朱里も奏も頷き、七色の花を積み出す。
「ねぇ、少し早いけどここでお昼にしない。」
「まだ、目的地についてないんだ。こんなところでモタモタ出来るか。
先を急ごうとする晃介は言ったが、時間は11時過ぎていた。
つぐみも、奏も、朱里も花畑に座り、花を積み出して、花飾りを作り出していた。
「仕方がない、どのみちどっかで休憩は取らないといけなかったし、
それに、こんな良い景色で食べる弁当は絶対うまいと思うよ。」
恭介は、ホテルで用意してくれた、弁当をストレージから取り出した。
修輔と朱里は恭介の言った言葉に、なぜか心が安らいでいた。
それは、まるで修輔と朱里の中に流れる、丈太郎と彩乃の血が微笑んでいたような、
感じだった。
「みんな、見てみて、じゃーん。上手く出来ているでしょう。
奏ちゃんと朱里ちゃん、と私が作ったんだよ。」
つぐみの手には、七色の花で作った綺麗は花飾り3つを持っていた。
「いいんじゃないか。折角作ったんだから土産の持っていったら・・・。」
優悟がつぐみに言いかけた時、優悟はつぐみに頼みごとをした。
「つぐみ、それをもう一つ作ってくれないか。」
優悟はつぐみに真剣な顔で言ってきた。
「作ることは良いけど、どうするの。ペアルックで優ちゃんも頭に乗せるの。」
つぐみの言葉に、恭介達は、頭の上に花飾りを乗せる優悟のイメージを浮かべ苦笑した。
「優悟、つぐみはともかくお前が乗せているのを俺はさすがに見たくないぞ。」
晃介は優悟をからかうが、優悟は返した。
「別に俺が欲しくて言ってるんじゃない。今から綾乃さんの所へ行くんんだ。
土産の1つぐらい持って行っても良いんじゃないか。」
優悟がそう言うと、つぐみも、奏も、朱里も優悟に感動する。
「さすがは優ちゃん。そう言うところが私、大好きなんだよぅ。」
つぐみがそう言うと、優悟が照れてしまった。
「そうよ、恭介も見習ってよ。そうしたら・・・。」
奏はなんか、照れてしまった。
恭介もそんな奏をみて、自分まで照れてしまった。
「そうですよ。男のそう言う気づかいが、女を惚れさせるんです。
分かりましたか。修輔兄、晃介さん、これが大事なんです。」
朱里は、修輔と晃介に説教じみたことを言うが、晃介は反論した。
「そんなのはカップルがすることだ。優悟も恭介も修輔もみんなお前らがついているが、
ひとり身の俺にとっては関係ない。」
晃介がふてぶされていると、朱里は晃介の背中のシャツを掴み言った。
「晃介さんは1人でありません。私は修輔兄も大好きですが、晃介さんも同じくらい
大好きです。だから多夫多妻で良いじゃないですか。私を愛してください。」
朱里の冗談とも冗談でないとも言える表情で言い、潤んだ瞳で晃介を見ている。
当然、修輔はプルプルと拳を震わせるが、朱里に言われてしまう。
「修輔兄は、まだまだ、晃介さんより弱いじゃないですか。
私を守るって言うレベルではありませんよ。
それに比べ晃介さんは、私どころか修輔兄まで助けてくれたので、
修輔兄は晃介さんには感謝は言えても、怒るような事何も言えないですよ。
それに、嫉妬はみっともないですから、もっと強くなってください。」
朱里に言われ、項垂れた修輔を見て、恭介たちは微笑んだ。
昼食も終わり、次の行動に移ろうと、雄吾は言った。
「さて、これからどうするか。」
すると、朱里が何かに気づき言った。
「なにか、水の音が聞こえませんか。川が流れているような。」
朱里の言葉に、全員が耳を澄ませる。
確かに、川のせせらぎの音が聞こえている。
修輔達は、聞こえるほうに歩いていくと、目の前には山々を映し出す大きな湖が
景色いっぱいに広がっていた。その湖から町に繋がっているのだろう、川が流れていた。
「ここが、彩乃が眠っている湖なのか。なんというか不思議な感じがする。
何かに守られているような、そして暖かく包まれているような感じがする。」
つぐみが真っ先に思ったことを言った。
「でも、ここの辺りは一昨日来てるはずだが、その時は何もなかったぜ。」
晃介は頭をひねりながら言った。
「確かに、一昨日ここらは探索したよな。」
恭介も不思議そうに話した。
「たぶん、ここは結界に守られていたんだろう。それが、解けたのだと思う。」
優悟は状況を分析そう判断した。
そして、湖を調べる為、優悟は班を3つに分け、優悟とつぐみ、恭介と奏、
修輔と朱里と晃介で湖の探索が始まった。
暫くすると、湖の景色が最も綺麗に見える場所に墓標があった。
優悟は墓標に彫られている文字を読む。
『ここに二人の思い出と共に、綾乃の魂を永遠に眠らせる
綾乃よ、安らかに眠れ。』
と刻まれていた。
「それじゃあ、ここが綾乃さんが眠っている場所なんだ。やっと見つけた。」
つぐみは大喜びをする。
「さて、朱那の証はどこにあるんだ。」
修輔が辺りを見渡すが、それらしきモノは見当たらない。
そして、修輔は湖を覗くが、湖の淵であるが、底が全く見えなかった。
「とても、潜っていけそうもないな。」
修輔達は手を尽くしたが、ここへ来てまた足踏みを踏むことになった。
「あっ、忘れていた。これこれ。」
急につぐみは何かを思い出したかのように、リュックから先ほど作った花飾りを
取り出し、それを墓標にお供えした。
すると、妖槍朱那が輝き出して、それに釣られるように妖刀伝承書が光出した。
恭介は、妖刀伝承書を見ると新しい記述が増えていて、それを読んだ。
そして、修輔にそれを伝えた。
修輔は妖槍朱那で自分の指を少し切り、出た血を墓標に垂らした。
すると、湖周辺が揺れ出し、湖の鏡のような水面が大きく波打ちたつ。
暫くすると、揺れが落ち着き、修輔達は再び墓標を見ると、何とそこに
赤く、光る円形の印が現れた。
印は意思があるように、修輔の手に導かれるように飛んできた。
修輔はそれを受け取った瞬間、妖槍朱那のカギが外されたような音が鳴って
その音が聞こえなくなると、妖槍朱那が物凄い力をオーラと共に開放した。
「修輔兄、これって。」
朱里が修輔に聞くと、修輔も確信したように答えた。
「ああ、妖槍朱那の封印が解けた。」
朱里は修輔に飛びつき、みんながいる前で修輔に口づけした。
つぐみ達は双子達の口づけを見のあたりにして、理屈では知っていた二人の仲を
現実でも知るようになった。
『わぁあ、兄妹でキスしてる。しかも、濃いいのを。これは論理的にいいのか。』
つぐみは二人のキスの前に見てそう思ってしまっていた。
「とりあえず、これで目的は完了したのよね。」
奏も二人のキスで少し戸惑ったが、口に出して答えた。
「それにしても、なんて情熱的なキスなんでしょう。恭介とあれと同じのしたいなぁ。」
奏が心で言おうとしたことを口の出して自爆した。
「はいはい、それはホテルに戻ってから一杯してもらえよ。
恭介、奏姫が熱くとっても濃いキスがご所望だ。答えてやれよ。」
晃介は恭介を揶揄う様に言うと、朱里もつぐみも、みんなが奏と恭介を揶揄う様に笑った。
晃介の目の前に朱里が来て、晃介にとんでもないこと言ってきた。
「晃介さん、ホテル着いた時に私が言ったこと覚えていますか。私は
『晃介さんには本当に申し訳ないです。もし良かったら私達の部屋にご一緒でも、
私は良かったのですが、修輔兄がどうしても3Pはイヤっていうのですいません。
でも、滞在期間が長いので、修輔兄に飽きたら、私が行くので待ってて下さい。』
って、言いましたよね。でも、今日で泊るのが最後になってしまうので、今日は
晃介さんの部屋に行きますね。ではその前に、晃介さんの唇を頂きます。」
朱里はそう言って、晃介の唇に、自分の唇を当てようとした瞬間、晃介は朱里を抱えて
横に飛んだ。
その時、朱里の幼い胸に晃介の手がしっかりと掴まれて朱里は思った。
『晃介さんも意外と積極的ですね。私今日の夜待てないかもしれませんね。』
でも朱里の思いとは裏腹に、晃介が誰かに叫んだ。
「なんで、ここにいる城之内虎丸。」
晃介の睨むその先に、片腕を失くした虎丸が武装して不気味に笑みをこぼした。
「山の上が急に揺れ出したので、来てみれば、こんなところにいたのか、霞晃介。
俺は貴様をずっと探していたんだ。貴様に潰された利き腕の借りを返すために。
貴様の命で償ってくれるわ。死ね。」
虎丸が晃介と朱里に襲い掛かってきたが、一撃を外した所で朱里の存在に気づいた。
「そこの女は、あの時一緒に俺の腕を浮き飛ばした時居やがった女ではないか。
お前にも一緒に死んでもらう。」
虎丸は、晃介と共に朱里も攻撃の対象にした。
突然の襲撃に、恭介も修輔も初動が遅れてしまい、つぐみ達を避難させる事にした。
虎丸が現れた時に、一緒に召喚されたバケモノ達が恭介達に襲ってくる。
「このままでは、晃介先輩と朱里が危ない。」
修輔はバケモノを斬っていくが、バケモノに囲まれて、晃介と朱里との距離が徐々に
放されていく。
晃介は右手に朱里を抱えていて、妖刀三日月をを出せていない。
虎丸の攻撃をかわすので一杯だった。
虎丸は、反撃してこない晃介に言った。
「なぜ、反撃してこない。その女を放したら抜けるではないか。早く放せよ。」
晃介はここでは降ろせないことが分かっていた。
もしここで朱里を放してしまったら、間違いなく朱里が真っ先に狙われることを。
だからもう少し朱里が隠せる所まで晃介は逃げていた。
だが、晃介は急に動きを止めた。それは、崖に追い詰められたからだった。
仕方がなく朱里を降ろし、妖刀三日月を抜いて右手一本で構える。
それは、晃介は修輔の真剣勝負の時、左肩を負傷していたので完治していない以上上手く
動かせなかったからだ。
「やっと本気になってくれたか。だが、その女と共に死ねや。」
虎丸の重い斬撃が晃介を襲う。しかし、本来の力が発揮できないので、
その重い攻撃に、晃介は体制を崩した。そして朱里が無防備になった所を虎丸が狙う。
「朱里りぃぃぃ。」
晃介は左腕を伸ばし、朱里を跳ね飛ばした時、虎丸の斬撃が晃介の左腕を斬り飛ばした。
朱里の目の前に斬られた左腕が転がってきた。
「いやぁぁぁぁぁ。」
朱里は晃介の左腕を持って、晃介の側に近づいてくる。
晃介は痛みをこらえながら、朱里を抱えて、崖に向かって飛び降りた。
「逃げるなぁ。こんな形で決着ついたとは俺は思わん。絶対探し出してやる。
それが例え死体だったとしても、八つ裂きにしてやるぞ。」
虎丸はその光景に吠えた。
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