7 / 35
ボクは泣き虫じゃないからね!
しおりを挟む
初デートで男の子がプランを練った場合に、映画を選ぶのは決して悪くはないんだ。
でも、相手の趣味や好きな映画でも知らないと、無難なものを選ばなくちゃいけない。
ボクのような女子高生相手なら、今人気な恋愛ものだったり、有名どころが上映していれば、その辺を選ぶことになると思う。
でもみんながみんな、そういうのを好きだとは限らない。つまらないだけならいいけれど、相手のことが好きだと、そこで気を使って面白かったと言ってしまうかもしれない。
初めてでそんなすれ違いは避けたいよね? だから、映画を見に行くなら相談することが一番大事なんだ。
今回の凪くんの選択は正直、間違っていたと思う。
でもなんでかな? ボクの趣味を知らない君は、どうしてこんな映画を選べたんだい?
薄暗い闇の中、大きく広がったスクリーンには、一匹の黒猫がご主人を看取っているシーンが流れている。
こんな……こんな作品を見せられちゃ、さっきまでの残念な気持ちは何処かへ行ってしまうじゃないか。
もうボクの心の中には寂しさと悲しさと、虚しさばかりが淀んでいるよ。目元から何か伝ってるんだよ! なんでこんな作品選んだんだよぅ……。
凪くんがハンカチを差し出してくれたから、服を汚すようなことは無かったけれど、涙が全然止まらない。
映画の中盤から終わりにかけて、ボクは終始涙を流しながらの鑑賞となってしまっていたんだ。
気づけば、悲しい雰囲気エンディングと共にエンドロールは流れ終わり、周囲も明るくなっていた。
上映中でも聞こえていたけれど、何人かのすすり泣く声がボクの耳にも届いている。……多分ボクの声も聞こえていたんじゃないかな。
「朱思先輩、大丈夫ですか? 自分もこんな悲しい話だとは思わず……」
ボクを気遣う、凪くんのその目の下にも若干の涙の跡が見える。君もないていたんじゃないか!
「君は何を謝っているんだい? 確かに悲しいお話ではあったけれど、ボクはとても楽しめたんだ。君の作戦勝ちというやつだよ、凪くん。にくいやつめ!」
ボクはなんの話をしているんだ。感動やら涙やらで、頭の中がぐちゃぐちゃだよ!
「先輩が喜んでくれたのであれば、自分も嬉しいです。とりあえず出ましょう。歩けますか?」
「今そんな優しさを見せないでおくれ! 泣いているだけだから歩くくらい大丈夫さ!」
泣きすぎたせいで立ち上がるのも一苦労だよ。自分の弱さが情けない!
結局、凪くんに手を引かれながら、映画館を後にすることとなってしまった。
こんな状態で手を引かれてるとか、恥ずかしさで死んでしまいそうだよ。
※ ※ ※
「朱思先輩、落ち着きましたか?」
「うん。迷惑をかけてごめんよ」
まだ切なさは残っているけれど、涙の方は落ち着いたようだ。
まったく、あんな悲しい話を考えたのは誰なんだ。ボクの水分を全て失わせるつもりかい?
ボクがずっと泣いていたせいで、周囲から凪くんに突き刺さる視線がとても辛かった。
今は、観葉植物が多く飾られた、可愛らしいカフェで注文した料理を待っているところだ。……入店した際にもまだボクが泣いていたせいで、店員さんにはあらぬ誤解を与えてしまったかもしれない。
「ボクもまだまだサーチが甘いですね。まさか、朱思先輩があんなに涙脆いとは思いませんでした」
「な、何を言っているんだい? 君だって泣いていたじゃないか! あれは物語が悪いんだ。ボクが泣き虫なわけじゃない!」
「そうですね。先輩はとても素敵な方です」
何も伝わっていない!
君は何を聞いていたんだ! ボクは泣き虫じゃないと、あんな悲しい物語を考えたやつが悪いんだと言っているのに! ──別に考えた人も悪くないよ!
「ふん! 言っていればいいさ。本当のボクはそう簡単には泣いたりしないんだからね!」
「承知しておきます」
うぅ……凪くんはなんだかやり辛い。いつもならこんな冷静を欠くことなんてないのに、やっぱり今日のボクはどこかおかしいのかな。
「お待たせしました。ふわふわたまごのオムライスになります」
「あ、ありがとう、店員さん」
ボクの注文していた料理だ。カフェの料理って、もっとお洒落な名前とかのイメージあるけど、シンプルな名前でとても頼みやすかったよ。
すごいふわふわで美味しそう。
「とても美味しそうじゃないか。カフェなんてあまり来ないから、食べれるものがあるか心配だったんだ」
「別に、カフェといっても普通の飲食店ですよ。お洒落な料理しか置いてないお店の方が、少ないんじゃないですか?」
「そうなのかい? 外食なんて基本しないから、その辺の事情は知らなかったんだ」
凪くんが何故か驚いた顔をしているね。何か変なことを言ってしまっただろうか?
「家族で外食などもしないんですか? 意外ですね」
「そうかい? お母さんの料理はとても美味しいし、特に外で食べたいとは思わないんだ。充やカナメと遊ぶ時でも、誰かの家で一緒に食べているからね」
「充、カナメ……?」
おっと。そういえば、彼は二人のことを知らないよね。自分の友達となると、自然と名前が出てきてしまう。困ったものだ。
「ごめんよ。充もカナメも、ボクの大切な親友なんだ。カナメはこの学校に入ってから、充は小さな頃からの幼馴染というやつさ」
「その充という方は、男友達なんですか?」
「そうさ。──あ、ごめんよ! せっかくのデート中だというのに、他の男の子の名前を出すものではないね。ボクとしたことがうっかりしていたよ」
過去にそれを理由で振られたこともあったじゃないか。ボクは学習しないなぁ。
「いや、そんなことで怒ることもありませんよ。まあ、朱思先輩に大切だなんて思われている事には、少し嫉妬してしまいますが」
嫉妬って……そ、そんな風に思ったのかい? 男心というものはとても難しいな……。
「別に、充はそんなんじゃないんだ! 変な誤解はよしておくれよ?」
「冗談ですよ。それより先輩、ボクのも待っていると冷めてしまいますので、お先にどうぞ」
凪くんはそう言って食事を促してくれる。今日は朝ごはんを抜いてきてしまったから、正直ボクはお腹ぺこぺこだったんだ。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「そうかい? それじゃあ、先に頂くよ。──頂きます」
にこにこと微笑ましく見つめられながらの食事と言うものは、中々どうして恥ずかしいものだね……。
でも、相手の趣味や好きな映画でも知らないと、無難なものを選ばなくちゃいけない。
ボクのような女子高生相手なら、今人気な恋愛ものだったり、有名どころが上映していれば、その辺を選ぶことになると思う。
でもみんながみんな、そういうのを好きだとは限らない。つまらないだけならいいけれど、相手のことが好きだと、そこで気を使って面白かったと言ってしまうかもしれない。
初めてでそんなすれ違いは避けたいよね? だから、映画を見に行くなら相談することが一番大事なんだ。
今回の凪くんの選択は正直、間違っていたと思う。
でもなんでかな? ボクの趣味を知らない君は、どうしてこんな映画を選べたんだい?
薄暗い闇の中、大きく広がったスクリーンには、一匹の黒猫がご主人を看取っているシーンが流れている。
こんな……こんな作品を見せられちゃ、さっきまでの残念な気持ちは何処かへ行ってしまうじゃないか。
もうボクの心の中には寂しさと悲しさと、虚しさばかりが淀んでいるよ。目元から何か伝ってるんだよ! なんでこんな作品選んだんだよぅ……。
凪くんがハンカチを差し出してくれたから、服を汚すようなことは無かったけれど、涙が全然止まらない。
映画の中盤から終わりにかけて、ボクは終始涙を流しながらの鑑賞となってしまっていたんだ。
気づけば、悲しい雰囲気エンディングと共にエンドロールは流れ終わり、周囲も明るくなっていた。
上映中でも聞こえていたけれど、何人かのすすり泣く声がボクの耳にも届いている。……多分ボクの声も聞こえていたんじゃないかな。
「朱思先輩、大丈夫ですか? 自分もこんな悲しい話だとは思わず……」
ボクを気遣う、凪くんのその目の下にも若干の涙の跡が見える。君もないていたんじゃないか!
「君は何を謝っているんだい? 確かに悲しいお話ではあったけれど、ボクはとても楽しめたんだ。君の作戦勝ちというやつだよ、凪くん。にくいやつめ!」
ボクはなんの話をしているんだ。感動やら涙やらで、頭の中がぐちゃぐちゃだよ!
「先輩が喜んでくれたのであれば、自分も嬉しいです。とりあえず出ましょう。歩けますか?」
「今そんな優しさを見せないでおくれ! 泣いているだけだから歩くくらい大丈夫さ!」
泣きすぎたせいで立ち上がるのも一苦労だよ。自分の弱さが情けない!
結局、凪くんに手を引かれながら、映画館を後にすることとなってしまった。
こんな状態で手を引かれてるとか、恥ずかしさで死んでしまいそうだよ。
※ ※ ※
「朱思先輩、落ち着きましたか?」
「うん。迷惑をかけてごめんよ」
まだ切なさは残っているけれど、涙の方は落ち着いたようだ。
まったく、あんな悲しい話を考えたのは誰なんだ。ボクの水分を全て失わせるつもりかい?
ボクがずっと泣いていたせいで、周囲から凪くんに突き刺さる視線がとても辛かった。
今は、観葉植物が多く飾られた、可愛らしいカフェで注文した料理を待っているところだ。……入店した際にもまだボクが泣いていたせいで、店員さんにはあらぬ誤解を与えてしまったかもしれない。
「ボクもまだまだサーチが甘いですね。まさか、朱思先輩があんなに涙脆いとは思いませんでした」
「な、何を言っているんだい? 君だって泣いていたじゃないか! あれは物語が悪いんだ。ボクが泣き虫なわけじゃない!」
「そうですね。先輩はとても素敵な方です」
何も伝わっていない!
君は何を聞いていたんだ! ボクは泣き虫じゃないと、あんな悲しい物語を考えたやつが悪いんだと言っているのに! ──別に考えた人も悪くないよ!
「ふん! 言っていればいいさ。本当のボクはそう簡単には泣いたりしないんだからね!」
「承知しておきます」
うぅ……凪くんはなんだかやり辛い。いつもならこんな冷静を欠くことなんてないのに、やっぱり今日のボクはどこかおかしいのかな。
「お待たせしました。ふわふわたまごのオムライスになります」
「あ、ありがとう、店員さん」
ボクの注文していた料理だ。カフェの料理って、もっとお洒落な名前とかのイメージあるけど、シンプルな名前でとても頼みやすかったよ。
すごいふわふわで美味しそう。
「とても美味しそうじゃないか。カフェなんてあまり来ないから、食べれるものがあるか心配だったんだ」
「別に、カフェといっても普通の飲食店ですよ。お洒落な料理しか置いてないお店の方が、少ないんじゃないですか?」
「そうなのかい? 外食なんて基本しないから、その辺の事情は知らなかったんだ」
凪くんが何故か驚いた顔をしているね。何か変なことを言ってしまっただろうか?
「家族で外食などもしないんですか? 意外ですね」
「そうかい? お母さんの料理はとても美味しいし、特に外で食べたいとは思わないんだ。充やカナメと遊ぶ時でも、誰かの家で一緒に食べているからね」
「充、カナメ……?」
おっと。そういえば、彼は二人のことを知らないよね。自分の友達となると、自然と名前が出てきてしまう。困ったものだ。
「ごめんよ。充もカナメも、ボクの大切な親友なんだ。カナメはこの学校に入ってから、充は小さな頃からの幼馴染というやつさ」
「その充という方は、男友達なんですか?」
「そうさ。──あ、ごめんよ! せっかくのデート中だというのに、他の男の子の名前を出すものではないね。ボクとしたことがうっかりしていたよ」
過去にそれを理由で振られたこともあったじゃないか。ボクは学習しないなぁ。
「いや、そんなことで怒ることもありませんよ。まあ、朱思先輩に大切だなんて思われている事には、少し嫉妬してしまいますが」
嫉妬って……そ、そんな風に思ったのかい? 男心というものはとても難しいな……。
「別に、充はそんなんじゃないんだ! 変な誤解はよしておくれよ?」
「冗談ですよ。それより先輩、ボクのも待っていると冷めてしまいますので、お先にどうぞ」
凪くんはそう言って食事を促してくれる。今日は朝ごはんを抜いてきてしまったから、正直ボクはお腹ぺこぺこだったんだ。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
「そうかい? それじゃあ、先に頂くよ。──頂きます」
にこにこと微笑ましく見つめられながらの食事と言うものは、中々どうして恥ずかしいものだね……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる