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第1章
31.あたたかいすーぷ。
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貰ったスープは普通の野菜スープだと思われる。
しかし、さっきの動くお肉の紫スープがある。実はこの野菜にも何かしら異世界風なものが使われているのかもしれない。
そう思うと、なかなか口をつけられずにいた。
だって怖いじゃん!野菜動くとかあるかも。野菜型のモンスターとかいて、そういうのを使っているのかも。
考え出すと止まらない。埒が明かないので、覚悟を決め、目をギュッと閉じひとくち、こくんと飲み込んだ。
すると……口の中にうす~く広がるスープの味。どこかほっとするような味で、とても美味しい。なんだろうこの味……あ、そうだ。まだ両親が離婚する前のまだ俺が小さかった頃。熱が出て、食欲がなくて苦しい時、当時雇っていた料理人の武部さんが心配して作ってくれたスープの味。あー、懐かしいな。よくご飯抜きにされてた僕にこっそりご飯を用意して食べさせてくれたっけ……『余っただけだ。ここに捨ててるだけだ。お前のために用意したわけじゃない』そういってたな。武部さんの言動はいつも冷たくて、僕は嫌われているのだと当時思っていた。
でも今考えれば武部さんはただのツンデレ。いつも冷たい言葉の裏には温かさがあった。
そんな武部さんも両親の離婚時に解雇され、それ以降あっていない。……今、どうしてるんだろう。当時気付けなかった武部さんの優しさ。お礼を言いたかったな。……それももう、叶わない。今どうしてるかだけ、今度ケインに分からないか聞いてみよう。
「ユキ…?どうした?美味しくないか?」
「……ふぇ?」
「いや、泣きそうな顔してるから…」
「あ……」
どうやら俺は、昔を思い出して泣きそうな顔になっていたらしい。……というか、これ、零れてないだけでもう涙は生まれていた。
その涙をそっとガイさんが指で拭ってくれる。
武部さんも、僕が泣くと、雑だが拭ってくれたっけ……『男のくせに泣くなよ、鬱陶しい…。なくなら俺のいないとこで泣け』そう言って俺にタオルをなげつけ、結局それで拭ってくれた。本当に優しい人だった。
「ユキ?どうした?しんどいか?」
ガイさんの俺を心配する声が、俺の中の武部さんの記憶とリンクする。
熱を出し眠る俺に『しんどそうだな…ごめんな…』そう言って頭を撫でてくれていた。俺は夢だと思っていた。武部さんがそんなことするはずが無いと思っていたから。きっと人恋しくて、見ただけの夢だと思っていた。でもきっと夢じゃない。
「ユキ?大丈夫か?」
兄達に殴られ、ぐったりしる俺に『大丈夫か?どこが痛い?どこが苦しい?』そう言って心配してくれてた。当時は意識が曖昧でよく分からなかった。しかし、あの家の中で俺の事を気にしてくれていたのは武部さんだけだった。声も、武部さんだった。
「ユキ……?何故泣いてるんだ?ほんとに大丈夫か?」
泣いてる?俺が?……本当だ。
泣いていると言われそっとほっぺに触れてみるとそこは、涙の流れたあとで濡れていた。
その上にまた、沢山の雫が通る。
俺は…俺だって、知ってたんだ。人から与えられる暖かい心を。本当は知ってたんだ。幼くて、気付けなかっただけで、本当はちゃんと与えられていた。
悲しい。気付かずに、俺は誰にも愛されないと卑屈になってしまっていた。人のために何かをしていないと自分に価値はないと思っていた。友達が優しいのも、俺が自分たちにとって得があるからだと言う打算的な考えからだと思っていた。もしかしたら俺が弾いていただけで、武部さんの様に優しい人がいたのかもしれない。
今世はもう少し人を信じてみようかな…。本当に裏がある人もいるかもしれない。それでも、そのとき、俺が優しさを感じたのならそれはもう俺にとっての善になる。たとえそれが嘘でも、もういい。前みたいにガードを固くして固くして、本当の優しさを弾くより、ずっといい。
「ユキ…?どうした?何故泣く?どこが辛い?」
ガイさんが心配してくれている。この人は暖かい。
まだよく知らないけれど、一緒になって心配してくれているおっちゃんも…きっと……
「…んーん!らいろーぶ!……ちょっちょ……たらちょっちょ……すーぷぁね、あたたかかったらけ……」
「……??しんどいとかじゃ、ないんだな?」
「うん!」
「…どっか苦しいとか、でもないんだ、な?」
「うん!」
「…それが、美味しくなかった、とかでもないのか?」
「うん!おいしぃよ!」
「…そうか。じゃあ元気なんだな?」
「うん!」
「…ならもういい。それ、おいしいか?」
「おいしい!あいしゃんもたぇりゅ?」
「いや、いい。美味しいならお前が食え。また泣いたから疲れたろ。食べたら寝ていいぞ」
「うん!」
「「……」」
ガイさんが俺の頭をなでなでしてくれている。ガイさんの手は大きくて、暖かくて、ほっこりする。眠たくなるけれど、武部さんのスープの味に似ているこのスープを完食したかった。
そうして俺はガイさんに頭を撫でられながらスープを頑張って完食し、そのままガイさんの膝の上で頭を撫でられながらまた眠ってしまった。
しかし、さっきの動くお肉の紫スープがある。実はこの野菜にも何かしら異世界風なものが使われているのかもしれない。
そう思うと、なかなか口をつけられずにいた。
だって怖いじゃん!野菜動くとかあるかも。野菜型のモンスターとかいて、そういうのを使っているのかも。
考え出すと止まらない。埒が明かないので、覚悟を決め、目をギュッと閉じひとくち、こくんと飲み込んだ。
すると……口の中にうす~く広がるスープの味。どこかほっとするような味で、とても美味しい。なんだろうこの味……あ、そうだ。まだ両親が離婚する前のまだ俺が小さかった頃。熱が出て、食欲がなくて苦しい時、当時雇っていた料理人の武部さんが心配して作ってくれたスープの味。あー、懐かしいな。よくご飯抜きにされてた僕にこっそりご飯を用意して食べさせてくれたっけ……『余っただけだ。ここに捨ててるだけだ。お前のために用意したわけじゃない』そういってたな。武部さんの言動はいつも冷たくて、僕は嫌われているのだと当時思っていた。
でも今考えれば武部さんはただのツンデレ。いつも冷たい言葉の裏には温かさがあった。
そんな武部さんも両親の離婚時に解雇され、それ以降あっていない。……今、どうしてるんだろう。当時気付けなかった武部さんの優しさ。お礼を言いたかったな。……それももう、叶わない。今どうしてるかだけ、今度ケインに分からないか聞いてみよう。
「ユキ…?どうした?美味しくないか?」
「……ふぇ?」
「いや、泣きそうな顔してるから…」
「あ……」
どうやら俺は、昔を思い出して泣きそうな顔になっていたらしい。……というか、これ、零れてないだけでもう涙は生まれていた。
その涙をそっとガイさんが指で拭ってくれる。
武部さんも、僕が泣くと、雑だが拭ってくれたっけ……『男のくせに泣くなよ、鬱陶しい…。なくなら俺のいないとこで泣け』そう言って俺にタオルをなげつけ、結局それで拭ってくれた。本当に優しい人だった。
「ユキ?どうした?しんどいか?」
ガイさんの俺を心配する声が、俺の中の武部さんの記憶とリンクする。
熱を出し眠る俺に『しんどそうだな…ごめんな…』そう言って頭を撫でてくれていた。俺は夢だと思っていた。武部さんがそんなことするはずが無いと思っていたから。きっと人恋しくて、見ただけの夢だと思っていた。でもきっと夢じゃない。
「ユキ?大丈夫か?」
兄達に殴られ、ぐったりしる俺に『大丈夫か?どこが痛い?どこが苦しい?』そう言って心配してくれてた。当時は意識が曖昧でよく分からなかった。しかし、あの家の中で俺の事を気にしてくれていたのは武部さんだけだった。声も、武部さんだった。
「ユキ……?何故泣いてるんだ?ほんとに大丈夫か?」
泣いてる?俺が?……本当だ。
泣いていると言われそっとほっぺに触れてみるとそこは、涙の流れたあとで濡れていた。
その上にまた、沢山の雫が通る。
俺は…俺だって、知ってたんだ。人から与えられる暖かい心を。本当は知ってたんだ。幼くて、気付けなかっただけで、本当はちゃんと与えられていた。
悲しい。気付かずに、俺は誰にも愛されないと卑屈になってしまっていた。人のために何かをしていないと自分に価値はないと思っていた。友達が優しいのも、俺が自分たちにとって得があるからだと言う打算的な考えからだと思っていた。もしかしたら俺が弾いていただけで、武部さんの様に優しい人がいたのかもしれない。
今世はもう少し人を信じてみようかな…。本当に裏がある人もいるかもしれない。それでも、そのとき、俺が優しさを感じたのならそれはもう俺にとっての善になる。たとえそれが嘘でも、もういい。前みたいにガードを固くして固くして、本当の優しさを弾くより、ずっといい。
「ユキ…?どうした?何故泣く?どこが辛い?」
ガイさんが心配してくれている。この人は暖かい。
まだよく知らないけれど、一緒になって心配してくれているおっちゃんも…きっと……
「…んーん!らいろーぶ!……ちょっちょ……たらちょっちょ……すーぷぁね、あたたかかったらけ……」
「……??しんどいとかじゃ、ないんだな?」
「うん!」
「…どっか苦しいとか、でもないんだ、な?」
「うん!」
「…それが、美味しくなかった、とかでもないのか?」
「うん!おいしぃよ!」
「…そうか。じゃあ元気なんだな?」
「うん!」
「…ならもういい。それ、おいしいか?」
「おいしい!あいしゃんもたぇりゅ?」
「いや、いい。美味しいならお前が食え。また泣いたから疲れたろ。食べたら寝ていいぞ」
「うん!」
「「……」」
ガイさんが俺の頭をなでなでしてくれている。ガイさんの手は大きくて、暖かくて、ほっこりする。眠たくなるけれど、武部さんのスープの味に似ているこのスープを完食したかった。
そうして俺はガイさんに頭を撫でられながらスープを頑張って完食し、そのままガイさんの膝の上で頭を撫でられながらまた眠ってしまった。
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