9 / 35
ボクのお母さんはお節介
しおりを挟む
「ただいまー」
凪くんとのデートを終え、我が家への帰還。
家に帰るまでの間も今日のことを考え続けるばかりで、頭の中がパンクしそうだよ。
「おかえりなさい、愛理。今日の子はどうだった?」
「どうもこうも、とても気の利く男の子だったよ、お母さん」
キッチンから頭を覗かせるお母さん。
とても綺麗で、陽気な性格も手伝って、すごく若く見えるんだ。
もう四十近くなると言うのに、未だ高校生と間違われることもあるらしい。カナメなんかは、あんたら親子はずるい、なんて言っていた。
ボクを見つめるその右手にはおたまが握られていて、鼻をくすぐる匂いはとても香ばしく、ボクのお腹の虫を鳴かせている。お母さんのカレーは絶品なんだよね。
「あらぁ~? とーっても、女の子の顔してる……今夜はお赤飯にした方がいいかなぁ~?」
「そ、そんなことはないよ! まだ付き合ったばかりだし、また振られちゃうかもしれないし……」
う、弱気になる自分が情けない。
でも、今日のボクの態度は凪くんにとても失礼だった。
彼は別れ際にもあんなことを言ってくれたけれど、嫌われていてもおかしくないんだ。
「もぅ。私の娘なんだから、もっと自分に自信もってよね! ほーらぁ、お風呂も沸いてるから入ってくる! 美味しいカレーが待ってるんだからね!」
「分かったよ! お母さんのカレー、楽しみにしているからね!」
お母さんはとてもいい笑顔をしているけれど、ボクは恥ずかしさで頭が沸騰してしまいそうだよ! 凪くんのことがいつまで経っても、頭から離れていかないじゃないか!
手洗いうがいを済ませ、着替えの準備。浴室へ足を運ぶ。
脱衣所での姿見は、情けないボクの全身を映し出していた。
「……本当にどうしたんだい、ボク。こんなに自分が分からなくなることは、初めてだ」
似合わない白のワンピースに身を包む自分。触れなくても分かるけど、実際に触れてみると更に伝わってくる、心臓の鼓動の早さ。
もう凪くんはここにいないと言うのに、いつもの三倍は早いんじゃないかと言うくらいバクバクしている。
人それぞれ、死ぬまでの鼓動の回数は決まっていると聞くけれど、それが本当ならボクは今日一日で、どれだけ寿命が縮んでしまっただろう。
こちらを見つめる鏡の中の自分。
なんだか難しい顔をしているけれど、その頬は真っ赤に染まり、唇はすぐに乾燥する。
顔に触れると、風邪でも引いたんじゃないかと言うくらい、とても熱い。
ただこうしているだけで意識がぼぅっとしてしまうと言うのに、凪くんのことが頭から離れない。
彼のことを考えるだけで、ボクの思考も行動も、全てに身が入らなくなる。
「ダメだ! 凪くんのことはひとまず忘れるんだ!」
首を振り、なんとか考えることを他所へと振り払う。
誰かに見られているわけでもないと言うのに、急いで服を脱ぎ捨て、浴室に入り体を軽く流して湯船に浸かった。
「…………熱い」
別に、お風呂の温度が高いわけじゃないと思う。なんなら、入るまでに時間があったのだから、少し冷めているくらいかもしれない。
それでも、足の先から頭の先まで、火傷しそうなくらいに熱いんだ。
ボクは、考えることが大好きだ。
人のことを考えるのも、今日の出来事を思い返すのも、明日何があるかなと考えるのも。
ボクが何も考えていない時なんてないくらいだと思う。それこそ、考え事に夢中で授業中に怒られることもあるくらいだ。
なのにそんなボクが、今は何も考えたくない。何か一つ、考え事をするだけで凪くんが、彼の顔が浮かんでくるんた。
彼のことを思い出すたびに、体温が上がっていくのが分かる。……このままじゃボク、死んじゃうんじゃないかな?
のぼせる前に湯船を上がり、体温を下げるためにシャワーから水を出し──
「ひゃいっ!」
冷たい! 自分でやったことなのに、思わず変な声が出てしまった。
「愛理どうしたの! なにかあった!」
「な、なんでもない! 水が冷たかっただけだよ! 大丈夫!」
さっきの声でお母さんが心配してきてくれたらしい。恥ずかしさで余計体温が上がってしまったよ……。
少しでも考えることを避けるため、体を流し、髪を洗っていく。
何もしないと、腰まで届きそうなくらい長い髪。自分で言うのも可笑しな話かもしれないけど、綺麗な髪だと思っている。お母さん譲りの大好きな髪。
「凪くん、君は、髪の長い女の子は好きかい?」
答えの帰ってくるはずもない疑問。凪くんの好みか……ボクは何を! 考え事は禁物だ!
なんとか自分の思考を振り払いながら、急いで湯浴みを終わらせる。
変に急いだせいか、若干荒い息を整えて、浴室の扉を開いた。
「──気持ちいい。すっきりしたよ」
お母さんがちゃんと閉め忘れたのか、脱衣所の入り口がすこし開いていて、そこから流れてくる風が火照った身体を冷ましてくれる。
長い髪をまとめてタオルを頭に巻きつけて、バスタオルで身体を拭いていく。
「スタイルもそんなに悪くないと思うけど、君はどんな子が好きなんだい? やっぱり男の子は、もう少し胸がある方がいいのかな?」
ボクに告白してくれたということは、君の好みであると思いたい。けれど、全てが君の好みとはいかないだろう。
悩むボクの姿が大好きだと言ってくれた。考え事をしている時の自分なんて見たこともないけれど、君はそんなボクのどこに好意を持ってくれたんだい?
君の本当の心がわからない。……ボクの本当の心が分からない。
ただ一つ、君に早く会いたいというこの気持ちだけは、自分でも分かる唯一の感情に思えるんだ。
「愛理ー、長風呂もいいけど、あなたへお電話よー。男の子からのお電話だからね」
「男の子?」
ボクの心拍数は、さっきまでの比にならないほど跳ね上がっていた。
凪くんとのデートを終え、我が家への帰還。
家に帰るまでの間も今日のことを考え続けるばかりで、頭の中がパンクしそうだよ。
「おかえりなさい、愛理。今日の子はどうだった?」
「どうもこうも、とても気の利く男の子だったよ、お母さん」
キッチンから頭を覗かせるお母さん。
とても綺麗で、陽気な性格も手伝って、すごく若く見えるんだ。
もう四十近くなると言うのに、未だ高校生と間違われることもあるらしい。カナメなんかは、あんたら親子はずるい、なんて言っていた。
ボクを見つめるその右手にはおたまが握られていて、鼻をくすぐる匂いはとても香ばしく、ボクのお腹の虫を鳴かせている。お母さんのカレーは絶品なんだよね。
「あらぁ~? とーっても、女の子の顔してる……今夜はお赤飯にした方がいいかなぁ~?」
「そ、そんなことはないよ! まだ付き合ったばかりだし、また振られちゃうかもしれないし……」
う、弱気になる自分が情けない。
でも、今日のボクの態度は凪くんにとても失礼だった。
彼は別れ際にもあんなことを言ってくれたけれど、嫌われていてもおかしくないんだ。
「もぅ。私の娘なんだから、もっと自分に自信もってよね! ほーらぁ、お風呂も沸いてるから入ってくる! 美味しいカレーが待ってるんだからね!」
「分かったよ! お母さんのカレー、楽しみにしているからね!」
お母さんはとてもいい笑顔をしているけれど、ボクは恥ずかしさで頭が沸騰してしまいそうだよ! 凪くんのことがいつまで経っても、頭から離れていかないじゃないか!
手洗いうがいを済ませ、着替えの準備。浴室へ足を運ぶ。
脱衣所での姿見は、情けないボクの全身を映し出していた。
「……本当にどうしたんだい、ボク。こんなに自分が分からなくなることは、初めてだ」
似合わない白のワンピースに身を包む自分。触れなくても分かるけど、実際に触れてみると更に伝わってくる、心臓の鼓動の早さ。
もう凪くんはここにいないと言うのに、いつもの三倍は早いんじゃないかと言うくらいバクバクしている。
人それぞれ、死ぬまでの鼓動の回数は決まっていると聞くけれど、それが本当ならボクは今日一日で、どれだけ寿命が縮んでしまっただろう。
こちらを見つめる鏡の中の自分。
なんだか難しい顔をしているけれど、その頬は真っ赤に染まり、唇はすぐに乾燥する。
顔に触れると、風邪でも引いたんじゃないかと言うくらい、とても熱い。
ただこうしているだけで意識がぼぅっとしてしまうと言うのに、凪くんのことが頭から離れない。
彼のことを考えるだけで、ボクの思考も行動も、全てに身が入らなくなる。
「ダメだ! 凪くんのことはひとまず忘れるんだ!」
首を振り、なんとか考えることを他所へと振り払う。
誰かに見られているわけでもないと言うのに、急いで服を脱ぎ捨て、浴室に入り体を軽く流して湯船に浸かった。
「…………熱い」
別に、お風呂の温度が高いわけじゃないと思う。なんなら、入るまでに時間があったのだから、少し冷めているくらいかもしれない。
それでも、足の先から頭の先まで、火傷しそうなくらいに熱いんだ。
ボクは、考えることが大好きだ。
人のことを考えるのも、今日の出来事を思い返すのも、明日何があるかなと考えるのも。
ボクが何も考えていない時なんてないくらいだと思う。それこそ、考え事に夢中で授業中に怒られることもあるくらいだ。
なのにそんなボクが、今は何も考えたくない。何か一つ、考え事をするだけで凪くんが、彼の顔が浮かんでくるんた。
彼のことを思い出すたびに、体温が上がっていくのが分かる。……このままじゃボク、死んじゃうんじゃないかな?
のぼせる前に湯船を上がり、体温を下げるためにシャワーから水を出し──
「ひゃいっ!」
冷たい! 自分でやったことなのに、思わず変な声が出てしまった。
「愛理どうしたの! なにかあった!」
「な、なんでもない! 水が冷たかっただけだよ! 大丈夫!」
さっきの声でお母さんが心配してきてくれたらしい。恥ずかしさで余計体温が上がってしまったよ……。
少しでも考えることを避けるため、体を流し、髪を洗っていく。
何もしないと、腰まで届きそうなくらい長い髪。自分で言うのも可笑しな話かもしれないけど、綺麗な髪だと思っている。お母さん譲りの大好きな髪。
「凪くん、君は、髪の長い女の子は好きかい?」
答えの帰ってくるはずもない疑問。凪くんの好みか……ボクは何を! 考え事は禁物だ!
なんとか自分の思考を振り払いながら、急いで湯浴みを終わらせる。
変に急いだせいか、若干荒い息を整えて、浴室の扉を開いた。
「──気持ちいい。すっきりしたよ」
お母さんがちゃんと閉め忘れたのか、脱衣所の入り口がすこし開いていて、そこから流れてくる風が火照った身体を冷ましてくれる。
長い髪をまとめてタオルを頭に巻きつけて、バスタオルで身体を拭いていく。
「スタイルもそんなに悪くないと思うけど、君はどんな子が好きなんだい? やっぱり男の子は、もう少し胸がある方がいいのかな?」
ボクに告白してくれたということは、君の好みであると思いたい。けれど、全てが君の好みとはいかないだろう。
悩むボクの姿が大好きだと言ってくれた。考え事をしている時の自分なんて見たこともないけれど、君はそんなボクのどこに好意を持ってくれたんだい?
君の本当の心がわからない。……ボクの本当の心が分からない。
ただ一つ、君に早く会いたいというこの気持ちだけは、自分でも分かる唯一の感情に思えるんだ。
「愛理ー、長風呂もいいけど、あなたへお電話よー。男の子からのお電話だからね」
「男の子?」
ボクの心拍数は、さっきまでの比にならないほど跳ね上がっていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定


家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる