恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

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ボクはそれどころじゃないんだよ

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 今日は月曜日。 
 いつもと変わらない登校の時間だ。

 顔を見合わせる人たちは相も変わらず、元気に歩いている。
 一晩経ったというのに、ボクの心はぐちゃぐちゃだ。

「……はあ、昨日は凪くんに悪いことをしてしまったね。自分で自分が情けない」

 沈むボクの心とは反対に、空には太陽輝く晴天が広がっている。君は羨ましいな。

「太陽様は眩しいですか、エリーちゃん」

「やあ、カナメ。とっても眩しいよ。空を見上げれば、ボクの心はその先にまで及ばないんだ」

「そっか。……昨日はごめんね」

 カナメが謝ることはあったかな? 確かに、昨日の二人の関係は気になるけれど、それ以外特に思い当たる節はない。

「進藤がほっとけるか、て勝手に飛び出しちゃってさ……せっかくのデートなのに、邪魔しちゃって」

 別にボクからしたら邪魔とは思わなかったのだけど。

「ううん。充のおかげで、凪くんに寒い思いをさせる事もなかったし、ボクも暖かくデートができたんだ。……充はとても薄着だったけれど、大丈夫だったのかい?」

「あの後すぐ帰ったから大丈夫なんじゃない? 自分で勝手にやった事なんだから、そこは気にしなくていいと思う」

 それならよかった。
 
「それでカナメ?」

「だから、エリーが思うような関係じゃないってば。……昨日はさ、ほら。エリーがちゃんとデートできるかな、て後ろから見守っていただけというか……」

「そっか。それじゃ──」

 待って。それって、デートの間ずっと見られていたということかい? ボクが勇気を出して彼の手を取った時も、羞恥心に呑まれて俯いていた時も、恥ずかしいセリフを放った時も……?

「うわぁ……ボク、二人とまともに顔合わせれそうにないよぅ」

「お、怒ったりしないの?」

 ボクが怒る? なんでだい?

「ボクのことを思ってのことだろう? 怒る道理なんかないじゃないか。恥ずかしいのは間違いないけれどね」

「……ほんと、エリーってなんか、すごいよね」

「それは褒められているのかな」

 すごいってのは、何がすごいんだろう。

「褒めてるに決まってるって。あたしもエリーのこと見習いたいわ」

「カナメがボクから学ぶことなんて何もないよ。ボクはいつも、どうやったら君のようになれるかと考えているんだからね」

「ご謙遜頂きました~」

 相変わらず茶化してくる。カナメはやっぱりカナメだな。
 いつも通りの他愛もない話を続けながら、教室へと向かう。今日も凪くんを見ることはなかったけれど、朝から顔を合わせるのは気まずかったから、これで良かったかもしれない。

 教室につくと、今日も充は先に来ていたみたいだ。

「やあ充。昨日はありがとう。おかげで暖かく過ごせたよ」

「愛理と望月か、おはよう」

 なんだか、今日の充は元気がなさそうだ。昨日借りてしまった上着を出しながら、彼の側まで寄ってみる。

「これ、お返しするよ。……なんか調子悪そうだけど、大丈夫なのかい?」

「ああ、まあ調子が悪いっていうか、気分が良くないというか」

 やっぱり、昨日ボクに上着を渡したりなんかするから、自分が寒くて風邪を引いたんじゃないのかい? だとしたらボクにも責任があるよね。

「風邪は万病のもとだ。薬は飲んだのかい?」

「風邪? ……あー、そういうんじゃない。変な気遣いはやめてくれ。ちょっと嫌なことがあるんだよ、今日は」

 風邪ではない? なら良かった。でも、充がこれほど落ち込むなんて、一体何があるんだろう。

「まあ、気にしないでくれ。多分その内分かると思うし、あんまり口にしたくねぇ」

「君がそういうなら、聞かないでおくよ。ボクらが役に立てることなら、なんでも言っておくれよ?」

 充は頷くなり、また項垂うなだれてしまう。よほどのことなんだな。

「進藤のこの落ち込みよう、普通じゃないわね」

「ボクも気になるけれど、こればかりは様子を見るしかなさそうだ」

 その後は特に何事もなく、いつものように朝のホームルームとなっていく。
 充のことは気になるけれど、そっとする他ないのが辛いところだ。

   ※   ※   ※

 授業は終わり、教室内が賑わう時間。
 充はどこか安堵した様子で帰り支度をしている。

「充、調子の方はどうだい?」

「ああ、今のところ何もなさそうで良かったよ。このまま素直に帰れれば言うことないな」

 なんだか、朝とは違う意味で様子がおかしいけれど、これは安心していい、のかな?

「それは良かったわねー、進藤くん」

「カナメ、なんだかご機嫌だね。どうしたんだい?」

「そう見える?」

 なんだか上機嫌に微笑んでいるように見えるよ。それはそれで、少し怖い気もするんだけど、カナメには何があったんだろう?

「……望月お前、まさか……!」

「さーて、何のことかな?」

「俺は帰る! 今すぐ帰る! じゃあな、愛理!」

 笑うカナメに慌てる充? また、ボクの預かり知らないところで何かが起こっているのかい? なんだか寂しい気分だよ。

 充が帰り支度を終え立ち上がると同時くらいに、教室の入り口に設置された扉から大きな音が聞こえた。何事だい?

「充先輩! お待たせしました、ハルカのお迎えですよ!」

 ボクよりもさらに小さな女の子が、肩まで伸びた髪をなびかせながら、入口の扉で目を輝かせてこちらの方を見ていたんだ。
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