自由に、そして幸せに。

あめ

文字の大きさ
上 下
40 / 44

39

しおりを挟む
「じゃぁ、早く食べましょ、いただきます。
どうぞ召し上がれ!」
「はーい!
いただきます!」
「いただきます」
「((ペコリ))」

この世界にも“いただきます”の文化があるみたいで、皆両手を合わせて挨拶をする。
僕はいまだにユウちゃんと話すとき以外は声が出ないので、手を合わせてお辞儀をするだけになってしまった。
それでもちゃんと心の中では“いただきます”と挨拶はする。 

…でもなかなか食欲が出なくて食べ始めることが出来ない。
スープだけでも頑張って飲みたい。元の世界でもスープはのめてたし問題ないはずなんだけど、環境が違うからなのか、知らない人が目の前にいるからなのかわからないけど、全然食欲がわかない。こっちに来てからまともに食べてないからお腹はすいてるはずなのに。お腹がすいてる感じが全然しないし、食べる気にもならない。
…どうしよう。具はとりあえず気にせずにスープだけ飲もうかな。

「───カ…ミカ…大丈夫?」
「え……あ……」
「あ、ミカ君大丈夫?口に合わなかったかしら?」
「((ブンブン!))」

どうしようか考えていると、ユウちゃんに服の裾を引っ張られて気がつくと、ヘレンさんとダリアさんが心配そうに僕の様子を窺っていた。
まだ食べてないけど。おいしくないからボーっとしていると思われたままは嫌だったから、あわてて首を振り、一気にスープを口に流し込む。具は唇で止まって口の中には流れてこなかった。
スープを半分ほど飲んでから、器から口を離す。
味が少し濃い。本来なら平気だけど、今日は食欲が全然ないため、この濃さは少々しんどい。
口の中にスープの味が広がる感覚が少し気持ち悪くて、ユウちゃんの服の裾をギューっと握って耐えるけど、思わず顔をしかめてしまう。

「…やっぱりおいしくないかしら?」
「((ブンブン))」
「無理しなくていいのよ?」
「あ、あの、ミカ、調子よくないみたいで、食欲ないらしくて…それで一気に飲んで気分悪くなっちゃっただけだと思います。気にしないでください。
昨日も持ってたパン、あまり食べられなかったから…別においしくないわけじゃないですよ!」
「そうなの?」
「((コクコクッ!!))」
「そう…ならよかったわ!
調子悪いなら少し味が濃かったかしら…?ごめんなさいね、食べられるだけ食べてくれたらいいから、無理しないでね」
「((ペコリ))」

よかった…ユウちゃんがフォローしてくれて…
じゃなかったら、僕の問題なのにヘレンさんを傷つけてしまうところだった。
でも申し訳ないな…。せっかく作ってくれたのに、味わってちゃんと食べることが出来ないなんて。気分悪いだろうな…自分の作ったものを食べた人が顔をしかめるなんて。僕、最低だ。…もう最悪。
一気に飲んだから気持ち悪いし。ヘレンさんに酷いことしてしまうし。自分の体調ちゃんと把握できてたらこんなことにはならなかったかもしれないのに。あせって、一気にん飲んで、気持ち悪くなって、結果ヘレンさんに酷い態度取って。そのくせ自分で訳も話せなくて、謝ることも出来なくて…もぅ…ほんとに最悪…。

「ミカ…大丈夫だから、そんなに気にしなくていいよ。残りは俺が代わりにおいしく食べるから。責めなくていいよ。」
「……」

ユウちゃんは優しいな…。この空気を作った元凶である僕のこともちゃんと気遣ってくれて、フォローしてくれるなんて…。
またそうやってユウちゃんにも迷惑をかけてしまう自分が嫌だ。

「ミカ、後で話そう。((コソッ))」
「……なにを?」
「なんかずっともやもやした顔してるから…とりあえず、な?」
「…わかった。ありがとう」


「そう言えばミカ君って、声、出ないの?話せないの?」
「…っ!」
「あ、ミカは、人なれしてないのか、緊張して声が出なくなるみたいです」
「それを知ってるってことは、ユウ君とは話せるんだ?」
「そうですね…気がついた時から一緒にいましたし」
「そっか~いいなぁ~僕もミカ君とお話ししたいなぁ~
ねぇ、何か話せない?」
「こら!緊張して声の出ない子を余計緊張させてどうするのさ!」
「あ…それもそうか…じゃぁ、いつか一緒にお話ししようねぇ~?」
「((こくこく))」

…僕も話したい。こうやって気を使わせてしまうのも嫌だ。
ほんとに精神耐性レベルMAXなのか疑問になってきた。
精神耐性が機能してのこれは、もうどうしたらいいんだろう…レベルMAXだけじゃ無理なら、対人耐性とかもないとだめなのかな…そんなの創造スキルで作れるのかな…ムリだろうな…なんか枠が違ってたし…




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

処理中です...