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第2章
104.ノア─勘違いの終着点。
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朝の仕事を片付けるべく、ふたりと合流し執務室へと向かう途中、慌てたように駆けてきたのはユキにつけたメイドだった。
「そんなに慌ててどうしたの?」
何かを伝えようとするも、荒れた呼吸を整えてからでなければ上手く話せず、「あっ…の…」と、呼吸の合間合間に漏れる声では要領を得なかった。その為、ライは落ち着かせるように背中を擦りながら優しく問いかけた。
しかし、表情は少しぎこちない。それはきっと、ユキについているメイドだからだろう。
昨日は一日酷い熱で、容態の急変かと思っているのだろうが、そう思っているのはライだけでなく俺やガイもそうだと思う。
ある程度落ち着いたそのメイドは、ふぅ~と、最後に大きく息を吐き、報告をした。
「坊ちゃんのお部屋に大きな狼が現れました。サイズなどからして魔物と思われます」
落ち着きを取り戻し冷静に報告される内容に、俺たちは3人顔を見合わせた。
『『『それって…な?』』』
表情からどうやら皆同じ意見らしい。
それもそうだろう。ユキの傍で現れる大きな狼と言えば何度か見たのだから。
自分たちの知っている情報は感覚だという漠然としたものしかなく、メイドに説明するには不十分なためとりあえず諦めてユキの部屋へと向かった。
向かった先では、狼に件を向ける護衛につかせたガイの部下たちに怯えた視線を向け狼にしがみつくユキが居た。
慌てて止め、皆を退出させる。
そして、ユキの体調を確認し、事情を聞こうとした。
拙いながらも一生懸命説明しようとする姿はとても愛おしく、愛くるしい。
しかし、“家族”という単語に引っかかった。俺だってもう家族だ。ユキにその意識があるのかは分からないが、たまに現れるこいつが家族認定されているのが少しだけ気に入らない。
そして話された今現れている理由に納得し、これからは一緒に寝てやろうかな などと考える。
一生懸命話したからか水を欲すユキに水を飲ませ、ベルの説明などをしたあと、早く招待を知りたいガイが先を促した。
そして、名前を聞き、なかなか発音できないユキにほのぼのとする。
そして問題になったのはここから先だった。
名前の後、なかなか話が続かないので今度は俺が促したのだ。
そして、発された衝撃の言葉。
『あみーちょちょは、みんにゃにあうまえ?くりゃいにあっちゃよ!』
ユキは記憶をなくしているはずで、それはおそらくあの怪我が原因で。だから、俺らに会う前にアミュートと出会っていえるのは、記憶があるのか?思ってしまった。しかし、部分的に覚えているだけなのかなと考え付き、とりあえずどこまで覚えているのか把握がしたくて先を促した。
するとハッ!としたような表情になりみるみる顔色が悪くなる。そして、頭を抱え唸り、声をかければ大きく跳ねた。
それはまるで怯えるようで、トラウマスイッチが入ってしまったかと心配になる。
ユキはアミュートに顔を埋め、何度も何度も唸り、頭を抱えほんの僅かに震えていた。
きっと思い出したくない記憶を必死に思い出そうとして頭が痛いのだろうと思い、見ていられなくて思わずもういいと伝えた。
するとそれが良くなかったのか、青いを通り越し白くなった顔でユキは必死に謝り始めた。
蹲り、許しを乞う様はなんとも胸を締め付けられ、過去の記憶を俺の質問で呼び起こしてしまったのかと後悔する。
落ち着かせようとするも、焦点の合わない瞳には恐怖の色しか写していなかった。そして、涙を流しガタガタと先程以上に震えだし軽い過呼吸を起こしかけていた。
何がユキのトラウマスイッチを押したのだろうかと考えてみるも、やはり思い出したくない記憶に触れてしまったのだろうと思う。
あれだけ頭を抱え苦しみの唸り声をあげていた時点で、止めるべきだった。あの時点で既に施錠された記憶の扉を開きかけていたのだろうと思う。それが、俺のかけた言葉がきっかけだったのかそうじゃないのか分からないが、綻びが生じ今に至っているのだろうと考えた。
過呼吸になっているのにも関わらず、尚も謝り続けるユキに、この小さな体に隠された闇を心配せずにはいられなかった。そして、その闇を作ったものへ対して、今何もしてあげられない自分に対して、酷い怒りや憤りも感じずにはいられなかった。
そしてそんな憤りを感じつつ、まるで心臓を抉られるような気持ちで、落ち着かせようと『大丈夫』と何度も声をかけ、優しく、愛を持って抱き締めてあげることしか俺には出来ず、酷くもどかしかった。
𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒
被りの時のセリフ違いをルビとして処理してみました。↓これです。
『『『それって…な?』』』
今まで通り()書きで書いた方がいいですかね?
悩みます…。
「そんなに慌ててどうしたの?」
何かを伝えようとするも、荒れた呼吸を整えてからでなければ上手く話せず、「あっ…の…」と、呼吸の合間合間に漏れる声では要領を得なかった。その為、ライは落ち着かせるように背中を擦りながら優しく問いかけた。
しかし、表情は少しぎこちない。それはきっと、ユキについているメイドだからだろう。
昨日は一日酷い熱で、容態の急変かと思っているのだろうが、そう思っているのはライだけでなく俺やガイもそうだと思う。
ある程度落ち着いたそのメイドは、ふぅ~と、最後に大きく息を吐き、報告をした。
「坊ちゃんのお部屋に大きな狼が現れました。サイズなどからして魔物と思われます」
落ち着きを取り戻し冷静に報告される内容に、俺たちは3人顔を見合わせた。
『『『それって…な?』』』
表情からどうやら皆同じ意見らしい。
それもそうだろう。ユキの傍で現れる大きな狼と言えば何度か見たのだから。
自分たちの知っている情報は感覚だという漠然としたものしかなく、メイドに説明するには不十分なためとりあえず諦めてユキの部屋へと向かった。
向かった先では、狼に件を向ける護衛につかせたガイの部下たちに怯えた視線を向け狼にしがみつくユキが居た。
慌てて止め、皆を退出させる。
そして、ユキの体調を確認し、事情を聞こうとした。
拙いながらも一生懸命説明しようとする姿はとても愛おしく、愛くるしい。
しかし、“家族”という単語に引っかかった。俺だってもう家族だ。ユキにその意識があるのかは分からないが、たまに現れるこいつが家族認定されているのが少しだけ気に入らない。
そして話された今現れている理由に納得し、これからは一緒に寝てやろうかな などと考える。
一生懸命話したからか水を欲すユキに水を飲ませ、ベルの説明などをしたあと、早く招待を知りたいガイが先を促した。
そして、名前を聞き、なかなか発音できないユキにほのぼのとする。
そして問題になったのはここから先だった。
名前の後、なかなか話が続かないので今度は俺が促したのだ。
そして、発された衝撃の言葉。
『あみーちょちょは、みんにゃにあうまえ?くりゃいにあっちゃよ!』
ユキは記憶をなくしているはずで、それはおそらくあの怪我が原因で。だから、俺らに会う前にアミュートと出会っていえるのは、記憶があるのか?思ってしまった。しかし、部分的に覚えているだけなのかなと考え付き、とりあえずどこまで覚えているのか把握がしたくて先を促した。
するとハッ!としたような表情になりみるみる顔色が悪くなる。そして、頭を抱え唸り、声をかければ大きく跳ねた。
それはまるで怯えるようで、トラウマスイッチが入ってしまったかと心配になる。
ユキはアミュートに顔を埋め、何度も何度も唸り、頭を抱えほんの僅かに震えていた。
きっと思い出したくない記憶を必死に思い出そうとして頭が痛いのだろうと思い、見ていられなくて思わずもういいと伝えた。
するとそれが良くなかったのか、青いを通り越し白くなった顔でユキは必死に謝り始めた。
蹲り、許しを乞う様はなんとも胸を締め付けられ、過去の記憶を俺の質問で呼び起こしてしまったのかと後悔する。
落ち着かせようとするも、焦点の合わない瞳には恐怖の色しか写していなかった。そして、涙を流しガタガタと先程以上に震えだし軽い過呼吸を起こしかけていた。
何がユキのトラウマスイッチを押したのだろうかと考えてみるも、やはり思い出したくない記憶に触れてしまったのだろうと思う。
あれだけ頭を抱え苦しみの唸り声をあげていた時点で、止めるべきだった。あの時点で既に施錠された記憶の扉を開きかけていたのだろうと思う。それが、俺のかけた言葉がきっかけだったのかそうじゃないのか分からないが、綻びが生じ今に至っているのだろうと考えた。
過呼吸になっているのにも関わらず、尚も謝り続けるユキに、この小さな体に隠された闇を心配せずにはいられなかった。そして、その闇を作ったものへ対して、今何もしてあげられない自分に対して、酷い怒りや憤りも感じずにはいられなかった。
そしてそんな憤りを感じつつ、まるで心臓を抉られるような気持ちで、落ち着かせようと『大丈夫』と何度も声をかけ、優しく、愛を持って抱き締めてあげることしか俺には出来ず、酷くもどかしかった。
𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒
被りの時のセリフ違いをルビとして処理してみました。↓これです。
『『『それって…な?』』』
今まで通り()書きで書いた方がいいですかね?
悩みます…。
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