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今日は朝から体調が悪かったため残業しなくて済むように、昼休憩を取らずに終わらせたのに…。
同僚はいつものように僕に何も言わず残った仕事をおしつけ定時ジャストに帰っていった。
“今日は体調が悪いので仕事は引き受けられません”とお昼に伝えるとすんなり“わかった。”と言ってくれたから今日はちゃんと理解してくれ、自分で終わらせてくれるのだと思い、安心していたのに…。
しんどすぎて気付かなかったが、よくよく考えてみば適当に返事しただけだとわかる。いつも僕の言葉は彼らには届かないから。
全然わかってくれてなかった。悲しい。少し考えればわかったのに気付かず信じた自分が悔しい。そう思うと嫌な気持ちが沢山溢れてきた。
毎回毎回僕の机に黙って残った仕事を置いてそそくさと帰っていく。みんな。
僕の仕事じゃないしやらずに帰ったり断ったりすると怒鳴り、場合によっては殴ってくる。
いつも手伝っていても僕になにか得がある訳でもない。
彼らは自分の仕事は僕に押付け、ミスも僕のせいにする。
そうして怒られた僕にいつも声をかける人がいる。
その人は僕の先輩で、僕のことが好き……らしい。気持ち悪い。
別に男だからとかそういうことじゃない。
先輩だから気持ち悪いのだ。
というか好意を向けられること自体に少し嫌悪感を抱く。
怒られ震える僕を先輩は抱きしめ慰めようとしてくる。それだけならまだ……まだマシだ。うん。
いつも残って仕事している僕とは違い先輩も定時で上がる。だが、怒られたりした日はいつも帰ったはずの先輩が夜になると戻ってくる。
そして無理やり僕にキスをし身体を弄る。
拒めば怒鳴りものを投げたり、仕事を増やして押し付けてきたり…最悪だ。
それなら先輩が戻ってくる前に帰ればいいじゃないかと思うが、帰ろうにも仕事が終わらず帰れない。だったら持ち帰り家でやろうと会社を出ても家に来る。家でされるくらいなら会社の方がマシだとおもう。
そんな最悪な会社で僕はもう2年半ほど働いている。転職が少しでも楽になるように3年は頑張ろうと決めていたけど、そろそろ限界なのか身体がおかしい。
今日の体調不良が少し、いやかなり異常だ。
耳鳴りなのかは分からないが頭の中で警報音のようなものが、それはもうものすごい音で響いている。そのため頭は割れそうというより壊れそうだ。目眩は酷いしそのため吐き気もすごい。
さっきまでここまで酷くなかった。帰れると思ったら仕事を渡され、頑張って仕事を再開し始めてからどんどん酷くなっている。今はもう仕事なんてしてられない。この状態で仕事するくらいなら明日怒られる方が100倍マシだと思う。そして一刻も早く家に帰って休みたいため部屋を出てエレベーターに乗り込む。しかしそれだけで体調はさらに悪くなった。吐き気を必死に堪え、頭の中で響くこの音が少しでもマシになるように耳を塞ぎ、エレベーターの中で座り込みうずくまってしまった。
だが直ぐに1階に到着し、降りなきゃいけな い。気合いで立ち上がりボタンを押して閉まってしまったドアを開けエレベーターから降りた。そこで、限界だった。エレベーターのドアに背を向け座り込み耳を抑えうずくまった。
しばらくそうしているとほんの少しだけ響く音がマシになってきた。
今のうちに帰ろうと思ったけど体調自体はさっきと変わらなかった。ずっと浅い呼吸を繰り返しているせいか、咳が出る。呼吸音も少しおかしい気がする。
取り敢えず1人じゃ帰れない。なので、優に電話することにした。
(☎トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……ピッ)
『はいもしもし。「はぁはぁ……っ」…?どした?みか?』
「はぁはぁはぁはぁっ……ゆう、いま、かいしゃにいる。はぁはぁはぁはぁっ……むかえ、に、きて…はぁはぁっはぁはぁっゲホゲホッ…」
『大丈夫か?……わかったとりあえず迎えに行くから。そこにいろよ?すぐ行くから!』
「はぁはぁはぁっ……ゲホゲホッ……ヒューヒューッ……ゆ、う…おと、うるさくて、よく、き、こえ、ない……はぁっはぁっ……むかえに、きて……おねがい…ゆう……」
『今向かってるから!わかったk(☎プツ…)』
ゆうがまだ喋ってる途中だったが、僕のスマの充電が切れて通話が切れた。
しかし、僕は気づいていなかった。そんな電話に構ってられるほどの余裕はなかった。また響くとが大きくなってきた。
「はぁっはぁっはぁっ…うぅぅっ……ゲホゲホ…ヒューッヒューッ……ゆう、かいしゃ、いる、から、はぁっはぁっ…むかえ、きて……はぁっはぁっゲホゲホ…ひ、とりで、かえれ、ない、のぉ…ゲホゲホ…ヒューッヒューッ…」
涙が出そう。吐きそう。苦しい。辛い。早くおうちに帰りたい……
頑張って移動してみようと思い壁伝いにゆっくり立つと激しいめまいに襲われた。さっき以上に揺れる視界に立っていられず壁にもたれてズルズルと倒れるように座り込んだ。
ダメだ。下手に動くと目眩が酷くなる。もう吐きそうだ。だけど、こんなところで吐く訳にもいかないから、必死で堪えた。ずっと堪えていた涙も下を向くと1粒2粒こぼれた。
「うぅっ……ま、だ…?ゆう、はや、く…ゲホゲホッ…ヒューッヒューッヒューッ……」
早くお家に帰りたい、そう思うのに動けない。
ゆうはまだ来てくれないのか…早く来て欲しい。そう思っていると……
「はぁはぁ…!み、か…みか!大丈夫か!?」
走ってゆうが来てくれた。でも、僕はもう揺れる視界を見ていたくなくて、すこしでもましになるように、目を固く固くとじていたため気付いていなかった。
「ゆうぅ…は、やく…きてぇ……ヒューッヒューッゲホゲホ……」
「みか?俺はここにいるよ、一緒に帰ろ……いや病院の方がいいな。病院行こ!救急車呼ぶね?」
「……?!ゆう…?やった…きて、くれた……かえ、ろ、か、え、りた、い、はやく、おうちに。かえ、りっゲホゲホゲホゲホっっヒューッヒューッ…」
「家より病院行こ?病院嫌いなの知ってるけど流石にヤバいよ」
「…?!い、ま、びょういんって、いったぁ…?「((コクッ))」や、やだ!やだぁ!びょういんはっ、やだぁ!おうち、かえるの!おうちで、やすみ、たい、いやだぁ…((ポロポロ…))」
必死に堪えてたのに、涙が溢れて止まらなくなった。ただでさえしんどくて涙がこぼれてたのに嫌で、怖くて涙を堪えることが、止めることができなくなった。
僕は病院が嫌いだ。とても怖い。病院に行こうと言われるとこの世の終わりのような気持ちになる。
「やだ、やなの、おうち、に、つれてって、ひとりじゃ、かえれない、のぉ……ゲホゲホッゲホッゲホゲホッ…ヒューッヒューッヒューッヒューッ…うぅっ……」
「……でも……んー……わかった、とりあえず家帰ろう。タクシー呼ぶから」
そういうとゆうはスマホを取り出した。僕は耳を塞いでいる為聞こえていない。だから僕は勘違いした。救急車を呼ばれる!と。
「?!…やだ、やめて!呼ばないで!もういい!僕1人で帰る!」
そういうと今までしんどくて何も出来なかったのに、ゆうのスマホを奪い思いっきり投げた。
そして目眩が起こるとか、吐き気が酷くなるとか気にせずに立ち上がった。
「…ぅ?!ゲホゲホゲホゲホッッッ…オエェェェッッ!ヒューッヒューッヒューッオエェェェッッ!ヒューッヒューッ……」
「おい!大丈夫か!?ごめん!ややこしかったな!ごめん。大丈夫だから、救急車は呼ばないから、一緒に帰ろう。無理しなくていいから。ちょっとごめんな」
そう言ってゆうは僕に上着を掛け姫抱きし、歩き始めた。
「…ヒュ-ッヒュ-ッヒュ-ッゲホゲホゲホゲホッッ……ゆ、う?びょういん、いかない?ヒュ-ッおうち、かえる?…ゲホゲホヒューッヒューッ」
「うん、いかない。家帰ろう。だから安心して寝ててもいいよ。揺れるし」
病院には行かないと言ってくれたけど、安心で
きなかった。意識を失ったらきっと病院に連れていかれる。そう思いさっき無理したせいで意識を保つのが大変だったけど意地で保った。
会社を出てしばらく歩いていると雨が降ってきた。少しづつ強くなり、嵐に近い天気になった。
「……ごめんな、いくら上着かけてても寒いよな、ちょっと急ぐから。(たくっ!なんで嵐なんだよ!そんなこと聞いてないぞ!!)」
雨もきつくなり雷もゴロゴロ言い出した。いつ落ちてもおかしくない。そんな天気だった。
僕は雷が苦手だ。雷の音を聞くと吐き気がするし目眩がして呼吸が苦しくなる。
でも、今日は頭の中で響く音の方が大きく、ほとんど聞こえておらず気付いていなかった。
「みか、平気か?みか?…あと少しで着くからな!」
2人のいる場所にものすごい轟音とともに一筋の光が落ちた。
家まではあと5分ほどの距離だった。
同僚はいつものように僕に何も言わず残った仕事をおしつけ定時ジャストに帰っていった。
“今日は体調が悪いので仕事は引き受けられません”とお昼に伝えるとすんなり“わかった。”と言ってくれたから今日はちゃんと理解してくれ、自分で終わらせてくれるのだと思い、安心していたのに…。
しんどすぎて気付かなかったが、よくよく考えてみば適当に返事しただけだとわかる。いつも僕の言葉は彼らには届かないから。
全然わかってくれてなかった。悲しい。少し考えればわかったのに気付かず信じた自分が悔しい。そう思うと嫌な気持ちが沢山溢れてきた。
毎回毎回僕の机に黙って残った仕事を置いてそそくさと帰っていく。みんな。
僕の仕事じゃないしやらずに帰ったり断ったりすると怒鳴り、場合によっては殴ってくる。
いつも手伝っていても僕になにか得がある訳でもない。
彼らは自分の仕事は僕に押付け、ミスも僕のせいにする。
そうして怒られた僕にいつも声をかける人がいる。
その人は僕の先輩で、僕のことが好き……らしい。気持ち悪い。
別に男だからとかそういうことじゃない。
先輩だから気持ち悪いのだ。
というか好意を向けられること自体に少し嫌悪感を抱く。
怒られ震える僕を先輩は抱きしめ慰めようとしてくる。それだけならまだ……まだマシだ。うん。
いつも残って仕事している僕とは違い先輩も定時で上がる。だが、怒られたりした日はいつも帰ったはずの先輩が夜になると戻ってくる。
そして無理やり僕にキスをし身体を弄る。
拒めば怒鳴りものを投げたり、仕事を増やして押し付けてきたり…最悪だ。
それなら先輩が戻ってくる前に帰ればいいじゃないかと思うが、帰ろうにも仕事が終わらず帰れない。だったら持ち帰り家でやろうと会社を出ても家に来る。家でされるくらいなら会社の方がマシだとおもう。
そんな最悪な会社で僕はもう2年半ほど働いている。転職が少しでも楽になるように3年は頑張ろうと決めていたけど、そろそろ限界なのか身体がおかしい。
今日の体調不良が少し、いやかなり異常だ。
耳鳴りなのかは分からないが頭の中で警報音のようなものが、それはもうものすごい音で響いている。そのため頭は割れそうというより壊れそうだ。目眩は酷いしそのため吐き気もすごい。
さっきまでここまで酷くなかった。帰れると思ったら仕事を渡され、頑張って仕事を再開し始めてからどんどん酷くなっている。今はもう仕事なんてしてられない。この状態で仕事するくらいなら明日怒られる方が100倍マシだと思う。そして一刻も早く家に帰って休みたいため部屋を出てエレベーターに乗り込む。しかしそれだけで体調はさらに悪くなった。吐き気を必死に堪え、頭の中で響くこの音が少しでもマシになるように耳を塞ぎ、エレベーターの中で座り込みうずくまってしまった。
だが直ぐに1階に到着し、降りなきゃいけな い。気合いで立ち上がりボタンを押して閉まってしまったドアを開けエレベーターから降りた。そこで、限界だった。エレベーターのドアに背を向け座り込み耳を抑えうずくまった。
しばらくそうしているとほんの少しだけ響く音がマシになってきた。
今のうちに帰ろうと思ったけど体調自体はさっきと変わらなかった。ずっと浅い呼吸を繰り返しているせいか、咳が出る。呼吸音も少しおかしい気がする。
取り敢えず1人じゃ帰れない。なので、優に電話することにした。
(☎トゥルルルルルル……トゥルルルルルル……ピッ)
『はいもしもし。「はぁはぁ……っ」…?どした?みか?』
「はぁはぁはぁはぁっ……ゆう、いま、かいしゃにいる。はぁはぁはぁはぁっ……むかえ、に、きて…はぁはぁっはぁはぁっゲホゲホッ…」
『大丈夫か?……わかったとりあえず迎えに行くから。そこにいろよ?すぐ行くから!』
「はぁはぁはぁっ……ゲホゲホッ……ヒューヒューッ……ゆ、う…おと、うるさくて、よく、き、こえ、ない……はぁっはぁっ……むかえに、きて……おねがい…ゆう……」
『今向かってるから!わかったk(☎プツ…)』
ゆうがまだ喋ってる途中だったが、僕のスマの充電が切れて通話が切れた。
しかし、僕は気づいていなかった。そんな電話に構ってられるほどの余裕はなかった。また響くとが大きくなってきた。
「はぁっはぁっはぁっ…うぅぅっ……ゲホゲホ…ヒューッヒューッ……ゆう、かいしゃ、いる、から、はぁっはぁっ…むかえ、きて……はぁっはぁっゲホゲホ…ひ、とりで、かえれ、ない、のぉ…ゲホゲホ…ヒューッヒューッ…」
涙が出そう。吐きそう。苦しい。辛い。早くおうちに帰りたい……
頑張って移動してみようと思い壁伝いにゆっくり立つと激しいめまいに襲われた。さっき以上に揺れる視界に立っていられず壁にもたれてズルズルと倒れるように座り込んだ。
ダメだ。下手に動くと目眩が酷くなる。もう吐きそうだ。だけど、こんなところで吐く訳にもいかないから、必死で堪えた。ずっと堪えていた涙も下を向くと1粒2粒こぼれた。
「うぅっ……ま、だ…?ゆう、はや、く…ゲホゲホッ…ヒューッヒューッヒューッ……」
早くお家に帰りたい、そう思うのに動けない。
ゆうはまだ来てくれないのか…早く来て欲しい。そう思っていると……
「はぁはぁ…!み、か…みか!大丈夫か!?」
走ってゆうが来てくれた。でも、僕はもう揺れる視界を見ていたくなくて、すこしでもましになるように、目を固く固くとじていたため気付いていなかった。
「ゆうぅ…は、やく…きてぇ……ヒューッヒューッゲホゲホ……」
「みか?俺はここにいるよ、一緒に帰ろ……いや病院の方がいいな。病院行こ!救急車呼ぶね?」
「……?!ゆう…?やった…きて、くれた……かえ、ろ、か、え、りた、い、はやく、おうちに。かえ、りっゲホゲホゲホゲホっっヒューッヒューッ…」
「家より病院行こ?病院嫌いなの知ってるけど流石にヤバいよ」
「…?!い、ま、びょういんって、いったぁ…?「((コクッ))」や、やだ!やだぁ!びょういんはっ、やだぁ!おうち、かえるの!おうちで、やすみ、たい、いやだぁ…((ポロポロ…))」
必死に堪えてたのに、涙が溢れて止まらなくなった。ただでさえしんどくて涙がこぼれてたのに嫌で、怖くて涙を堪えることが、止めることができなくなった。
僕は病院が嫌いだ。とても怖い。病院に行こうと言われるとこの世の終わりのような気持ちになる。
「やだ、やなの、おうち、に、つれてって、ひとりじゃ、かえれない、のぉ……ゲホゲホッゲホッゲホゲホッ…ヒューッヒューッヒューッヒューッ…うぅっ……」
「……でも……んー……わかった、とりあえず家帰ろう。タクシー呼ぶから」
そういうとゆうはスマホを取り出した。僕は耳を塞いでいる為聞こえていない。だから僕は勘違いした。救急車を呼ばれる!と。
「?!…やだ、やめて!呼ばないで!もういい!僕1人で帰る!」
そういうと今までしんどくて何も出来なかったのに、ゆうのスマホを奪い思いっきり投げた。
そして目眩が起こるとか、吐き気が酷くなるとか気にせずに立ち上がった。
「…ぅ?!ゲホゲホゲホゲホッッッ…オエェェェッッ!ヒューッヒューッヒューッオエェェェッッ!ヒューッヒューッ……」
「おい!大丈夫か!?ごめん!ややこしかったな!ごめん。大丈夫だから、救急車は呼ばないから、一緒に帰ろう。無理しなくていいから。ちょっとごめんな」
そう言ってゆうは僕に上着を掛け姫抱きし、歩き始めた。
「…ヒュ-ッヒュ-ッヒュ-ッゲホゲホゲホゲホッッ……ゆ、う?びょういん、いかない?ヒュ-ッおうち、かえる?…ゲホゲホヒューッヒューッ」
「うん、いかない。家帰ろう。だから安心して寝ててもいいよ。揺れるし」
病院には行かないと言ってくれたけど、安心で
きなかった。意識を失ったらきっと病院に連れていかれる。そう思いさっき無理したせいで意識を保つのが大変だったけど意地で保った。
会社を出てしばらく歩いていると雨が降ってきた。少しづつ強くなり、嵐に近い天気になった。
「……ごめんな、いくら上着かけてても寒いよな、ちょっと急ぐから。(たくっ!なんで嵐なんだよ!そんなこと聞いてないぞ!!)」
雨もきつくなり雷もゴロゴロ言い出した。いつ落ちてもおかしくない。そんな天気だった。
僕は雷が苦手だ。雷の音を聞くと吐き気がするし目眩がして呼吸が苦しくなる。
でも、今日は頭の中で響く音の方が大きく、ほとんど聞こえておらず気付いていなかった。
「みか、平気か?みか?…あと少しで着くからな!」
2人のいる場所にものすごい轟音とともに一筋の光が落ちた。
家まではあと5分ほどの距離だった。
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