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ボクをお誘いしてね
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授業も終わり、みんな帰宅や部活への準備を始めている。
休みの間はなんだかんだはぐらかされてしまい、充とまともに話せていない。
帰る前に話だけでも聞かせておくれよ、充。
「ねぇ充、少しお話しの時間を貰えないだろうか?」
「あー悪い。今日は予定があるんだ。また今度な」
「またどこかの部活動かい? 君はいつも忙しそうだね」
充は運動神経が優れているんだ。よく色んな運動部に誘われているけど、たまに顔出すくらいでちゃんと入ったりはしない。
「今日は違う。家の用事だよ。とにかく悪いな。また明日」
「そうか、それは仕方ないね」
互いに挨拶を交わし、充は急いで帰ってしまった。
……なんだか、避けられているようにも感じるな。ボク、何かしちゃったかな?
「朱思先輩。お迎えに上がりました」
ボクを呼ぶ声に振り返ると、教室の入り口に凪くんの姿が……迎えってなんだろう?
「やあ凪くん。昨日はありがとう。迎えっていうのは、なんの話かな?」
「一緒に帰りませんか? 先輩とお話がしたいなと思ったのですが」
「凪くんからのお誘いかい? それは嬉しい提案だ! 是非お願いしよう。すぐに準備するから、待っていておくれ」
急がなくていいと声を掛けてくれるが、凪くんを待たせるのは忍びない。
簡単に荷物をまとめて、すぐに彼の下へと戻ることにする。
「やあ、お待たせしちゃったね。帰ろうか」
ボクたちはそのまま、玄関に向けて歩き出す。
しかし、教室での視線は気になってしまうね。やはり彼は有名人なのかな?
悪い気はしないけれど、少し緊張してしまうじゃないか。困ったものだ。
「しかし驚いちゃったよ。約束もしていないのに、いきなり現れるんだからな、君は」
「すいません。昨日のことが嬉しくてつい……迷惑でしたよね?」
「いやいや。なにを遠慮することがあるんだい? 君はボクの恋人だろう。もっとぐいぐい来てくれてもいいくらいさ!」
これほど嬉しいことはない。
今までの相手もみんな遠慮がちで、こんな風に来てくれる子は居なかったからね。
それだけ、ボクのことを思ってくれていたんだ。喜ばないはずが無いさ。
「それなら良かったです。自分の言動で迷惑をかけるのは嫌だったので……」
「気にしないでおくれ。ボクは、そんな些細なことは気にしない。ボクを思っての行動に、感謝の言葉はあっても文句なんてあるはずもないさ!」
安堵して見せてくれる、綻んだその表情が眩しくて、ついついボクの頬も緩んできてしまう。
というか、ボクはどうなってしまったんだ。こんなことでこんなに嬉しくなってしまうなんて。
自分が自分でなくなるような感覚──でも、嫌な気はしないな。
「それでは、校門で待っていてください。自分もすぐに向かいます」
「君こそ、急ぐ必要はないからね。ボクはいくらでも待っているよ」
気づけば玄関。
学年が違うと下駄箱の場所も異なるので、一度別行動だ。
「……まったく。心臓に悪いじゃないか、こんなの」
常に鼓動が早い。話していても、自分の心臓が動くのが分かる。
苦しいはずなのに、辛いとは思わないんだ。この苦しみが幸せにさえ感じている。
……いくら考えても答えがまとまらないな。
「カナメなら、何か知っているかな?」
カナメは物知りだからね。この感覚についても知っているかもしれない。また今度聞いてみようか。
「お待たせしました。では、帰りましょう」
「うん。……しかしふと思ったんだけど、ボクたちは同じ方角に住んでいるのかな?」
一緒に帰ると言っても、同じ道なりでなければ、どちらかが遠回りになってしまう。
まあボクは、彼と共にいられるのであれば遠回りも、苦にはならないのだけど。
「これは、先輩と一緒に帰りたいという自分のわがままですから、気にしないでください。先輩の家まで──は抵抗あると思うので、途中までお見送りさせてください」
「別にボクの家が知られて困る事はないんだけど。……まあ、それでも君がいいと言うならお願いしようかな。ボクも君ともっとお話をしたいんだ」
「はい。一緒に帰りましょう」
他愛もない話を続けて、帰宅路につく。
こうして、誰かと帰るというのはいつぶりだろう? 中学生の頃以来になると思う。
中学までは充と一緒に帰っていたっけ。どうして一緒に帰らなくなったんだったか……。思い当たる節が無いんだ。
やはり誰かと一緒に歩くというのは楽しいものだね。
いつもは景色を眺めながら、色んなことを考えて一人歩いていたのに、こうして話し合っているだけで、思考は全て会話に回る。
人と話すのはとても楽しい。自分は常になにを話すか考えるし、相手も同じように考えてくれる。
誰と話していてもという訳ではないけれど、少なくとも凪くんは楽しい方の人間だ。
「なあ凪くん。一つ、お願いをしてもいいかい?」
「なんでしょうか? 自分に出来ることなら聞きますよ」
帰宅路も終わりが近づき、彼との時間はじきに終わってしまう。
お付き合いした相手に、いつも最初にするお願いを、彼にもしたいと思う。
「今度のお休みに、ボクをデートに誘ってはくれないかい?」
「えっと……?」
デートのお誘いをしてほしいとお願いするのは、やっぱりおかしなことなのかな?
過去にもこの時点で戸惑っていた人が何人か居た。
ボクは事前にしたためておいた、一つの紙をスカートのポケットから取り出し、彼に渡す。
「これがボクの連絡先だ。いつでもいい。君からのお誘い、待っているからね」
凪くんが受け取ったのを確認すると、ボクは笑顔のまま後退する。
「ここまでで大丈夫だよ。凪くん、今日はありがとう。とっても楽しかったんだ! 君と恋仲になれたボクは、すごい幸せ者なのかもしれないな!」
彼も何かを喋ろうとしているが、今回は残念ながら話させないよ。
「それじゃ、ばいばいだ凪くん。連絡を待っているからね!」
そのまま熱くなる顔と体を振りむかせ、ボクは小走りで離れていく。
「朱思先輩! 必ずお誘いしますので、楽しみにしていて下さいね!」
まったく、君というやつは罪作りな男じゃないか。
君の顔を見たいというのに、ボクの心はそうさせてくれない。
だって、あんな恥ずかしいセリフの後顔を見るなんて、ボクの羞恥心が爆発してしまいそうなんだ!
──多分真っ赤になっているこの顔を見せることなんて、できる訳ないだろう?
どこまでも軽い体は、家に着くまでふわふわとしていたんだ。
休みの間はなんだかんだはぐらかされてしまい、充とまともに話せていない。
帰る前に話だけでも聞かせておくれよ、充。
「ねぇ充、少しお話しの時間を貰えないだろうか?」
「あー悪い。今日は予定があるんだ。また今度な」
「またどこかの部活動かい? 君はいつも忙しそうだね」
充は運動神経が優れているんだ。よく色んな運動部に誘われているけど、たまに顔出すくらいでちゃんと入ったりはしない。
「今日は違う。家の用事だよ。とにかく悪いな。また明日」
「そうか、それは仕方ないね」
互いに挨拶を交わし、充は急いで帰ってしまった。
……なんだか、避けられているようにも感じるな。ボク、何かしちゃったかな?
「朱思先輩。お迎えに上がりました」
ボクを呼ぶ声に振り返ると、教室の入り口に凪くんの姿が……迎えってなんだろう?
「やあ凪くん。昨日はありがとう。迎えっていうのは、なんの話かな?」
「一緒に帰りませんか? 先輩とお話がしたいなと思ったのですが」
「凪くんからのお誘いかい? それは嬉しい提案だ! 是非お願いしよう。すぐに準備するから、待っていておくれ」
急がなくていいと声を掛けてくれるが、凪くんを待たせるのは忍びない。
簡単に荷物をまとめて、すぐに彼の下へと戻ることにする。
「やあ、お待たせしちゃったね。帰ろうか」
ボクたちはそのまま、玄関に向けて歩き出す。
しかし、教室での視線は気になってしまうね。やはり彼は有名人なのかな?
悪い気はしないけれど、少し緊張してしまうじゃないか。困ったものだ。
「しかし驚いちゃったよ。約束もしていないのに、いきなり現れるんだからな、君は」
「すいません。昨日のことが嬉しくてつい……迷惑でしたよね?」
「いやいや。なにを遠慮することがあるんだい? 君はボクの恋人だろう。もっとぐいぐい来てくれてもいいくらいさ!」
これほど嬉しいことはない。
今までの相手もみんな遠慮がちで、こんな風に来てくれる子は居なかったからね。
それだけ、ボクのことを思ってくれていたんだ。喜ばないはずが無いさ。
「それなら良かったです。自分の言動で迷惑をかけるのは嫌だったので……」
「気にしないでおくれ。ボクは、そんな些細なことは気にしない。ボクを思っての行動に、感謝の言葉はあっても文句なんてあるはずもないさ!」
安堵して見せてくれる、綻んだその表情が眩しくて、ついついボクの頬も緩んできてしまう。
というか、ボクはどうなってしまったんだ。こんなことでこんなに嬉しくなってしまうなんて。
自分が自分でなくなるような感覚──でも、嫌な気はしないな。
「それでは、校門で待っていてください。自分もすぐに向かいます」
「君こそ、急ぐ必要はないからね。ボクはいくらでも待っているよ」
気づけば玄関。
学年が違うと下駄箱の場所も異なるので、一度別行動だ。
「……まったく。心臓に悪いじゃないか、こんなの」
常に鼓動が早い。話していても、自分の心臓が動くのが分かる。
苦しいはずなのに、辛いとは思わないんだ。この苦しみが幸せにさえ感じている。
……いくら考えても答えがまとまらないな。
「カナメなら、何か知っているかな?」
カナメは物知りだからね。この感覚についても知っているかもしれない。また今度聞いてみようか。
「お待たせしました。では、帰りましょう」
「うん。……しかしふと思ったんだけど、ボクたちは同じ方角に住んでいるのかな?」
一緒に帰ると言っても、同じ道なりでなければ、どちらかが遠回りになってしまう。
まあボクは、彼と共にいられるのであれば遠回りも、苦にはならないのだけど。
「これは、先輩と一緒に帰りたいという自分のわがままですから、気にしないでください。先輩の家まで──は抵抗あると思うので、途中までお見送りさせてください」
「別にボクの家が知られて困る事はないんだけど。……まあ、それでも君がいいと言うならお願いしようかな。ボクも君ともっとお話をしたいんだ」
「はい。一緒に帰りましょう」
他愛もない話を続けて、帰宅路につく。
こうして、誰かと帰るというのはいつぶりだろう? 中学生の頃以来になると思う。
中学までは充と一緒に帰っていたっけ。どうして一緒に帰らなくなったんだったか……。思い当たる節が無いんだ。
やはり誰かと一緒に歩くというのは楽しいものだね。
いつもは景色を眺めながら、色んなことを考えて一人歩いていたのに、こうして話し合っているだけで、思考は全て会話に回る。
人と話すのはとても楽しい。自分は常になにを話すか考えるし、相手も同じように考えてくれる。
誰と話していてもという訳ではないけれど、少なくとも凪くんは楽しい方の人間だ。
「なあ凪くん。一つ、お願いをしてもいいかい?」
「なんでしょうか? 自分に出来ることなら聞きますよ」
帰宅路も終わりが近づき、彼との時間はじきに終わってしまう。
お付き合いした相手に、いつも最初にするお願いを、彼にもしたいと思う。
「今度のお休みに、ボクをデートに誘ってはくれないかい?」
「えっと……?」
デートのお誘いをしてほしいとお願いするのは、やっぱりおかしなことなのかな?
過去にもこの時点で戸惑っていた人が何人か居た。
ボクは事前にしたためておいた、一つの紙をスカートのポケットから取り出し、彼に渡す。
「これがボクの連絡先だ。いつでもいい。君からのお誘い、待っているからね」
凪くんが受け取ったのを確認すると、ボクは笑顔のまま後退する。
「ここまでで大丈夫だよ。凪くん、今日はありがとう。とっても楽しかったんだ! 君と恋仲になれたボクは、すごい幸せ者なのかもしれないな!」
彼も何かを喋ろうとしているが、今回は残念ながら話させないよ。
「それじゃ、ばいばいだ凪くん。連絡を待っているからね!」
そのまま熱くなる顔と体を振りむかせ、ボクは小走りで離れていく。
「朱思先輩! 必ずお誘いしますので、楽しみにしていて下さいね!」
まったく、君というやつは罪作りな男じゃないか。
君の顔を見たいというのに、ボクの心はそうさせてくれない。
だって、あんな恥ずかしいセリフの後顔を見るなんて、ボクの羞恥心が爆発してしまいそうなんだ!
──多分真っ赤になっているこの顔を見せることなんて、できる訳ないだろう?
どこまでも軽い体は、家に着くまでふわふわとしていたんだ。
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