恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

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ボクの気持ち

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「いってきまーす!」

 昨日のことは心残りだけど、今日が登校日であることは変わりない。
 正直、凪君に会うのは少し怖い。でも会いたい気持ちもあって、頭の中がぐちゃぐちゃなんだ。

「おはよ、愛理」

「充! ボクの家の前でどうしたんだい?」

 充の家とは少し離れていたはずだ。普通に登校していたら、まずこんなところには来ないと思う。
 それじゃ、ボクを迎えに……?

「昨日の今日だろ? 何にもないとは思うが、まあ念のためってやつだ」

「昨日のって……あれは何かの間違いだよ。心配するようなことはないさ」

 凪くんの行動は確かに怖いものだったけど、きっとそういうこともあるんだろう。一度の出来事で嫌いになるようなことじゃない。

 ……それに、恋人ともあれば、いずれはそういうこともするんだ。……怖がるようなことじゃないはずだ。

「怖いと泣いてたのは誰だ。大した労力もないし、遠慮することでもないだろう」

「遠慮とかではないけれど……それじゃ、久しぶりの充との登校を楽しませてもらおうかな」

 彼の過保護ぶりは相変わらず。でも、こうやって心配されるのは悪いことじゃないよね。
 彼との登校というのも、なんだか懐かしくて、嬉しくなってしまう。

「そういえば、なんで君と登校しなくなったんだったかな?」

「あー……まあ、それが自然なんじゃないか? 幼馴染で友達というだけで、一緒に登校でもした日には変な噂にもなりかねないしな」

 そんなものだろうか? なんかふわふわした理由だな……。

「でもそんなことを気にするなら、今日は大丈夫なのかい? こうして二人での登校が誤解を生むかもしれないんだろう?」

「まあ今回は仕方ないさ。そうなったときはその時だ。お前の安全と眉唾でしかない噂なんて、天秤にかけるまでもない」

「なんだいそれは? なんだか嬉しいことを言ってくれるね?」

 照れたように目を背けるけれど、やっぱり充はとてもいい親友だ。

「しかし、俺も目が鈍ったかな。あいつはあんなことするやつだとは思わなかったんだがな」

「だから、昨日のは何かの間違いさ。凪くんは本来大人しい子だよ」

「……ああ、そうだな」

 呆れた口調からは、全く納得のいった様子は窺えないね。凪くんの口から本音を聞くのが一番早いのかもしれないな。

「──どうやら、覚悟は既に済んでいるらしいな」

「充? なんの話──凪くん?」
 
 学校も近づき、校門が見えてきた。
 その前には、遠くからでもわかる見知った男の子。凪くんと朝から出会うのは、なんだかんだ言って初めてかもしれないね。

「お、おはよう、凪くん」

「おはようございます」

 やっぱり、頭では分かっていても少しだけ抵抗があるね。彼の目をまともに見られないよ。
 
 彼がこちらにゆっくりと近づいてくる。
 思わず充の背中に隠れてしまう自分が、とても嫌な気分だ。

「愛──朱思先輩。昨日は本当にすみませんでした!」

「別に気にしてはいないよ。君だって男の子なんだ。そういうこともあるさ」

 ボクの言葉に、寂しそうな表情を見せてくる。何か間違ったことを言ってしまったかな?

「そのことで、お話があるんです。授業後、旧校舎裏に来てもらえませんか?」

 旧校舎裏? 旧校舎裏って……。

「おい凪、お前昨日の今日でよくそんなこと言えたな? 愛理の気持ち分かってるんだよな?」

「もちろん、必要であれば進藤先輩に付き添ってもらっても大丈夫です」

 彼の言葉に距離を感じる。それに旧校舎裏か……なんでだい、凪くん。

「そう言うことなら、遠慮なく──」
「充。大丈夫だから。ボク一人で行くよ。凪くんも、もし遅くなってしまっても待っていておくれよ?」

「もちろん。朱思先輩が来ない限り、自分は待ち続けますよ」

 その言葉には、偽りも迷いも感じられないんだ。ボクが裏切ってその場にいかなければ、朝までだって待っていそうな勢いだ。

「愛理お前、分かってるのか?」

「うん。分かってる。彼の気持ちも、わかったと思う。だからこそ……心配してくれているのに、ごめんよ充。これはボク達の問題だから」

 充は心配気にこちらを見つめていたけれど、呆れたようにため息を漏らしてみせた。

「分かった。そこまでいうなら、好きにしてくれ。……凪、分かっていると思うが、万が一のことが有れば──」
「分かっています。決して粗相はしませんので、そんなに睨まないでください」

 その後も、あまりいい空気になることもなく、心にもやもやを抱えたまま時間だけが過ぎていった。

 ※   ※   ※

 約束の授業後。
 一日中、凪くんのことばかり考えていて、授業のことは身に入らなかった。
 ちょっと前にも似たようなことはあった気がするけれど、その時とは感情がまるで違うんだ。
 
 多分、はたからみても挙動がおかしかったのか、カナメや充には何度も心配された。
 やっぱりついていくと言ってくれた充にも断りを入れ、重い体を無理やり引きずって旧校舎裏へと足を運ぶ。

 前回ここに来てから、もうじき一月が経とうとしている。
 あのときは、初めて見る男の子がボクを待っていた。

 そして今回は──

「凪くん、お待たせしちゃったね」

 よく見知った、大好きな彼がそこにいてくれた。……いてしまったんだ。

「いえ。いつまでも待つと、言いましたので」

 ボクを確認した凪くんの表情は、あの時と同じ、とても真剣なものだ。
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