恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

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ボクと充と凪くんと

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 昨日はカナメのお陰で、凪くんへの気持ちを知ることができた。
 ボクのこの凪くんを望む心は、恋心ということらしい。苦しいのに幸せな、この感情が恋というなんて、ボクだけじゃ考えもしなかっただろうな。

 いつも思考を巡らせる登校時間も、早く凪くんに会いたいという、自分本位な想いばかりに埋め尽くされていく。
 昨日は結局会うことは叶わず、ボクの心はどんどん苦しくなるばかりなんだ。……ボクの方から彼の教室に出向いてみようか? 驚かれてしまうかな?

「いつもいつでも思案が恋人、エリーさん」

「今のボクの恋人は凪くんだよ、カナメ」

 彼女より先に登校できた試しが無い。カナメは一体、いつからボクの事を待っていてくれているんだろう。

「おはよ。朝から恥ずかしげもなく凪くん愛、頂きました」

「おはよう。彼を誇りこそすれ、恥ずかしがる事なんて、何一つないよ。そんなことがあれば、凪くんに失礼じゃないか」

惚気のろけはけっこーでーす」

 手を振りながら呆けるカナメ。別に惚気ているつもりはないのだけど……彼を信じることも惚気というものなのかな?

「まだ進藤と話してないんでしょ? 凪くんのこと、ちゃんと説明しときなよ」

「別に、充は保護者ではないんだけど。でも確かに、心配性なところはあるからね。凪くんは大丈夫だって、伝える必要はありそうだ」

「そうそう」

 靴を履き替えながら、カナメは深く頷いている。彼女からの充はどんなイメージなんだろうか。

 教室に向かう間もカナメと話しながら、ボクの視線は辺りを見渡してしまう。
 凪くんが何時に登校しているかなんて知らないけれど、見かけることくらいできないかな、と期待している自分がいるんだ。……これはちょっと恥ずかしいよね。

「あんまりきょろきょろとしてると、怪しいエリーさんになっちゃうぞ」

「変な呼び方はよしておくれよ。恋人を探すことがそんなにおかしなことかい?」

「おかしなことじゃないけど、その気持ちももう少し隠そうよ。側にいるあたしまで恥ずかしくなっちゃう」

「ああ、ごめんよカナメ。今後気をつけるようにするよ」

 確かに、カナメの立場にボクがいたなら、同じように恥ずかしくなってしまうかもしれない。カナメはそんなことしないだろうから、経験することもないと思うけどね。

「あ、充! おはよう」

「ん? おお、愛理と望月か。おはよ」

「おはよー。今日は早いじゃん。最近どうしたの?」

 最近では珍しく、充がボクたちよりも早く登校していたみたいだ。
 久しぶりに、直接彼と話せるのは嬉しいな。

「あぁ……家の事情だが、ちょっと厄介事がなー。ま、二人にもその内話すよ。多分、話さざるを得なくなると思う」

「充がそういうなら、待っているよ。とても楽しみだ」

「いやぁ、俺は勘弁してほしいんだけどな。ま、その時が来たらな」

 充の言葉を合図に、始業のチャイムが鳴る。また充と話す機会を失っちゃうじゃないか!

「ねぇ充、今日の授業後はお話できるかい?」

「ん? まあ、今日は何もないからいいぞ。あまり面倒なことだけはよしてくれよ」

「ありがとう。とても大切なことなんだ。君には話しておきたいからね」

 不思議そうにしているけれど、先生が入ってきてしまい、仕方なく席に戻る。
 断られなくて良かった。遅くなればなるほど、凪くんのことを話しづらくなってしまうからね。
 授業後が楽しみになって、同時に少し緊張しちゃうな。

   ※   ※   ※

「なるほどな。凪って後輩は今までの男とは違うわけだ」

「そうなんだ。今回は多分、ボクも本気で彼に恋をしているらしい。今までがお遊びだったなんて言わないけれど、今までとは明らかに、ボクの気持ちが違うんだ」

 今は授業後、充とお話をしている。
 凪くんとのお付き合いの話や、デートの話。ボクの気持ちと、昨日カナメに教えてもらった、おまじないの話。
 それらを全部、充に話してみたんだ。

 真剣に聞いてくれる、彼のその様子がとても嬉しかった。いつものことだけど、今日のことは特に強く思う。

「……まだ一週間も経ってないんだ、あまり心を許しすぎるな──とは言ってやりたいが、お前は聞かないだろうな」

「ごめんよ。もうボクは彼を疑えそうにない。多分、凪くんの姿を見てしまったら、まともに考えることが出来なくなってしまうからね」

 重く、深いため息を吐く充のその様子は、ボクの心に染み渡る。……それだけ、ボクの事を考えてくれている証拠なんだよね。

「お前らしいな。そんなにいい男が来てくれたなら、良かったな。……俺もこれで、お前に告られることも無くなるわけだ。そりゃ、嬉しいね」

 なんだか、その言い方はとても気に障るよ、充。ボクの告白がそんなに気に入らなかったのかい?

「朱思先輩! お迎えに上がりました!」

 へ? この声──

「凪くん! また来てくれたのかい!」

 ボクは思わず教室の入り口まで駆けていた。だって、あれほど待ち望んだ凪くんがそこにいるんだ。これが我慢できると思うかい?

「昨日はお迎えに上がれず、申し訳ありません。自分としたことが、連絡することもできず……」

「何を言っているんだい、君は! 今日、こうして迎えに来てくれたじゃないか。それだけでボクはとっても嬉しいんだ!」

「そう言ってもらえて、自分の心は救われました」

 相変わらずお堅い子だな。けど、昨日から──ううん。日曜日からずっと聞きたかった、凪くんの声! ずっと見たかった、凪くんの顔! 
 あぁ、こうして目の前に彼を迎えるだけで、口元の緩みが落ち着かない……なんだか恥ずかしくなってきちゃったよ。

「へぇ、あんたが噂の凪 修平くんか」

「えっと……?」

 充の存在に、凪くんが困惑している。
 そういえば、まだちゃんと紹介していなかったね。

「凪くん、この男の子が、前話していた幼馴染の進藤 充。とっても心強い男の子だよ」

 充は軽くため息を漏らしながらも、頭を掻いてもう一度凪くんをまっすぐとみつめている。

「そして充、さっき君も言っていたが、彼が凪くんだ。二人とも仲良くしておくれ」

 充は席を立ち、凪くんを至近距離でまじまじとみている。

「どうやら、乱暴を働くようには見えないな」

「よしてください。自分は決してそんなことしませんから」

「そうだな。まあ、そんなことしようもんなら──」

 充は凪くんの瞳を思い切り見つめている。な、なんだか見ているこっちもドキドキしてしまうじゃないか。

「ぜってぇ、許さねえけどな」

 ボクの感情とは裏腹に、充の放つその声が、とても重々しくて。
 凪くんも喉を鳴らしているし、傍から見ているボクも思わずすくんでしまったんだ。

「み、充! よしておくれ! 凪くんも怖がってしまってるじゃないか!」

「……ああ、わりぃな。これでも幼馴染なんだ。愛理のことは、妹のように大切に思ってるんだよ、俺」

「充! ボクはこれでも君よりお姉さんだぞ!」

 まあ、ボクも君のことは兄のように慕っているけれどね!
 それでも、凪くんを怖がらせるのは頂けない。

「分かったよ。……迎えってのは、二人で帰るのか?」

「そうさ。凪くんはボクと一緒に帰るんだ」

 君に文句は言わせないよ!

「それはいいな。愛理はほっとくと、どこでなにをしだすか分からん。凪くんや、こいつの面倒は任せたぞ?」

「……はい。必ず」

 充はいつも一言多い。ボクが何をするっていうんだい!

「よし。彼氏も来たことだし、俺は帰るよ愛理。それじゃ、また明日な」

「ああ、君も気をつけて帰るんだよ」

 充からの返事はなく、掌を返すだけで挨拶をする。まったく、横着な男だよ、君は。

「ごめんよ、凪くん。充が失礼をしてしまって。ボクからも謝罪するよ」

「いえ、自分は大丈夫です。それより、あの進藤先輩って何者なんですか?」

 ボクに向けてくれる視線が、少し震えているね。可哀想に。充にはちゃんと注意しておかなければいけないね。

「何者でもないさ。彼は、ちょっとお節介なボクの幼馴染だよ」

 充の去った道に視線を向ける凪くん。
 その様子が、とても儚くさえ見えたんだ。

「さあ凪くん。ボクたちも帰ろうか」

「……はい」

 二人が喧嘩するのだけはやめてほしいと、心から願うよ。
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