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待っているがいい
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「相変わらずだな助手くん」
アリーシャは相変わらず、フィーネより先に目覚めている。
かく言うフィーネは寝惚け眼で辺りを見渡し、少々考えた後に、目を大きく見開き飛び起きた。
「アリー! ここはどこ? オネちゃんたちは!」
焦燥気味に言葉を連ねる彼女に対し、アリーシャは訝しげに首を傾ける。
「どうした助手くん。オネくんがどうしたと言うんだ。……変な夢でも見ていたのか?」
「夢……?」
アリーシャの整然とした様子に困惑する。事実、世界移動をする前までの彼女の様子とはまるで違った雰囲気だ。
しかし、アリーシャはそう言った冗談を好まないことを知っている。
「アリー、どうしちゃったの? あなただって、さっきまであんなに──」
「まあ待て助手くん。今の君の発言は支離滅裂だ。一度落ち着いて話してくれ」
やはり、冷静なアリーシャの様子そのものと言った風だ。フィーネは唇を噛みしめながらも、深呼吸する。
「落ち着いたか?」
何度かの深呼吸を終え、アリーシャの言葉に頷くフィーネは、それでも首を横に振った。
「だめだよアリー。やっぱり落ち着く事なんてできない。──だってオネちゃんたちが危ないんだよ! すぐにでも向かわなくちゃ!」
「……ふむ。やはり言葉の意図がつかめん。ただ一つ、確実な事があるとするならば、少なくともこの世界では彼女たちの居住を特定する事は困難である、という事実だけだろう」
アリーシャが両手を広げ、周囲を見渡すように促した。彼女の催促に応えフィーネが首を回す。
周囲は明るい緑を持つ木々に囲まれ、砂漠とは無縁と思える風景だ。
「……失敗、したってことだよね」
「──何を持って失敗と言うのか、何に対して失敗と言うのか、私の理解に及ばない訳なのだが──一体君は何の話をしているんだ?」
間違いなく、話は噛み合っていないだろう。フィーネもその不自然さに気付いたのか、大きく開く瞳で彼女を見据える。
「──アリー? 私たちは、ここにくる前はどこにいた?」
「……どこ、というのは路地裏をさせば良いのか? それとも、メシアの住んでいた街をさせば良いのか?」
アリーシャの返しに愕然とする。
「違う。さっきまでいた世界はメシアさんの世界じゃない」
「──なに?」
首を横に振るフィーネにアリーシャが考え耽る。少しの沈黙の後、口を開いた。
「助手くん。君の知っていることを話してくれ。今何が起こっているのか理解する必要がありそうだ」
流石はアリーシャと言ったところだろう。現状の不自然な状況から、おおよその見当がついているように見える。
フィーネは不思議な空間での出来事を説明した。
初めて聞いたのであれば、間違いなく荒唐無稽な内容だろう。
しかし、アリーシャはフィーネの言葉を疑うこともせず、何やら考え込んでいる。
「アリー……?」
フィーネの心配そうに発する声に、アリーシャは考えることをやめて、彼女をみやる。
「話の概要は分かった。君にいくつか問おう」
「なに?」
「君のその話はあまりに荒唐無稽で、真偽を定める術がない。本当にただの悪夢を見ていた、という訳ではないんだな?」
やはりアリーシャも疑っているのだろうか。夢として済むのであれば確かに話は早い。
しかし、フィーネもそれでは納得できないのだろう。唇を尖らせ、アリーシャを睨む。
「夢じゃない。あれは本当にあったことだよ」
「そうか」
あっさりと受け取るアリーシャに、フィーネが肩を竦めた。
「もう一つ問おう。君の言う、夢じゃない、と言う言葉は、根拠のある回答か? それとも、君の直感からの回答か?」
困惑しつつも、フィーネはその首を横に振る。
「根拠なんていわれても分からない。私はそうじゃないって思ってる」
「そうか──ならば疑う余地はない。それは紛うことなき真実というものだろう」
相変わらず、アリーシャの思考というものがわからない。今の回答で何故納得できるのだろうか。
「信じてくれるの?」
「元より、君を疑う道理などない。だが、夢を現実と違う事は誰にでもある」
アリーシャは小さく微笑み、言葉を続けた。
「しかし、君の直感というものはよく当たる。君の感性が夢ではないと言うのであれば、そうなのだろう」
「……意味がわからないよ」
自分の直感への謎の信頼に、フィーネが呆れて見せる。
「問題なのは、ならば何故私の記憶が無いのか……と言う事だな」
「アリーだけ記憶喪失?」
「絶対に無いとまでは言わないが、自然にそうなるとは考えにくい」
二人は頭を捻るが、一向に結論は見出せないようだ。まあ、当然と言える。
「自然に、ならばあり得ないかもしれないが、意図的に、であれば可能性はあるやも知れんな」
「どういうこと?」
「その不思議な空間とやらで、我々が遭遇したと言う女性のことさ」
……本当に、アリーシャという人間の底は知れない。
「アリー……?」
空を仰ぎ、不敵な笑みを浮かべるアリーシャに、フィーネが不思議そうに首を傾げる。
そしておそらく、アリーシャは私に向かって口を開いた。
「我々を監視する者よ、待っているがいい。我々は必ず、貴様の下へたどり着き、貴様の知っている全てを聞き出すことを宣言する……!」
「…………?」
フィーネは彼女の行動を理解出来ていないのだろう。普通ならばそうなる。
あぁ、本当にこの二人ならあるいは──。
アリーシャは相変わらず、フィーネより先に目覚めている。
かく言うフィーネは寝惚け眼で辺りを見渡し、少々考えた後に、目を大きく見開き飛び起きた。
「アリー! ここはどこ? オネちゃんたちは!」
焦燥気味に言葉を連ねる彼女に対し、アリーシャは訝しげに首を傾ける。
「どうした助手くん。オネくんがどうしたと言うんだ。……変な夢でも見ていたのか?」
「夢……?」
アリーシャの整然とした様子に困惑する。事実、世界移動をする前までの彼女の様子とはまるで違った雰囲気だ。
しかし、アリーシャはそう言った冗談を好まないことを知っている。
「アリー、どうしちゃったの? あなただって、さっきまであんなに──」
「まあ待て助手くん。今の君の発言は支離滅裂だ。一度落ち着いて話してくれ」
やはり、冷静なアリーシャの様子そのものと言った風だ。フィーネは唇を噛みしめながらも、深呼吸する。
「落ち着いたか?」
何度かの深呼吸を終え、アリーシャの言葉に頷くフィーネは、それでも首を横に振った。
「だめだよアリー。やっぱり落ち着く事なんてできない。──だってオネちゃんたちが危ないんだよ! すぐにでも向かわなくちゃ!」
「……ふむ。やはり言葉の意図がつかめん。ただ一つ、確実な事があるとするならば、少なくともこの世界では彼女たちの居住を特定する事は困難である、という事実だけだろう」
アリーシャが両手を広げ、周囲を見渡すように促した。彼女の催促に応えフィーネが首を回す。
周囲は明るい緑を持つ木々に囲まれ、砂漠とは無縁と思える風景だ。
「……失敗、したってことだよね」
「──何を持って失敗と言うのか、何に対して失敗と言うのか、私の理解に及ばない訳なのだが──一体君は何の話をしているんだ?」
間違いなく、話は噛み合っていないだろう。フィーネもその不自然さに気付いたのか、大きく開く瞳で彼女を見据える。
「──アリー? 私たちは、ここにくる前はどこにいた?」
「……どこ、というのは路地裏をさせば良いのか? それとも、メシアの住んでいた街をさせば良いのか?」
アリーシャの返しに愕然とする。
「違う。さっきまでいた世界はメシアさんの世界じゃない」
「──なに?」
首を横に振るフィーネにアリーシャが考え耽る。少しの沈黙の後、口を開いた。
「助手くん。君の知っていることを話してくれ。今何が起こっているのか理解する必要がありそうだ」
流石はアリーシャと言ったところだろう。現状の不自然な状況から、おおよその見当がついているように見える。
フィーネは不思議な空間での出来事を説明した。
初めて聞いたのであれば、間違いなく荒唐無稽な内容だろう。
しかし、アリーシャはフィーネの言葉を疑うこともせず、何やら考え込んでいる。
「アリー……?」
フィーネの心配そうに発する声に、アリーシャは考えることをやめて、彼女をみやる。
「話の概要は分かった。君にいくつか問おう」
「なに?」
「君のその話はあまりに荒唐無稽で、真偽を定める術がない。本当にただの悪夢を見ていた、という訳ではないんだな?」
やはりアリーシャも疑っているのだろうか。夢として済むのであれば確かに話は早い。
しかし、フィーネもそれでは納得できないのだろう。唇を尖らせ、アリーシャを睨む。
「夢じゃない。あれは本当にあったことだよ」
「そうか」
あっさりと受け取るアリーシャに、フィーネが肩を竦めた。
「もう一つ問おう。君の言う、夢じゃない、と言う言葉は、根拠のある回答か? それとも、君の直感からの回答か?」
困惑しつつも、フィーネはその首を横に振る。
「根拠なんていわれても分からない。私はそうじゃないって思ってる」
「そうか──ならば疑う余地はない。それは紛うことなき真実というものだろう」
相変わらず、アリーシャの思考というものがわからない。今の回答で何故納得できるのだろうか。
「信じてくれるの?」
「元より、君を疑う道理などない。だが、夢を現実と違う事は誰にでもある」
アリーシャは小さく微笑み、言葉を続けた。
「しかし、君の直感というものはよく当たる。君の感性が夢ではないと言うのであれば、そうなのだろう」
「……意味がわからないよ」
自分の直感への謎の信頼に、フィーネが呆れて見せる。
「問題なのは、ならば何故私の記憶が無いのか……と言う事だな」
「アリーだけ記憶喪失?」
「絶対に無いとまでは言わないが、自然にそうなるとは考えにくい」
二人は頭を捻るが、一向に結論は見出せないようだ。まあ、当然と言える。
「自然に、ならばあり得ないかもしれないが、意図的に、であれば可能性はあるやも知れんな」
「どういうこと?」
「その不思議な空間とやらで、我々が遭遇したと言う女性のことさ」
……本当に、アリーシャという人間の底は知れない。
「アリー……?」
空を仰ぎ、不敵な笑みを浮かべるアリーシャに、フィーネが不思議そうに首を傾げる。
そしておそらく、アリーシャは私に向かって口を開いた。
「我々を監視する者よ、待っているがいい。我々は必ず、貴様の下へたどり着き、貴様の知っている全てを聞き出すことを宣言する……!」
「…………?」
フィーネは彼女の行動を理解出来ていないのだろう。普通ならばそうなる。
あぁ、本当にこの二人ならあるいは──。
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