13 / 41
魔の章 第六節
其ノ二 二人の家
しおりを挟む
「座ってまってて」
二人は、イリスの指示で居間の長椅子に座って待機している。服を着ていないこと以外は、普通の客人のようだ。
しかし、外観もそうだったが、家の中も可愛らしい装飾となっている。
多くの雑貨は黄白色でまとめられており、白い壁とうまく噛み合っている。
イリスが動物を好きなのか、所々に飾られている動物の石像も、家の雰囲気通りだろう。
動物の種類が謎なことは、むしろ愛嬌としてとらえるべきなのかもしれない。
屋内にも多く飾られている植物は、見るものの心を落ち着かせる。
「……しかし不思議な家だな」
何かを考えるように黙っていたアリーシャが口を開く。
「どういうこと? 普通に可愛い家だと思うけど……」
「可愛い、か。確かに可愛らしいが、見た目の話とは少し違う」
フィーネは不思議そうに首を傾げ、アリーシャの言葉の続きを待つ。
「例えば照明だ。どこを見渡しても照明器具はないし、光源もどこからの光なのかわからない」
「そういえば……」
アリーシャの発言に家の中を見渡しても、なるほど確かに照明器具の類は見当たらない。
光源も分からず、なんとなく明るい、程度の印象だ。
「今は日も出ているし、日差しであかるいんじゃないの?」
「確かに日差しもあるが、この明るさは少々明るすぎる。音もそうだ。いくら周りに何もないとはいえ、静かすぎるように思う」
日差しだけでは窓から離れた場所まで明るい説明がつかない。
音も、家に入る前なら多少は動物の声くらいは聞こえていたが、家に入ると些細な音すらほとんど聞こえてこない。
「でも、そう言う造りなんじゃないの? 防音に優れているー、みたいな」
「……壁はだいぶ薄かったし、なんなら窓も開いているんだ。それだけでは説明がつかん」
フィーネはあまり納得のいかない表情でアリーシャの言葉を聞き、考える。
「何より君も見ただろう。外の文字を」
「ああ……あれは不思議だね」
『イリスとルカの家』と描かれた不思議な文字のことだろう。
特別な塗料があるのか、あるいは技術でもあるのか。
「私たちの知らない技術があるんじゃない? ここは別世界なんでしょう?」
フィーネの言葉を聞き、アリーシャはさらに深く考え始める。
納得がいかないと言うよりも、不思議な現象の謎を解明しようとしているように感じる。
「そういえばアリー?」
「なんだ助手くん」
「聞き間違いでなければだけど、ここに来る前に何か言ってなかった?」
「……何かとはなんだ?」
フィーネの言葉に、アリーシャは首を傾げる。
「元の世界に戻れない、とか」
「ん? ああ、なるほど」
アリーシャはフィーネの言葉に顔を上げ、彼女に向き直る。
「その通りだぞ助手くん。絶対とは言わないが、すくなくとも意図的に戻る術はわからん」
アリーシャの発言に、フィーネは呆然とする。
それはそうだろう。なにがなんだか分からずに世界移動に付き合わされ、その挙句には元の世界には戻れないと告げられる。
いくら仲のいい相手とは言え、人生に関わるようなことを、本人の許可なくやっているわけだ。
いくらアリーシャ相手とはいえ、フィーネも黙ってはいられないだろう。
「そう。……ねぇアリー。私は確かにあなたに付いていく他はないし、アリーの行動に文句を言う気も、その方法もない」
フィーネの突然の言葉に、アリーシャが困惑する。フィーネの表情も、怒りというよりは悲しみに近い印象だ。
「でも、そういうことは先に話してほしいな。下手すれば命にも関わることなんだよ。──私のじゃない、アリーの命」
「……すまない助手くん。私は命よりも発明の結果を欲してしまう人種なんだ……。君には申し訳ないとは思っているけれど、それでも後悔はしていない」
アリーシャの目は真っ直ぐとフィーネを見据える。迷いも後悔もないことは事実なんだろう。
「私は、あなたに死んで欲しくない。アリーのいない世界なんて生きていても意味ないから。もっと自分の命を大切にしてほしい」
「……すまない」
フィーネの言葉に、しおらしく落ち込むアリーシャは、とても美しく、可愛らしいものだ。
「……もう少し探してた方がよかった?」
いつ戻ったのか、イリスが奥の扉の前で二人を見つめていた。
最初と比べ、希薄なその表情からは本気の発言か冗談なのか、判断がつかない。
「いいえ、ちょうど終わったところ」
「そう。これ、大きさが合えばいいのだけど」
「ありがとうございます」
イリスがフィーネとアリーシャにそれぞれ一着ずつ渡す。
「かわいい……これはイリスさんの私服?」
フィーネが問いかけると、イリスが頷く。喜ぶ姿をみて、彼女も満更でもなさそうだが、アリーシャに視線を向ける。
「でもあなたは大きさが合わないから……それで合えばいいけど」
確かに、イリスはかなり小柄で、フィーネとはそこまで変わらないかもしれないが、アリーシャとは色々と違うところもあるだろう。
「それは構わないのだが……これ、助手くんはきれないのか?」
「大きさが違うって言ってたよ? 私には大きいんじゃない」
フィーネは目を逸らし、アリーシャは不満な表情を見せる。
「……まあ、仕方ないか」
呟きながらアリーシャは恥ずかしげもなく着替え始めた。
フィーネも着替え始めるが、他人に見られながらというのは恥ずかしいのだろう。椅子の影などに隠れながら着替えていた。
二人は、イリスの指示で居間の長椅子に座って待機している。服を着ていないこと以外は、普通の客人のようだ。
しかし、外観もそうだったが、家の中も可愛らしい装飾となっている。
多くの雑貨は黄白色でまとめられており、白い壁とうまく噛み合っている。
イリスが動物を好きなのか、所々に飾られている動物の石像も、家の雰囲気通りだろう。
動物の種類が謎なことは、むしろ愛嬌としてとらえるべきなのかもしれない。
屋内にも多く飾られている植物は、見るものの心を落ち着かせる。
「……しかし不思議な家だな」
何かを考えるように黙っていたアリーシャが口を開く。
「どういうこと? 普通に可愛い家だと思うけど……」
「可愛い、か。確かに可愛らしいが、見た目の話とは少し違う」
フィーネは不思議そうに首を傾げ、アリーシャの言葉の続きを待つ。
「例えば照明だ。どこを見渡しても照明器具はないし、光源もどこからの光なのかわからない」
「そういえば……」
アリーシャの発言に家の中を見渡しても、なるほど確かに照明器具の類は見当たらない。
光源も分からず、なんとなく明るい、程度の印象だ。
「今は日も出ているし、日差しであかるいんじゃないの?」
「確かに日差しもあるが、この明るさは少々明るすぎる。音もそうだ。いくら周りに何もないとはいえ、静かすぎるように思う」
日差しだけでは窓から離れた場所まで明るい説明がつかない。
音も、家に入る前なら多少は動物の声くらいは聞こえていたが、家に入ると些細な音すらほとんど聞こえてこない。
「でも、そう言う造りなんじゃないの? 防音に優れているー、みたいな」
「……壁はだいぶ薄かったし、なんなら窓も開いているんだ。それだけでは説明がつかん」
フィーネはあまり納得のいかない表情でアリーシャの言葉を聞き、考える。
「何より君も見ただろう。外の文字を」
「ああ……あれは不思議だね」
『イリスとルカの家』と描かれた不思議な文字のことだろう。
特別な塗料があるのか、あるいは技術でもあるのか。
「私たちの知らない技術があるんじゃない? ここは別世界なんでしょう?」
フィーネの言葉を聞き、アリーシャはさらに深く考え始める。
納得がいかないと言うよりも、不思議な現象の謎を解明しようとしているように感じる。
「そういえばアリー?」
「なんだ助手くん」
「聞き間違いでなければだけど、ここに来る前に何か言ってなかった?」
「……何かとはなんだ?」
フィーネの言葉に、アリーシャは首を傾げる。
「元の世界に戻れない、とか」
「ん? ああ、なるほど」
アリーシャはフィーネの言葉に顔を上げ、彼女に向き直る。
「その通りだぞ助手くん。絶対とは言わないが、すくなくとも意図的に戻る術はわからん」
アリーシャの発言に、フィーネは呆然とする。
それはそうだろう。なにがなんだか分からずに世界移動に付き合わされ、その挙句には元の世界には戻れないと告げられる。
いくら仲のいい相手とは言え、人生に関わるようなことを、本人の許可なくやっているわけだ。
いくらアリーシャ相手とはいえ、フィーネも黙ってはいられないだろう。
「そう。……ねぇアリー。私は確かにあなたに付いていく他はないし、アリーの行動に文句を言う気も、その方法もない」
フィーネの突然の言葉に、アリーシャが困惑する。フィーネの表情も、怒りというよりは悲しみに近い印象だ。
「でも、そういうことは先に話してほしいな。下手すれば命にも関わることなんだよ。──私のじゃない、アリーの命」
「……すまない助手くん。私は命よりも発明の結果を欲してしまう人種なんだ……。君には申し訳ないとは思っているけれど、それでも後悔はしていない」
アリーシャの目は真っ直ぐとフィーネを見据える。迷いも後悔もないことは事実なんだろう。
「私は、あなたに死んで欲しくない。アリーのいない世界なんて生きていても意味ないから。もっと自分の命を大切にしてほしい」
「……すまない」
フィーネの言葉に、しおらしく落ち込むアリーシャは、とても美しく、可愛らしいものだ。
「……もう少し探してた方がよかった?」
いつ戻ったのか、イリスが奥の扉の前で二人を見つめていた。
最初と比べ、希薄なその表情からは本気の発言か冗談なのか、判断がつかない。
「いいえ、ちょうど終わったところ」
「そう。これ、大きさが合えばいいのだけど」
「ありがとうございます」
イリスがフィーネとアリーシャにそれぞれ一着ずつ渡す。
「かわいい……これはイリスさんの私服?」
フィーネが問いかけると、イリスが頷く。喜ぶ姿をみて、彼女も満更でもなさそうだが、アリーシャに視線を向ける。
「でもあなたは大きさが合わないから……それで合えばいいけど」
確かに、イリスはかなり小柄で、フィーネとはそこまで変わらないかもしれないが、アリーシャとは色々と違うところもあるだろう。
「それは構わないのだが……これ、助手くんはきれないのか?」
「大きさが違うって言ってたよ? 私には大きいんじゃない」
フィーネは目を逸らし、アリーシャは不満な表情を見せる。
「……まあ、仕方ないか」
呟きながらアリーシャは恥ずかしげもなく着替え始めた。
フィーネも着替え始めるが、他人に見られながらというのは恥ずかしいのだろう。椅子の影などに隠れながら着替えていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
エンジニア(精製士)の憂鬱
蒼衣翼
キャラ文芸
「俺の夢は人を感動させることの出来るおもちゃを作ること」そう豪語する木村隆志(きむらたかし)26才。
彼は現在中堅家電メーカーに務めるサラリーマンだ。
しかして、その血統は、人類救世のために生まれた一族である。
想いが怪異を産み出す世界で、男は使命を捨てて、夢を選んだ。……選んだはずだった。
だが、一人の女性を救ったことから彼の運命は大きく変わり始める。
愛する女性、逃れられない運命、捨てられない夢を全て抱えて苦悩しながらも前に進む、とある勇者(ヒーロー)の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる