上 下
104 / 218
第2章

104.ノア─勘違いの終着点。

しおりを挟む
朝の仕事を片付けるべく、ふたりと合流し執務室へと向かう途中、慌てたように駆けてきたのはユキにつけたメイドだった。

「そんなに慌ててどうしたの?」

何かを伝えようとするも、荒れた呼吸を整えてからでなければ上手く話せず、「あっ…の…」と、呼吸の合間合間に漏れる声では要領を得なかった。その為、ライは落ち着かせるように背中を擦りながら優しく問いかけた。
しかし、表情は少しぎこちない。それはきっと、ユキについているメイドだからだろう。
昨日は一日酷い熱で、容態の急変かと思っているのだろうが、そう思っているのはライだけでなく俺やガイもそうだと思う。

ある程度落ち着いたそのメイドは、ふぅ~と、最後に大きく息を吐き、報告をした。

「坊ちゃんのお部屋に大きな狼が現れました。サイズなどからして魔物と思われます」

落ち着きを取り戻し冷静に報告される内容に、俺たちは3人顔を見合わせた。

『『『それって…(ね)?』』』

表情からどうやら皆同じ意見らしい。
それもそうだろう。ユキの傍で現れる大きな狼と言えば何度か見たのだから。

自分たちの知っている情報は感覚だという漠然としたものしかなく、メイドに説明するには不十分なためとりあえず諦めてユキの部屋へと向かった。

向かった先では、狼に件を向ける護衛につかせたガイの部下たちに怯えた視線を向け狼にしがみつくユキが居た。


慌てて止め、皆を退出させる。

そして、ユキの体調を確認し、事情を聞こうとした。
拙いながらも一生懸命説明しようとする姿はとても愛おしく、愛くるしい。
しかし、“家族”という単語に引っかかった。俺だってもう家族だ。ユキにその意識があるのかは分からないが、たまに現れるこいつが家族認定されているのが少しだけ気に入らない。

そして話された今現れている理由に納得し、これからは一緒に寝てやろうかな などと考える。

一生懸命話したからか水を欲すユキに水を飲ませ、ベルの説明などをしたあと、早く招待を知りたいガイが先を促した。

そして、名前を聞き、なかなか発音できないユキにほのぼのとする。

そして問題になったのはここから先だった。

名前の後、なかなか話が続かないので今度は俺が促したのだ。
そして、発された衝撃の言葉。

『あみーちょちょは、みんにゃにあうまえ?くりゃいにあっちゃよ!』

ユキは記憶をなくしているはずで、それはおそらくあの怪我が原因で。だから、俺らに会う前にアミュートと出会っていえるのは、記憶があるのか?思ってしまった。しかし、部分的に覚えているだけなのかなと考え付き、とりあえずどこまで覚えているのか把握がしたくて先を促した。

するとハッ!としたような表情になりみるみる顔色が悪くなる。そして、頭を抱え唸り、声をかければ大きく跳ねた。
それはまるで怯えるようで、トラウマスイッチが入ってしまったかと心配になる。

ユキはアミュートに顔を埋め、何度も何度も唸り、頭を抱えほんの僅かに震えていた。

きっと思い出したくない記憶を必死に思い出そうとして頭が痛いのだろうと思い、見ていられなくて思わずもういいと伝えた。

するとそれが良くなかったのか、青いを通り越し白くなった顔でユキは必死に謝り始めた。
蹲り、許しを乞う様はなんとも胸を締め付けられ、過去の記憶を俺の質問で呼び起こしてしまったのかと後悔する。

落ち着かせようとするも、焦点の合わない瞳には恐怖の色しか写していなかった。そして、涙を流しガタガタと先程以上に震えだし軽い過呼吸を起こしかけていた。

何がユキのトラウマスイッチを押したのだろうかと考えてみるも、やはり思い出したくない記憶に触れてしまったのだろうと思う。

あれだけ頭を抱え苦しみの唸り声をあげていた時点で、止めるべきだった。あの時点で既に施錠された記憶の扉を開きかけていたのだろうと思う。それが、俺のかけた言葉がきっかけだったのかそうじゃないのか分からないが、綻びが生じ今に至っているのだろうと考えた。

過呼吸になっているのにも関わらず、尚も謝り続けるユキに、この小さな体に隠された闇を心配せずにはいられなかった。そして、その闇を作ったものへ対して、今何もしてあげられない自分に対して、酷い怒りや憤りも感じずにはいられなかった。

そしてそんな憤りを感じつつ、まるで心臓を抉られるような気持ちで、落ち着かせようと『大丈夫』と何度も声をかけ、優しく、愛を持って抱き締めてあげることしか俺には出来ず、酷くもどかしかった。







𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒
被りの時のセリフ違いをルビとして処理してみました。↓これです。
『『『それって…(ね)?』』』

今まで通り()書きで書いた方がいいですかね?
悩みます…。




しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

処理中です...