恋する乙女(ボク)が君の愛(こころ)に気づくまで

夜兎

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ボクは泣き虫じゃないからね!

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 初デートで男の子がプランを練った場合に、映画を選ぶのは決して悪くはないんだ。
 でも、相手の趣味や好きな映画でも知らないと、無難なものを選ばなくちゃいけない。
 
 ボクのような女子高生相手なら、今人気な恋愛ものだったり、有名どころが上映していれば、その辺を選ぶことになると思う。

 でもみんながみんな、そういうのを好きだとは限らない。つまらないだけならいいけれど、相手のことが好きだと、そこで気を使って面白かったと言ってしまうかもしれない。

 初めてでそんなすれ違いは避けたいよね? だから、映画を見に行くなら相談することが一番大事なんだ。

 今回の凪くんの選択は正直、間違っていたと思う。
 でもなんでかな? ボクの趣味を知らない君は、どうしてこんな映画を選べたんだい?

 薄暗い闇の中、大きく広がったスクリーンには、一匹の黒猫がご主人を看取っているシーンが流れている。

 こんな……こんな作品を見せられちゃ、さっきまでの残念な気持ちは何処かへ行ってしまうじゃないか。
 もうボクの心の中には寂しさと悲しさと、虚しさばかりが淀んでいるよ。目元から何か伝ってるんだよ! なんでこんな作品選んだんだよぅ……。

 凪くんがハンカチを差し出してくれたから、服を汚すようなことは無かったけれど、涙が全然止まらない。
 
 映画の中盤から終わりにかけて、ボクは終始涙を流しながらの鑑賞となってしまっていたんだ。

 気づけば、悲しい雰囲気エンディングと共にエンドロールは流れ終わり、周囲も明るくなっていた。
 上映中でも聞こえていたけれど、何人かのすすり泣く声がボクの耳にも届いている。……多分ボクの声も聞こえていたんじゃないかな。

「朱思先輩、大丈夫ですか? 自分もこんな悲しい話だとは思わず……」

 ボクを気遣う、凪くんのその目の下にも若干の涙の跡が見える。君もないていたんじゃないか!

「君は何を謝っているんだい? 確かに悲しいお話ではあったけれど、ボクはとても楽しめたんだ。君の作戦勝ちというやつだよ、凪くん。にくいやつめ!」

 ボクはなんの話をしているんだ。感動やら涙やらで、頭の中がぐちゃぐちゃだよ!

「先輩が喜んでくれたのであれば、自分も嬉しいです。とりあえず出ましょう。歩けますか?」

「今そんな優しさを見せないでおくれ! 泣いているだけだから歩くくらい大丈夫さ!」

 泣きすぎたせいで立ち上がるのも一苦労だよ。自分の弱さが情けない!

 結局、凪くんに手を引かれながら、映画館を後にすることとなってしまった。
 こんな状態で手を引かれてるとか、恥ずかしさで死んでしまいそうだよ。

   ※   ※   ※

「朱思先輩、落ち着きましたか?」

「うん。迷惑をかけてごめんよ」

 まだ切なさは残っているけれど、涙の方は落ち着いたようだ。
 まったく、あんな悲しい話を考えたのは誰なんだ。ボクの水分を全て失わせるつもりかい?

 ボクがずっと泣いていたせいで、周囲から凪くんに突き刺さる視線がとても辛かった。
 今は、観葉植物が多く飾られた、可愛らしいカフェで注文した料理を待っているところだ。……入店した際にもまだボクが泣いていたせいで、店員さんにはあらぬ誤解を与えてしまったかもしれない。

「ボクもまだまだサーチが甘いですね。まさか、朱思先輩があんなに涙脆いとは思いませんでした」

「な、何を言っているんだい? 君だって泣いていたじゃないか! あれは物語が悪いんだ。ボクが泣き虫なわけじゃない!」

「そうですね。先輩はとても素敵な方です」

 何も伝わっていない! 
 君は何を聞いていたんだ! ボクは泣き虫じゃないと、あんな悲しい物語を考えたやつが悪いんだと言っているのに! ──別に考えた人も悪くないよ!

「ふん! 言っていればいいさ。本当のボクはそう簡単には泣いたりしないんだからね!」

「承知しておきます」

 うぅ……凪くんはなんだかやり辛い。いつもならこんな冷静を欠くことなんてないのに、やっぱり今日のボクはどこかおかしいのかな。

「お待たせしました。ふわふわたまごのオムライスになります」

「あ、ありがとう、店員さん」

 ボクの注文していた料理だ。カフェの料理って、もっとお洒落な名前とかのイメージあるけど、シンプルな名前でとても頼みやすかったよ。
 すごいふわふわで美味しそう。

「とても美味しそうじゃないか。カフェなんてあまり来ないから、食べれるものがあるか心配だったんだ」

「別に、カフェといっても普通の飲食店ですよ。お洒落な料理しか置いてないお店の方が、少ないんじゃないですか?」

「そうなのかい? 外食なんて基本しないから、その辺の事情は知らなかったんだ」

 凪くんが何故か驚いた顔をしているね。何か変なことを言ってしまっただろうか?

「家族で外食などもしないんですか? 意外ですね」

「そうかい? お母さんの料理はとても美味しいし、特に外で食べたいとは思わないんだ。充やカナメと遊ぶ時でも、誰かの家で一緒に食べているからね」

「充、カナメ……?」

 おっと。そういえば、彼は二人のことを知らないよね。自分の友達となると、自然と名前が出てきてしまう。困ったものだ。

「ごめんよ。充もカナメも、ボクの大切な親友なんだ。カナメはこの学校に入ってから、充は小さな頃からの幼馴染というやつさ」

「その充という方は、男友達なんですか?」

「そうさ。──あ、ごめんよ! せっかくのデート中だというのに、他の男の子の名前を出すものではないね。ボクとしたことがうっかりしていたよ」

 過去にそれを理由で振られたこともあったじゃないか。ボクは学習しないなぁ。

「いや、そんなことで怒ることもありませんよ。まあ、朱思先輩に大切だなんて思われている事には、少し嫉妬してしまいますが」

 嫉妬って……そ、そんな風に思ったのかい? 男心というものはとても難しいな……。

「別に、充はそんなんじゃないんだ! 変な誤解はよしておくれよ?」

「冗談ですよ。それより先輩、ボクのも待っていると冷めてしまいますので、お先にどうぞ」

 凪くんはそう言って食事を促してくれる。今日は朝ごはんを抜いてきてしまったから、正直ボクはお腹ぺこぺこだったんだ。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。

「そうかい? それじゃあ、先に頂くよ。──頂きます」

 にこにこと微笑ましく見つめられながらの食事と言うものは、中々どうして恥ずかしいものだね……。
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