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ボクへプレゼント?
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食事を終えたボクたちは、何故か靴屋に訪れている。
凪くんの要望なんだけど……彼、さっきからレディース周りばっか見ているんだ。そんなに足が小さいようには見えないんだけどな。
「先輩、これなんてどうですか?」
そう言って見せてくれるのは、薄緑色で厚底なスニーカー。
特に凝ったデザインなんてないけれど、その色合いと靴紐の通し方がとても可愛らしい靴だ。踵につけられた小さなリボンも、中々良い雰囲気。
「うん、ボクはとっても好きだよ、このデザイン。でもちょっと小さくはないかい……?」
「先輩にですよ。そのままじゃ歩くの大変ですよね」
「ボクに……?」
どう言う事だい? つまり彼は、ボクがハイヒールに慣れていない事を知っていて、辛いだろうと新しい靴を選んでくれていたのかい?
……ちょっと、それは卑怯というものだよ、凪くん。
「君は、ボクの事をどこまで分かっているんだ」
最初の、似合わない発言は確かに頂けなかったけれど、それ以来の彼の言動全てが、ボクの望む事を理解しているかのようじゃないか。
彼は読心術でも身につけているのだろうか。
「それはよかったです。靴の大きさも大丈夫ですか? 見た感じで選んでしまいましたが……」
ボクの足は二三センチだ。彼の持ってきた物は二三、五センチだけど、この靴は少し小さめに加工されるらしい。
促されて履いて見たけれど、ぴったりボクのサイズじゃないか。この男は本当に完璧すぎやしないかい?
「……完璧だよ、凪くん。デザインもサイズも、全てが大正解だよ!」
念のため値段を見てみると……う、こういうシンプルなデザインというものは、意外に高い事が多いよね。
せっかく選んでくれたけれど、これは諦めるしかないみたいだ。
「ごめんよ凪くん。せっかく君が選んでくれたというのに、今のボクでは手が届きそうにないんだ。今日はこのまま頑張らせてもらうよ」
しかし、気づけば凪くんが近くにいない。どこにいったんだい?
「あ、先輩! お待たせしてしまい、すいません。タグを切るためにハサミを借りにいってまして……」
「ちょ、ちょっと待っておくれ凪くん! ボクはこんな高い物買えない! 返品するんだ、タグは切ってはいけないよ!」
一体この子は何をしようとしているんだ。新手の詐欺かなんかじゃ無いだろうね!
「えっと、心配はいりませんよ。もうその靴は先輩のものですから」
「な、何を言っているんだい? そんな泥棒みたいなセリフ──」
「先程お金は払っておいたので、そのまま履いて行って良いとのことですよ」
えっと凪くん……? お金は払った……?
ちょっと待っておくれ。それはつまり
「な、凪くんからのプレゼントということかい?」
「そんな大層なものじゃ無いですが……嫌、でしたか?」
「嫌なもんか! ボクはとても嬉しいけれど、こんな高価なもの──君は大丈夫なのかい?」
ボクのお小遣いでは二、三ヶ月ためてやっと買えるような金額だ。
なのに彼は、そんなものをこんなあっさりとプレゼントしてくれると? 君の金銭感覚はどうなっているんだ!
「気にしないでください。先輩が喜んでくれる事が嬉しいので」
そう言えば、さっきのお店もボクはお金を払っていなかった気がする。
一体、そのお金はどこから──そう言えば、カナメが何か言っていたね。彼のお家はお金持ちとか……う、こんな事を考えると、素直に喜べない自分がいる。なんだか嫌な気分だ。
「ああ、ありがとう。とっても嬉しいよ」
その後も、服などを買ってくれると言っていたけれど、それは流石に拒ませてもらった。この靴だけでもお腹いっぱいなんだ。これ以上もらってしまっては、ボクの方が耐えられない。
実際に何かを買うでもなく、いわゆるウィンドウショッピングというものが続き、彼との会話もほどほどに一日が過ぎていった。
──時は夕暮れ、赤く照らす空が、対面するボクと凪くんを照らしていた。
「今日はありがとうございました。色々と気分を害してしまったようで……すみませんでした」
「いやいや! 凪くんに落ち度は無かったさ。最高の一日だったことは間違いないよ。……ボクの方こそ、せっかくの初デートを嫌なものにしてしまってごめんよ」
「そんなことありません。自分は今日、朱思先輩と一緒に過ごせて、とても楽しかったんです。もっと楽しいものに出来なくて申し訳ない気持ちが募るばかりです」
こんな自分勝手なボクとのデートを、それほどまでに肯定的に捉えてくれたのも、君が初めてだ。
ボクは今日、どれほど幸せだっただろう。なのに、なんでこんな沈んだ気持ちになっているのか、自分でも分からないんだ。
凪くん。ボクは君といていい女じゃないのかもしれない。それでも──
「何度も言っているじゃないか。ボクは本当に楽しかったんだ。もし良ければ、また誘っておくれよ?」
無意識に漏れたボクの言葉に、凪くんも少し驚いている。
でも、その後すぐに見せてくれた笑顔は素敵なものだったんだ。
「はい。迷惑でなければ、すぐにでも連絡させて頂きます」
「それじゃ、この辺でお別れだね。また学校で会おう。さようなら、凪くん」
「先輩も、お気をつけて帰ってくださいね。また学校でお会いしましょう。さようなら」
凪くんに背を向け、帰路につく。
今日一日、とてもよくしてもらったっていうのに、ボクの心はなんて失礼なんだ。
なんて嫌な女なんだろう。本当に自分の事を嫌いになりそうだよ。
凪くんの要望なんだけど……彼、さっきからレディース周りばっか見ているんだ。そんなに足が小さいようには見えないんだけどな。
「先輩、これなんてどうですか?」
そう言って見せてくれるのは、薄緑色で厚底なスニーカー。
特に凝ったデザインなんてないけれど、その色合いと靴紐の通し方がとても可愛らしい靴だ。踵につけられた小さなリボンも、中々良い雰囲気。
「うん、ボクはとっても好きだよ、このデザイン。でもちょっと小さくはないかい……?」
「先輩にですよ。そのままじゃ歩くの大変ですよね」
「ボクに……?」
どう言う事だい? つまり彼は、ボクがハイヒールに慣れていない事を知っていて、辛いだろうと新しい靴を選んでくれていたのかい?
……ちょっと、それは卑怯というものだよ、凪くん。
「君は、ボクの事をどこまで分かっているんだ」
最初の、似合わない発言は確かに頂けなかったけれど、それ以来の彼の言動全てが、ボクの望む事を理解しているかのようじゃないか。
彼は読心術でも身につけているのだろうか。
「それはよかったです。靴の大きさも大丈夫ですか? 見た感じで選んでしまいましたが……」
ボクの足は二三センチだ。彼の持ってきた物は二三、五センチだけど、この靴は少し小さめに加工されるらしい。
促されて履いて見たけれど、ぴったりボクのサイズじゃないか。この男は本当に完璧すぎやしないかい?
「……完璧だよ、凪くん。デザインもサイズも、全てが大正解だよ!」
念のため値段を見てみると……う、こういうシンプルなデザインというものは、意外に高い事が多いよね。
せっかく選んでくれたけれど、これは諦めるしかないみたいだ。
「ごめんよ凪くん。せっかく君が選んでくれたというのに、今のボクでは手が届きそうにないんだ。今日はこのまま頑張らせてもらうよ」
しかし、気づけば凪くんが近くにいない。どこにいったんだい?
「あ、先輩! お待たせしてしまい、すいません。タグを切るためにハサミを借りにいってまして……」
「ちょ、ちょっと待っておくれ凪くん! ボクはこんな高い物買えない! 返品するんだ、タグは切ってはいけないよ!」
一体この子は何をしようとしているんだ。新手の詐欺かなんかじゃ無いだろうね!
「えっと、心配はいりませんよ。もうその靴は先輩のものですから」
「な、何を言っているんだい? そんな泥棒みたいなセリフ──」
「先程お金は払っておいたので、そのまま履いて行って良いとのことですよ」
えっと凪くん……? お金は払った……?
ちょっと待っておくれ。それはつまり
「な、凪くんからのプレゼントということかい?」
「そんな大層なものじゃ無いですが……嫌、でしたか?」
「嫌なもんか! ボクはとても嬉しいけれど、こんな高価なもの──君は大丈夫なのかい?」
ボクのお小遣いでは二、三ヶ月ためてやっと買えるような金額だ。
なのに彼は、そんなものをこんなあっさりとプレゼントしてくれると? 君の金銭感覚はどうなっているんだ!
「気にしないでください。先輩が喜んでくれる事が嬉しいので」
そう言えば、さっきのお店もボクはお金を払っていなかった気がする。
一体、そのお金はどこから──そう言えば、カナメが何か言っていたね。彼のお家はお金持ちとか……う、こんな事を考えると、素直に喜べない自分がいる。なんだか嫌な気分だ。
「ああ、ありがとう。とっても嬉しいよ」
その後も、服などを買ってくれると言っていたけれど、それは流石に拒ませてもらった。この靴だけでもお腹いっぱいなんだ。これ以上もらってしまっては、ボクの方が耐えられない。
実際に何かを買うでもなく、いわゆるウィンドウショッピングというものが続き、彼との会話もほどほどに一日が過ぎていった。
──時は夕暮れ、赤く照らす空が、対面するボクと凪くんを照らしていた。
「今日はありがとうございました。色々と気分を害してしまったようで……すみませんでした」
「いやいや! 凪くんに落ち度は無かったさ。最高の一日だったことは間違いないよ。……ボクの方こそ、せっかくの初デートを嫌なものにしてしまってごめんよ」
「そんなことありません。自分は今日、朱思先輩と一緒に過ごせて、とても楽しかったんです。もっと楽しいものに出来なくて申し訳ない気持ちが募るばかりです」
こんな自分勝手なボクとのデートを、それほどまでに肯定的に捉えてくれたのも、君が初めてだ。
ボクは今日、どれほど幸せだっただろう。なのに、なんでこんな沈んだ気持ちになっているのか、自分でも分からないんだ。
凪くん。ボクは君といていい女じゃないのかもしれない。それでも──
「何度も言っているじゃないか。ボクは本当に楽しかったんだ。もし良ければ、また誘っておくれよ?」
無意識に漏れたボクの言葉に、凪くんも少し驚いている。
でも、その後すぐに見せてくれた笑顔は素敵なものだったんだ。
「はい。迷惑でなければ、すぐにでも連絡させて頂きます」
「それじゃ、この辺でお別れだね。また学校で会おう。さようなら、凪くん」
「先輩も、お気をつけて帰ってくださいね。また学校でお会いしましょう。さようなら」
凪くんに背を向け、帰路につく。
今日一日、とてもよくしてもらったっていうのに、ボクの心はなんて失礼なんだ。
なんて嫌な女なんだろう。本当に自分の事を嫌いになりそうだよ。
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