21 / 35
ボクは不安を胸に
しおりを挟む
なんとか終えた、青空の下の狭き食事会。
ボクの心臓はいつ弾け飛んでもおかしくないと思うんだ。
今は園内にある公園をふらふらと散歩している。
植物園と比べて、大分質素な景色ではあるけれど、小さな遊具で遊ぶ子供たちの姿は、とても和やかな気持ちにさせてくれるんだ。
それに──
「こうして落ち着いて歩くのも、先輩と隣り合わせだと、とても楽しく感じますね」
「そ、そうかい? ボクも、君とこうして散歩できることがとても嬉しいと思っているよ」
隣に凪くんがいる! それだけで景色が何倍にも良く見えてしまう。……むしろ、凪くんのことだけを見ていたいけれど、この場でそういう訳にもいかないからね。
「嬉しいお言葉、ありがとうございます」
本当に凪くんは、素直でいい子だね。だからこそ、君のその言葉に偽りが無いとわかるんだ。……本当にドキドキしちゃうよね、そんなの。
なんだか嬉しくなって、ボクは無意識に彼の前まで小走りで駆けていたんだ。
凪くんがつられて走るより前に、足を止めて彼の方へと振り返る。
……さっきは、いきなりでびっくりして、情けない態度を取っていたけれど、せっかくのデートなんだ。楽しまなくちゃね!
ボクは彼に右手を差し出して小さく微笑んでみる。
「さあ凪くん。せっかくの遊園地なんだ。もう少しアトラクションに乗ろうじゃ無いか」
驚いた彼は、喉を鳴らして一度唇を強く結んだ。君もやっぱり、緊張してくれているんだね。
「はい。いきましょう!」
彼の左手はボクの右手を握り、その顔はとてもいい笑顔を見せてくれている。
そんな嬉しい、可愛い表情をされちゃったら、少し悪戯をしたくなるじゃ無いか。
「唇が乾燥しているようだね。ボクのリップ、貸してあげようか?」
「! い、いえ! 大丈夫ですよ! 大したことじゃないので!」
普通にあしらわれちゃったね。でも、真っ赤に染まった君のその困り顔は、ボクの心に刻ませてもらったよ? これでも、ボクは記憶力がいい方なんだ。
「そっか、それなら良かった。お昼が明ければ、また人が増えてくる。ちょっと急ごうか、凪くん!」
彼と握った手はそのまま、凪くんの手を引いて駆け出していた。
あぁ、今日という日が終わらなければいいのに。心の中がどんどんと、君で埋め尽くされていく。
本当に、本当に楽しいんだ。子供の頃、充たちと遊んでいたときのように。いろんな初めてを経験していた頃のように。
ボクは今、恋という感情の中で、色々な初めてを体験している。──こんなの、心を落ち着かせてなんかいられないよね!
「凪くん、ボクは今とても幸せだ! 君とこうして恋人になれたこと。今、君の隣で、君の手を引いて、こうして歩いていることが、とても楽しいんだ。本当にありがとう」
彼も、まさか今こんな言葉を聞かされるとは思わなかったと思う。ボクだって知らなかったんだ。
でも、考えたのならすぐに伝えたい。心に溜めておくなんて、今のボクには決してできることじゃない。
「こちらこそ、本当にありがとうございます。自分も、先輩にそこまで想ってもらえて、すごく嬉しいです」
こうして、彼を引っ張る自分がとてもむず痒くて、手先から伝わる暖かさがとても心地良くて、ボクの視線は、自然と遊園地の方へと逃げていた。
そこに映った人影に、ボクの足は止まり、心臓も一瞬止まったんじゃないかと思う。
「充……?」
遊園地の中、アトラクションに並ぶ人混みの中に、充らしき人影がみえた。
なんだか疲れたような顔はしているけれど、満更でもないような、そんな表情だ。
──そしてその隣には、カナメの姿があったんだ。
別に二人は友達なのだから、一緒にいてもおかしいことなんてない。いつも一緒にいるんだから、自然のように見える。
でも、今日ボクたちがここにきたのは、充にチケットを渡されたから。彼はもう持っていないはず。
元々四枚あった? 後からまた貰ったりしたのかな?
それにしたって、わざわざ今日じゃなくてもいいじゃないか。
……それに、カナメの服装がいつもと比べても、少しお洒落な気がする。
特にイヤリングやヘアピンは綺麗で、肌や口元が少し艶っぽい。お化粧もしているのかな?
充を引っ張って歩く姿は、とても楽しそうなんだ。
もしかして、二人はそういうか関係だったのかい? ボクは何も聞いていないよ。
でもそうなら、隠す必要なんかないじゃないか。ボクたちは親友なのだから、何でも話すべきじゃないのかい?
息が苦しい。心が痛い。既に姿は見えないというのに、見開いたボクの目が閉じてくれる様子は無さそうだ。
「先輩? どうかしましたか?」
「凪くん……」
ああ、そうだ。ボクは凪くんと一緒に遊園地に来たんじゃないか。
なんでそこに充がいたからと、カナメと一緒だからと、こんな気持ちになる必要があるんだ。
……今日は楽しまなくちゃもったいない。二人には明日、話を聞けばいい。もしかしたら、ボクの間違いなのかもしれないんだからね。
「いいや、なんでもないよ。足を止めてしまってごめんよ。さあ行こうか、凪くん!」
「え、ええ……」
彼の返事は煮え切らなかったけれど、彼に気づかれないよう、急いでその場を駆け出した。
──充、なんでカナメとのこと、言ってくれなかったんだい?
ボクの心臓はいつ弾け飛んでもおかしくないと思うんだ。
今は園内にある公園をふらふらと散歩している。
植物園と比べて、大分質素な景色ではあるけれど、小さな遊具で遊ぶ子供たちの姿は、とても和やかな気持ちにさせてくれるんだ。
それに──
「こうして落ち着いて歩くのも、先輩と隣り合わせだと、とても楽しく感じますね」
「そ、そうかい? ボクも、君とこうして散歩できることがとても嬉しいと思っているよ」
隣に凪くんがいる! それだけで景色が何倍にも良く見えてしまう。……むしろ、凪くんのことだけを見ていたいけれど、この場でそういう訳にもいかないからね。
「嬉しいお言葉、ありがとうございます」
本当に凪くんは、素直でいい子だね。だからこそ、君のその言葉に偽りが無いとわかるんだ。……本当にドキドキしちゃうよね、そんなの。
なんだか嬉しくなって、ボクは無意識に彼の前まで小走りで駆けていたんだ。
凪くんがつられて走るより前に、足を止めて彼の方へと振り返る。
……さっきは、いきなりでびっくりして、情けない態度を取っていたけれど、せっかくのデートなんだ。楽しまなくちゃね!
ボクは彼に右手を差し出して小さく微笑んでみる。
「さあ凪くん。せっかくの遊園地なんだ。もう少しアトラクションに乗ろうじゃ無いか」
驚いた彼は、喉を鳴らして一度唇を強く結んだ。君もやっぱり、緊張してくれているんだね。
「はい。いきましょう!」
彼の左手はボクの右手を握り、その顔はとてもいい笑顔を見せてくれている。
そんな嬉しい、可愛い表情をされちゃったら、少し悪戯をしたくなるじゃ無いか。
「唇が乾燥しているようだね。ボクのリップ、貸してあげようか?」
「! い、いえ! 大丈夫ですよ! 大したことじゃないので!」
普通にあしらわれちゃったね。でも、真っ赤に染まった君のその困り顔は、ボクの心に刻ませてもらったよ? これでも、ボクは記憶力がいい方なんだ。
「そっか、それなら良かった。お昼が明ければ、また人が増えてくる。ちょっと急ごうか、凪くん!」
彼と握った手はそのまま、凪くんの手を引いて駆け出していた。
あぁ、今日という日が終わらなければいいのに。心の中がどんどんと、君で埋め尽くされていく。
本当に、本当に楽しいんだ。子供の頃、充たちと遊んでいたときのように。いろんな初めてを経験していた頃のように。
ボクは今、恋という感情の中で、色々な初めてを体験している。──こんなの、心を落ち着かせてなんかいられないよね!
「凪くん、ボクは今とても幸せだ! 君とこうして恋人になれたこと。今、君の隣で、君の手を引いて、こうして歩いていることが、とても楽しいんだ。本当にありがとう」
彼も、まさか今こんな言葉を聞かされるとは思わなかったと思う。ボクだって知らなかったんだ。
でも、考えたのならすぐに伝えたい。心に溜めておくなんて、今のボクには決してできることじゃない。
「こちらこそ、本当にありがとうございます。自分も、先輩にそこまで想ってもらえて、すごく嬉しいです」
こうして、彼を引っ張る自分がとてもむず痒くて、手先から伝わる暖かさがとても心地良くて、ボクの視線は、自然と遊園地の方へと逃げていた。
そこに映った人影に、ボクの足は止まり、心臓も一瞬止まったんじゃないかと思う。
「充……?」
遊園地の中、アトラクションに並ぶ人混みの中に、充らしき人影がみえた。
なんだか疲れたような顔はしているけれど、満更でもないような、そんな表情だ。
──そしてその隣には、カナメの姿があったんだ。
別に二人は友達なのだから、一緒にいてもおかしいことなんてない。いつも一緒にいるんだから、自然のように見える。
でも、今日ボクたちがここにきたのは、充にチケットを渡されたから。彼はもう持っていないはず。
元々四枚あった? 後からまた貰ったりしたのかな?
それにしたって、わざわざ今日じゃなくてもいいじゃないか。
……それに、カナメの服装がいつもと比べても、少しお洒落な気がする。
特にイヤリングやヘアピンは綺麗で、肌や口元が少し艶っぽい。お化粧もしているのかな?
充を引っ張って歩く姿は、とても楽しそうなんだ。
もしかして、二人はそういうか関係だったのかい? ボクは何も聞いていないよ。
でもそうなら、隠す必要なんかないじゃないか。ボクたちは親友なのだから、何でも話すべきじゃないのかい?
息が苦しい。心が痛い。既に姿は見えないというのに、見開いたボクの目が閉じてくれる様子は無さそうだ。
「先輩? どうかしましたか?」
「凪くん……」
ああ、そうだ。ボクは凪くんと一緒に遊園地に来たんじゃないか。
なんでそこに充がいたからと、カナメと一緒だからと、こんな気持ちになる必要があるんだ。
……今日は楽しまなくちゃもったいない。二人には明日、話を聞けばいい。もしかしたら、ボクの間違いなのかもしれないんだからね。
「いいや、なんでもないよ。足を止めてしまってごめんよ。さあ行こうか、凪くん!」
「え、ええ……」
彼の返事は煮え切らなかったけれど、彼に気づかれないよう、急いでその場を駆け出した。
──充、なんでカナメとのこと、言ってくれなかったんだい?
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。


家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる