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貧民街
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追手を砂に埋めて一旦は逃げ切ったオネ。
しかし残念なことに未だ追われ続けているようです。
「一体何人いるの! どこに逃げても湧いてきて気持ち悪いよ!」
相変わらずあまり綺麗な言葉ではありませんね。彼女のことも何となくわかってきました。
それはさておき、彼女にまとわりつく黒蛇はこの状況下でもゆったりと落ち着いています。中々肝の据わった蛇ですよね。……蛇も肝ってありますよね?
オネが走り抜ける街並み、先程通った路地裏とはまた違った狭い通路がありました。
そのまま大した確認もせず、その狭い通路へと入っていきます。
「暗い! なにここ!」
通路に入ると視界からまともな光が無くなりました。わずかな隙間から差す光だけが光源となっているようで、ほんの少し先を認識することすら怪しい空間となっていました。
その暗闇の中、オネは突然足を止め振り返ります。
「誰もきてない……?」
暗闇が過ぎることもあり、視覚ではあまり確認を取れませんが、足音の類が聞こえないのです。
追手の人たちも、この暗闇に怖気付いたのでしょうか?
しばらく彼女が立ち止まっていても、誰一人現れる気配はありません。どうやら振り切れたようですね。
「……とりあえずは安心か」
ほっとため息をつくオネは、真っ暗闇の中周囲を見渡します。
「なんか、嫌な雰囲気だな」
小さく呟き、無造作に歩き出しました。これほどの暗闇、考えもなしに歩き回ってしまえば迷子になりそうですが……大丈夫でしょうか?
彼女は構わず歩き続けます。するとその真っ暗闇の先、今よりは少々明るめの光が見えてきました。
「あ、出口かな」
出口という表現が正しいのかはさておき、そんな光が見えれば自ずと向かってしまうものでしょう。
彼女もまた、なんの躊躇いもなく歩いていきます。
「あー……ここってまさか──」
闇を抜け、まだ仄暗さは残っているものの、若干の明るさを取り戻しました。
しかしこれほど奥まった、薄暗く人が住むには好ましくない環境にも関わらず、一目に見えるだけでも数人の住人らしき人影を確認できます。
「あれ、酒場のお姉さん?」
「ふぇ?」
予想外の声に、オネが間抜けな声で返事をします。本人も恥ずかしかったのか、咄嗟に自分の口を塞ぎました。
「君は水の男の子?」
オネが振り返り確認すると、酒場で出会った男の子の姿がありました。
あまりに安直な呼称に、男の子も苦笑いものですね。もう少し言い方はなかったのでしょうか。
オネはふと周りを見渡し、男の子に向き直ります。
「妹ちゃんは?」
彼女の問いに、男の子は視線を逸らし言い淀みます。とても怪しい反応ですね。
「……妹は家にいます。常に一緒にいるわけじゃないから……」
「まあ、それもそっか。……やっぱりここって……?」
「はい。貧民街と呼ばれている場所です」
オネは遠慮なく大きくため息を吐いてみせます。
「ああ、ごめんね。別に貧民街がどうとかじゃなくて、自分が迷子になっちゃったんだなあ、ていう後悔のあれだから」
何に言い訳しているかはわかりませんが、男の子は首を傾げていますね。
「なんか急いでたみたいだけど、お姉さん誰かに追われてたの?」
よく見ている男の子ですね。オネも感心したように驚いた表情を浮かべました。
「ちょっとしつこい男の人たちにね……まあ、先にちょっかい出したの私な訳だし仕方ないけど」
「え、お姉さんが……? そうは見えないけど……」
オネの明らかに誤解を招く言い回しに、男の子が困惑しているようです。
まあ、彼女が男をたぶらかすとか考えられませんよね。
「でもなんで途中でついてこなくなったのかな?」
「それは……まあ貧民街なんて誰も入りたがらないと思いますよ。この国の人たちは特に」
少し含みのあるその表情からは、本心を語っているようには見えませんね。しかし、この年頃から隠し事というのはどうも、将来が思いやられてしまいます。
「……とりあえずお姉さんの格好は目立つよ、僕の家まで来て」
この貧民街に住む方々は、確かに見窄らしい方ばかりです。
彼女の軽装もあまり高価なものには見えませんが、それでも大分目立ってしまいそうですね。
中々に強引な男の子の行動に、オネもたじろいでいます。
「待って! その気持ちは嬉しいけど、君は大丈夫なの? それこそ君が目立っちゃうんじゃ──」
「お姉さんには助けてもらったから。僕たちのことは気にしなくていいよ」
「でも……」
積極的な方だと思っていましたが、まさか彼女がこれほど控えめだとは思いませんでした。
男の子もそんな彼女に困惑していましたが、小さくため息を漏らします。
「お姉さん、強いんでしょ?」
「あー……強いよ私。そういうことなら甘えさせてもらおかな」
匿うから何かあったら助けて、ということでしょうか? 確かに子供の身ではここは危険な場所に思えますが、護衛など必要なのでしょうか。
裏があるにせよないにせよ、こんな世界で生きているだけあって、強かであることに変わりは無さそうですね。
握手を交わし、男の子の案内に従いついていきます。
「……そういえば、なんか聞きにくくてやめてたけど……」
「なに?」
案内を始めた男の子が振り返り尋ねてきます。笑顔を返すオネに少々戸惑っていますが、言葉を続けるようです。
「その蛇は何?」
あまりにも堂々と彼女にくっついているため、既に装飾のように感じでいました。
よくよく考えてもみれば、この蛇が最も目立つ理由になりますね。
「お友達?」
彼女の回答に、おそらくそれ以上の質問は意味がないと感じたのでしょう。呆然とした男の子は、「そう」と生返事を返すだけ返すと、振り返り道案内に戻りました。
しかし残念なことに未だ追われ続けているようです。
「一体何人いるの! どこに逃げても湧いてきて気持ち悪いよ!」
相変わらずあまり綺麗な言葉ではありませんね。彼女のことも何となくわかってきました。
それはさておき、彼女にまとわりつく黒蛇はこの状況下でもゆったりと落ち着いています。中々肝の据わった蛇ですよね。……蛇も肝ってありますよね?
オネが走り抜ける街並み、先程通った路地裏とはまた違った狭い通路がありました。
そのまま大した確認もせず、その狭い通路へと入っていきます。
「暗い! なにここ!」
通路に入ると視界からまともな光が無くなりました。わずかな隙間から差す光だけが光源となっているようで、ほんの少し先を認識することすら怪しい空間となっていました。
その暗闇の中、オネは突然足を止め振り返ります。
「誰もきてない……?」
暗闇が過ぎることもあり、視覚ではあまり確認を取れませんが、足音の類が聞こえないのです。
追手の人たちも、この暗闇に怖気付いたのでしょうか?
しばらく彼女が立ち止まっていても、誰一人現れる気配はありません。どうやら振り切れたようですね。
「……とりあえずは安心か」
ほっとため息をつくオネは、真っ暗闇の中周囲を見渡します。
「なんか、嫌な雰囲気だな」
小さく呟き、無造作に歩き出しました。これほどの暗闇、考えもなしに歩き回ってしまえば迷子になりそうですが……大丈夫でしょうか?
彼女は構わず歩き続けます。するとその真っ暗闇の先、今よりは少々明るめの光が見えてきました。
「あ、出口かな」
出口という表現が正しいのかはさておき、そんな光が見えれば自ずと向かってしまうものでしょう。
彼女もまた、なんの躊躇いもなく歩いていきます。
「あー……ここってまさか──」
闇を抜け、まだ仄暗さは残っているものの、若干の明るさを取り戻しました。
しかしこれほど奥まった、薄暗く人が住むには好ましくない環境にも関わらず、一目に見えるだけでも数人の住人らしき人影を確認できます。
「あれ、酒場のお姉さん?」
「ふぇ?」
予想外の声に、オネが間抜けな声で返事をします。本人も恥ずかしかったのか、咄嗟に自分の口を塞ぎました。
「君は水の男の子?」
オネが振り返り確認すると、酒場で出会った男の子の姿がありました。
あまりに安直な呼称に、男の子も苦笑いものですね。もう少し言い方はなかったのでしょうか。
オネはふと周りを見渡し、男の子に向き直ります。
「妹ちゃんは?」
彼女の問いに、男の子は視線を逸らし言い淀みます。とても怪しい反応ですね。
「……妹は家にいます。常に一緒にいるわけじゃないから……」
「まあ、それもそっか。……やっぱりここって……?」
「はい。貧民街と呼ばれている場所です」
オネは遠慮なく大きくため息を吐いてみせます。
「ああ、ごめんね。別に貧民街がどうとかじゃなくて、自分が迷子になっちゃったんだなあ、ていう後悔のあれだから」
何に言い訳しているかはわかりませんが、男の子は首を傾げていますね。
「なんか急いでたみたいだけど、お姉さん誰かに追われてたの?」
よく見ている男の子ですね。オネも感心したように驚いた表情を浮かべました。
「ちょっとしつこい男の人たちにね……まあ、先にちょっかい出したの私な訳だし仕方ないけど」
「え、お姉さんが……? そうは見えないけど……」
オネの明らかに誤解を招く言い回しに、男の子が困惑しているようです。
まあ、彼女が男をたぶらかすとか考えられませんよね。
「でもなんで途中でついてこなくなったのかな?」
「それは……まあ貧民街なんて誰も入りたがらないと思いますよ。この国の人たちは特に」
少し含みのあるその表情からは、本心を語っているようには見えませんね。しかし、この年頃から隠し事というのはどうも、将来が思いやられてしまいます。
「……とりあえずお姉さんの格好は目立つよ、僕の家まで来て」
この貧民街に住む方々は、確かに見窄らしい方ばかりです。
彼女の軽装もあまり高価なものには見えませんが、それでも大分目立ってしまいそうですね。
中々に強引な男の子の行動に、オネもたじろいでいます。
「待って! その気持ちは嬉しいけど、君は大丈夫なの? それこそ君が目立っちゃうんじゃ──」
「お姉さんには助けてもらったから。僕たちのことは気にしなくていいよ」
「でも……」
積極的な方だと思っていましたが、まさか彼女がこれほど控えめだとは思いませんでした。
男の子もそんな彼女に困惑していましたが、小さくため息を漏らします。
「お姉さん、強いんでしょ?」
「あー……強いよ私。そういうことなら甘えさせてもらおかな」
匿うから何かあったら助けて、ということでしょうか? 確かに子供の身ではここは危険な場所に思えますが、護衛など必要なのでしょうか。
裏があるにせよないにせよ、こんな世界で生きているだけあって、強かであることに変わりは無さそうですね。
握手を交わし、男の子の案内に従いついていきます。
「……そういえば、なんか聞きにくくてやめてたけど……」
「なに?」
案内を始めた男の子が振り返り尋ねてきます。笑顔を返すオネに少々戸惑っていますが、言葉を続けるようです。
「その蛇は何?」
あまりにも堂々と彼女にくっついているため、既に装飾のように感じでいました。
よくよく考えてもみれば、この蛇が最も目立つ理由になりますね。
「お友達?」
彼女の回答に、おそらくそれ以上の質問は意味がないと感じたのでしょう。呆然とした男の子は、「そう」と生返事を返すだけ返すと、振り返り道案内に戻りました。
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