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第1章

20.※ノア視点 泣かないで。

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あぁ、さっきまで門の中に入るのを楽しみにしてワクワクしていた可愛いこの子供を、ユキを、泣かせてしまった。

ユキの話をしていたから、聞こえたら可哀想だと思い、耳を塞いだのだ。
だって、うっかり俺たちの話を聞いて、自分の髪は珍しく危険だということを知って怯えたら。
愛されていない証だと知り、傷つけてしまったら。
辛い過去を封印して記憶を失っているのだとして、俺たちがそれを呼び起こすキッカケになってしまったら。
そう思って、ユキの耳を塞いでいたのだ。

まさか耳を塞がれることに、恐怖心を抱くなんて思わなかった。
守るためにとった行動が逆にこいつを傷付けてしまった。
情けない。不甲斐ない。申し訳ない。

宝石のように輝く瞳は、空を流し込んだような色をしていてとても綺麗だ。そんな瞳にはうっすらと涙がたまり、聞こえないのが嫌だと、必死に堪えるように伝えてくる。きっと何も聞こえなくなって怖かったのだ。何も覚えていないから、何が怖いのか分からない。しかし、なんとなく怖い。と言った感じだろうか?

怖がらせてしまったことを謝ると、困ったような顔をして、寂しそうな顔をして。
大きく綺麗な空の瞳は、涙をためきることが出来ず、大粒の涙を次から次へと零す。声を押し殺し必死に俺の服に縋り付き泣く。
この子は何故、年頃の子供のように大声を上げて泣かないのだろう。
声を上げて泣けばいいのに。迷惑とでも思っているのだろうか?
この子は頭がいい。だから、俺らにも無用な気を遣う。
こんなに小さな子供が、舌も回らずろくに喋れもしない子供が、俺らに敬語を使って喋る。

これくらいの子供は単語単語で必死にしゃべったりするのが普通じゃないのか?
それこそ、親や周りの者が常に敬語や丁寧な口調で喋っている貴族の子供でも、これくらいの歳だとまだ無理だ。言葉を覚えるので精一杯だろう。
だから、ある程度喋れるようになる5歳くらいまでは口調は滅多に注意されない。敬語を使わなくてはならない者との交流はしないのだ。

それなのに、ユキは恐らく2歳。それもまだ小さいから2歳になったばかりか、もしくはまだ1歳なのかもしれない。2歳というよりは1歳半くらいだろうか。
兎に角そんな、まだまだ幼い子供なのだ。敬語どころか、これ程しっかり言葉を理解し、喋っているのは少し異質だ。
一体どんな環境にいたのか…。頭がいいから理解ができるのか、理解せざるを得ない環境だったのか。そういう風にされたのか……嫌な憶測ばかりで何も分からない。なにも、分からないのだ。


唯一分かるのは、俺がもうこの子を幸せにしたいと、心から強く願っているということ。
そしてそれは俺だけではないだろう。
大丈夫。この子はこれからたくさん愛される。愛してやる。少しでも幸せになれるように。










    
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