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第3章

157.アミュート─血の匂い。

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なんだか迎えに行った時から変だなとは思っていたんだ。いつも念話をする時は、ぼんやりとだけど何かしらの感情が一緒に伝わってくる。それなのに、何も伝わってこなかったから、違和感はあった。それだけ集中しているのかと思っていたけど、やっぱりその時点で何かあったみたいだった。

ユキからの助けての言葉はとても胸を締め付けるほど弱くって、ピアスに1度戻ればすぐユキの傍に姿を現すことが出来るのに、うっかり全力疾走で部屋から少し離れた学習室へと向かってしまった。時間の無駄だったと思うし、扉や置物を壊しちゃったからきっとあとでノア達に怒られる。

でもそんなことよりも、ユキに何があったのかが気になる。
寝ている今だってずっと魘されて、僕の毛を鷲掴みにして離さない。ずっと、ごめんなさいって謝って、もうやめてって泣いている。
頬を舐めてあげたりしっぽでくるんであげたりすれば、少しだけおさまるけど、すこしだけ。眉間に皺を寄せて、必死に身体を丸めて防衛体制をとっている。

『ユキ、どうしたの?何があったの?』

零れる涙を舌で拭い取りながら思わず飛ばしてしまった念話には、返事は返ってこなかった。でも、少しだけ、ほんの少しだけ手に入る力が緩んだ気がする。

本当に、何があったのか。
ユキに擦り寄っていると、血の香りがした。
ユキのことが心配で、頭や心がいっぱいになっていてきっと今まで気づかなかったのだろう。
血の匂いのする方へ鼻を持っていけば、ほのかに薬の香りもした。
口で咥えて、少しズボンをずらせばぶわっと血と薬の香りが広がった。しかし傷口は見えず、さらに下ろせば傷が見えてきた。赤黒く腫れた細い傷や太い傷が無数にあり、その線が重なり合いわからなくなってしまっているところは、血が滲んでいた。その部分から薬の香りがするから、血が止まっているのはきっとユキが自分で薬を塗ったからだと思う。

そこで漸くある程度何があったのか想像がついた。
きっとユキは授業の先生にこれをされた。そして、そのことを隠そうと持っていた薬を自分で塗った。だけど、精神が不安定になっているユキにこの薬は少し良くなくて、吐くほどではないけど吐き気が出てしまった。そして、もうどうしようもなくなって僕を呼んだ。

だから、ノア達には言わないでって言ったんだ。知られたくないから。
ユキは、大分マシになったとは言えまだ“家族”という関係に臆病だから、こういうあからさまな弱みを見せることを避けてしまう。
いつも、疲れた程度ならしんどいと口にして伝えることが出来るのに、本当にしんどいと隠そうとしてしまう。伝えられる幅は随分拡がったけど、まだ僕に比べれば全然だった。
だから今回も、きっと話せなかったんだ。僕にまで秘密にされたのは少し悲しいけど、前世のトラウマに直結してそうな今回のことは、なかなか伝えることが出来ないというユキの気持ちを理解出来る。

だから、落ち着いたら話してくれるみたいだし、ゆっくり、ユキのペースで話してもらえるところまで話してもらって、出来ることをしてあげたい。
ノア達に話して欲しくないなら、僕は秘密にしてあげよう。それでユキの体調に問題がないなら。
話したいなら話せるようにサポートしてあげよう。

守れなかったんだから、僕は僕のできることでユキの心を救ってあげたい。

『だからユキ、無理はしないで。僕はユキの力になるからね。大丈夫だよ』








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