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第15章 つかの間の休息と激戦の女子トーナメント
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全国大会リーグ戦を勝ち抜いて、本戦に進めた旭日中学は本番までの間、団体合宿を終え自宅へと戻った。
「おめでとう。聖奈ちゃん。恭弥。これで夢に一歩前進だね。」
そう二人を迎えたのは奏だった。
「奏ママありがとう。」
聖奈はそう言うと、奏はニッコリしながら、二人を見て言った。
「今のうちに、お風呂入ってらっしゃい。その間に夕食準備するわ。」
奏はそう言うと、恭弥は周りを見て、奏の他がいないことに気づく。
「聖歌母さんや聖夜兄さんたちは?」
恭弥が聞くと、奏は寂しそうに答えた。
「聖歌ちゃんはクワトロクロスの海外ツアー。聖夜と恭歌は昨日からジャックウェーブ
のライブで明後日まで東京。朝陽は今日、明日と大学受験の為の塾合宿。
凪沙は今日から陸上のインターハイで鳥取に遠征。
あなた達が帰ってこなければ、私寂しく1人だったのよ。
でも良かった。帰ってきてくれて。いつまでここにいるの?」
奏は放し始めた時は曇りがちの表情だったが、聖奈と恭弥が帰ってきた事で明るくなった。
「とりあえずは、当分はここから学校に通うよ。」
恭弥がそう言うと、奏は笑顔で台所に入っていった。
「聖奈、先に風呂入りなよ。俺は後からでいいから。」
恭弥と聖奈は自分たちの部屋の前で恭弥が聖奈に言ってきた。
「そうね、じゃあ先に・・・。」
聖奈はそう言いかけたが、恭弥の汗だくになっている姿を見て、顔を染めながら提案した。
「もし、嫌でなかったら、恭弥も一緒に入る?だって、今日私を独占するんでしょう?」
聖奈から思いもよらない言葉が飛び出して来たので、恭弥が一瞬躊躇った。
聖奈は返事がない恭弥に、プッイと顔を逸らして少しご機嫌が悪くなった。
「恭弥は私と一緒に入るの嫌なんだ。だったら、1人で・・・。」
聖奈がそう言って洗濯物と着替えを持ち風呂場に歩き始めると、恭弥は聖奈を後から抱きしめて耳元で囁いた。
「それはダメ。今日聖奈は俺の物だ。ちょっと待ってて準備する。」
そう言って部屋に荷物を置くと、洗濯物と着替えを持って聖奈と、風呂へ向かった。
「さっきは、なんで答えなかったの?」
聖奈はそう聞くと、恭弥は答えた。
「まさか、聖奈から誘ってくるなんて思わなかったから。
聖奈はそれだけ俺に飢えていたの?」
恭弥は冗談でそう言うと、聖奈はこう答えた。
「だって、ずっと試合続きで、恭弥とこうしてのんびりと一緒にいられなかっただもん。」
聖奈は脱衣室でそう言うと、目の前でスタイル抜群の聖奈を見て、我慢できる男なんていない。恭弥は聖奈の後から思いっきり抱きしめた。
「まだ、汚いよ。洗ってから。」
聖奈はそう言うと、恭弥に口づけして、二人で仲良く風呂に入っていった
お互いに身体を洗うが、恭弥も聖奈に触れていると理性の欠片は残らなかった。
二人が風呂に入って1時間が経過すると、料理を作り終えた奏がこう言った。
「二人とも、いつまで入っているの?出てきなさい。もう夕食で来ているわよ。」
奏の声に驚くと、慌てて出てきた。
「母さん、なんで聖奈と入っているのが分かったんだ。」
恭弥が下着を慌てて履きながら、聖奈に言った。
「分かんない。恭弥、急いで。」
聖奈も身体を拭き、下着をつけようとした時、恭弥が聖奈の果実を見て、思わず果実に顔を埋まらせた。
「ちょっと、恭弥?ダメだって。奏ママにバレるって。」
聖奈は恭弥を放そうとするが、恭弥は離れない。
「こんなの滅多に出来ないから。あともう少し堪能させて。」
恭弥は顔を揺さぶりながら、聖奈の柔らかい果実を顔全体に味わっている。
「こらっ。やめなさい。」
聖奈はそう言うが、恭弥はさらに自分の唇で聖奈の果実に当てるのであった。
奏が声をかけてから、30分が経過した。二人がテーブルにつくと、奏は二人を見て溜息をついた。
「あんたたちが仲いいのは分かった。でもね、ご飯が覚めちゃったじゃないの。
もう、また温め直さないといけないじゃない。呼ばれたらすぐに来る。いいわね。」
奏はそう言うと、冷え切った料理を温めるためレンジを回した。
「でも、あんたたち、ちゃんとつけるものはつけなさいよ。
まだ、〇学生なんだから。」
奏にそう言われて、二人は全て筒抜けだったと自覚した。
「あの奏ママ、これは・・・。」
気まずそうに聖奈は言いかけたが、奏はこう返した。
「聖奈ちゃんは本当にいいの?恭弥が相手で。もっといい男、世界にごろごろいるよ。
恭弥は頭は並みより下だし、剣術バカだから聖奈ちゃんは苦労するわよ。」
奏は聖奈に向かってそう言うと、聖奈はキッとした表情で奏に言った。
「私は恭弥以外ありえないの。前は異母姉弟だから気持ちを抑えていたけど、
月華ちゃんの件で私分かったの。心が壊れそうなぐらい嫌だって。
恭弥を渡したくないって。それが私の今の気持ちなんです。」
聖奈がそう言うと、恭弥もこう言った。
「俺はずっと聖奈の事が好きだよ。昔から今でも。」
恭弥がそう言うと、聖奈は微笑んで恭弥の手を取った。
「そう、そこまで思いあっているなら、私はもう何も言わない。
あなた達の好きにしなさい。私もあなた達を応援してあげる。
母親がそう言うのもなんだけど、二人は愛し合っているからね。
それにいざとなれば、奥の手があるしね。」
奏は意味ありげな言い方をしたが、聖奈も恭弥もその意味がわからなかった。
「でも、当分の間は中学生の付き合い方にしなさい。あなた達は度が超えています。」
奏は二人に苦言すると、温め直した料理を二人に出した。
「ごちそうさまでした。」
二人そろってそう言うと、奏は食べ終わった皿を片づけようとした。
「奏ママ、私がやるよ。だって、奏ママ、だいぶお腹が大きくなってきてるから。」
聖奈はそう言うと、奏は微笑みながら、手伝ってもらう。
「ありがとうね、聖奈ちゃん。最近少し身体の疲れが抜けなくて、助かるわ。
それにしても、聖奈ちゃんはこうして手伝ってくれるのに、
実の息子の恭弥はなにも手伝わないのはどういう事。」
奏は恭弥に向かって、睨んでいる。
「俺は、宿題あるから部屋に戻ろっかな。」
恭弥がそう言って、立ち上がら狼とした時、聖奈が恭弥に言った。
「今、剣術部は宿題なんて免除されているから、出てないわよね。」
聖奈がそう言うと、奏の顔はますます険しくなってくる。
「こら、恭弥、嘘ついたな。聖奈ちゃんありがとうね。今から恭弥を説教するわ。」
奏が恭弥に近づいて、手を上げた時、慌てて奏を止めた。
「奏ママ、落ち着いて。恭弥も何やっているの?早く謝りなさい。」
聖奈は必死で奏を止めている。すると、奏は再度聖奈に聞いた。
「聖奈ちゃん、本当に恭弥でいいの?苦労するよ。」
奏がそう言うと、聖奈はこう答えた。
「私は恭弥が良いんです。恭弥は私を庇ってくれる。守ってくれる。
こないだだって、応援席から私に向かって嫌な言葉を言われて、恭弥私の代わりに
怒ってくれたです。そんな優しい恭弥が良いんです。」
聖奈はそう言うと、奏は聖奈にこう言った。
「でも恭弥はあの恭介の血を引いている息子よ。
恭介の血は女を狂わすフェロモンを分密するんだから。
恭弥は無意識でもどんどんと近寄ってくるわ。
恭介は旧石器時代の恋愛しかしてこなかったから無視できたけど、恭弥は・・・。」
聖奈は奏の話を聞いて、恭弥の顔を見た聖奈はこれまで恭弥の側にいた月華や咲、茜、その他恭弥と対戦した女性が恭弥に対してなんで好意をすぐに持つのか理解した。
分かってしまった。聖奈はそれが恭弥の女への興味から出ている事が原因だという事実を。
「恭弥、もしかして私以外の女性をそんな目で見ていたのね。」
聖奈はそう言うと、恭弥は聖奈に色々な言い訳をしていくが、聖奈は追い込んでいった。
「もう、少しは自重してよ。もし今度、新しい子が寄って来たらどうなるか分かるよね。」
聖奈の目が物凄く訴えてきた。
「分かりました。もうこれ以上はしません。許してください。」
恭弥がそう言うと、奏は笑ってこう言った。
「はい、言質取りました。これで恭弥は聖奈ちゃん以外は受付禁止です。」
奏がそう言うと、聖奈もニッコリして奏の手を取って、飛び跳ねた。
すると、リビングの入口で声がした。
「なんの言質を取ったって?」
そう言ったのは、2ヵ月ぶりに我が家に帰ってきた恭介だった。
「おかえりなさいパパ。」
聖奈はそう言って、恭介に抱きついた。それを見た恭弥は不機嫌になった。
聖奈の無邪気な笑顔が自分以外に向けられるのがとても嫌だったからだ。
「おかえりなさい。もう、恭介はいつも急に帰ってくるから。
連絡ぐらい寄こしなさいよ。」
奏はそう言って、恭介にキスをした。
「おお、奏ママ大胆。」
聖奈は目の前で熱い口づけをする恭介と奏を見てそう言った。
「聖奈ちゃんもさっき抱きついて行ったでしょ。恭介が出すフェロモンが原因なの。
だから、私がキスをすることでそのフェロモンをうち消すのよ。」
奏はそう言うと、聖奈は納得するように首を縦に振った。
「なるほど、だったら、私も恭弥にキスすれば恭弥は他の女にフェロモンを
出すことが止まるのね。」
そう言うと、奏は首を振った。
「ちょっと違うかな。私は神から選ばれた恭介のパートナーだからよ。
私と恭介以外はできないの。」
奏はそう言うと、聖奈はガッカリした。落ち込む聖奈を見て、恭弥は聖奈に言う。
「俺が心から愛しているのは、聖奈だけだ。だから、俺はこのフェロモンを何とかする。
だから、安心して。」
恭弥はそう聖奈の手を取っておでこを合わせた。
「信じて良いんだよね。信じるよ恭弥を。」
こうしたやり取りを目の前で見ていた恭介は、聖奈と恭弥に言った。
「俺はまだ認めていないぞ。離れなさい。お前たちは姉弟なんだから。
付き合うことは、断じて認めない。」
恭介はそう言うと、奏に耳を引っ張られる。
「恭介はまだそんなこと言っているの?
もうこの二人を止めることなんて誰も出来ないわ。
それにこれは遺伝だから。恭弥が聖奈ちゃんを好きなのは、
恭介が聖歌が好きなってことと同じなの。」
奏がそう言うと、恭介は奏に言う。
「なんで聖歌がここで出てくる。それに違うだろ。恭弥と聖奈は半分とはいえ、
血が繋がっているんだぞ。仮に結婚できても子供は出来ないぞ。」
恭介はそう言うと、奏は笑って言った。
「元、神候補の恭介がそれを言うの?大丈夫よ。既にカルスに二人の事は言ってあるわ。
カルスも承諾している。私は二人の気持ちが本当かどうか確認する必要があったから、
始めは否定的だったけど、今さら二人をどうこうとは言わないわよ。
それに恭介、さっきキスした時、別の女の匂いがしたんだけど。
それで今日はどうだったの?帰ってきた時にまず報告する義務だったわよね。
ハッキリと言いなさい。」
奏はそう言って、恭介に言い寄る。そしてそれと同時に恭弥達に向かって、手を振った。
『ここは私が何とか行くから、部屋に戻ってなさい。』
奏は心で恭弥達にそう訴えていた。聖奈は奏の意思を汲み取り、恭弥を連れて部屋に戻ろうと、リビングから出ていく。
「待ちなさい聖奈、恭弥。まだ話は終わってないぞ。」
恭介は二人を呼び止めようとするが奏がさせない。
「恭介、答えなさい。何人から迫われたの?」
奏の厳しい口調に、恭介は仕方がなく答えた。
「6人です。でも、俺は何もしてないぞ。俺は奏と聖歌だけだ。それ以外とはしない。」
恭介はそう答えると、奏は呆れかえって恭介に言った。
「それは分かってる。だけど、言い寄られたことが気に食わないの。
だから、恭介は夕飯は抜きね。だって、連絡無しで帰ってくるから材料がないのよ。
でも、これはあげられるから。」
奏はそう言って、恭介の唇を奪った。
「おい、奏、子供たちが見られるぞ。」
恭介は奏を放そうとするが、奏はこう言った。
「少しお腹出てきたけど、私の身体に興味なくなった?」
奏は恭介にそう言って迫っていった。
「いや、奏の嫌なところなんてないよ。」
恭介はそう言って、風呂場に奏を連れて、二人は消えていった。
一方、聖奈と恭弥は、下の様子を伺いながら恭介と奏の声が風呂場に消えていくまで、階段の所で潜んでいた。
「奏ママとパパはいつもラブラブだよね。ママがいないのもあるけど、
あのラブラブぶりにはこっちまで照れてきちゃうよ。」
聖奈は恭介と奏の行動を見ながら、恭弥にそう言った。
「聖歌母さんがいないときは、すぐ母さんとイチャつくから、あれでも親かと思うよ。
二人とも気持ちは高校生の時のままだな。」
恭弥は呆れた表情をした。でも聖奈はこう返した。
「でも、そこが良いじゃないの。気持ちを忘れないってところが。
私も恭弥とこの先ずっとそういう気持ちでいたいよ。」
聖奈がそう言うと、恭弥が聖奈の身体を自分の方に引き寄せた。
「ちょっと何。急にこんなことして。」
聖奈が恭弥に少し怪訝したように言うと、恭弥は聖奈の唇を奪い、激しくキスをした。
そして、聖奈が放心状態になってくると、聖奈の身体を自由にした。
「ほら、聖奈はすぐ敏感になる。」
恭弥が聖奈の身体に触れるたびに、聖奈はビクンと身体を震わせて、恭弥に身体を預けるようにぐったりとする。
「ちょっと、待って。待って。今敏感なの。それ以上触らないで。」
聖奈は恭弥に待ったを掛けたが、恭弥はやめるどころかさらに過激になり、聖奈をベットに押し倒した。
「もう、強引なんだから。」
聖奈は少し頬を膨らますが、それでも嫌な気にはならなかった。むしろ、この時間を大切にしようと、自分から恭弥にしがみついていった。
「ほらな、聖奈はこういうことされるのが好きなんだよ。嫌だった止めてもいいぜ。」
恭弥が意地悪く聖奈に言うと、さらに甘えたように聖奈が言った。
「ダメ。もっとイタズラして欲しい。今日は私を独占するんでしょう。
だったら、続けて。私を離さないで。」
聖奈はそう言うと、恭弥は聖奈の声が外に漏れないように、部屋の防音性上げるため、リモコンで防音機能を上げた。そして、ドア付近でも中の音が聞こえないように完全防音にしてから、その日の晩、恭弥は聖奈と楽しむのであった。
翌朝、太陽の光が部屋に差し込むと、聖奈は目を覚ました。季節は9月中旬、裸では少し肌寒くなってきていたので、リモコンでエアコンをつけると恭弥の方を見た。
横ですやすやと寝ている恭弥の寝顔を見て、聖奈は微笑み、人差し指で恭弥のほっぺを突きながらこう言った。
「寝坊助さん、朝だぞ。起きないとイタズラするぞ。」
聖奈はそう言って、恭弥のモノを優しく掴んだ。すると恭弥は寝ぼけながら、聖奈の胸の谷間に顔を埋め、その柔らかさを堪能し始めた。
「恭弥、こっちはもう起きてるぞ。どうして欲しい?このままほっとこうか?」
聖奈がそう言うと、恭弥の顔はいやいやと谷間で顔を振る。
「嫌か。そうか、そうか。じゃあ、どうしたい。自分でする?」
そう言うと、また顔を横に振った。
「私がするの?そうだったら、首を2回振って。」
すると、恭弥は素直に2回、縦に振った。
「やっぱり、恭弥、起きてるじゃん。じゃあ、どうすればいいの?
ちゃんと、話して。」
聖奈は恭弥に言うと、恭弥はこう答えた。
「聖奈と一緒にいたい。」
恭弥は柔らかい胸の谷間から顔を堪能するように出すと、そう言った。
「そうか、私もそう思っていた。じゃあ。」
聖奈がそう言いかけて恭弥のモノを離して、急に笑い出した。
「残念でした。もう時間ありません。この続きは今日帰ってからですぅ。」
聖奈はそう言って、ベットから降りた。布団から出るとやっと効き始めた絵案だが、やはり裸では肌寒い。慌てて布団に包まる聖奈に恭弥は歯止めが抑えることが出来なく、そして、聖奈に襲い掛かった。
「時間。遅刻しちゃう。」
聖奈はそう言いながらも、恭弥を受け入れていた。
「なんだ、まだ時間余裕あるじゃん。」
すっきりした恭弥は午前7時を表示している時計を見て、ベットで嬉しそうに横たわっている聖奈にそう言った。
「だって、恭弥あのままだと、ぎりぎりまで寝てるもん。楽しめないじゃん。」
聖奈は火照った顔を上げて、嬉しそうに言った。
そして、二人は自然にキスをして、朝の準備を始めたのだった。
二人が手を繋ぎリビングへ行くと、奏は弁当を作っており、恭介は新聞を読みながら朝食を食べていた。
「パパ、奏ママ、おはよう。」
聖奈が挨拶すると、恭介は新聞に少し持ち上げて、奏は作りながらも二人に挨拶を返した。
「おはよう。聖奈、恭弥。昨日はよく眠れたか?」
恭弥は恭介と奏の様子がいつもと違うのですぐに気が付き、笑いながら答えた。
「それはそれは、ぐっすりと寝れたよ。父さん達は…そうでもなかったみたいだね。」
恭弥言葉に恭介は飲みかけたコーヒーを拭きこぼし、奏は手元の胡椒を落としてしまう。
それを見た聖奈も納得して、両親の顔をマジマジに見て言った。
「本当にパパと奏ママ、仲いいよね。羨ましいよ。憧れるな。
私も恭弥とそうな風にお互い思い合えるようになれるかな?」
聖奈は感心しながら言い、恭弥の顔を見ると、恭弥は肩をすくめながら微笑んだ。
「流石にここまで父さん達のように堂々とは出来ないかも。それよりも父さん、
母さんをもう少し労わってやりなよ。母さんの声が丸聞こえだって。
甘い子守歌みたいな声だったけどさ。」
恭弥の冗談は、恭介も奏も無口になり一瞬動きを止めた。
「ちょっと、恭弥ウソつかないで、奏ママの声全然聞こえてなかったじゃない。」
聖奈がそう言うと、恭介はホッとした様にコーヒーを飲み、奏は淡々再び手を動かし始めた。二人を見ながら恭弥は微笑みこう言った。
「こうやって、父さんの焦る所を見るのが面白いんじゃないか。
ほら、母さんだって耳まで真っ赤じゃん。このラブラブ夫婦は揶揄いやすいよ。」
恭弥はそう言うと聖奈は呆れながらも恭介と奏を見て、思わず笑ってしまった。
「はっ、はっ、そうよね、ラブラブぶりが仲良く続けられる秘訣だよね。」
聖奈は照れ隠ししている恭介と奏の二人を見て微笑んだ。
微笑ましい笑い声と共に、新しい朝が穏やかに始まったのだった。
聖奈と恭弥は仲良く登校していると、前で深刻にそうにしている3年の佐竹と馬城が、タブレットを見て、何やら考えたり、話し合ったりしていた。
「佐竹先輩、馬城先輩おはようございます。」
聖奈と恭弥が挨拶すると、3年生たちは振り向いた。
「ああ、綾野姉弟か。おはよう。こないだの試合良かったぞ。
これで全国制覇にまた一歩近づいたな。」
そうやって言ってきたのは佐竹だった。
「そうそう、お前たちがいなかったら、夢のままで終わってたからな。よくやった。」
続けて、馬城がまるで自分たちもメンバーして一緒にやったかのように喜んでくれた。
そう言われて、恭弥も聖奈もとても嬉しかった。でも、佐竹も馬城が出場した個人戦は地区で敗退していたので、事実上、引退した身であった。それでもこうやって喜んでくれることに、恭弥も聖奈もさらに元気をもらえる気がしたのだった。
「それで、先輩たちは何を真剣に話していたのですか?」
恭弥が二人に聞くと、二人はこう答えた。
「いやな、次のトーナメントの対戦で当たるであろう学校の調査を
昨日までしてきたのだが、トーナメントはさらに厳しい戦いが予想されるから、
同対策をしようか考えていたんだが、あまりにもレベルが高すぎて、
不安しかないんだ。」
佐竹はそう言って、ぎっしりと書かれた資料を恭弥達に見せてきた。
その内容はとても短期間で調べたとは思えないぐらい、細かい詳細が書き込まれていた。
「先輩、これどうしたんですか?
こんなに細かく…とても相手の特徴が見やすくて、分かりやすいです。」
聖奈がその資料を見て感動した。
「これは、俺達や、金山の引退組が手分けして、この総当たりブロックの全試合を
見て回っていたんだ。もちろんお前たちの試合も応援していたが、
試合が被った時は1人だけ交代で抜けてな。
でもその甲斐があって、総当たり予選の勝ち上がったチームのデータが揃った。」
今度は馬城がそう言って、恭弥の肩に手を置き、さらに言った。
「今度は予選の時みたいに出遅れたりしない。
作戦をちゃんと練って、戦えるように調べてきたつもりだ。」
データを見る限り、みんなが時間をかけ、丁寧に調べたのだけは物凄く伝わってきた。
「先輩、ありがとうございます。」
聖奈は二人の先輩に頭を下げた。恭弥も聖奈に釣られながらも先輩たちに感謝した。
「俺たちはチームで勝ちに行くんだろ?礼なんかより結果を出してくれたら良い。
それだけお前たちに期待しているんだ。頑張ってくれ。」
佐竹がそう言うと、恭弥も聖奈も力強く返事をした。
「必ず優勝します。そして一緒にその優勝を味わいましょう。先輩。」
恭弥はそう言って、引退組の3年生との絆をさらに深めていくのであった。
朝のホームルーム前、恭弥は茜と一緒に日直当番をしていた時、女子のクラスメートが恭弥の周りに集まり話しかけてきた。
「おはよう。凄いね。綾野君、全国出場だよ。」
「ホント、本当。私は綾野君なら絶対やると思ってたもん。」
「綾野君はどんな子が好みなの?例えば芸能人とか。」
「綾野君って、確か2年の姫柊先輩とは破局したんだよね。
だったら、私、彼女として立候補いい?」
恭弥の周りはそんな女子でごった返していた。
恭弥だけでなく、月詠にも別の女子が、月華も茜でさえ普通にイケメン面の男子が寄ってくる。
「高坂さん、今日の部活の終わりにお茶でも飲みに行かないか?
これからの僕たちの付き合い方を語ろうではないか?」
月華が最も嫌がる男が月華に言い寄ってくると、月華は不機嫌そうに無視をした。
「照れているんだね。可愛いなぁ。高坂さん、いや月華さん俺と付き合った方が
見栄えも、お金も持っているよ。」
無視し続ける月華をよそにエスカレートしていくので、遂に月華が吠えた。
「あの、あの、私は迷惑なのよ。あんたみたいなしつこいヤツはうんざりなの。
私に付きまとわないでくれる。それに、私にはもう恋人がいるの。
あんたなんて問題外。分かったなら消えて。」
月華はそういうと、月詠の方に視線を向ける。月詠もしつこい相手にタジタジになっていた。
『これだから男ってやつは。もう。』
月華は月詠の態度に見かねて、物凄い形相で月詠の周りにいた女どもに言い放った。
「月詠は私の恋人。ちょっかい出さないでくれる。」
月華がそう言うと、周りにいた女子とさっきまで月華を口説いていた男子が揃って、月華に言った。
「うそうそ、嘘はついてはいけませんね。マイ・ハニー。
君たちはれっきとした兄妹だ。血の繋がった兄妹は結婚が出来ないだよ。
マイ・ハニー。」
「そうよ、兄妹愛は素晴らしいけど、男女の間に入れないのよ。
それよりも、月詠君、私、月詠君のして欲しい事だったら、何でもするよ。
私、月詠君だったら何されてもいいからさぁ、私と付き合って。」
そう言って月詠君の腕に胸を押し付けて来る女子に対して、月詠は急に立ち上がり、月華の唇を奪った。いきなりの行動に周りはざわめく。
「分かったか?俺たちはこういう関係だ。俺の月華に馴れ馴れしんだよ。お前は。」
月詠は月華にちょっかいを出していた男性生徒に向かって言い放った。
「こんな所で不謹慎だ。場をわきまえろ。」
男子生徒はそう言ったが、月詠も黙ってはいなかった。
「お前に言われたく無えよ。散々おれの月華にちょっかい出しておいて、どの口が言う?」
月詠は気障な男子生徒の胸ぐらを掴むと、殴ろうとしたが、騒ぎを聞きつけた恭弥に抱えられてた。
「月詠、何やっている?お前が手を出したら、出場停止になるぞ。」
恭弥の言葉に、月詠は動きを止めた。恭弥は気障な男子生徒に向かって、話し始めた。
「月詠と月華は代々受け継がれている血の契約によって、結ばれている相思相愛の
許嫁だ。高木の入る隙なんてどこにもない。
高木はその掟を破ってまで月華とつきたいなら、その掟に抗う試練を受ける
覚悟はあるんだろうな?たぶん高木が思っている軟な試練ではないぞ。
命を掛けるぐらいのな。」
恭弥の迫力のある表情で言われ、高木は思わず後へ、へなへなと下がり、しまいには尻もちしてしまった。月華は高木を見てこういった。
「へなちょこ。私を口説くなら、命の10や20いるってことだよ。ばーか。」
月華までそう言われ、気障な高木は身体を震わせた。
「恭弥、済まなかった。頭に血が上った。月華も悪い。」
月詠は恭弥と月華に謝ると、月華はこう言った。
「私の為に怒ってくれてありがとう。好きだよ月詠。」
そう言って、月華の方から口づけした。
月華と月詠を見て、さっきまでわめいていた他の生徒も、唖然としていた。恭弥は二人を見て呆れていた。
「そう言う事は、二人だけでやってくれるか。健全なクラスメートが引いているぞ。」
恭弥がそう言うと、月華が言い返して来た。
「恭弥だって、人の事は言えないじゃないの?聖奈さんと咲さん、それに茜を
滑らかせてハーレム化って、この女たらしに言われても怖くありませんよ~だ。」
月華はあかんべーをしながら、月詠に抱きつきながらそう返した。
すると、クラスメイトの女子からは黄色い悲鳴のようなものがクラス上に響いた。
「そんな、狙っていたのに。姫柊先輩とは分かれたんじゃないの~。」
「うそ、うそ、うそ。嘘だって言ってよ。それに綾野君までお姉さんとなんて。
嘘よ~。」
「茜、どういうこと。あれほど抜け駆けはなしって言ってたじゃない。
裏切者。私の綾野君を返してよ。」
クラスの女子からは悲鳴のような声が、男子からはガッカリとした声が教室を埋め尽くした。恭弥と茜はどうしたらクラスが穏便に収まるのか、見当もつかなかった。
すると、教室に担任教師の宮崎可憐が入ってきて、この騒動を収めようと、事情聴取を始めた。話を聞いていくと可憐の表情が曇っていく。そしてこう言葉を出した。
「えぇ~? 綾野君がハーレムを作ってる?それも美女ばかり。
私は断固拒否します。綾野君、不潔よ。だって、だって、私、入学当初からずっと
綾野君を狙っていたのに。ファン会員番号だってシルバーの2番よ。」
可憐がシルバープレートに恭弥の顔写真をつけたファンカードをかざしてきた。
恭弥や月詠、月華や茜もそれを見て驚く。でもそれだけではなかった。
クラスの恭弥を思う女子生徒全てがその紙のファンカードを持っており、カードにはシリアルナンバーまで刻印されていた。他の女子生徒が持っているカードよりもランクの上のシルバープレート式カード、しかも番号が2番と表記されているものを持っている可憐は他の女子よりも上の立場だったことに恭弥達は驚愕した。
恭弥の知らないところでそんなプレートとカードが出回っていたことに恭弥は驚いて、こう言った。
「いやいやいや、何勝手に作っているんですか?一体誰がこんなものを?」
恭弥が担任の可憐に聞くと、恭弥の熱狂的なファンが自ら考案して作ったという。
シリアルナンバーの一桁はそれだけ恭弥に狂粋していることになる。
結局、ホームルーム時間だけでは話題が収まらず、そのまま可憐が受け持つ1時間目の英語の授業を急遽自習にして、とことん話し合うことになった。
でも、この事が教頭にばれて、可憐は放課後、校長室へ呼ばれることになったという。
その日の放課後。部室に入ると咲は今朝、佐竹と馬城が調査したデータに目を通していた。
聖奈もその隣で、自分が対戦するかもしれない選手のデータを見て、その特徴や癖、自分がどやったら有利に立てるかを検証していた。そして、なにより、今日から旭日中学剣術部主将氷堂凍夜が2ヵ月ぶりに復帰する。部員もソワソワしながら凍夜の胴着の姿を楽しみにしていた。そして、部活動の時間になり、全員が練習場に移動すると、練習場の中央に凍夜がみんなを待っていた。
「長い間、留守にして済まなかった。この通り、怪我は完治した。
今日より藤堂凍夜は部活に参加する。また、短い期間だが頼む。」
凍夜はそう言って、深々とお辞儀をした。
「みんな首を長くして待っていたぞ、凍夜。
主将代わりの仕事はもう懲り懲りだ。後はお前が好きな様にやれ。
俺は引退の身。そろそろ、お暇させてもらうぞ。」
副主将の日室は肩を揉みながら、昨夜にタッチして練習場を去ろうとした。
個人戦の敗戦後団体のレギュラーを除く3年生は高校受験を控え、それぞれが勉学に集中している。その中で、副主将の日室は主将の凍夜の代わりにずっとベンチ入りし、団体の指揮を取っていた。そして、凍夜の復帰することにより、その任が解け、今日晴々、引退したのだった。
「日室副主将、これまで教えて頂き、ありがとうございました。」
下級生を代表して聖奈が、日室にお礼の言葉を掛けた。続くように下級生の全員が同じように頭を下げて、一斉に言った。
「ありがとうございました。日室先輩には大変お世話になリました。」
急に凍夜以外の全員から言われたので、日室は恐縮するばかりだった。
「なんだよ、お前たち、照れるじゃないか。
俺は何もしてないぞ。これまでやってこれたのはお前たちに力があったこそだ。
それにお礼を言うのは、俺の方だ。剣術も強くない弱っちい俺を、
これまで支えてくれてありがとうな。これで部室には来ないが試合には行くから、
頂上取ってこいよ。それに今年レギュラー取れなかった者も、サポートありがとうな。
でも、来年こそレギュラーを取る意気込みは忘れないでくれ。
それじゃあな。」
そう言って、日室は部室を後にした。実力では今のレギュラーに及ばなかった3年生の大半だったが、絆だけは誰よりも大切にする事を今後、恭弥達は引き継ぐのであった。レギュラーの凍夜と影山と補欠の吹田を除く3年はこれで、高校受験へと歩み始めるのであった。そんな中のデータを必死にかき集めてきた佐竹や馬城、金山も貴重な時間を自分たちに与えてくれたことを恭弥達はただ感謝するしかなかった。
凍夜の指揮の元、旭日中学の剣術部が再スタートした。データを元に詳細が細かく記されているので、どの相手が来ても不足することの無いモノを見て、もし負けるとしたら、自分たちの技量のなさと思えるぐらいなデータに、今自分たちがやらなければならないことは、己を磨くことだけだった。
凍夜はみんなを集めて、咲がデータをまとめた結果を報告した。
「まず、データ通りなら、注意しなければならないところが、
昨年の覇者北海道代表吹雪中学。ここはバランスがよく、女子、男子、混合と
どれをとっても安定している。今年も間違いなく、優勝候補だ。
そして、次に昨年の準優勝校、東京A代表神楽坂中等部だ。ここも古豪で吹雪中学と
同じぐらいマークする必要がある。」
凍夜がそれぞれの特徴を解説していき、みんなは真剣に話を聞いていた。
時より、恭弥達が質問を挟みながら、順調よくミーティングは進んでいった。
「以上が今年の強豪チームだ。何か質問はないか?」
凍夜が全員に聞くが、処所で質問をしていたため、この場での質問はなかった。
しか、凍夜は最後にもう二チームの事を話をし始めた。
「最後に俺がデータを見た所で、今年のダークホースになるんじゃないか
と思うところが2校ある。一つは長崎代表ノーヴィス・アイシェル学園中等部。
これまでの予選、全てが先鋒から中堅で全ての勝負をつけている。参加選手が、
全て海外選手登録されており、その素性も明らかになっていない。
でも、昨年は出場資格がなかっただけで、正式試合の記録は残っていないが、
その全てにおいても、全勝の記録だけが残されていたそうだ。
そして、もう一つは、京都代表豊葦原瑞籬内学園中等部だ。今年新設したばかりの
チームで選手はすべて1年だけだ。でも、圧倒的な強さで勝ち抜いたみたいだ。
その中でも女子、混合でも大将と副将を任されている宮国朱璃という選手は、
今年始めたばかりだというが、女子の中で今大会ナンバーワンと噂されている。」
凍夜はそう言って、聖奈の方を見た。
「当たれば、私が相手となるんだ。宮国朱璃さんか。」
聖奈は資料を見ながら、気を引き締めた。そして、月華も世代でナンバーワンと言われる逸材に、同学年で昨年までのナンバーワンのプライドにかけ、この先何度も対戦することになることを楽しみにしている。
「誰が同世代ナンバーワンか、ハッキリつけてやります。」
月華も燃え上がっていた。だが凍夜はさらに続きを話始める。
「注目は宮国朱璃だけではない。男子、混合の大将を務める鴇田宗仁にも
気を付けた方が良いな。試合は決まって奥義で決めている。
何でもその場の空間を操りながら、空間ごと何もかも切り裂いているらしい。」
凍夜はそう言って、今度は恭弥の方を見た。その時、みんなが一斉に恭弥と凍夜を見た。
「大将は氷堂主将がやるんじゃないんですか?」
2年の今田がそう言って、凍夜を見た。だが凍夜は首を横に振り、恭弥を見て言った。
「この大会の男子、混合の大将は恭弥に任せる。俺は中堅に回る。」
凍夜の言葉に部員全てが驚き、その真意を凍夜に尋ねた。
「どうして、主将が中堅で、恭弥が大将って、納得いきません。
理由を聞かせてください。」
サポート組の2年生を中心に恭弥も凍夜の方を見た。凍夜は微笑むように答え始めた。
「入学当初はともかく、俺はとっくに恭弥と月詠に追い越されている。
それgあ理由だ。大会前から、そう決めていた。だが、大会前は月詠の調整が遅れる
のではと思い、副将として登録していたが、副将もいずれ月詠に明け渡そうと
していた。実際、力試ししても良いが、不慮の事故は避けたいからこの言葉で
勘弁してくれ。」
凍夜はそう言うと、恭弥と月詠に近づきこう言った。
「それとも、他にこの二人を認めないものはいるか?
俺が納得出来ないなら相手してやるぞ。」
凍夜がそう言うと、2年生たちは黙ってしまった。聖奈も咲もその様子を微笑みながら、
時代のエース候補の二人を見ていた。
こうして、ミーティングは終わり、それぞれが練習に力を入れた。
3日後全国大会の組み合わせ抽選会があり、本当の戦いが幕を降ろされた。
本大会は決勝まで最大で6試合あり、旭日中学はくじ運が良かったのか、女子・男子の団体は2回戦からの出場になった。しかし、先日凍夜から話題となった京都代表豊葦原瑞籬内学園中等部とは、上手くいったら準決勝で当たることとなるが、その前に豊葦原瑞籬内学園中等部は昨年の準優勝校の東京A代表の神楽坂中等部と先に戦うこととなり、前評判では、神楽坂中等部に軍配が上がると予想されていた。ただ、旭日中学の対戦相手も気の抜けない相手ばかりであった。初日の前日、練習の終わりのミーティングの時。
「初戦の相手も決まり、それぞれ順調に調整も進んでいる。
みんなも知っての通り、それぞれ1回戦から2回戦までは初日に、
3回戦から準々決勝が2日目に、そして準決勝と決勝は3日目に行われていく。
男子団体はその翌日から女子と同じように、さらに混合団体もその後と、続いていく。
明日は女子の2回戦だ。俺たちの野望を轟かせるには、まず女子が幸先よい結果が、
重要だ。だから、綾野、姫柊、桐生、高坂、桃井、吹田は全力を尽くしてくれ。」
凍夜はそう言って、聖奈たちを鼓舞した。
「分かりました。旭日中学に恥じない戦いを約束します。
咲、姫香、月華ちゃん、茜ちゃん、吹田先輩、力を合わせて勝利を勝ち取ろう。」
聖奈は右手を掲げると、他の5人も聖奈と同じように腕を挙げた。
「聖奈、咲、月華、茜、頑張れよ。」
恭弥が4人に応援すると、姫香が恭弥に文句を言った。
「弟君、私や吹田先輩もいるんですけど?4人だけに言うの酷くない。
ねえ酷くない。私と吹田先輩はどうでもいいんだ。姫香、泣けちゃう。」
姫香はそう言うと、彼氏の冬季に泣きついた。恭弥はおどおどしながら必死で姫香と吹田に弁解した。
「桐生先輩、忘れていたわけではないんです。ただ、この4人は特別と言うか・・・。」
「私は特別ではないと。冬季も弟君に言ってやってよ。私仲間はずれされたんだよ。」
恭弥は謝るが、姫香は冬季に恭弥に一言言ってと頼み込む。
「恭弥、なんで可愛い姫香を仲間外れにするんだ。俺がおまえを折檻してやる。」
冬季が恭弥にコブラツイストを掛けると、恭弥はすぐにギブアップした。
そんな様子を聖奈も咲も、月華も茜も笑ってみていた。だが、吹田だけは和めなかった。
何か考え事をしているような、じっと一方を見つめていた。
『ここに翼がいないんだと思うと、なんか複雑だよ。翼はもう高校を決めたのかな。
最近なかなか話せてないな。』
吹田は同じ3年で引退した親友の事を思い返していた。
『私は金山翼。よろしくね吹田さん。』
『女子団体は茉央と組めば優勝だ。』
『負けちゃったけど来年は一緒にもう一度この悔しさを糧に頑張ろう。』
『最後は桃井。金山、すまんが以上だ。個人戦頑張ってくれ。』
『なんで、私だけ入れなかったんかな?悔しいけど茉央は頑張って。補欠とはいえ、
メンバーに入れたんだもん。チャンスはあるよ。」
『勝負あり、本庄中学、山辺さん。』
『あ~あ、私の最後の試合終わっちゃった。茉央、団体で優勝目指して。』
吹田は金山との思い出を思い出し、ここに金山がいないことを悲しんだ。
『翼、私は寂しいよ。翼がいたら、私もあんな風に和気あいあいと入れたのに。
翼、私だけじゃ寂しすぎるよ。』
吹田はそう思いながら、姫香たちを見て思わず涙が零れた。
一方、なかなか許して貰えなかった恭弥に、聖奈が助け船を出す。
「冬季君、そこらへんで勘弁してやってよ。恭弥も私の大切な姫香を忘れるなんて、
反省しなさい。姫香も恭弥がこうやって反省しているから、許してやってね。
吹田先輩もすいませんでした・・・、吹田先輩?」
聖奈が泣いている吹田を見て、心配した。
「弟君、吹田先輩が泣いちゃったじゃん。謝りなさいよ。」
姫香がそう言うと、恭弥も驚いたようにひたすら吹田に謝るが、吹田は何でもないと言って、その場を逃げるように立ち去った。
「恭弥が悪い。謝って来なよ。」
聖奈と咲はそう言って、恭弥に吹田の後を追わせた。
練習場を出て、いつも金山と吹田が自習トレを行っていた場所に、吹田が1人佇んでいた。
恭弥は覚悟を決めて吹田に話しかけた。
「吹田先輩、すいませんでした。」
恭弥がそう謝ると、吹田は真剣に謝る恭弥を見て、微笑んだ。
「君は周りをもっと見た方が良いよ。君の知らないところで誰かが傷つくかもしれない
のだからな。でも私に謝ることはない。私は君たちの仲が良い所を見て、
翼のこと、いや金山の事を思い出してしまって、思わず寂しいなと思っただけだ。
君どうこうじゃない。」
吹田はそう言って、恭弥に返事をした。
「ここは金山と1年生で初めてあった所で、ずっと二人で練習していた所だった。
楽しいとき、苦しいとき、いつも二人で乗り越えてきた親友だった。
勝負の世界にでもはないけど、女子団体は金山と一緒に出たかった。
それだけが心残りだ。茜が実力で勝ち取ったことに不満はない。
でも、私は翼と一緒に夢を叶えたかった。」
そう言うと、恭弥は吹田にこう話した。
「俺にも、月詠や、月華のようなライバルであり、親友がいます。
いずれ、金山先輩みたいに離れ離れになるかもしれません。
でもその時が来ても俺はどんな立場になっても、応援したいと思っています。
金山先輩も同じようなことを考えているんではないでしょうか。
吹田先輩には最後まで頑張って欲しいと。」
恭弥は吹田にそう言うと、いつの間にか聖奈たちも恭弥の後に立っていた。さらにその後ろには、引退した金山が立っていた。
「茉央、なにメソメソしているの?茉央らしくないぞ。」
金山はそう言うと、吹田を抱きしめた。
「翼。私、わたし、翼がいなくなって諦めてた。もう一緒にやれないだって。
私、翼がいなくちゃ、ダメなんだ。」
吹田は泣きながらそう言うと、金山がこう答えた。
「茉央はそう言うと思って、私お守り持ってきた。
塾へ通いながらも、空いた時間使ってね。でも間に合わないと思って
この私が徹夜したんだぞ。でも間に合って良かった。
このお守りを私だと思って、頑張って。」
金山がそう言うと、吹田に手作りのお守りを渡した。吹田はお守りを受け取り見るとこう言った。
「変な形しているな。ここ縫い忘れもある。」
「もう、茉央ったら、これでも私、慣れない裁縫頑張ったんだからね。」
金山が怒った風にでも笑っている姿に、吹田は笑いながら金山に謝る。
「翼、ありがとうね。これで私は頑張れるよ。いつも翼がそばにいてくれるから。」
吹田はお守りを金山に見せてそう言った。
「茉央、頑張れっ。私は見ているよ。」
金山の吹田にエールを送る姿に、恭弥達も気合いが入る。特に茜は自分が金山の代わりなんだと思い、より一層、気合いを入れて望むのであった。
大会当日。今日の2回戦から出場で、聖奈たちは初戦を待つ間、次の対戦する中学の試合を見ていた。両校とも全国へ出場するだけの事はあり、抜け目のない互角の戦いだったが、3対2で島根県代表の出雲中学が3回戦に進んだ。試合が終わると聖奈たちは初戦のに向けて準備を急いだ。出雲中学からベンチを明け渡されて、その選手の1人から聖奈はこう言われた。
「明日、対戦しましょうね。」
そう言って、会釈されすれ違った。聖奈以外に緊張感が生まれた。でも聖奈はこう言った。
「そうねですね。私も楽しみです。」
聖奈の堂々とした姿に咲たちの緊張が少し緩和された。そして、改めて、全国の舞台に上がったんだとそれぞれが思い、そして3日間の試合が始まろうとしていた。
初戦の相手は三重県代表の伊勢中学で、姫香、茜、月華が立て続けに勝利を収め、順調な滑り出しを見せた。しかし、予選と違い、副将戦と大将戦も行られるため、その後も咲と聖奈が安定した試合運びで勝利し、チームは無事に3回戦進出を決めた。
「あれが綾野聖奈よ。朱璃が目指す昨年のナンバーワンよ。よく見ておきなさい。」
そう言って、豊葦原瑞籬内学園中等部の監督志士槇が朱璃に耳打ちした。
「ふうん、あの人が綾野さんか。
なんか、もっと凄い人だと思ったけど、そうでもないみたい。」
朱璃は獲物を見るように聖奈を凝視していたが、自分の想像よりも期待感が外れたことで、その先のノーヴィス・アイシェル学園中等部の大将を見てこう言った。
「あっちの人の方が今は注意した方がいいかな。」
そういって、朱璃はノーヴィス・アイシェル学園中等部の大将ユースティア・アストレイを見て笑みを零した。
幸先の良い勝利で飾った聖奈たちが帰り支度を整えてた時、聖奈と咲はみんなと別れて、神楽坂中等部と豊葦原瑞籬内学園中等部を見ていくことにした。
月華達と分かれた理由は、折角いい雰囲気でいる月華たちに、いきなり強豪校の試合を見せて自信を失くすことを避ける為だった。
この二校はそのどちらかが準決勝で当たる為、今からそのプレッシャーを受けないようにする配慮だった。でもその予感は的中し、神楽坂中等部と豊葦原瑞籬内学園中等部のどちらも圧倒的の力を見せたのである。特に神楽坂中等部の暁紅羽と宝条蘭は噂通り、相手をねじ触れるスタイルが見られ、動きも早かった。
「神楽坂中等部は調べてもらった通り、強いね。でもいい試合が見れたわ。」
聖奈はそう言って、自分が対戦するだろう宝条蘭の動きを事前にチェックできたことを喜んだ。でも、もっと驚いたのはその後の試合だった。
豊葦原瑞籬内学園中等部はその全員がレベルが違うと思い示されるほどだった。
先鋒の稲生滸はその長身のとバネを生かしながら愛刀の日本刀を巧みに使い勝利を収めた。
「勝負あり、豊葦原瑞籬内学園中等部、稲生さん。」
主審の旗が稲生を指したが、稲生自体大技どころか、技を出さず勝ってしまった。
続く次鋒戦、椎葉は舞うような動きで相手を圧倒し、『奥義、調』と称する技で完勝。観客が息をのむほどの完璧な試合運びだった。
中堅戦はエルザが170センチを生かし、力強く相手を襲い、最後は武器破壊して、結局試合続行不能で勝負がついた。最後の技は『獅子白虎剛烈斬』と言っていた。
この時点で豊葦原瑞籬内学園中等部の勝利した。
副将の緋彌命は巫女の姿で会場を沸かせたが、その試合内容でさらに沸かせた。
「始め。」
主審の合図で相手校の選手が襲い掛かる。でも緋彌は風が吹き抜けるようにさらりと躱し、
相手が疲れてきたところを、今度は怒涛に攻めまくる。
「四季折々の光臨。春のハーモニーはさくらの舞うように素晴らしく、
夏の調は熱気が轟くように、秋の歌は別れを指す様に、
そして冬の冷たい奏では心を折るように。『散塊』。」
緋彌がそう叫ぶと、相手の選手がまるで心を折られるようにその場に倒れこみ、そのままリタイヤとなった。
「勝者、豊葦原瑞籬内学園中等部、緋彌さん。」
主審の声が響き渡るが、何が起こったのか誰も分からなかった。
そして、今年最強の宮国朱璃が登場する。朱璃は緋彌に一言言った。
「命、楽しかった?弱い相手にあそこまでするのなんか可哀そうになるよ。」
朱璃はそう言うと、命は微笑みながらこう言った。
「折角、偵察に来ていらっしゃるのに、情報の一つぐらいは提供しないとですわ。
まぁ、それを研究しても、技は無限に出来ますしね。」
命の言葉の意味を理解している朱璃は笑みを零した。
「確かに命の技は無限だからね。」
朱璃はそう言って、自分の試合に向かった。その格好も命と同じく巫女の衣を着ていた。しかし命とは違い、その衣から不思議な光が発せられている。しかも朱璃が持っている愛刀も同じく光っていた。でも、朱璃の試合は誰もが想像つかない終わり方をする。
「始め。」
主審の合図がすると同時に朱璃が動いた。でもその光景は言葉一つで終わった。
「光縮。」
主審の声と同時に、朱璃の姿が一瞬にしてかき消えた。次の瞬間、相手選手が崩れるように倒れ込み、朱璃は彼の背後で静かに立ち尽くしていた。何が起きたのか誰も理解できず、会場全体が静まり返る。主審が確認を終え、ようやく震える声で旗を挙げた。
「勝者、豊葦原瑞籬内学園中等部、宮国さん。」
会場にどよめきが起こる。見ていた聖奈ですら
なにが起きたか分からず、朱璃が消えたことしかわからなかったのだった。
「咲、何が起こったの?私、何も見えなかった。」
聖奈の動揺が咲にも伝わる。あの聖奈が朱璃の技を生で見て、分からなかったのだ。
咲も動揺したのか、言葉が出ない。
「咲ってば、教えて、何が起こったの?」
聖奈はそう言って、咲が録画した映像を見せるように、咲の肩を揺らした。
咲は言われるまま、映像を確認するが、映像でもにも映ってはいなかった。それどころか朱璃がいた場所から試合が終わった場所へ、ものの一秒で移動したのだ。何回も繰り返しては、スロー再生しても結果は同じで、咲も聖奈も身震いがするほど、物凄い瞬殺劇に恐怖を覚えるのであった。
この強さに、咲と聖奈は双球の対策をしなければならないほど、その強さに飲まれていった。そして大会初日が終わった。
会場を後にした聖奈と咲は全国の開きを実感していた。特に聖奈は昨年の王者の驕りはなく、あくまで自分は挑戦者だと思ってこの一年戦ってきたが、聖奈はいつの間にか追われるものになっていたことに、恐怖を感じていた。そして、今日の宮国朱璃の試合を見て実感がました。追い抜かれるという恐怖に。聖奈はそのまま練習場に行き、自分が何に恐怖するのかを確かめるようにひたすら朱星光月焔を振り続けた。
咲はそんな聖奈に言葉を掛けられずにいた。これは聖奈自身しか分からなかったことだったからだ。
『聖奈。』
咲は心の中で自分は聖奈に勝てると思い込んでいた。でもそれは驕りだったことに気づいた。
『聖奈はこれまで、努力してきた。誰にも負けないように。
でも私は怪我を理由に聖奈と真剣に勝負をしてこなかった。
それが今、聖奈をこんなにも苦しめることになるなんて思いもしなかった。』
咲はそう思いながら、ただ愛刀を振り続ける聖奈を見守るしか出来なかった。
『宮国朱璃は強い。だから、私は宮国朱璃に対してどうすればいいの?
どうしたら、勝てるの?誰かに聞きたい。でも私が弱音を吐いたら、
チームはダメになる。それじゃ意味がない。私は私で強くならなきゃいけないんだ。』
聖奈はそう思いながら、雑念を振り払い、愛刀朱星光月焔を振り続けた。
しかし、それは明らかにオーバーワークだと気かづかずに。そのオーバーワークが翌日の試合に影を落とすのであった。
翌日の3回戦。この日も姫香、茜、月華の調子はよく、出雲中学を圧倒した。そして、咲も勝ち、聖奈に繋げる。しかし、昨日の素振りの影響で、聖奈は身体が重かった。
『あれ、おかしいな。気持ちは乗っているのに身体が動かない。』
聖奈はそう思うが、大将戦をじたいする訳にはいかず、試合に挑む。
「大将戦、始め。」
主審の合図が掛かり、同時に出雲の大将が襲い掛かってきた。
いつもの聖奈なら簡単に避ける事が出来るのに、今日は身体が思うように動かない。先手を取られた聖奈はすぐにポイントを取り返すが、続かない。そして、勝負が混戦のまま時間だけが長く感じてきた。
『おかしいな。どうして動かないの?どうして頭でイメージした動くが出来ないの?
いままで、こんなことなかったのに、どうして。』
聖奈は相手がなり振り捨てて、襲い掛かってくるのを避ける事が出来ず、攻撃を食らいながらも必死に耐えた。
『そうか、相手は3年生。この試合が最後なのか。だから予想以上の強さがあるのね。
だったら、私は。』
聖奈は相手の思惑を逆手に取り、自分が出来ることに集中し始め、そして、相手が僅かに見せた隙に、全神経を集中させ、一撃を入れた。結果それが聖奈の渾身の一撃となり、一本を取ることが出来た。
「勝負あり。勝者、旭日中学綾野。」
聖奈は勝ちはしたが、明らかに試合内容が悪すぎた為、応援していた恭弥が心配になって、聖奈のもとに駆け付けた。
「聖奈、動きが悪かったけど、どこか怪我してないか?」
恭弥は心配して聖奈の身体を触りまくった。
「きゃぁはっはっ。くすぐったいよ恭弥。私はどこもケガしてないし、大丈夫だよ。
相手は3年生で最後の試合で圧が物凄かっただけ。
3年生の意地ってやつを初めて実感したよ。
それに恭弥ここでこんな事したら、係の人が来てセクハラで恭弥の試合没収に
なっても知らないわよ。」
聖奈はそう言って、恭弥を引き離して、自然な態度を取った。しかし、明らかに聖奈は無理していることを咲は思っていた。
そして、次の準々決勝が始まるまで、咲は聖奈にしっかり休むように忠告した。
「聖奈、明らかに身体が重そうよ。みんなは誤魔化せても、私にはお見通しだから。
いい、ここでしっかり休みなさい。今はそれが聖奈のすべきことよ。」
咲はそう言うって、強引に聖奈を休ませた。
「ごめんね、咲。あなたの言うとおりね。でも私は大丈夫だから。」
聖奈はそう言うと咲が睨みつけて、聖奈は仕方がなく休むことにした。
その休息は聖奈にとって、良い急速になった。
『ごめんね、聖奈。私が出来ることは今はこれが精一杯だわ。
でも聖奈にはこれ以上負担が掛からないようにするわ。』
咲はそう思って、姫香たちを呼んだ。
「みんな聞いて。次の対戦する翠嵐学院中等部はこれまでと違って、油断は禁物。
まず先鋒の月琴宝叙は軽業使いの様に身体が身軽だから、タイプは姫香と同じ。
だから姫香は動きに惑わされず、自分の力を信じて。」
姫香が頷く。
「次に笛春梅について。素早さと正確さが特徴で、茜にとって不利なヒットアンド
ウエイで攻撃してくるの。だから茜は無理をせず的確に攻めてくる所をフェンリルで
削っていって。」
今度は茜が頷く。
「そして、月華は上からの攻撃に気を付けて。相手の琵琶金蓮は身長が月華よりも
15センチ上だから。しかも力技で来る。月華は相手とやり合うのではなく、
当てては離れていって。」
月華は咲に自分のプランを言った。
「相手が長身でパワーがあるなら、私はあいてのパワーを利用して、
カウンターを掛けたい。そうすれば相手は自らのパワーと私の攻撃を同時に
受けることになるから、その作戦とヒットアンドウエイする。」
咲はその月華の考えに一つだけ忠告して承諾する。
「でも、なるべくダメージは避けてね。カウンターはここぞの時というまで
使わないことが条件ね。」
月華は頷く。そして咲は手を差し伸べてこう言ってこの場を締めた。
「今日の聖奈は、明らかに調子が悪いの。
だからといって、みんなに不安にさせるレベルじゃない。
だから聖奈には負担が掛からないように私で決めれるように試合を進めて。
これは聖奈の為でなく、私達が成長するための挑戦よ。」
咲は自分に言い聞かせるように、みんなに言った。
2時間後、準々決勝が始まった。
咲のアドバイスが効いたのか、先鋒戦は姫香有利に進めていった。
『咲のアドバイス通り。でも中国4000年の技は伊達じゃないのね。
気を抜けば、すぐに逆転されてしまう。』
姫香は自分の技を繰り出しながらも、相手の攻撃を何とか避けながら、戦い続ける。
「大車輪乱れ突き。」
翠嵐学院中等部の先鋒月琴宝叙は月上の刃を回転させ、空気を切るかまいたちを起し、姫香に襲い掛かってきた。姫香は氷結晶を自分の周りに展開して防ぎ、逆に氷の刃を月琴宝叙の頭上に落とした。それを避ける月琴宝叙だったが、避けた所を予測していた姫香はトドメの一撃を入れた。
「奥義、氷結晶、金糸針。」
無数の細かい金色の張りが月琴宝叙の下方から突き刺さるように月琴宝叙を貫いた。
「勝者、旭日中学、桐生さん。」
姫香は先鋒戦を勝ち取った。
「次は茜の番だよ。ガンバ。」
姫香はそう言って、茜と恒例のハイタッチをして繋いだが、その茜は予想通り、苦戦した。
近接を得意とする茜は、翠嵐学院中等部の笛春梅の攻撃の前に持ち前のフェンリルの桜花がなく、大会前に恭弥と特訓した遠距離技を繰り出して応戦した。
「ソニック、ガブスレイ。」
フェンリルの分身体を作りだし、笛春梅に攻撃を当てようとするが、あまりにも素早い動きに的を外し続け、反対に音を作り出して攻撃する笛春梅の攻撃は正確無比の様に茜を捉え、茜は徐々に体力を奪われていった。そして、笛春梅のラストアタックが茜を襲う。
「フィリング・エコー・イリュージョン。」
笛春梅が奏でる小刀の擦れ合う音が茜の耳を犯し、茜は幻想の笛春梅に惑わされる。
茜は笛春梅を攻撃するが、それは全く違う場所で、茜は春梅の正確の位置が分かず、自分は攻撃していると思っているが、外から見たら、でたらめの方向に技を放っているしか見えなかった。そして茜が笛春梅を見失っている内に茜の懐に入って、2本の小刀を茜の脇腹を抉るように突き刺した。
「勝負あり、翠嵐学院中等部笛さん。」
主審の旗が笛を指した。これで1勝1敗に戻されてしまった。
「すいません。」
茜はしょんぼりと帰ってきたが、姫香にこう言われる。
「茜、気持ちを入れ替えて応援するよ。まだチームは負けてない。
だから、しっかり応援。」
姫香の励ましに茜は気持ちを入れ替え、月華を応援する。
「月華、わたしの分まで頼んだ。」
茜がそう言うと月華は頷き、対戦する翠嵐学院中等部の中堅琵琶金蓮に対して、闘志を燃やした。月華は咲の忠告を守りながら、ヒットアンドウエイを続ける。
「この、チマチマとうるさい。こいつデータと違うじゃん。」
金蓮は月華の動きに翻弄されながら、自分の攻撃が当たらないのにさらに苛ついた。
『だいぶ苛ついている。そろそろ、狙い目かな。』
月華は相手の動きを見ながら、自分が発案したカウンターの機会を伺っていた。
すると、痺れを切らした金蓮が月華に突進してきた。月華はそのチャンスを狙っていた。
「奥義、猛虎爆裂砕。」
金蓮が仕掛けた技に月華が奥義で返した。
「クレセント・ムーンライト・ブレイク・インフェルノ・ライガー。」
月華の最大奥義を金蓮にぶつけた。しかし、体重差もあり金蓮の方が重い為、月華は予想より衝撃が残った。金蓮も月華の捨て身の奥義に自分の技の威力のカウンターが決まってしまい、想定以上のダメージを負ってしまい、試合が続行できなくなった。
「勝者、旭日中学高坂さん。」
月華も衝撃で愛刀三日月神楽を握る握力がこれ以上試合を継続することは出来ないぐらい両手に痺れが残っていた。カウンターを正確に入れた分、金蓮よりも辛うじて立っていられた。立ってられたのは、負けた茜のリベンジと勝利への執念だった。こうして2勝1敗と勝ち越した。
翠嵐学院中等部戦、副将の対戦が始まろうとしていた。試合前に咲は聖奈にこう言った。
「私で決めるから。聖奈は安心していて。」
咲なりの聖奈への励ましだった。しかし、聖奈はそう捉えなかった。
『咲それってどういう意味?私が不甲斐ないからなの?
今日の私だと不安なの?』
聖奈は咲の言葉をそう捉えてしまった。そして咲を見てこう返した。
「私のことなら大丈夫だから。咲も無理しないで。」
聖奈はそう言って咲を送り出した。咲は頷きながらも聖奈の言葉が痛々しく思えた。
「副将戦、始め。」
咲の相手は古琴瓶児という。瓶児は刃の持つ手側に琴の弦がついており、刀を自在に投げては弦で操っていた。咲はそのデータも頭に入れており、自分が得意な遠距離による範囲外の攻撃と愛刀阿修羅と夜叉の二刀を振りかざして、瓶児を困惑させた。
「ガネーシャ、カーリー。」
咲は攻撃を緩ませず連続させた。こうして咲の初動による攻撃は思い通りに進められた。
「夜叉、お願い。」
試合中盤、咲は意思のある愛刀夜叉にそう言うと、夜叉が光出す。
「夜叉奥義・時空烈波無限連斬。」
咲はこれまでに聖奈との試合にしか使った事しかない技を繰り出した。
瓶児が技の軌道を読んで避けるが、瓶児に技が当たる。これは咲が放った幻覚と距離感が咲と夜叉で瓶児を狂わせた。
『なぜ当たる。それになんだ身体が引き裂かれる。』
瓶児は自分に起きている事が分からなくなった。そして咲は勝利を確信するように微笑む。
当たった瞬間瓶児の姿が観客の目からはぼやけてしまう錯覚が生まれた。咲から見た瓶児はその時点で斬り刻まれており、技の内容は咲と主審しか分からなかった。観客の視界が正常に戻ったころには、既に瓶児は倒れており、主審もそれを見て瓶児が戦闘不能と判断した。
「勝者、旭日中学、姫柊さん。」
こうして、翠嵐学院中等部戦にチームの勝利は確定した。
待機所に戻った瓶児は何が起こったのか理解できなく、そして敗北したことなのになぜかその実感がわかずにいた。そして、時間が経過するとその技の後遺症が徐々に出てきた。
自分が幾度となく咲に斬られていく光景だけが頭に映像として蘇ってくるのだ。
しかもその発動も剣先も自分ではりかいが追いつかなく、ただ斬られる恐怖だけが残った。
「やめろ、来るな、来るな。私を切らないで。」
瓶児は幻覚は続き、精神異常をきたす。それを見た大会本部が試合を中断させ、瓶児の治療を施すが、処置出来ないでいた。当事者の咲に大会本部が事情を伺うが、咲はこう言う。
「大丈夫です。あと数分で収まります。」
数分経った後、咲の言う通り、瓶児の幻覚は収まり、そして試合の内容はこれとして思い出せなくなっていた。
聖奈は咲がこれまで禁じ手として扱いに最大限気を使っていた咲が封印を解いたことに自分の不甲斐なさを痛感させた。
『咲、なんであの技の封印を解いたの?』
聖奈は咲を見て、そう思った。この技は聖奈以上と言われる咲の奥の手だった。
しかし、あまりにも残酷で、試合後も後遺症が残ってしまうため、咲自身は1年の練習試合で聖奈に使った後はこの技を封印していた。それは咲の優しさだった。しかし、その封印を解いた咲はそれだけ本気を出していると、聖奈は感じ、また自分が追われる者として自覚するのであった。
30分の後、瓶児の錯乱が消え、試合が再開されようとした。しかし勝敗は既に決まっており、聖奈と翠嵐学院中等部の大将二胡黛玉の消化試合だった。それでも二胡黛玉は相手の技殺しと異名を持つ強敵だった。黛玉は相手の技を見ただけでその技の対応策を試合中でも考え行動に移す天才だった。簡単な技なら一度、奥義クラスでも5度見れば全てが、
その技をオリジナルの技に変えることができた。そんな相手を見の前に聖奈は試合の準備をする。休憩した分、先ほどの試合よりだいぶ動きに精彩が戻ってきていた。でも咲の封印した技を見て、聖奈の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
宮国朱璃という強敵に、咲の本気。それが聖奈の頭でイレギュラーなノイズを出していた。
『今は目の前の相手に集中しなきゃ。落ち着け私。』
聖奈は総頭で繰り返し、冷静さを保とうとした。そんな聖奈に咲と恭弥は違和感を覚えていた。特に聖奈をずっと見てきた恭弥はいつもの聖奈ではないと感じていた。
『聖奈、どうしちゃったんだ?さっきも明らかに違っていた。いつもの聖奈ではない。』
恭弥は不安になりながらも、聖奈が調子の回復を願った。
一方、咲は聖奈の様子と自分に対する様子が明らかに違う聖奈の事が心配だった。
『聖奈はきっと追いかけられていることに気が付いたんだ。自分が否定しても、
周りからは狙われる王者だということを。でもそれは聖奈が逃げることができない
宿命だから、私が本気を出したのも、聖奈にその宿命を自信で超えていくしかない。
壁を超えた先に宮国朱璃に勝機が絶対見いだせる。それをこの試合で見せて。』
咲はそう願い聖奈を試合へ送り出した。
「それでは、大将戦始め。」
聖奈が黛玉に仕掛けた。
「エリアシューティングライトニング。」
聖奈が最も得意とする技だ。しかし黛玉は軽々と避け、逆に同じ技で対抗してきた。
「エリアシューティングライトニング。」
黛玉が放った技は聖奈の放った技よりも遥かに威力があり、聖奈はそれを避けようしたが、威力に押されて、体勢が崩れた。黛玉はそれを逃さない。
「ヴァルデフィア。」
黛玉は三又の槍をかざして稲妻を集め、聖奈を串刺ししようと突進してきた。
聖奈はバランスを崩しており、それと同時に自らの技を食らった影響で瞬時に動くことが出来ず、回避が遅れた。そのため避けきれず、脇腹にダメージを追ってしまう。
それでも聖奈は反撃する。
「フェニックス・アロー。エターナルプラズマライト。」
聖奈が立て続けに技を出すが、既に知られているフェニックス・アローはフェニックス・アローで、恭介の技も知っているので、エターナルプラズマライトも避けられてしまう。
代わりに全く同じ技でも威力が数倍上がっているエターナルプラズマライトに聖奈は追い詰められていく。
「なら、これはどうだ。エターナルサンダーボルト。」
聖奈自身初めてだが、父恭介もう一つの技を使った。
それでも黛玉には効果はなかった。技を出すほど、聖奈はその技で追い詰められていく。
『身体は動くのに技が通らない。』
聖奈は頭をフル回転させ、今できることを考えた。黛玉はわざと聖奈の間合いに侵入してきた。聖奈はそれを見て、あの技を出すか迷っていた。
その技とは聖奈の奥義スターライト・ビックバン・ブレイクシュートだ。
『でももしこの技が効かなかったら、私自体が大ダメージを負ってしまう。
ええい、怯むな聖奈。私は私だろ。これまでどんな逆向も自分で解決してきた。
恐れるな。今は前へ突き進むんだ。』
聖奈は一瞬躊躇ったが、奥義を発動する事にした。だがその躊躇いが聖奈にとって吉と出るか、凶となるかの瀬戸際だった。でも聖奈は決意し、奥義を発動した。
「奥義スターライト・ビックバン・ブレイクシュート。」
「ダメ、聖奈それは罠よ。」
咲は画面越しでそう叫んだが、聖奈には届かなかった。
黛玉はニヤリとしてこう言った。
「それを待っていた。これで綾野聖奈の連勝は終わりだ。」
そう言って、黛玉も聖奈の奥義と同じ奥義を、しかも聖奈より威力が増した奥義を放った。
聖奈は一瞬の戸惑いがさらにこの状況を悪化させていた。技は黛玉方が早く、聖奈はそれをまともに受けてしまった様に見られた。
バトルフィールド舞台が閃光につつまれた。画面越しに咲は聖奈が無事を案じるが、再び画面が映し出されたのは、聖奈のボロボロになった姿だった。
でも、まだ聖奈は立っていられた。それは咲の声が聖奈に聞こえて、聖奈は奥義の技を途中解除して、直撃だけは避けた。でも躊躇した分、回避が遅れ、半身が自らの奥義を食らってしまった。それでも、ボロボロになりながらも立ち続けるのは、聖奈の意地だった。
どんなに窮地に追い込まれても、聖奈の目にゆるぎない光を灯していた。
『さて、どうしようかな。このまま相手に見したことのある技はすべて返されると。
でも即席の技でもダメ。残すのは私の最大奥義だけか。でもまだ未完成なんだよね。
あれはもう少し完成させて使いたかったけど、私はいつでも全力全開でなくちゃあ。
それが私だもん。』
聖奈の中で何かが弾けた。そして半身ボロボロの中、聖奈は構えた。それはまだ誰にも
見せたことのないとっておきだった。
「行くよ。私のオリジナル。テラ・ミッションブレイク。」
聖奈の身体がふわりと浮いたように見えた。その次の瞬間黛玉の身体が激しく揺れ、聖奈よりも高く舞い上がった。そして落ちてくる無防備の黛玉に聖奈が仕掛けた。聖奈の周りに何かがいる。でもその技がどんな技だったかと言えば、表現が難しく、見たものは聖奈の代わりに攻撃しているしか分からなかった。それでも今の聖奈にとっての奥の手だった。
黛玉は突然の知らない技で、しかもその技には欠点があった。その技に聖奈の身体が悲鳴を挙げたのだ。だがそれこで、主審が試合を止めた。
「それまで、タイムアップ。時間切れ、勝敗は優勢で旭日中学、綾野さん。」
聖奈はその瞬間意識を失った。黛玉は気絶しており、勝敗はそこで時間切れとなったため、聖奈に軍配が上がった。聖奈が意識を取り戻したのは、2時間後だった。
「あれ、試合は?私負けちゃったの?」
聖奈が咲にそう尋ねると、咲は首を振った。
「優勢勝ち。でもあのまま負けちゃった方がよかったかも。
でも良かった。身体に異常がなくて。今先生を呼んでくる。」
咲はそう言って、医務室を出た。部屋に聖奈1人だけ残り、咲の言葉に戸惑った。
『咲、どうして、そう言うの?』
そして聖奈はいない部屋で1人涙した。
「おめでとう。聖奈ちゃん。恭弥。これで夢に一歩前進だね。」
そう二人を迎えたのは奏だった。
「奏ママありがとう。」
聖奈はそう言うと、奏はニッコリしながら、二人を見て言った。
「今のうちに、お風呂入ってらっしゃい。その間に夕食準備するわ。」
奏はそう言うと、恭弥は周りを見て、奏の他がいないことに気づく。
「聖歌母さんや聖夜兄さんたちは?」
恭弥が聞くと、奏は寂しそうに答えた。
「聖歌ちゃんはクワトロクロスの海外ツアー。聖夜と恭歌は昨日からジャックウェーブ
のライブで明後日まで東京。朝陽は今日、明日と大学受験の為の塾合宿。
凪沙は今日から陸上のインターハイで鳥取に遠征。
あなた達が帰ってこなければ、私寂しく1人だったのよ。
でも良かった。帰ってきてくれて。いつまでここにいるの?」
奏は放し始めた時は曇りがちの表情だったが、聖奈と恭弥が帰ってきた事で明るくなった。
「とりあえずは、当分はここから学校に通うよ。」
恭弥がそう言うと、奏は笑顔で台所に入っていった。
「聖奈、先に風呂入りなよ。俺は後からでいいから。」
恭弥と聖奈は自分たちの部屋の前で恭弥が聖奈に言ってきた。
「そうね、じゃあ先に・・・。」
聖奈はそう言いかけたが、恭弥の汗だくになっている姿を見て、顔を染めながら提案した。
「もし、嫌でなかったら、恭弥も一緒に入る?だって、今日私を独占するんでしょう?」
聖奈から思いもよらない言葉が飛び出して来たので、恭弥が一瞬躊躇った。
聖奈は返事がない恭弥に、プッイと顔を逸らして少しご機嫌が悪くなった。
「恭弥は私と一緒に入るの嫌なんだ。だったら、1人で・・・。」
聖奈がそう言って洗濯物と着替えを持ち風呂場に歩き始めると、恭弥は聖奈を後から抱きしめて耳元で囁いた。
「それはダメ。今日聖奈は俺の物だ。ちょっと待ってて準備する。」
そう言って部屋に荷物を置くと、洗濯物と着替えを持って聖奈と、風呂へ向かった。
「さっきは、なんで答えなかったの?」
聖奈はそう聞くと、恭弥は答えた。
「まさか、聖奈から誘ってくるなんて思わなかったから。
聖奈はそれだけ俺に飢えていたの?」
恭弥は冗談でそう言うと、聖奈はこう答えた。
「だって、ずっと試合続きで、恭弥とこうしてのんびりと一緒にいられなかっただもん。」
聖奈は脱衣室でそう言うと、目の前でスタイル抜群の聖奈を見て、我慢できる男なんていない。恭弥は聖奈の後から思いっきり抱きしめた。
「まだ、汚いよ。洗ってから。」
聖奈はそう言うと、恭弥に口づけして、二人で仲良く風呂に入っていった
お互いに身体を洗うが、恭弥も聖奈に触れていると理性の欠片は残らなかった。
二人が風呂に入って1時間が経過すると、料理を作り終えた奏がこう言った。
「二人とも、いつまで入っているの?出てきなさい。もう夕食で来ているわよ。」
奏の声に驚くと、慌てて出てきた。
「母さん、なんで聖奈と入っているのが分かったんだ。」
恭弥が下着を慌てて履きながら、聖奈に言った。
「分かんない。恭弥、急いで。」
聖奈も身体を拭き、下着をつけようとした時、恭弥が聖奈の果実を見て、思わず果実に顔を埋まらせた。
「ちょっと、恭弥?ダメだって。奏ママにバレるって。」
聖奈は恭弥を放そうとするが、恭弥は離れない。
「こんなの滅多に出来ないから。あともう少し堪能させて。」
恭弥は顔を揺さぶりながら、聖奈の柔らかい果実を顔全体に味わっている。
「こらっ。やめなさい。」
聖奈はそう言うが、恭弥はさらに自分の唇で聖奈の果実に当てるのであった。
奏が声をかけてから、30分が経過した。二人がテーブルにつくと、奏は二人を見て溜息をついた。
「あんたたちが仲いいのは分かった。でもね、ご飯が覚めちゃったじゃないの。
もう、また温め直さないといけないじゃない。呼ばれたらすぐに来る。いいわね。」
奏はそう言うと、冷え切った料理を温めるためレンジを回した。
「でも、あんたたち、ちゃんとつけるものはつけなさいよ。
まだ、〇学生なんだから。」
奏にそう言われて、二人は全て筒抜けだったと自覚した。
「あの奏ママ、これは・・・。」
気まずそうに聖奈は言いかけたが、奏はこう返した。
「聖奈ちゃんは本当にいいの?恭弥が相手で。もっといい男、世界にごろごろいるよ。
恭弥は頭は並みより下だし、剣術バカだから聖奈ちゃんは苦労するわよ。」
奏は聖奈に向かってそう言うと、聖奈はキッとした表情で奏に言った。
「私は恭弥以外ありえないの。前は異母姉弟だから気持ちを抑えていたけど、
月華ちゃんの件で私分かったの。心が壊れそうなぐらい嫌だって。
恭弥を渡したくないって。それが私の今の気持ちなんです。」
聖奈がそう言うと、恭弥もこう言った。
「俺はずっと聖奈の事が好きだよ。昔から今でも。」
恭弥がそう言うと、聖奈は微笑んで恭弥の手を取った。
「そう、そこまで思いあっているなら、私はもう何も言わない。
あなた達の好きにしなさい。私もあなた達を応援してあげる。
母親がそう言うのもなんだけど、二人は愛し合っているからね。
それにいざとなれば、奥の手があるしね。」
奏は意味ありげな言い方をしたが、聖奈も恭弥もその意味がわからなかった。
「でも、当分の間は中学生の付き合い方にしなさい。あなた達は度が超えています。」
奏は二人に苦言すると、温め直した料理を二人に出した。
「ごちそうさまでした。」
二人そろってそう言うと、奏は食べ終わった皿を片づけようとした。
「奏ママ、私がやるよ。だって、奏ママ、だいぶお腹が大きくなってきてるから。」
聖奈はそう言うと、奏は微笑みながら、手伝ってもらう。
「ありがとうね、聖奈ちゃん。最近少し身体の疲れが抜けなくて、助かるわ。
それにしても、聖奈ちゃんはこうして手伝ってくれるのに、
実の息子の恭弥はなにも手伝わないのはどういう事。」
奏は恭弥に向かって、睨んでいる。
「俺は、宿題あるから部屋に戻ろっかな。」
恭弥がそう言って、立ち上がら狼とした時、聖奈が恭弥に言った。
「今、剣術部は宿題なんて免除されているから、出てないわよね。」
聖奈がそう言うと、奏の顔はますます険しくなってくる。
「こら、恭弥、嘘ついたな。聖奈ちゃんありがとうね。今から恭弥を説教するわ。」
奏が恭弥に近づいて、手を上げた時、慌てて奏を止めた。
「奏ママ、落ち着いて。恭弥も何やっているの?早く謝りなさい。」
聖奈は必死で奏を止めている。すると、奏は再度聖奈に聞いた。
「聖奈ちゃん、本当に恭弥でいいの?苦労するよ。」
奏がそう言うと、聖奈はこう答えた。
「私は恭弥が良いんです。恭弥は私を庇ってくれる。守ってくれる。
こないだだって、応援席から私に向かって嫌な言葉を言われて、恭弥私の代わりに
怒ってくれたです。そんな優しい恭弥が良いんです。」
聖奈はそう言うと、奏は聖奈にこう言った。
「でも恭弥はあの恭介の血を引いている息子よ。
恭介の血は女を狂わすフェロモンを分密するんだから。
恭弥は無意識でもどんどんと近寄ってくるわ。
恭介は旧石器時代の恋愛しかしてこなかったから無視できたけど、恭弥は・・・。」
聖奈は奏の話を聞いて、恭弥の顔を見た聖奈はこれまで恭弥の側にいた月華や咲、茜、その他恭弥と対戦した女性が恭弥に対してなんで好意をすぐに持つのか理解した。
分かってしまった。聖奈はそれが恭弥の女への興味から出ている事が原因だという事実を。
「恭弥、もしかして私以外の女性をそんな目で見ていたのね。」
聖奈はそう言うと、恭弥は聖奈に色々な言い訳をしていくが、聖奈は追い込んでいった。
「もう、少しは自重してよ。もし今度、新しい子が寄って来たらどうなるか分かるよね。」
聖奈の目が物凄く訴えてきた。
「分かりました。もうこれ以上はしません。許してください。」
恭弥がそう言うと、奏は笑ってこう言った。
「はい、言質取りました。これで恭弥は聖奈ちゃん以外は受付禁止です。」
奏がそう言うと、聖奈もニッコリして奏の手を取って、飛び跳ねた。
すると、リビングの入口で声がした。
「なんの言質を取ったって?」
そう言ったのは、2ヵ月ぶりに我が家に帰ってきた恭介だった。
「おかえりなさいパパ。」
聖奈はそう言って、恭介に抱きついた。それを見た恭弥は不機嫌になった。
聖奈の無邪気な笑顔が自分以外に向けられるのがとても嫌だったからだ。
「おかえりなさい。もう、恭介はいつも急に帰ってくるから。
連絡ぐらい寄こしなさいよ。」
奏はそう言って、恭介にキスをした。
「おお、奏ママ大胆。」
聖奈は目の前で熱い口づけをする恭介と奏を見てそう言った。
「聖奈ちゃんもさっき抱きついて行ったでしょ。恭介が出すフェロモンが原因なの。
だから、私がキスをすることでそのフェロモンをうち消すのよ。」
奏はそう言うと、聖奈は納得するように首を縦に振った。
「なるほど、だったら、私も恭弥にキスすれば恭弥は他の女にフェロモンを
出すことが止まるのね。」
そう言うと、奏は首を振った。
「ちょっと違うかな。私は神から選ばれた恭介のパートナーだからよ。
私と恭介以外はできないの。」
奏はそう言うと、聖奈はガッカリした。落ち込む聖奈を見て、恭弥は聖奈に言う。
「俺が心から愛しているのは、聖奈だけだ。だから、俺はこのフェロモンを何とかする。
だから、安心して。」
恭弥はそう聖奈の手を取っておでこを合わせた。
「信じて良いんだよね。信じるよ恭弥を。」
こうしたやり取りを目の前で見ていた恭介は、聖奈と恭弥に言った。
「俺はまだ認めていないぞ。離れなさい。お前たちは姉弟なんだから。
付き合うことは、断じて認めない。」
恭介はそう言うと、奏に耳を引っ張られる。
「恭介はまだそんなこと言っているの?
もうこの二人を止めることなんて誰も出来ないわ。
それにこれは遺伝だから。恭弥が聖奈ちゃんを好きなのは、
恭介が聖歌が好きなってことと同じなの。」
奏がそう言うと、恭介は奏に言う。
「なんで聖歌がここで出てくる。それに違うだろ。恭弥と聖奈は半分とはいえ、
血が繋がっているんだぞ。仮に結婚できても子供は出来ないぞ。」
恭介はそう言うと、奏は笑って言った。
「元、神候補の恭介がそれを言うの?大丈夫よ。既にカルスに二人の事は言ってあるわ。
カルスも承諾している。私は二人の気持ちが本当かどうか確認する必要があったから、
始めは否定的だったけど、今さら二人をどうこうとは言わないわよ。
それに恭介、さっきキスした時、別の女の匂いがしたんだけど。
それで今日はどうだったの?帰ってきた時にまず報告する義務だったわよね。
ハッキリと言いなさい。」
奏はそう言って、恭介に言い寄る。そしてそれと同時に恭弥達に向かって、手を振った。
『ここは私が何とか行くから、部屋に戻ってなさい。』
奏は心で恭弥達にそう訴えていた。聖奈は奏の意思を汲み取り、恭弥を連れて部屋に戻ろうと、リビングから出ていく。
「待ちなさい聖奈、恭弥。まだ話は終わってないぞ。」
恭介は二人を呼び止めようとするが奏がさせない。
「恭介、答えなさい。何人から迫われたの?」
奏の厳しい口調に、恭介は仕方がなく答えた。
「6人です。でも、俺は何もしてないぞ。俺は奏と聖歌だけだ。それ以外とはしない。」
恭介はそう答えると、奏は呆れかえって恭介に言った。
「それは分かってる。だけど、言い寄られたことが気に食わないの。
だから、恭介は夕飯は抜きね。だって、連絡無しで帰ってくるから材料がないのよ。
でも、これはあげられるから。」
奏はそう言って、恭介の唇を奪った。
「おい、奏、子供たちが見られるぞ。」
恭介は奏を放そうとするが、奏はこう言った。
「少しお腹出てきたけど、私の身体に興味なくなった?」
奏は恭介にそう言って迫っていった。
「いや、奏の嫌なところなんてないよ。」
恭介はそう言って、風呂場に奏を連れて、二人は消えていった。
一方、聖奈と恭弥は、下の様子を伺いながら恭介と奏の声が風呂場に消えていくまで、階段の所で潜んでいた。
「奏ママとパパはいつもラブラブだよね。ママがいないのもあるけど、
あのラブラブぶりにはこっちまで照れてきちゃうよ。」
聖奈は恭介と奏の行動を見ながら、恭弥にそう言った。
「聖歌母さんがいないときは、すぐ母さんとイチャつくから、あれでも親かと思うよ。
二人とも気持ちは高校生の時のままだな。」
恭弥は呆れた表情をした。でも聖奈はこう返した。
「でも、そこが良いじゃないの。気持ちを忘れないってところが。
私も恭弥とこの先ずっとそういう気持ちでいたいよ。」
聖奈がそう言うと、恭弥が聖奈の身体を自分の方に引き寄せた。
「ちょっと何。急にこんなことして。」
聖奈が恭弥に少し怪訝したように言うと、恭弥は聖奈の唇を奪い、激しくキスをした。
そして、聖奈が放心状態になってくると、聖奈の身体を自由にした。
「ほら、聖奈はすぐ敏感になる。」
恭弥が聖奈の身体に触れるたびに、聖奈はビクンと身体を震わせて、恭弥に身体を預けるようにぐったりとする。
「ちょっと、待って。待って。今敏感なの。それ以上触らないで。」
聖奈は恭弥に待ったを掛けたが、恭弥はやめるどころかさらに過激になり、聖奈をベットに押し倒した。
「もう、強引なんだから。」
聖奈は少し頬を膨らますが、それでも嫌な気にはならなかった。むしろ、この時間を大切にしようと、自分から恭弥にしがみついていった。
「ほらな、聖奈はこういうことされるのが好きなんだよ。嫌だった止めてもいいぜ。」
恭弥が意地悪く聖奈に言うと、さらに甘えたように聖奈が言った。
「ダメ。もっとイタズラして欲しい。今日は私を独占するんでしょう。
だったら、続けて。私を離さないで。」
聖奈はそう言うと、恭弥は聖奈の声が外に漏れないように、部屋の防音性上げるため、リモコンで防音機能を上げた。そして、ドア付近でも中の音が聞こえないように完全防音にしてから、その日の晩、恭弥は聖奈と楽しむのであった。
翌朝、太陽の光が部屋に差し込むと、聖奈は目を覚ました。季節は9月中旬、裸では少し肌寒くなってきていたので、リモコンでエアコンをつけると恭弥の方を見た。
横ですやすやと寝ている恭弥の寝顔を見て、聖奈は微笑み、人差し指で恭弥のほっぺを突きながらこう言った。
「寝坊助さん、朝だぞ。起きないとイタズラするぞ。」
聖奈はそう言って、恭弥のモノを優しく掴んだ。すると恭弥は寝ぼけながら、聖奈の胸の谷間に顔を埋め、その柔らかさを堪能し始めた。
「恭弥、こっちはもう起きてるぞ。どうして欲しい?このままほっとこうか?」
聖奈がそう言うと、恭弥の顔はいやいやと谷間で顔を振る。
「嫌か。そうか、そうか。じゃあ、どうしたい。自分でする?」
そう言うと、また顔を横に振った。
「私がするの?そうだったら、首を2回振って。」
すると、恭弥は素直に2回、縦に振った。
「やっぱり、恭弥、起きてるじゃん。じゃあ、どうすればいいの?
ちゃんと、話して。」
聖奈は恭弥に言うと、恭弥はこう答えた。
「聖奈と一緒にいたい。」
恭弥は柔らかい胸の谷間から顔を堪能するように出すと、そう言った。
「そうか、私もそう思っていた。じゃあ。」
聖奈がそう言いかけて恭弥のモノを離して、急に笑い出した。
「残念でした。もう時間ありません。この続きは今日帰ってからですぅ。」
聖奈はそう言って、ベットから降りた。布団から出るとやっと効き始めた絵案だが、やはり裸では肌寒い。慌てて布団に包まる聖奈に恭弥は歯止めが抑えることが出来なく、そして、聖奈に襲い掛かった。
「時間。遅刻しちゃう。」
聖奈はそう言いながらも、恭弥を受け入れていた。
「なんだ、まだ時間余裕あるじゃん。」
すっきりした恭弥は午前7時を表示している時計を見て、ベットで嬉しそうに横たわっている聖奈にそう言った。
「だって、恭弥あのままだと、ぎりぎりまで寝てるもん。楽しめないじゃん。」
聖奈は火照った顔を上げて、嬉しそうに言った。
そして、二人は自然にキスをして、朝の準備を始めたのだった。
二人が手を繋ぎリビングへ行くと、奏は弁当を作っており、恭介は新聞を読みながら朝食を食べていた。
「パパ、奏ママ、おはよう。」
聖奈が挨拶すると、恭介は新聞に少し持ち上げて、奏は作りながらも二人に挨拶を返した。
「おはよう。聖奈、恭弥。昨日はよく眠れたか?」
恭弥は恭介と奏の様子がいつもと違うのですぐに気が付き、笑いながら答えた。
「それはそれは、ぐっすりと寝れたよ。父さん達は…そうでもなかったみたいだね。」
恭弥言葉に恭介は飲みかけたコーヒーを拭きこぼし、奏は手元の胡椒を落としてしまう。
それを見た聖奈も納得して、両親の顔をマジマジに見て言った。
「本当にパパと奏ママ、仲いいよね。羨ましいよ。憧れるな。
私も恭弥とそうな風にお互い思い合えるようになれるかな?」
聖奈は感心しながら言い、恭弥の顔を見ると、恭弥は肩をすくめながら微笑んだ。
「流石にここまで父さん達のように堂々とは出来ないかも。それよりも父さん、
母さんをもう少し労わってやりなよ。母さんの声が丸聞こえだって。
甘い子守歌みたいな声だったけどさ。」
恭弥の冗談は、恭介も奏も無口になり一瞬動きを止めた。
「ちょっと、恭弥ウソつかないで、奏ママの声全然聞こえてなかったじゃない。」
聖奈がそう言うと、恭介はホッとした様にコーヒーを飲み、奏は淡々再び手を動かし始めた。二人を見ながら恭弥は微笑みこう言った。
「こうやって、父さんの焦る所を見るのが面白いんじゃないか。
ほら、母さんだって耳まで真っ赤じゃん。このラブラブ夫婦は揶揄いやすいよ。」
恭弥はそう言うと聖奈は呆れながらも恭介と奏を見て、思わず笑ってしまった。
「はっ、はっ、そうよね、ラブラブぶりが仲良く続けられる秘訣だよね。」
聖奈は照れ隠ししている恭介と奏の二人を見て微笑んだ。
微笑ましい笑い声と共に、新しい朝が穏やかに始まったのだった。
聖奈と恭弥は仲良く登校していると、前で深刻にそうにしている3年の佐竹と馬城が、タブレットを見て、何やら考えたり、話し合ったりしていた。
「佐竹先輩、馬城先輩おはようございます。」
聖奈と恭弥が挨拶すると、3年生たちは振り向いた。
「ああ、綾野姉弟か。おはよう。こないだの試合良かったぞ。
これで全国制覇にまた一歩近づいたな。」
そうやって言ってきたのは佐竹だった。
「そうそう、お前たちがいなかったら、夢のままで終わってたからな。よくやった。」
続けて、馬城がまるで自分たちもメンバーして一緒にやったかのように喜んでくれた。
そう言われて、恭弥も聖奈もとても嬉しかった。でも、佐竹も馬城が出場した個人戦は地区で敗退していたので、事実上、引退した身であった。それでもこうやって喜んでくれることに、恭弥も聖奈もさらに元気をもらえる気がしたのだった。
「それで、先輩たちは何を真剣に話していたのですか?」
恭弥が二人に聞くと、二人はこう答えた。
「いやな、次のトーナメントの対戦で当たるであろう学校の調査を
昨日までしてきたのだが、トーナメントはさらに厳しい戦いが予想されるから、
同対策をしようか考えていたんだが、あまりにもレベルが高すぎて、
不安しかないんだ。」
佐竹はそう言って、ぎっしりと書かれた資料を恭弥達に見せてきた。
その内容はとても短期間で調べたとは思えないぐらい、細かい詳細が書き込まれていた。
「先輩、これどうしたんですか?
こんなに細かく…とても相手の特徴が見やすくて、分かりやすいです。」
聖奈がその資料を見て感動した。
「これは、俺達や、金山の引退組が手分けして、この総当たりブロックの全試合を
見て回っていたんだ。もちろんお前たちの試合も応援していたが、
試合が被った時は1人だけ交代で抜けてな。
でもその甲斐があって、総当たり予選の勝ち上がったチームのデータが揃った。」
今度は馬城がそう言って、恭弥の肩に手を置き、さらに言った。
「今度は予選の時みたいに出遅れたりしない。
作戦をちゃんと練って、戦えるように調べてきたつもりだ。」
データを見る限り、みんなが時間をかけ、丁寧に調べたのだけは物凄く伝わってきた。
「先輩、ありがとうございます。」
聖奈は二人の先輩に頭を下げた。恭弥も聖奈に釣られながらも先輩たちに感謝した。
「俺たちはチームで勝ちに行くんだろ?礼なんかより結果を出してくれたら良い。
それだけお前たちに期待しているんだ。頑張ってくれ。」
佐竹がそう言うと、恭弥も聖奈も力強く返事をした。
「必ず優勝します。そして一緒にその優勝を味わいましょう。先輩。」
恭弥はそう言って、引退組の3年生との絆をさらに深めていくのであった。
朝のホームルーム前、恭弥は茜と一緒に日直当番をしていた時、女子のクラスメートが恭弥の周りに集まり話しかけてきた。
「おはよう。凄いね。綾野君、全国出場だよ。」
「ホント、本当。私は綾野君なら絶対やると思ってたもん。」
「綾野君はどんな子が好みなの?例えば芸能人とか。」
「綾野君って、確か2年の姫柊先輩とは破局したんだよね。
だったら、私、彼女として立候補いい?」
恭弥の周りはそんな女子でごった返していた。
恭弥だけでなく、月詠にも別の女子が、月華も茜でさえ普通にイケメン面の男子が寄ってくる。
「高坂さん、今日の部活の終わりにお茶でも飲みに行かないか?
これからの僕たちの付き合い方を語ろうではないか?」
月華が最も嫌がる男が月華に言い寄ってくると、月華は不機嫌そうに無視をした。
「照れているんだね。可愛いなぁ。高坂さん、いや月華さん俺と付き合った方が
見栄えも、お金も持っているよ。」
無視し続ける月華をよそにエスカレートしていくので、遂に月華が吠えた。
「あの、あの、私は迷惑なのよ。あんたみたいなしつこいヤツはうんざりなの。
私に付きまとわないでくれる。それに、私にはもう恋人がいるの。
あんたなんて問題外。分かったなら消えて。」
月華はそういうと、月詠の方に視線を向ける。月詠もしつこい相手にタジタジになっていた。
『これだから男ってやつは。もう。』
月華は月詠の態度に見かねて、物凄い形相で月詠の周りにいた女どもに言い放った。
「月詠は私の恋人。ちょっかい出さないでくれる。」
月華がそう言うと、周りにいた女子とさっきまで月華を口説いていた男子が揃って、月華に言った。
「うそうそ、嘘はついてはいけませんね。マイ・ハニー。
君たちはれっきとした兄妹だ。血の繋がった兄妹は結婚が出来ないだよ。
マイ・ハニー。」
「そうよ、兄妹愛は素晴らしいけど、男女の間に入れないのよ。
それよりも、月詠君、私、月詠君のして欲しい事だったら、何でもするよ。
私、月詠君だったら何されてもいいからさぁ、私と付き合って。」
そう言って月詠君の腕に胸を押し付けて来る女子に対して、月詠は急に立ち上がり、月華の唇を奪った。いきなりの行動に周りはざわめく。
「分かったか?俺たちはこういう関係だ。俺の月華に馴れ馴れしんだよ。お前は。」
月詠は月華にちょっかいを出していた男性生徒に向かって言い放った。
「こんな所で不謹慎だ。場をわきまえろ。」
男子生徒はそう言ったが、月詠も黙ってはいなかった。
「お前に言われたく無えよ。散々おれの月華にちょっかい出しておいて、どの口が言う?」
月詠は気障な男子生徒の胸ぐらを掴むと、殴ろうとしたが、騒ぎを聞きつけた恭弥に抱えられてた。
「月詠、何やっている?お前が手を出したら、出場停止になるぞ。」
恭弥の言葉に、月詠は動きを止めた。恭弥は気障な男子生徒に向かって、話し始めた。
「月詠と月華は代々受け継がれている血の契約によって、結ばれている相思相愛の
許嫁だ。高木の入る隙なんてどこにもない。
高木はその掟を破ってまで月華とつきたいなら、その掟に抗う試練を受ける
覚悟はあるんだろうな?たぶん高木が思っている軟な試練ではないぞ。
命を掛けるぐらいのな。」
恭弥の迫力のある表情で言われ、高木は思わず後へ、へなへなと下がり、しまいには尻もちしてしまった。月華は高木を見てこういった。
「へなちょこ。私を口説くなら、命の10や20いるってことだよ。ばーか。」
月華までそう言われ、気障な高木は身体を震わせた。
「恭弥、済まなかった。頭に血が上った。月華も悪い。」
月詠は恭弥と月華に謝ると、月華はこう言った。
「私の為に怒ってくれてありがとう。好きだよ月詠。」
そう言って、月華の方から口づけした。
月華と月詠を見て、さっきまでわめいていた他の生徒も、唖然としていた。恭弥は二人を見て呆れていた。
「そう言う事は、二人だけでやってくれるか。健全なクラスメートが引いているぞ。」
恭弥がそう言うと、月華が言い返して来た。
「恭弥だって、人の事は言えないじゃないの?聖奈さんと咲さん、それに茜を
滑らかせてハーレム化って、この女たらしに言われても怖くありませんよ~だ。」
月華はあかんべーをしながら、月詠に抱きつきながらそう返した。
すると、クラスメイトの女子からは黄色い悲鳴のようなものがクラス上に響いた。
「そんな、狙っていたのに。姫柊先輩とは分かれたんじゃないの~。」
「うそ、うそ、うそ。嘘だって言ってよ。それに綾野君までお姉さんとなんて。
嘘よ~。」
「茜、どういうこと。あれほど抜け駆けはなしって言ってたじゃない。
裏切者。私の綾野君を返してよ。」
クラスの女子からは悲鳴のような声が、男子からはガッカリとした声が教室を埋め尽くした。恭弥と茜はどうしたらクラスが穏便に収まるのか、見当もつかなかった。
すると、教室に担任教師の宮崎可憐が入ってきて、この騒動を収めようと、事情聴取を始めた。話を聞いていくと可憐の表情が曇っていく。そしてこう言葉を出した。
「えぇ~? 綾野君がハーレムを作ってる?それも美女ばかり。
私は断固拒否します。綾野君、不潔よ。だって、だって、私、入学当初からずっと
綾野君を狙っていたのに。ファン会員番号だってシルバーの2番よ。」
可憐がシルバープレートに恭弥の顔写真をつけたファンカードをかざしてきた。
恭弥や月詠、月華や茜もそれを見て驚く。でもそれだけではなかった。
クラスの恭弥を思う女子生徒全てがその紙のファンカードを持っており、カードにはシリアルナンバーまで刻印されていた。他の女子生徒が持っているカードよりもランクの上のシルバープレート式カード、しかも番号が2番と表記されているものを持っている可憐は他の女子よりも上の立場だったことに恭弥達は驚愕した。
恭弥の知らないところでそんなプレートとカードが出回っていたことに恭弥は驚いて、こう言った。
「いやいやいや、何勝手に作っているんですか?一体誰がこんなものを?」
恭弥が担任の可憐に聞くと、恭弥の熱狂的なファンが自ら考案して作ったという。
シリアルナンバーの一桁はそれだけ恭弥に狂粋していることになる。
結局、ホームルーム時間だけでは話題が収まらず、そのまま可憐が受け持つ1時間目の英語の授業を急遽自習にして、とことん話し合うことになった。
でも、この事が教頭にばれて、可憐は放課後、校長室へ呼ばれることになったという。
その日の放課後。部室に入ると咲は今朝、佐竹と馬城が調査したデータに目を通していた。
聖奈もその隣で、自分が対戦するかもしれない選手のデータを見て、その特徴や癖、自分がどやったら有利に立てるかを検証していた。そして、なにより、今日から旭日中学剣術部主将氷堂凍夜が2ヵ月ぶりに復帰する。部員もソワソワしながら凍夜の胴着の姿を楽しみにしていた。そして、部活動の時間になり、全員が練習場に移動すると、練習場の中央に凍夜がみんなを待っていた。
「長い間、留守にして済まなかった。この通り、怪我は完治した。
今日より藤堂凍夜は部活に参加する。また、短い期間だが頼む。」
凍夜はそう言って、深々とお辞儀をした。
「みんな首を長くして待っていたぞ、凍夜。
主将代わりの仕事はもう懲り懲りだ。後はお前が好きな様にやれ。
俺は引退の身。そろそろ、お暇させてもらうぞ。」
副主将の日室は肩を揉みながら、昨夜にタッチして練習場を去ろうとした。
個人戦の敗戦後団体のレギュラーを除く3年生は高校受験を控え、それぞれが勉学に集中している。その中で、副主将の日室は主将の凍夜の代わりにずっとベンチ入りし、団体の指揮を取っていた。そして、凍夜の復帰することにより、その任が解け、今日晴々、引退したのだった。
「日室副主将、これまで教えて頂き、ありがとうございました。」
下級生を代表して聖奈が、日室にお礼の言葉を掛けた。続くように下級生の全員が同じように頭を下げて、一斉に言った。
「ありがとうございました。日室先輩には大変お世話になリました。」
急に凍夜以外の全員から言われたので、日室は恐縮するばかりだった。
「なんだよ、お前たち、照れるじゃないか。
俺は何もしてないぞ。これまでやってこれたのはお前たちに力があったこそだ。
それにお礼を言うのは、俺の方だ。剣術も強くない弱っちい俺を、
これまで支えてくれてありがとうな。これで部室には来ないが試合には行くから、
頂上取ってこいよ。それに今年レギュラー取れなかった者も、サポートありがとうな。
でも、来年こそレギュラーを取る意気込みは忘れないでくれ。
それじゃあな。」
そう言って、日室は部室を後にした。実力では今のレギュラーに及ばなかった3年生の大半だったが、絆だけは誰よりも大切にする事を今後、恭弥達は引き継ぐのであった。レギュラーの凍夜と影山と補欠の吹田を除く3年はこれで、高校受験へと歩み始めるのであった。そんな中のデータを必死にかき集めてきた佐竹や馬城、金山も貴重な時間を自分たちに与えてくれたことを恭弥達はただ感謝するしかなかった。
凍夜の指揮の元、旭日中学の剣術部が再スタートした。データを元に詳細が細かく記されているので、どの相手が来ても不足することの無いモノを見て、もし負けるとしたら、自分たちの技量のなさと思えるぐらいなデータに、今自分たちがやらなければならないことは、己を磨くことだけだった。
凍夜はみんなを集めて、咲がデータをまとめた結果を報告した。
「まず、データ通りなら、注意しなければならないところが、
昨年の覇者北海道代表吹雪中学。ここはバランスがよく、女子、男子、混合と
どれをとっても安定している。今年も間違いなく、優勝候補だ。
そして、次に昨年の準優勝校、東京A代表神楽坂中等部だ。ここも古豪で吹雪中学と
同じぐらいマークする必要がある。」
凍夜がそれぞれの特徴を解説していき、みんなは真剣に話を聞いていた。
時より、恭弥達が質問を挟みながら、順調よくミーティングは進んでいった。
「以上が今年の強豪チームだ。何か質問はないか?」
凍夜が全員に聞くが、処所で質問をしていたため、この場での質問はなかった。
しか、凍夜は最後にもう二チームの事を話をし始めた。
「最後に俺がデータを見た所で、今年のダークホースになるんじゃないか
と思うところが2校ある。一つは長崎代表ノーヴィス・アイシェル学園中等部。
これまでの予選、全てが先鋒から中堅で全ての勝負をつけている。参加選手が、
全て海外選手登録されており、その素性も明らかになっていない。
でも、昨年は出場資格がなかっただけで、正式試合の記録は残っていないが、
その全てにおいても、全勝の記録だけが残されていたそうだ。
そして、もう一つは、京都代表豊葦原瑞籬内学園中等部だ。今年新設したばかりの
チームで選手はすべて1年だけだ。でも、圧倒的な強さで勝ち抜いたみたいだ。
その中でも女子、混合でも大将と副将を任されている宮国朱璃という選手は、
今年始めたばかりだというが、女子の中で今大会ナンバーワンと噂されている。」
凍夜はそう言って、聖奈の方を見た。
「当たれば、私が相手となるんだ。宮国朱璃さんか。」
聖奈は資料を見ながら、気を引き締めた。そして、月華も世代でナンバーワンと言われる逸材に、同学年で昨年までのナンバーワンのプライドにかけ、この先何度も対戦することになることを楽しみにしている。
「誰が同世代ナンバーワンか、ハッキリつけてやります。」
月華も燃え上がっていた。だが凍夜はさらに続きを話始める。
「注目は宮国朱璃だけではない。男子、混合の大将を務める鴇田宗仁にも
気を付けた方が良いな。試合は決まって奥義で決めている。
何でもその場の空間を操りながら、空間ごと何もかも切り裂いているらしい。」
凍夜はそう言って、今度は恭弥の方を見た。その時、みんなが一斉に恭弥と凍夜を見た。
「大将は氷堂主将がやるんじゃないんですか?」
2年の今田がそう言って、凍夜を見た。だが凍夜は首を横に振り、恭弥を見て言った。
「この大会の男子、混合の大将は恭弥に任せる。俺は中堅に回る。」
凍夜の言葉に部員全てが驚き、その真意を凍夜に尋ねた。
「どうして、主将が中堅で、恭弥が大将って、納得いきません。
理由を聞かせてください。」
サポート組の2年生を中心に恭弥も凍夜の方を見た。凍夜は微笑むように答え始めた。
「入学当初はともかく、俺はとっくに恭弥と月詠に追い越されている。
それgあ理由だ。大会前から、そう決めていた。だが、大会前は月詠の調整が遅れる
のではと思い、副将として登録していたが、副将もいずれ月詠に明け渡そうと
していた。実際、力試ししても良いが、不慮の事故は避けたいからこの言葉で
勘弁してくれ。」
凍夜はそう言うと、恭弥と月詠に近づきこう言った。
「それとも、他にこの二人を認めないものはいるか?
俺が納得出来ないなら相手してやるぞ。」
凍夜がそう言うと、2年生たちは黙ってしまった。聖奈も咲もその様子を微笑みながら、
時代のエース候補の二人を見ていた。
こうして、ミーティングは終わり、それぞれが練習に力を入れた。
3日後全国大会の組み合わせ抽選会があり、本当の戦いが幕を降ろされた。
本大会は決勝まで最大で6試合あり、旭日中学はくじ運が良かったのか、女子・男子の団体は2回戦からの出場になった。しかし、先日凍夜から話題となった京都代表豊葦原瑞籬内学園中等部とは、上手くいったら準決勝で当たることとなるが、その前に豊葦原瑞籬内学園中等部は昨年の準優勝校の東京A代表の神楽坂中等部と先に戦うこととなり、前評判では、神楽坂中等部に軍配が上がると予想されていた。ただ、旭日中学の対戦相手も気の抜けない相手ばかりであった。初日の前日、練習の終わりのミーティングの時。
「初戦の相手も決まり、それぞれ順調に調整も進んでいる。
みんなも知っての通り、それぞれ1回戦から2回戦までは初日に、
3回戦から準々決勝が2日目に、そして準決勝と決勝は3日目に行われていく。
男子団体はその翌日から女子と同じように、さらに混合団体もその後と、続いていく。
明日は女子の2回戦だ。俺たちの野望を轟かせるには、まず女子が幸先よい結果が、
重要だ。だから、綾野、姫柊、桐生、高坂、桃井、吹田は全力を尽くしてくれ。」
凍夜はそう言って、聖奈たちを鼓舞した。
「分かりました。旭日中学に恥じない戦いを約束します。
咲、姫香、月華ちゃん、茜ちゃん、吹田先輩、力を合わせて勝利を勝ち取ろう。」
聖奈は右手を掲げると、他の5人も聖奈と同じように腕を挙げた。
「聖奈、咲、月華、茜、頑張れよ。」
恭弥が4人に応援すると、姫香が恭弥に文句を言った。
「弟君、私や吹田先輩もいるんですけど?4人だけに言うの酷くない。
ねえ酷くない。私と吹田先輩はどうでもいいんだ。姫香、泣けちゃう。」
姫香はそう言うと、彼氏の冬季に泣きついた。恭弥はおどおどしながら必死で姫香と吹田に弁解した。
「桐生先輩、忘れていたわけではないんです。ただ、この4人は特別と言うか・・・。」
「私は特別ではないと。冬季も弟君に言ってやってよ。私仲間はずれされたんだよ。」
恭弥は謝るが、姫香は冬季に恭弥に一言言ってと頼み込む。
「恭弥、なんで可愛い姫香を仲間外れにするんだ。俺がおまえを折檻してやる。」
冬季が恭弥にコブラツイストを掛けると、恭弥はすぐにギブアップした。
そんな様子を聖奈も咲も、月華も茜も笑ってみていた。だが、吹田だけは和めなかった。
何か考え事をしているような、じっと一方を見つめていた。
『ここに翼がいないんだと思うと、なんか複雑だよ。翼はもう高校を決めたのかな。
最近なかなか話せてないな。』
吹田は同じ3年で引退した親友の事を思い返していた。
『私は金山翼。よろしくね吹田さん。』
『女子団体は茉央と組めば優勝だ。』
『負けちゃったけど来年は一緒にもう一度この悔しさを糧に頑張ろう。』
『最後は桃井。金山、すまんが以上だ。個人戦頑張ってくれ。』
『なんで、私だけ入れなかったんかな?悔しいけど茉央は頑張って。補欠とはいえ、
メンバーに入れたんだもん。チャンスはあるよ。」
『勝負あり、本庄中学、山辺さん。』
『あ~あ、私の最後の試合終わっちゃった。茉央、団体で優勝目指して。』
吹田は金山との思い出を思い出し、ここに金山がいないことを悲しんだ。
『翼、私は寂しいよ。翼がいたら、私もあんな風に和気あいあいと入れたのに。
翼、私だけじゃ寂しすぎるよ。』
吹田はそう思いながら、姫香たちを見て思わず涙が零れた。
一方、なかなか許して貰えなかった恭弥に、聖奈が助け船を出す。
「冬季君、そこらへんで勘弁してやってよ。恭弥も私の大切な姫香を忘れるなんて、
反省しなさい。姫香も恭弥がこうやって反省しているから、許してやってね。
吹田先輩もすいませんでした・・・、吹田先輩?」
聖奈が泣いている吹田を見て、心配した。
「弟君、吹田先輩が泣いちゃったじゃん。謝りなさいよ。」
姫香がそう言うと、恭弥も驚いたようにひたすら吹田に謝るが、吹田は何でもないと言って、その場を逃げるように立ち去った。
「恭弥が悪い。謝って来なよ。」
聖奈と咲はそう言って、恭弥に吹田の後を追わせた。
練習場を出て、いつも金山と吹田が自習トレを行っていた場所に、吹田が1人佇んでいた。
恭弥は覚悟を決めて吹田に話しかけた。
「吹田先輩、すいませんでした。」
恭弥がそう謝ると、吹田は真剣に謝る恭弥を見て、微笑んだ。
「君は周りをもっと見た方が良いよ。君の知らないところで誰かが傷つくかもしれない
のだからな。でも私に謝ることはない。私は君たちの仲が良い所を見て、
翼のこと、いや金山の事を思い出してしまって、思わず寂しいなと思っただけだ。
君どうこうじゃない。」
吹田はそう言って、恭弥に返事をした。
「ここは金山と1年生で初めてあった所で、ずっと二人で練習していた所だった。
楽しいとき、苦しいとき、いつも二人で乗り越えてきた親友だった。
勝負の世界にでもはないけど、女子団体は金山と一緒に出たかった。
それだけが心残りだ。茜が実力で勝ち取ったことに不満はない。
でも、私は翼と一緒に夢を叶えたかった。」
そう言うと、恭弥は吹田にこう話した。
「俺にも、月詠や、月華のようなライバルであり、親友がいます。
いずれ、金山先輩みたいに離れ離れになるかもしれません。
でもその時が来ても俺はどんな立場になっても、応援したいと思っています。
金山先輩も同じようなことを考えているんではないでしょうか。
吹田先輩には最後まで頑張って欲しいと。」
恭弥は吹田にそう言うと、いつの間にか聖奈たちも恭弥の後に立っていた。さらにその後ろには、引退した金山が立っていた。
「茉央、なにメソメソしているの?茉央らしくないぞ。」
金山はそう言うと、吹田を抱きしめた。
「翼。私、わたし、翼がいなくなって諦めてた。もう一緒にやれないだって。
私、翼がいなくちゃ、ダメなんだ。」
吹田は泣きながらそう言うと、金山がこう答えた。
「茉央はそう言うと思って、私お守り持ってきた。
塾へ通いながらも、空いた時間使ってね。でも間に合わないと思って
この私が徹夜したんだぞ。でも間に合って良かった。
このお守りを私だと思って、頑張って。」
金山がそう言うと、吹田に手作りのお守りを渡した。吹田はお守りを受け取り見るとこう言った。
「変な形しているな。ここ縫い忘れもある。」
「もう、茉央ったら、これでも私、慣れない裁縫頑張ったんだからね。」
金山が怒った風にでも笑っている姿に、吹田は笑いながら金山に謝る。
「翼、ありがとうね。これで私は頑張れるよ。いつも翼がそばにいてくれるから。」
吹田はお守りを金山に見せてそう言った。
「茉央、頑張れっ。私は見ているよ。」
金山の吹田にエールを送る姿に、恭弥達も気合いが入る。特に茜は自分が金山の代わりなんだと思い、より一層、気合いを入れて望むのであった。
大会当日。今日の2回戦から出場で、聖奈たちは初戦を待つ間、次の対戦する中学の試合を見ていた。両校とも全国へ出場するだけの事はあり、抜け目のない互角の戦いだったが、3対2で島根県代表の出雲中学が3回戦に進んだ。試合が終わると聖奈たちは初戦のに向けて準備を急いだ。出雲中学からベンチを明け渡されて、その選手の1人から聖奈はこう言われた。
「明日、対戦しましょうね。」
そう言って、会釈されすれ違った。聖奈以外に緊張感が生まれた。でも聖奈はこう言った。
「そうねですね。私も楽しみです。」
聖奈の堂々とした姿に咲たちの緊張が少し緩和された。そして、改めて、全国の舞台に上がったんだとそれぞれが思い、そして3日間の試合が始まろうとしていた。
初戦の相手は三重県代表の伊勢中学で、姫香、茜、月華が立て続けに勝利を収め、順調な滑り出しを見せた。しかし、予選と違い、副将戦と大将戦も行られるため、その後も咲と聖奈が安定した試合運びで勝利し、チームは無事に3回戦進出を決めた。
「あれが綾野聖奈よ。朱璃が目指す昨年のナンバーワンよ。よく見ておきなさい。」
そう言って、豊葦原瑞籬内学園中等部の監督志士槇が朱璃に耳打ちした。
「ふうん、あの人が綾野さんか。
なんか、もっと凄い人だと思ったけど、そうでもないみたい。」
朱璃は獲物を見るように聖奈を凝視していたが、自分の想像よりも期待感が外れたことで、その先のノーヴィス・アイシェル学園中等部の大将を見てこう言った。
「あっちの人の方が今は注意した方がいいかな。」
そういって、朱璃はノーヴィス・アイシェル学園中等部の大将ユースティア・アストレイを見て笑みを零した。
幸先の良い勝利で飾った聖奈たちが帰り支度を整えてた時、聖奈と咲はみんなと別れて、神楽坂中等部と豊葦原瑞籬内学園中等部を見ていくことにした。
月華達と分かれた理由は、折角いい雰囲気でいる月華たちに、いきなり強豪校の試合を見せて自信を失くすことを避ける為だった。
この二校はそのどちらかが準決勝で当たる為、今からそのプレッシャーを受けないようにする配慮だった。でもその予感は的中し、神楽坂中等部と豊葦原瑞籬内学園中等部のどちらも圧倒的の力を見せたのである。特に神楽坂中等部の暁紅羽と宝条蘭は噂通り、相手をねじ触れるスタイルが見られ、動きも早かった。
「神楽坂中等部は調べてもらった通り、強いね。でもいい試合が見れたわ。」
聖奈はそう言って、自分が対戦するだろう宝条蘭の動きを事前にチェックできたことを喜んだ。でも、もっと驚いたのはその後の試合だった。
豊葦原瑞籬内学園中等部はその全員がレベルが違うと思い示されるほどだった。
先鋒の稲生滸はその長身のとバネを生かしながら愛刀の日本刀を巧みに使い勝利を収めた。
「勝負あり、豊葦原瑞籬内学園中等部、稲生さん。」
主審の旗が稲生を指したが、稲生自体大技どころか、技を出さず勝ってしまった。
続く次鋒戦、椎葉は舞うような動きで相手を圧倒し、『奥義、調』と称する技で完勝。観客が息をのむほどの完璧な試合運びだった。
中堅戦はエルザが170センチを生かし、力強く相手を襲い、最後は武器破壊して、結局試合続行不能で勝負がついた。最後の技は『獅子白虎剛烈斬』と言っていた。
この時点で豊葦原瑞籬内学園中等部の勝利した。
副将の緋彌命は巫女の姿で会場を沸かせたが、その試合内容でさらに沸かせた。
「始め。」
主審の合図で相手校の選手が襲い掛かる。でも緋彌は風が吹き抜けるようにさらりと躱し、
相手が疲れてきたところを、今度は怒涛に攻めまくる。
「四季折々の光臨。春のハーモニーはさくらの舞うように素晴らしく、
夏の調は熱気が轟くように、秋の歌は別れを指す様に、
そして冬の冷たい奏では心を折るように。『散塊』。」
緋彌がそう叫ぶと、相手の選手がまるで心を折られるようにその場に倒れこみ、そのままリタイヤとなった。
「勝者、豊葦原瑞籬内学園中等部、緋彌さん。」
主審の声が響き渡るが、何が起こったのか誰も分からなかった。
そして、今年最強の宮国朱璃が登場する。朱璃は緋彌に一言言った。
「命、楽しかった?弱い相手にあそこまでするのなんか可哀そうになるよ。」
朱璃はそう言うと、命は微笑みながらこう言った。
「折角、偵察に来ていらっしゃるのに、情報の一つぐらいは提供しないとですわ。
まぁ、それを研究しても、技は無限に出来ますしね。」
命の言葉の意味を理解している朱璃は笑みを零した。
「確かに命の技は無限だからね。」
朱璃はそう言って、自分の試合に向かった。その格好も命と同じく巫女の衣を着ていた。しかし命とは違い、その衣から不思議な光が発せられている。しかも朱璃が持っている愛刀も同じく光っていた。でも、朱璃の試合は誰もが想像つかない終わり方をする。
「始め。」
主審の合図がすると同時に朱璃が動いた。でもその光景は言葉一つで終わった。
「光縮。」
主審の声と同時に、朱璃の姿が一瞬にしてかき消えた。次の瞬間、相手選手が崩れるように倒れ込み、朱璃は彼の背後で静かに立ち尽くしていた。何が起きたのか誰も理解できず、会場全体が静まり返る。主審が確認を終え、ようやく震える声で旗を挙げた。
「勝者、豊葦原瑞籬内学園中等部、宮国さん。」
会場にどよめきが起こる。見ていた聖奈ですら
なにが起きたか分からず、朱璃が消えたことしかわからなかったのだった。
「咲、何が起こったの?私、何も見えなかった。」
聖奈の動揺が咲にも伝わる。あの聖奈が朱璃の技を生で見て、分からなかったのだ。
咲も動揺したのか、言葉が出ない。
「咲ってば、教えて、何が起こったの?」
聖奈はそう言って、咲が録画した映像を見せるように、咲の肩を揺らした。
咲は言われるまま、映像を確認するが、映像でもにも映ってはいなかった。それどころか朱璃がいた場所から試合が終わった場所へ、ものの一秒で移動したのだ。何回も繰り返しては、スロー再生しても結果は同じで、咲も聖奈も身震いがするほど、物凄い瞬殺劇に恐怖を覚えるのであった。
この強さに、咲と聖奈は双球の対策をしなければならないほど、その強さに飲まれていった。そして大会初日が終わった。
会場を後にした聖奈と咲は全国の開きを実感していた。特に聖奈は昨年の王者の驕りはなく、あくまで自分は挑戦者だと思ってこの一年戦ってきたが、聖奈はいつの間にか追われるものになっていたことに、恐怖を感じていた。そして、今日の宮国朱璃の試合を見て実感がました。追い抜かれるという恐怖に。聖奈はそのまま練習場に行き、自分が何に恐怖するのかを確かめるようにひたすら朱星光月焔を振り続けた。
咲はそんな聖奈に言葉を掛けられずにいた。これは聖奈自身しか分からなかったことだったからだ。
『聖奈。』
咲は心の中で自分は聖奈に勝てると思い込んでいた。でもそれは驕りだったことに気づいた。
『聖奈はこれまで、努力してきた。誰にも負けないように。
でも私は怪我を理由に聖奈と真剣に勝負をしてこなかった。
それが今、聖奈をこんなにも苦しめることになるなんて思いもしなかった。』
咲はそう思いながら、ただ愛刀を振り続ける聖奈を見守るしか出来なかった。
『宮国朱璃は強い。だから、私は宮国朱璃に対してどうすればいいの?
どうしたら、勝てるの?誰かに聞きたい。でも私が弱音を吐いたら、
チームはダメになる。それじゃ意味がない。私は私で強くならなきゃいけないんだ。』
聖奈はそう思いながら、雑念を振り払い、愛刀朱星光月焔を振り続けた。
しかし、それは明らかにオーバーワークだと気かづかずに。そのオーバーワークが翌日の試合に影を落とすのであった。
翌日の3回戦。この日も姫香、茜、月華の調子はよく、出雲中学を圧倒した。そして、咲も勝ち、聖奈に繋げる。しかし、昨日の素振りの影響で、聖奈は身体が重かった。
『あれ、おかしいな。気持ちは乗っているのに身体が動かない。』
聖奈はそう思うが、大将戦をじたいする訳にはいかず、試合に挑む。
「大将戦、始め。」
主審の合図が掛かり、同時に出雲の大将が襲い掛かってきた。
いつもの聖奈なら簡単に避ける事が出来るのに、今日は身体が思うように動かない。先手を取られた聖奈はすぐにポイントを取り返すが、続かない。そして、勝負が混戦のまま時間だけが長く感じてきた。
『おかしいな。どうして動かないの?どうして頭でイメージした動くが出来ないの?
いままで、こんなことなかったのに、どうして。』
聖奈は相手がなり振り捨てて、襲い掛かってくるのを避ける事が出来ず、攻撃を食らいながらも必死に耐えた。
『そうか、相手は3年生。この試合が最後なのか。だから予想以上の強さがあるのね。
だったら、私は。』
聖奈は相手の思惑を逆手に取り、自分が出来ることに集中し始め、そして、相手が僅かに見せた隙に、全神経を集中させ、一撃を入れた。結果それが聖奈の渾身の一撃となり、一本を取ることが出来た。
「勝負あり。勝者、旭日中学綾野。」
聖奈は勝ちはしたが、明らかに試合内容が悪すぎた為、応援していた恭弥が心配になって、聖奈のもとに駆け付けた。
「聖奈、動きが悪かったけど、どこか怪我してないか?」
恭弥は心配して聖奈の身体を触りまくった。
「きゃぁはっはっ。くすぐったいよ恭弥。私はどこもケガしてないし、大丈夫だよ。
相手は3年生で最後の試合で圧が物凄かっただけ。
3年生の意地ってやつを初めて実感したよ。
それに恭弥ここでこんな事したら、係の人が来てセクハラで恭弥の試合没収に
なっても知らないわよ。」
聖奈はそう言って、恭弥を引き離して、自然な態度を取った。しかし、明らかに聖奈は無理していることを咲は思っていた。
そして、次の準々決勝が始まるまで、咲は聖奈にしっかり休むように忠告した。
「聖奈、明らかに身体が重そうよ。みんなは誤魔化せても、私にはお見通しだから。
いい、ここでしっかり休みなさい。今はそれが聖奈のすべきことよ。」
咲はそう言うって、強引に聖奈を休ませた。
「ごめんね、咲。あなたの言うとおりね。でも私は大丈夫だから。」
聖奈はそう言うと咲が睨みつけて、聖奈は仕方がなく休むことにした。
その休息は聖奈にとって、良い急速になった。
『ごめんね、聖奈。私が出来ることは今はこれが精一杯だわ。
でも聖奈にはこれ以上負担が掛からないようにするわ。』
咲はそう思って、姫香たちを呼んだ。
「みんな聞いて。次の対戦する翠嵐学院中等部はこれまでと違って、油断は禁物。
まず先鋒の月琴宝叙は軽業使いの様に身体が身軽だから、タイプは姫香と同じ。
だから姫香は動きに惑わされず、自分の力を信じて。」
姫香が頷く。
「次に笛春梅について。素早さと正確さが特徴で、茜にとって不利なヒットアンド
ウエイで攻撃してくるの。だから茜は無理をせず的確に攻めてくる所をフェンリルで
削っていって。」
今度は茜が頷く。
「そして、月華は上からの攻撃に気を付けて。相手の琵琶金蓮は身長が月華よりも
15センチ上だから。しかも力技で来る。月華は相手とやり合うのではなく、
当てては離れていって。」
月華は咲に自分のプランを言った。
「相手が長身でパワーがあるなら、私はあいてのパワーを利用して、
カウンターを掛けたい。そうすれば相手は自らのパワーと私の攻撃を同時に
受けることになるから、その作戦とヒットアンドウエイする。」
咲はその月華の考えに一つだけ忠告して承諾する。
「でも、なるべくダメージは避けてね。カウンターはここぞの時というまで
使わないことが条件ね。」
月華は頷く。そして咲は手を差し伸べてこう言ってこの場を締めた。
「今日の聖奈は、明らかに調子が悪いの。
だからといって、みんなに不安にさせるレベルじゃない。
だから聖奈には負担が掛からないように私で決めれるように試合を進めて。
これは聖奈の為でなく、私達が成長するための挑戦よ。」
咲は自分に言い聞かせるように、みんなに言った。
2時間後、準々決勝が始まった。
咲のアドバイスが効いたのか、先鋒戦は姫香有利に進めていった。
『咲のアドバイス通り。でも中国4000年の技は伊達じゃないのね。
気を抜けば、すぐに逆転されてしまう。』
姫香は自分の技を繰り出しながらも、相手の攻撃を何とか避けながら、戦い続ける。
「大車輪乱れ突き。」
翠嵐学院中等部の先鋒月琴宝叙は月上の刃を回転させ、空気を切るかまいたちを起し、姫香に襲い掛かってきた。姫香は氷結晶を自分の周りに展開して防ぎ、逆に氷の刃を月琴宝叙の頭上に落とした。それを避ける月琴宝叙だったが、避けた所を予測していた姫香はトドメの一撃を入れた。
「奥義、氷結晶、金糸針。」
無数の細かい金色の張りが月琴宝叙の下方から突き刺さるように月琴宝叙を貫いた。
「勝者、旭日中学、桐生さん。」
姫香は先鋒戦を勝ち取った。
「次は茜の番だよ。ガンバ。」
姫香はそう言って、茜と恒例のハイタッチをして繋いだが、その茜は予想通り、苦戦した。
近接を得意とする茜は、翠嵐学院中等部の笛春梅の攻撃の前に持ち前のフェンリルの桜花がなく、大会前に恭弥と特訓した遠距離技を繰り出して応戦した。
「ソニック、ガブスレイ。」
フェンリルの分身体を作りだし、笛春梅に攻撃を当てようとするが、あまりにも素早い動きに的を外し続け、反対に音を作り出して攻撃する笛春梅の攻撃は正確無比の様に茜を捉え、茜は徐々に体力を奪われていった。そして、笛春梅のラストアタックが茜を襲う。
「フィリング・エコー・イリュージョン。」
笛春梅が奏でる小刀の擦れ合う音が茜の耳を犯し、茜は幻想の笛春梅に惑わされる。
茜は笛春梅を攻撃するが、それは全く違う場所で、茜は春梅の正確の位置が分かず、自分は攻撃していると思っているが、外から見たら、でたらめの方向に技を放っているしか見えなかった。そして茜が笛春梅を見失っている内に茜の懐に入って、2本の小刀を茜の脇腹を抉るように突き刺した。
「勝負あり、翠嵐学院中等部笛さん。」
主審の旗が笛を指した。これで1勝1敗に戻されてしまった。
「すいません。」
茜はしょんぼりと帰ってきたが、姫香にこう言われる。
「茜、気持ちを入れ替えて応援するよ。まだチームは負けてない。
だから、しっかり応援。」
姫香の励ましに茜は気持ちを入れ替え、月華を応援する。
「月華、わたしの分まで頼んだ。」
茜がそう言うと月華は頷き、対戦する翠嵐学院中等部の中堅琵琶金蓮に対して、闘志を燃やした。月華は咲の忠告を守りながら、ヒットアンドウエイを続ける。
「この、チマチマとうるさい。こいつデータと違うじゃん。」
金蓮は月華の動きに翻弄されながら、自分の攻撃が当たらないのにさらに苛ついた。
『だいぶ苛ついている。そろそろ、狙い目かな。』
月華は相手の動きを見ながら、自分が発案したカウンターの機会を伺っていた。
すると、痺れを切らした金蓮が月華に突進してきた。月華はそのチャンスを狙っていた。
「奥義、猛虎爆裂砕。」
金蓮が仕掛けた技に月華が奥義で返した。
「クレセント・ムーンライト・ブレイク・インフェルノ・ライガー。」
月華の最大奥義を金蓮にぶつけた。しかし、体重差もあり金蓮の方が重い為、月華は予想より衝撃が残った。金蓮も月華の捨て身の奥義に自分の技の威力のカウンターが決まってしまい、想定以上のダメージを負ってしまい、試合が続行できなくなった。
「勝者、旭日中学高坂さん。」
月華も衝撃で愛刀三日月神楽を握る握力がこれ以上試合を継続することは出来ないぐらい両手に痺れが残っていた。カウンターを正確に入れた分、金蓮よりも辛うじて立っていられた。立ってられたのは、負けた茜のリベンジと勝利への執念だった。こうして2勝1敗と勝ち越した。
翠嵐学院中等部戦、副将の対戦が始まろうとしていた。試合前に咲は聖奈にこう言った。
「私で決めるから。聖奈は安心していて。」
咲なりの聖奈への励ましだった。しかし、聖奈はそう捉えなかった。
『咲それってどういう意味?私が不甲斐ないからなの?
今日の私だと不安なの?』
聖奈は咲の言葉をそう捉えてしまった。そして咲を見てこう返した。
「私のことなら大丈夫だから。咲も無理しないで。」
聖奈はそう言って咲を送り出した。咲は頷きながらも聖奈の言葉が痛々しく思えた。
「副将戦、始め。」
咲の相手は古琴瓶児という。瓶児は刃の持つ手側に琴の弦がついており、刀を自在に投げては弦で操っていた。咲はそのデータも頭に入れており、自分が得意な遠距離による範囲外の攻撃と愛刀阿修羅と夜叉の二刀を振りかざして、瓶児を困惑させた。
「ガネーシャ、カーリー。」
咲は攻撃を緩ませず連続させた。こうして咲の初動による攻撃は思い通りに進められた。
「夜叉、お願い。」
試合中盤、咲は意思のある愛刀夜叉にそう言うと、夜叉が光出す。
「夜叉奥義・時空烈波無限連斬。」
咲はこれまでに聖奈との試合にしか使った事しかない技を繰り出した。
瓶児が技の軌道を読んで避けるが、瓶児に技が当たる。これは咲が放った幻覚と距離感が咲と夜叉で瓶児を狂わせた。
『なぜ当たる。それになんだ身体が引き裂かれる。』
瓶児は自分に起きている事が分からなくなった。そして咲は勝利を確信するように微笑む。
当たった瞬間瓶児の姿が観客の目からはぼやけてしまう錯覚が生まれた。咲から見た瓶児はその時点で斬り刻まれており、技の内容は咲と主審しか分からなかった。観客の視界が正常に戻ったころには、既に瓶児は倒れており、主審もそれを見て瓶児が戦闘不能と判断した。
「勝者、旭日中学、姫柊さん。」
こうして、翠嵐学院中等部戦にチームの勝利は確定した。
待機所に戻った瓶児は何が起こったのか理解できなく、そして敗北したことなのになぜかその実感がわかずにいた。そして、時間が経過するとその技の後遺症が徐々に出てきた。
自分が幾度となく咲に斬られていく光景だけが頭に映像として蘇ってくるのだ。
しかもその発動も剣先も自分ではりかいが追いつかなく、ただ斬られる恐怖だけが残った。
「やめろ、来るな、来るな。私を切らないで。」
瓶児は幻覚は続き、精神異常をきたす。それを見た大会本部が試合を中断させ、瓶児の治療を施すが、処置出来ないでいた。当事者の咲に大会本部が事情を伺うが、咲はこう言う。
「大丈夫です。あと数分で収まります。」
数分経った後、咲の言う通り、瓶児の幻覚は収まり、そして試合の内容はこれとして思い出せなくなっていた。
聖奈は咲がこれまで禁じ手として扱いに最大限気を使っていた咲が封印を解いたことに自分の不甲斐なさを痛感させた。
『咲、なんであの技の封印を解いたの?』
聖奈は咲を見て、そう思った。この技は聖奈以上と言われる咲の奥の手だった。
しかし、あまりにも残酷で、試合後も後遺症が残ってしまうため、咲自身は1年の練習試合で聖奈に使った後はこの技を封印していた。それは咲の優しさだった。しかし、その封印を解いた咲はそれだけ本気を出していると、聖奈は感じ、また自分が追われる者として自覚するのであった。
30分の後、瓶児の錯乱が消え、試合が再開されようとした。しかし勝敗は既に決まっており、聖奈と翠嵐学院中等部の大将二胡黛玉の消化試合だった。それでも二胡黛玉は相手の技殺しと異名を持つ強敵だった。黛玉は相手の技を見ただけでその技の対応策を試合中でも考え行動に移す天才だった。簡単な技なら一度、奥義クラスでも5度見れば全てが、
その技をオリジナルの技に変えることができた。そんな相手を見の前に聖奈は試合の準備をする。休憩した分、先ほどの試合よりだいぶ動きに精彩が戻ってきていた。でも咲の封印した技を見て、聖奈の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
宮国朱璃という強敵に、咲の本気。それが聖奈の頭でイレギュラーなノイズを出していた。
『今は目の前の相手に集中しなきゃ。落ち着け私。』
聖奈は総頭で繰り返し、冷静さを保とうとした。そんな聖奈に咲と恭弥は違和感を覚えていた。特に聖奈をずっと見てきた恭弥はいつもの聖奈ではないと感じていた。
『聖奈、どうしちゃったんだ?さっきも明らかに違っていた。いつもの聖奈ではない。』
恭弥は不安になりながらも、聖奈が調子の回復を願った。
一方、咲は聖奈の様子と自分に対する様子が明らかに違う聖奈の事が心配だった。
『聖奈はきっと追いかけられていることに気が付いたんだ。自分が否定しても、
周りからは狙われる王者だということを。でもそれは聖奈が逃げることができない
宿命だから、私が本気を出したのも、聖奈にその宿命を自信で超えていくしかない。
壁を超えた先に宮国朱璃に勝機が絶対見いだせる。それをこの試合で見せて。』
咲はそう願い聖奈を試合へ送り出した。
「それでは、大将戦始め。」
聖奈が黛玉に仕掛けた。
「エリアシューティングライトニング。」
聖奈が最も得意とする技だ。しかし黛玉は軽々と避け、逆に同じ技で対抗してきた。
「エリアシューティングライトニング。」
黛玉が放った技は聖奈の放った技よりも遥かに威力があり、聖奈はそれを避けようしたが、威力に押されて、体勢が崩れた。黛玉はそれを逃さない。
「ヴァルデフィア。」
黛玉は三又の槍をかざして稲妻を集め、聖奈を串刺ししようと突進してきた。
聖奈はバランスを崩しており、それと同時に自らの技を食らった影響で瞬時に動くことが出来ず、回避が遅れた。そのため避けきれず、脇腹にダメージを追ってしまう。
それでも聖奈は反撃する。
「フェニックス・アロー。エターナルプラズマライト。」
聖奈が立て続けに技を出すが、既に知られているフェニックス・アローはフェニックス・アローで、恭介の技も知っているので、エターナルプラズマライトも避けられてしまう。
代わりに全く同じ技でも威力が数倍上がっているエターナルプラズマライトに聖奈は追い詰められていく。
「なら、これはどうだ。エターナルサンダーボルト。」
聖奈自身初めてだが、父恭介もう一つの技を使った。
それでも黛玉には効果はなかった。技を出すほど、聖奈はその技で追い詰められていく。
『身体は動くのに技が通らない。』
聖奈は頭をフル回転させ、今できることを考えた。黛玉はわざと聖奈の間合いに侵入してきた。聖奈はそれを見て、あの技を出すか迷っていた。
その技とは聖奈の奥義スターライト・ビックバン・ブレイクシュートだ。
『でももしこの技が効かなかったら、私自体が大ダメージを負ってしまう。
ええい、怯むな聖奈。私は私だろ。これまでどんな逆向も自分で解決してきた。
恐れるな。今は前へ突き進むんだ。』
聖奈は一瞬躊躇ったが、奥義を発動する事にした。だがその躊躇いが聖奈にとって吉と出るか、凶となるかの瀬戸際だった。でも聖奈は決意し、奥義を発動した。
「奥義スターライト・ビックバン・ブレイクシュート。」
「ダメ、聖奈それは罠よ。」
咲は画面越しでそう叫んだが、聖奈には届かなかった。
黛玉はニヤリとしてこう言った。
「それを待っていた。これで綾野聖奈の連勝は終わりだ。」
そう言って、黛玉も聖奈の奥義と同じ奥義を、しかも聖奈より威力が増した奥義を放った。
聖奈は一瞬の戸惑いがさらにこの状況を悪化させていた。技は黛玉方が早く、聖奈はそれをまともに受けてしまった様に見られた。
バトルフィールド舞台が閃光につつまれた。画面越しに咲は聖奈が無事を案じるが、再び画面が映し出されたのは、聖奈のボロボロになった姿だった。
でも、まだ聖奈は立っていられた。それは咲の声が聖奈に聞こえて、聖奈は奥義の技を途中解除して、直撃だけは避けた。でも躊躇した分、回避が遅れ、半身が自らの奥義を食らってしまった。それでも、ボロボロになりながらも立ち続けるのは、聖奈の意地だった。
どんなに窮地に追い込まれても、聖奈の目にゆるぎない光を灯していた。
『さて、どうしようかな。このまま相手に見したことのある技はすべて返されると。
でも即席の技でもダメ。残すのは私の最大奥義だけか。でもまだ未完成なんだよね。
あれはもう少し完成させて使いたかったけど、私はいつでも全力全開でなくちゃあ。
それが私だもん。』
聖奈の中で何かが弾けた。そして半身ボロボロの中、聖奈は構えた。それはまだ誰にも
見せたことのないとっておきだった。
「行くよ。私のオリジナル。テラ・ミッションブレイク。」
聖奈の身体がふわりと浮いたように見えた。その次の瞬間黛玉の身体が激しく揺れ、聖奈よりも高く舞い上がった。そして落ちてくる無防備の黛玉に聖奈が仕掛けた。聖奈の周りに何かがいる。でもその技がどんな技だったかと言えば、表現が難しく、見たものは聖奈の代わりに攻撃しているしか分からなかった。それでも今の聖奈にとっての奥の手だった。
黛玉は突然の知らない技で、しかもその技には欠点があった。その技に聖奈の身体が悲鳴を挙げたのだ。だがそれこで、主審が試合を止めた。
「それまで、タイムアップ。時間切れ、勝敗は優勢で旭日中学、綾野さん。」
聖奈はその瞬間意識を失った。黛玉は気絶しており、勝敗はそこで時間切れとなったため、聖奈に軍配が上がった。聖奈が意識を取り戻したのは、2時間後だった。
「あれ、試合は?私負けちゃったの?」
聖奈が咲にそう尋ねると、咲は首を振った。
「優勢勝ち。でもあのまま負けちゃった方がよかったかも。
でも良かった。身体に異常がなくて。今先生を呼んでくる。」
咲はそう言って、医務室を出た。部屋に聖奈1人だけ残り、咲の言葉に戸惑った。
『咲、どうして、そう言うの?』
そして聖奈はいない部屋で1人涙した。
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