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第3章
159.えっとね。
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もう一度目を閉じたものの、怖い夢をもう一度見そうで怖くて、なかなか寝ることが出来ない。心が落ち着かない。
『アミュート…』
『ん?どうしたの?』
『……』
『寝れない?』
『うん…』
『そっか。怖い夢、みちゃう?』
『うん…』
アミュートはやさしい声音でそっか、と言った。
『てか今何時?暗いけど、夜?』
『うん。夜ご飯食べ終わったくらいの時間だよ』
『え、もうそんなに?授業は午前中だったでしょ?』
『そうだね。あれからずっとユキ、魘されてたよ』
『……そっか』
『うん』
俺の重たい返しに、アミュートは存外軽く返事をした。そして、それから…と言葉を続けた。
『それから、ノア達には体調を崩してるとだけ言って何があったかは言ってないよ。ユキから何もまだ聞いてないしね』
『そっか、ありがとう』
『うん』
アミュートの返事を最後に場に沈黙が流れた。でもそれは居心地の悪い沈黙じゃなくて、俺が、話しやすくなるような温かな沈黙だった。
『アミュート』
『うん、どうしたの』
『俺……』
『うん』
『さっき…いや、もうさっきじゃないのか……えっとね……』
『うん』
俺は何度もえっとねと繰り返し、ゆっくり深呼吸をして、朝の授業であったことを静かにぽつりぽつりと話した。
すごく緊張したし、思い出すことで気分も悪くなってしまったけど、俺が言葉を切る度詰まる度、アミュートは優しく、『うん』と一言だけ返してくれた。それがとても心地よくて、変に焦ることもなく上手に整理しながら話すことが出来た。
全てを聞き終えたアミュートは、ふぅ~っと大きく静かに長く息を吐き、そっか、と静かに返事をした。
『大丈夫?』
『え、うん…』
『本当に?』
『まだ痛いけど、これくらいすぐ治るよ。ガイさんに貰った薬も塗ったし……』
『そういう事じゃなくて、僕にはなして、振り返って、辛いでしょ。大丈夫?』
『あ、そういう……うん、確かに、今だって震え止まんないし、正直、酸素が薄い。けど、アミュートがそばに居るし、大丈夫だよ。嘘じゃない』
俺の応えに、アミュートはほっとしたような顔をしてそっかと静かに返事をした。
『僕のこと、存分にもふもふしていいよ!守ってあげられなかったせめてもの償い。』
『ほんと?ありがとう!』
それから俺は手の震えが収まるまで、心が落ち着くまで、存分にアミュートをもふもふし続けた。
『もう大丈夫』
『そう?』
『うん』
『そっか。なら、どうしよっか』
『どうしよっかって?』
『あの人たちに話す?』
『え……や…そ、それは……えっと……………』
正直それは怖い。さっきまで見ていた夢は何も前世のものだけじゃない。俺の被害妄想と恐怖心が監修した父様達の前世の家族同様の態度だった。
夢だとわかってる。父様たちはケインが選んだ人だし大丈夫な可能性の方が高い。それは分かってる。ケインが俺の守り人に選んだ人たちだから。おれのことをいつもいつも面倒臭いくらい好きでいてくれていることも分かっているつもりだ。それが愛であることも、日々口に出して伝えられている分、理解している。
でもそれらを、心の奥底の柔らかい部分が信じることを拒絶する。
信じたい。信じてる。
情はそう叫ぶが、心の、もっと奥のところで信じるなと叫んでいる。
矛盾している主張は、こういう、なにか俺の恐怖の琴線に触れたタイミングで混乱させてくる。普段は、大人しいのに。
俺は父様達のことを信じているつもりだった。でも、今ならわかる。信じたかったから、信じている振りをして自分を守っていただけ。何かがあれば簡単に揺らいでしまう。
揺らいで、しまうのだ。
『アミュート…』
『ん?どうしたの?』
『……』
『寝れない?』
『うん…』
『そっか。怖い夢、みちゃう?』
『うん…』
アミュートはやさしい声音でそっか、と言った。
『てか今何時?暗いけど、夜?』
『うん。夜ご飯食べ終わったくらいの時間だよ』
『え、もうそんなに?授業は午前中だったでしょ?』
『そうだね。あれからずっとユキ、魘されてたよ』
『……そっか』
『うん』
俺の重たい返しに、アミュートは存外軽く返事をした。そして、それから…と言葉を続けた。
『それから、ノア達には体調を崩してるとだけ言って何があったかは言ってないよ。ユキから何もまだ聞いてないしね』
『そっか、ありがとう』
『うん』
アミュートの返事を最後に場に沈黙が流れた。でもそれは居心地の悪い沈黙じゃなくて、俺が、話しやすくなるような温かな沈黙だった。
『アミュート』
『うん、どうしたの』
『俺……』
『うん』
『さっき…いや、もうさっきじゃないのか……えっとね……』
『うん』
俺は何度もえっとねと繰り返し、ゆっくり深呼吸をして、朝の授業であったことを静かにぽつりぽつりと話した。
すごく緊張したし、思い出すことで気分も悪くなってしまったけど、俺が言葉を切る度詰まる度、アミュートは優しく、『うん』と一言だけ返してくれた。それがとても心地よくて、変に焦ることもなく上手に整理しながら話すことが出来た。
全てを聞き終えたアミュートは、ふぅ~っと大きく静かに長く息を吐き、そっか、と静かに返事をした。
『大丈夫?』
『え、うん…』
『本当に?』
『まだ痛いけど、これくらいすぐ治るよ。ガイさんに貰った薬も塗ったし……』
『そういう事じゃなくて、僕にはなして、振り返って、辛いでしょ。大丈夫?』
『あ、そういう……うん、確かに、今だって震え止まんないし、正直、酸素が薄い。けど、アミュートがそばに居るし、大丈夫だよ。嘘じゃない』
俺の応えに、アミュートはほっとしたような顔をしてそっかと静かに返事をした。
『僕のこと、存分にもふもふしていいよ!守ってあげられなかったせめてもの償い。』
『ほんと?ありがとう!』
それから俺は手の震えが収まるまで、心が落ち着くまで、存分にアミュートをもふもふし続けた。
『もう大丈夫』
『そう?』
『うん』
『そっか。なら、どうしよっか』
『どうしよっかって?』
『あの人たちに話す?』
『え……や…そ、それは……えっと……………』
正直それは怖い。さっきまで見ていた夢は何も前世のものだけじゃない。俺の被害妄想と恐怖心が監修した父様達の前世の家族同様の態度だった。
夢だとわかってる。父様たちはケインが選んだ人だし大丈夫な可能性の方が高い。それは分かってる。ケインが俺の守り人に選んだ人たちだから。おれのことをいつもいつも面倒臭いくらい好きでいてくれていることも分かっているつもりだ。それが愛であることも、日々口に出して伝えられている分、理解している。
でもそれらを、心の奥底の柔らかい部分が信じることを拒絶する。
信じたい。信じてる。
情はそう叫ぶが、心の、もっと奥のところで信じるなと叫んでいる。
矛盾している主張は、こういう、なにか俺の恐怖の琴線に触れたタイミングで混乱させてくる。普段は、大人しいのに。
俺は父様達のことを信じているつもりだった。でも、今ならわかる。信じたかったから、信じている振りをして自分を守っていただけ。何かがあれば簡単に揺らいでしまう。
揺らいで、しまうのだ。
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