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第1章
86.家族に、なってほしい。
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街へ出て熱を出してからの暫くは、宿にこもりきりだった。熱はすぐに下がっていたのに、お医者さんからしばらくは安静に、と言われたのが理由だった。
また街へ行きたいと何度も言っても、また熱を出すかもしれないとすぐ却下されてしまう。
「しんどくなるのはユキだぞ?」なんて言うが、少し街へ繰り出すくらいどうって事ないだろう。どうせ抱っこされていて自分で歩く訳でもないのに。
そうして、宿から出して貰えなくなってから10日がたったある日。
「ユキ、とても大事な話があるんだ…」
そう、酷く真面目な顔で俺に向き合うノアさん。ガイさんとライさんはそんなノアさんの後ろに立っていた。
「にゃんれしゅか……?」
その、これから真面目な話をします!といった空気感に思わず敬語になるが、なんとも締りが無い噛み噛みの間抜けな発音になってしまった。恥ずかしい……
「少し、難しいかもしれないが、聞いてくれ…」
「あい」
「俺たち、3人で話し合ったんだが…、ユキ、俺の子にならない、か……?家族に、なって欲しい」
………何を言っているんだ?ノアさんは…?
『アミュート、この人は一体何を言ってるの?』
『そのままの意味だよ。この人は、ユキを養子に取りたいってこと。今それを相談されてるんだよ』
………お、俺を?………は?
「ユキ?」
「あ、……あ、えっちょ……」
流石に何も分からないと言った振りをして誤魔化すのは良くない。
だが、非常に理解し難い。………何故?と思ってしまう。
「にゃ、にゃんれ?ろーゆーこちょれしゅか?」
「ユキはな、見た目に少し問題があるんだ……前に、ライがむ……いや、軽く説明していただろう?覚えていないか?門のところで」
覚えている。この髪は珍しく、毟られる危険があるから髪は隠せと、そういったことを聞いた。それは、ケインからも聞かされていた事だからよく理解している。
「あい」
「それでな、その髪をずっと隠して生きていくことは難しいだろう?だから、俺がまもることになったんだ。これはあくまで俺たちの話し合い上でだがな…」
「……」
「俺はな、実は、貴族なんだ。公爵家次男。
そして、冒険者はあくまで副業のようなものだった。しばらく…冒険者の3年間は息抜きのような時間だったんだ。この2人は、俺の護衛としてついて来ていた。今ではすっかり大切な仲間だがな…ハハ」
ノアさんは、2人の方へチラッと視線を向け、少しだけ笑って見せた。
つまり…薄々気付いてはいたけど、やっぱりノアさんは貴族で、そして、冒険者ランクはBランクと高めなくせに息抜きの副業…。Wow…。
俺の髪色は珍しく、毟られることがあるもので、記憶も身寄りもない、そんな哀れな子供を養子にとって育てようということだろう。そして彼の言うまもるとは、様々なことが含まれているはずだ。
「3人で話し合って、やはり俺が相応しいとなったんだ。しかし、俺が家へ戻ってもこいつらとは一緒に過ごすつもりだ。今のように冒険者としての気軽な距離感ではなくなるが、それは人の前だけ。だから、戸籍が俺と親子になっても、俺たち4人で大切に育てるという事は何も変わっていない。ユキが嫌なら仕方ないが、俺たちはユキを実子のように思っているし、ユキが加わり、4人で家族だと思っている。
…………どうだ?いやか?」
不安げに俺の様子を伺いながら話すノアさんは、とても貴族とは思えなかった。しかし、ケインもそれらしい事は言っていたし、本人もそう言っている。ならばそうなのだろうと納得する。
そんなノアさんの後ろの2人が気になり、ふと視線をやると、2人の瞳も不安げに揺れていた。
「いや、ちあうよ」
話しにくく、“いや”という所で区切ってしまい、3人が一瞬、酷く切なく悲しい表情になった。それに少し申し訳ないなと思い、俺は最後は笑顔を3人へ向け、言い切った。
するとぱぁっと表情の変わる3人。
「ユキ、本当か?俺と家族になってくれるのか?」
「俺たちだろ!」
「あぁ、悪い。だが戸籍上は俺の子だ」
「っ!」
ドヤるノアさんに怒り拳を振り上げるガイさん。しかし俺の前だと言うのもあってか思いとどまったその拳は、空中で行き場をなくし不満げに少しづつ下がっていく。
「それで、ユキ!どうなんだ?俺の養子に…いや、家族に、なってくれるのか?」
「あい!」
「っっっしゃーーー!!!」
ノアさんはハイテンションでガッツポーズを決め、ガイさんとライさんへ抱きついた。
「ガイ、ライ!!っしゃーーーー!!!」
「……良かったね、ノア」
「あぁ…!生まれてこのかた貴族でよかったとこれほどまでに思ったこと一度もなかったよ……!良かった!ほんとに……」
感極まって瞳を潤ませるノアさんを、2人が暖かな表情で見つめていた。
𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒
遅くなり申し訳ないです…!
また街へ行きたいと何度も言っても、また熱を出すかもしれないとすぐ却下されてしまう。
「しんどくなるのはユキだぞ?」なんて言うが、少し街へ繰り出すくらいどうって事ないだろう。どうせ抱っこされていて自分で歩く訳でもないのに。
そうして、宿から出して貰えなくなってから10日がたったある日。
「ユキ、とても大事な話があるんだ…」
そう、酷く真面目な顔で俺に向き合うノアさん。ガイさんとライさんはそんなノアさんの後ろに立っていた。
「にゃんれしゅか……?」
その、これから真面目な話をします!といった空気感に思わず敬語になるが、なんとも締りが無い噛み噛みの間抜けな発音になってしまった。恥ずかしい……
「少し、難しいかもしれないが、聞いてくれ…」
「あい」
「俺たち、3人で話し合ったんだが…、ユキ、俺の子にならない、か……?家族に、なって欲しい」
………何を言っているんだ?ノアさんは…?
『アミュート、この人は一体何を言ってるの?』
『そのままの意味だよ。この人は、ユキを養子に取りたいってこと。今それを相談されてるんだよ』
………お、俺を?………は?
「ユキ?」
「あ、……あ、えっちょ……」
流石に何も分からないと言った振りをして誤魔化すのは良くない。
だが、非常に理解し難い。………何故?と思ってしまう。
「にゃ、にゃんれ?ろーゆーこちょれしゅか?」
「ユキはな、見た目に少し問題があるんだ……前に、ライがむ……いや、軽く説明していただろう?覚えていないか?門のところで」
覚えている。この髪は珍しく、毟られる危険があるから髪は隠せと、そういったことを聞いた。それは、ケインからも聞かされていた事だからよく理解している。
「あい」
「それでな、その髪をずっと隠して生きていくことは難しいだろう?だから、俺がまもることになったんだ。これはあくまで俺たちの話し合い上でだがな…」
「……」
「俺はな、実は、貴族なんだ。公爵家次男。
そして、冒険者はあくまで副業のようなものだった。しばらく…冒険者の3年間は息抜きのような時間だったんだ。この2人は、俺の護衛としてついて来ていた。今ではすっかり大切な仲間だがな…ハハ」
ノアさんは、2人の方へチラッと視線を向け、少しだけ笑って見せた。
つまり…薄々気付いてはいたけど、やっぱりノアさんは貴族で、そして、冒険者ランクはBランクと高めなくせに息抜きの副業…。Wow…。
俺の髪色は珍しく、毟られることがあるもので、記憶も身寄りもない、そんな哀れな子供を養子にとって育てようということだろう。そして彼の言うまもるとは、様々なことが含まれているはずだ。
「3人で話し合って、やはり俺が相応しいとなったんだ。しかし、俺が家へ戻ってもこいつらとは一緒に過ごすつもりだ。今のように冒険者としての気軽な距離感ではなくなるが、それは人の前だけ。だから、戸籍が俺と親子になっても、俺たち4人で大切に育てるという事は何も変わっていない。ユキが嫌なら仕方ないが、俺たちはユキを実子のように思っているし、ユキが加わり、4人で家族だと思っている。
…………どうだ?いやか?」
不安げに俺の様子を伺いながら話すノアさんは、とても貴族とは思えなかった。しかし、ケインもそれらしい事は言っていたし、本人もそう言っている。ならばそうなのだろうと納得する。
そんなノアさんの後ろの2人が気になり、ふと視線をやると、2人の瞳も不安げに揺れていた。
「いや、ちあうよ」
話しにくく、“いや”という所で区切ってしまい、3人が一瞬、酷く切なく悲しい表情になった。それに少し申し訳ないなと思い、俺は最後は笑顔を3人へ向け、言い切った。
するとぱぁっと表情の変わる3人。
「ユキ、本当か?俺と家族になってくれるのか?」
「俺たちだろ!」
「あぁ、悪い。だが戸籍上は俺の子だ」
「っ!」
ドヤるノアさんに怒り拳を振り上げるガイさん。しかし俺の前だと言うのもあってか思いとどまったその拳は、空中で行き場をなくし不満げに少しづつ下がっていく。
「それで、ユキ!どうなんだ?俺の養子に…いや、家族に、なってくれるのか?」
「あい!」
「っっっしゃーーー!!!」
ノアさんはハイテンションでガッツポーズを決め、ガイさんとライさんへ抱きついた。
「ガイ、ライ!!っしゃーーーー!!!」
「……良かったね、ノア」
「あぁ…!生まれてこのかた貴族でよかったとこれほどまでに思ったこと一度もなかったよ……!良かった!ほんとに……」
感極まって瞳を潤ませるノアさんを、2人が暖かな表情で見つめていた。
𓂃◌𓈒𓐍◌𓈒
遅くなり申し訳ないです…!
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