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第1章 立花城城主 誾千代姫

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 天正3年(1575)5月28日、筑前国の博多湾上空は雲一つない澄み切った青空が広がっている。
博多の北を望むと、山が連なって、3つのこぶのような隆起が見える。西の立花山、北西の松尾岳、東の白岳の山頂を含む大規模な山城が、猛将と名高い立花道雪の居城立花城である。
 博多を守る立花道雪が仕える主君大友宗麟は、筑前・筑後・豊前・豊後・肥前・肥後の6か国を治め、九州一の権勢を誇っている。この立花城から下界を望むと明国との貿易で栄える博多の街と湊、そして博多湾から玄界灘へと続く大海原を一望できる。
 さざめく濃く蒼い波間を陽光に煌めく遣明船の帆が西へとゆっくり進んでいく。手前の博多湊には多くの和船が幾重にも出入りし、風に膨らんだ帆の弁財船が沿岸を滑るように駆けていく。湊には多くの荷を捌く倉が並び、無数の人足が運ばれてきた荷に群がっている。この湊には明国のみならず琉球・アンナンなどアジア諸国、そして朝鮮からの荷も運ばれている。
 海外との通商で潤う博多湊と街は他国の大名に狙われ、何度も戦火に見舞われてきた。その度に猛将立花道雪は軍を率いて立花城を下り、博多の街と湊を守ってきた。
 
 玄界灘を見渡す立花城西に位置する西御殿の台所では、立花道雪跡目相続お披露目の準備が進められている。吉日に合わせ、博多商人からは彩り豊かな海の幸や酒が、平和な治世と日頃の慈しみを感謝する庄屋と農民からは山の幸や畑の野菜が山のように届けられている。この旬の食材を立花城の女中と下女など女衆全員で、大騒ぎで調理している。
 かまどの大釜では米が焚かれ、五島列島で釣られた石鯛が炭火で炙られ、淡く香ばしい香りが台所に満ちている。博多沖で獲れたあじやかつおも次々さばかれ、季節のたけのこやぜんまいなどの山の幸と一緒に、小皿に彩り鮮やかに盛りつけられていく。
 今日は招待された客や重臣を含めると50人の大宴会である。
 一の膳から五の膳まで並ぶ贅を尽くした祝い膳の準備に皆てんてこ舞いとなっている。
「まもなく、誾千代姫様お披露目のお時間でございます!用意を急ぎますぞ。」
 大ぶりな体つきの女中頭の静が大声で皆を急かしたが、一人の女中がふいに静に尋ねた。
「ところで誾千代姫様はおいくつでございましたか?」
「そんなことも知らないでおったのか。7歳でございます。」
「なんと、まだ7歳でご立派な・・・・、さすがは道雪様の一人娘でございます。」
「うむ。」
 女中頭の静は皆に聞こえるよう大声を張り上げた。
「皆の者、本日より誾千代姫様は立花城主、今までのように気安く声などかけてはならぬ。お会いしたら、まずは深く辞儀をせねばならぬ。さあ、皆急ぎますぞ。」
「はい。」
 
 本日、古今稀な女城主がここ立花城に誕生する。女衆は皆自分の事のように誇り、歓んでいる。今まで女衆皆が可愛がってきた姫君が家督を譲り受け、立花城城主になる。
“わが姫君が女城主。”
 そう思うと皆自然と顔は綻び、心晴れやかになってくる。

 その頃、誾千代姫は愛馬の雷斬に鞭を入れ、朝露に濡れた筑紫野を弾むように疾走している。その雷斬を必死な様で追走するのが、父立花道雪が全幅の信頼を寄せる49歳の一番家老由布雪下である。白髪交じりとなった頭には汗がべったり張り付いている。
 由布雪下は疾走する馬を巧みに操りながら、誾千代姫に声を張り上げた。
「姫、そろそろ戻りませぬと。」
「爺は先に戻るがよい。」
 誾千代姫は雷斬の手綱を絞り、馬を止めた。
「なりませぬ。今日ばかりはなりませぬ。姫の跡目相続お披露目のお客様がそろそろいらっしゃいます。」
「爺は心配性であるな。ほれ、あそこに見えるのが岩屋城の高橋紹運様と元服したばかりの統虎であろう。あれではまだ半刻はかかる。」
 誾千代姫が指さした竹林の中を恰幅の良い武者と若武者が馬に跨って進む姿が見え隠れしている。
「確かにあれは高橋様、しかし、姫、色々準備がございます。何卒お戻り下さい。」
 由布雪下の必死の願いを聞き入れ、誾千代姫は愛馬雷斬と立花城へ戻っていった。
 
 立花城大手門には立花道雪が信用するもう一人の家老小野和泉が手を組みながら、誾千代姫の帰りを待っている。
「誾千代姫様、今日ばかりは朝駆けはなりませぬと申しておりましたのに。」
 誾千代姫は愛馬雷斬の手綱を引っ張って、雷斬の歩みを止めた。雷斬のたてがみを撫でながら、小野和泉をまっすぐ見据えた。
「小野殿、今日が私にとって最後の気ままな朝駆け・・・・雷斬と一緒に遠駆けをしたかったのです。」
 誾千代姫の後ろに控える由布雪下が頭を下げる姿を見て、小野和泉は体を翻した。
「わかりました。・・・ではまもなくお披露目故、お急ぎください。」
「はい。」

 厩舎を出た誾千代姫を待ち受けていたのは、女中頭の静と侍女2人である。
「姫様、お待ちしておりました。宴の準備はあと姫様のみ、さあ急ぎましょう。」
 一番奥の衣装部屋に入ると、静は侍女と一緒に誾千代姫の馬乗袴と上衣を脱がせ、誾千代姫は一糸まとわぬ裸身となった。
 もう一人の侍女が朝鮮から手に入れた上等な綿の手拭で誾千代姫の身体を丁寧に拭き、下着の小袖を羽織らせる。
今日のお披露目で用意されている小袖と打掛は博多の豪商島井宗室からの献上品で、絢爛豪華な絹織である。淡い桜色に染めた小袖と艶やかなえんじ色の打掛の着付けを終えると、誾千代姫は女城主に相応しい気高く美しい姿へ昇華した。
 
 静には、誾千代姫の覚悟がひしひし伝わってきている。その思いが眩くもはかない美しさとなっている。見とれる静に誾千代姫がささやいた。
「静、今日から私は立花城主になりますが、静だけは今まで通りにしてくれますか。」
 誾千代姫は強い眼で静を見つめた。
「姫様、なりませぬ。立花城主は立花家の棟梁、侍衆の棟梁となる姫様に今まで通りなど・・・絶対にありえませぬ。」
 かぶりを振る静に、誾千代姫は言葉を重ねた。
「静、私の母は私を産んですぐに出家しました。私が頼れるのは昔から静だけ。今まで通り、静にだけは何でもお話ししたいのです。」
 誾千代姫の母仁志姫は前夫との子亀菊丸と政千代を連れて、立花道雪と再婚をした。仁志姫はすぐ誾千代姫を産んだが、連れ子の亀菊丸が12歳の若さで病死すると悲嘆に暮れ、誰にも相談せずに出家してしまった。
 誾千代姫の辛く悲しい過去である。
 出家した母に代り、乳飲み子の時より誾千代姫を世話してきたのが女中頭の静である。
 
 誾千代姫は静に深く頭を下げている。少し間をおいて、静は答えた。
「分りました。姫様のお部屋だけでございます。」
 静の答えに誾千代姫は素直に“きゃっ”と喜んだ。心根はまだまだ7歳の娘である。
 まもなく始まるお披露目の為、静と侍女達は誾千代姫の髪結いを始めた。
 
 既にお披露目に立ち会う招待客は全員到着し、大広間の左右に控えている。招待客は近隣の国侍衆、そして立花道雪から岩屋城と宝満城を託された高橋紹運とその長男統虎である。
 ほどなく大広間の襖が開き、猛者4人が担ぐ輿が現れた。輿の上には黒衣に略袈裟をまとった坊主頭の立花道雪が、眼光鋭く大広間の出席者を見回している。
 
 この立花道雪、五体満足な男ではない。
 元服して間もない蒸し暑いお昼時、大木の下で昼寝していたときのことである。真っ青の空が急に黒雲で覆われ、大粒の雨が降りはじめると、ごろごろと遠くの空で雷が鳴りはじめた。立花道雪は愛刀の千鳥を持って身構えた。
 道雪はいつか己の剣で雷を斬ってみたいと思っていたが、今日は雷を斬れるかもと直感したのだ。道雪は心気を練り、整息して約半刻、閃光が自らの眼前に迫った刹那、道雪は光の束に“きぇー。”と渾身の抜打ちを浴びせかけた。
 すると“どーん”という雷の衝撃が身体を駆け巡り、道雪の意識は完全に吹き飛んでしまった。
 半刻後、目覚めた道雪に下半身の意識は無い。雷が直撃したことで道雪の足は完全に動かなくなった。
 
 それより、下半身が不自由となった道雪であるが、気持ちの萎えを一切他人に見せることはなかった。兵書を読み漁り、気魂を練り、徹底的に上半身を鍛え上げた。家臣たちは皆、道雪の一心不乱な姿に忠誠心を紡いでいった。
 
 合戦では自らが乗る輿を半裸片袖の屈強な近習8人に担がせ、周りは剣技と弓矢に秀でた近侍10名で囲んだ。
 道雪が軍扇を敵陣へかざすと、道雪の輿は無言で敵陣へ一気に寄せていく。敵陣へ一直線に進む道雪の輿を守ろうと、味方は敵陣へと突進する。道雪の家臣たちが怖れるのは道雪を喪うこと、それ故自分の命を危険に晒すことに何のためらいも無い。
 敵は立花家の祇園守紋の幟を見ると、その鬼神のような強さを怖れ、逃げ出すように下がっていく。
 
 威風堂々の立花道雪が上座へ座り、大広間に静寂が満ちた。
 そして、道雪の主家大友宗麟名代を務める田原親賢が、肩を切ってふくよかな体を揺らし、道雪の横に座った。九州一の大名、大友宗麟寵臣という自負心が傲慢な表情に見え隠れしている。最後に下座の襖が開かれ、現れたのが誾千代姫である。
 清雅な顔立ちに決意を秘めた強いまなざし、美しく艶やかな衣装に皆が息をのんだ。
 誾千代姫は上座に座る父道雪の姿を見据えながらゆっくり進んでいく。誰も寄せ付けぬ高潔な姿に招待客は固唾を飲んでいる。
「これより立花城城主、立花道雪の跡目相続お披露目の儀を始めさせて頂きます。」
 道雪の家老由布雪下と小野和泉が口上を述べ、儀式が始まった。皆が見守る中、粛々と跡目相続の話が進められていく。そして最後に披露されたのが、道雪から誾千代姫に禅譲される内容である。
“立花城及び立花城城主、立花城領地、蔵及び大鉄砲、槍、米、具足、兜諸道具全てを誾千代に譲り候。”
 由布雪下に読み上げられた書状が誾千代姫に手渡された。上座で見守っていた立花道雪が招待客に向かって、ゆっくり口を開いた。
「これより、私は隠居、どうか新しい立花家当主誾千代を宜しくお願いいたします。」
 道雪と誾千代姫が深々と頭を下げ、跡目相続お披露目が終わった。
 
 後は皆が待ち望んでいた宴である。襖が開き、静を筆頭に女衆が祝い膳を運んできた。すると招待客から一斉に歓声が上がった。道雪の一番家老由布雪下は大声を張り上げた。
「さあ、はよう、祝い酒を振る舞ってくれ。」
 女衆が腕を振るった豪華な祝い膳に、博多の豪商島井宗室から届けられた希少な博多練酒“博多練貫”も招待客に振る舞われた。
「それ、博多練酒でございます。御存分にお飲み下され。」
「やあ、これは豪気な。この透き通った練酒は島井の練貫でございますな。いつも飲んでいる白く濁った酢のような酒とは流石違います。・・・・・・いやー、沁みる。」
 九州の男は酒をこよなく愛し、痛飲する。立花家中も招待客も女城主誾千代姫を慶び、座はどんどん盛り上がっていく。由布雪下が得意の長唄を披露する頃には大広間の宴は大変な騒ぎとなっていた。

 大賑わいとなった宴の中、高橋紹運の息子9歳の高橋統虎は祝い膳の鮎を手に取ると、頭からばりばりと食らいついた。
 1年前、統虎は立花城へ父紹運の使いで来たことがある。その時、立花道雪らと一緒に夕餉を食べたが、統虎は道雪に一喝された。
“統虎殿、お主は男であろう。たかが鮎を食うのに箸を使って、骨を取るなど愚かな・・・。男ならば、頭から鮎を食べるのだ。骨など残すでない。”
 それ以来、統虎は鮎を丸ごと頭から食べるようにしている。ふと統虎が視線を感じ、顔を向けると上座の立花道雪と眼が合った。鮎を頭から食べる統虎を見て、道雪は統虎に笑顔を見せている。昨年落ち込んだ気持ちを全て救ってくれるような笑顔であった。
 
 宴が始まって2刻後、立花道雪と誾千代姫は大広間を後にした。だが、大騒ぎの宴は終わる気配がない。高橋紹運は立花道雪の家老小野和泉の案内で統虎と一緒に立花城見張り台へ上がった。
「統虎、分るか。あの山の先に我が岩屋城、宝満城がある。」
「はい、父上。」
「ここ立花城、そして岩屋城と宝満城で筑前国と博多を守るのだ。」
「はい。」
 立花城見張り台からは、赤くにじむ太陽が玄界灘と空を真っ赤に染めながら沈む様が見える。燃えるような西日を受けた博多の街や山はゆっくりゆっくりと闇に沈んでいく。高橋統虎は立花道雪から受けた大恩を改めて噛みしめている。立花道雪は合戦で奮闘した高橋統虎を高く評価し、主君大友宗麟から高橋統虎を譲り受け、岩屋城と宝満城を任せている。
 それ以来、高橋紹運は立花道雪を師父と思い、忠誠を尽くしている。夜が迫っている。大広間には菜種油の灯明皿と和ろうそくが並べられ、宴の喧騒は更に激しくなっていった。
 これより夜明けまで宴は続いく。

 翌日から、誾千代姫の朝駆けには近習2人が馬で併走するようになった。以前の気ままな朝駆けから、少しずつ窮屈な毎日になっていく。農民たちは馬上の誾千代姫を見かけると道の傍らに退き、頭を地面にこすり付けるになった。今まで親しく話しかけてきた侍女も下女たちも、一歩下がって仕えている。
 誾千代姫が話をするのは、男衆ではもっぱら父と家老の由布雪下・小野和泉、女衆は女中頭の静のみとなっている。
 立花城主になってから1カ月、父立花道雪は寂しい表情を垣間見せるようになった誾千代姫を自室に呼びよせた。
「誾千代、立花城主はいかがか。」
「父上、城主は何か心寂しいものでございます。」
「誾千代・・・・わしに世継ぎが生まれなかったばかりに・・・・誾千代には普通の娘と違う道を歩ませておる。」
 誾千代姫もそんな父の物憂げな顔が堪らない。
「父上、私は城主を継いだことを悔いてはいませぬ。皆の態度が変わったことを寂しく思っているだけです。」
「そうか・・・悔いてはおらぬのだな。」
「はい。父上・・・必ず立花家棟梁に相応しい城主になります。泣き言は言いませぬ。」
 だが、7歳の誾千代姫にとって、立花城城主の重責は圧倒的な重さである。何せ、父道雪は九州一の猛将、そして信義溢れる仁将である。多くの武将が父を慕い、命を預けている。城下には父の仁政を慕う多くの農民がおり、博多には武力を頼む商人が沢山いる。
 その全ての命と行く末を背負って生きる覚悟を誾千代姫は持たねばならなかった。

 城主となった誾千代姫は子供の時より嗜んできた香道などの女手習いを一切止めた。書や漢文の修練に時間を割き、武芸では薙刀の稽古に励んだ。昔は多くの僧兵が薙刀を操っていたが、最近では足軽などが持つ槍が主流になっている。だが、合戦になると多くの兵が薙刀の動きと速さについていけない。首や足首、手首などの急所に致命傷を与える武具となっている。
 誾千代姫は毎日の朝駆けの後、薙刀の名手女中頭の静に稽古の指南を受けている。非力で小さな誾千代姫は身幅が広く反りの大きい長さ3尺の“巴型”の薙刀を振らされている。
「えい、えい。」
「姫様、もっと刃先を半円のように薙いで下さい。手首を返すようにでございます。」
 静の言葉通りに誾千代姫は薙刀を操る。
「そうでございます。姫様、薙刀は力ではございませぬ。一太刀に全てを注ぐ剣とは違います。自在に操ることが肝要でございます。」
「しかし、男は力攻めしてきます。」
「男には力で敵いませぬ。ですが、薙刀を極めれば、相手の力や動きを利用し、僅かな力で相手の急所を狙うことが出来ます。姫様、この稽古を続ければ必ずや男を倒せるようになります。」
「静、もっと教えてください。」
 名手静の薙刀は突いたり、払ったり、生き物のように旋回し躍動する。誾千代姫は必死に薙刀の術を学んだ。健気に稽古に励む誾千代姫の姿に、道雪を棟梁と仰いできた国人衆も続々心服していく。何せ幼き7歳の女城主である。
家臣皆がこの誾千代姫を支えねばならぬと思うようになっていった。

 ある日、由布雪下と小野和泉は連れ立って、誾千代姫の朝稽古を覗いた。誾千代姫はそんな2人に気付かず、静の教え通り必死に薙刀を操っている。
「小野殿、誾千代姫様はやはり道雪様の娘であるな。筋が良い。」
「由布殿がそう言われるのであれば、そうであろう。」
「実はこの前、姫様に対戦をお願いした。」
「由布殿は立花家棟梁と戦ったのか。」
 気色を上げる小野和泉を由布雪下は懸命になだめた。
「いやいや、わしは無腰。どの程度かとお手合わせしたが、早いし上手い。もう少しで足首を斬られるところであった。」
「由布殿に限ってそのようなことはなかろう。しかし、姫様の腕が上がっておるのは何よりもうれしい。」
「うむ、これよりさらに伸びていくであろう。しかし、姫様は本当によくやっておられる。・・・・私は道雪様と姫様の為なら命は惜しくない。」
 武骨な由布雪下の顔に涙がにじんでいる。
「由布殿、わたしも同じ気持ち。何時でもお二人の為に命を差し出す覚悟である。」
 
 立花家への忠節を誓う小野和泉であるが、もともとは大友宗麟の家臣であった。
 5年前、大友軍軍目付として立花軍に仕わされたのが縁の始まりである。由布雪下は小野和泉の戦を見通す眼力や所作振る舞い、そして朝稽古で二間の長槍を自在に操る姿にすっかり感心した。
「殿、お願いがございます。」
 由布雪下は立花道雪へ小野和泉を推挙する考えである。
「雪下がお願いか・・・珍しいことであるな。」
「殿は主君大友家を援ける為、ここ博多の地を守り抜くお考えであると思います。」
「大友家の為に私は戦っている。其の為に強くならねばならぬ。」
「我が軍を強くする為、是非小野和泉殿を家臣としてお迎えください。」
「うむ、雪下と気持ちは同じ・・・、だが家臣に加えることは出来ぬ。」
 由布雪下は臆することなく、思ったことを主君に直言する。
「殿、どうしてでございますか?・・・・さては小野殿が大友家軍目付であるからでございますか?何時から、殿は主君の機嫌などを気にするようになられたのですか?」
「雪下、そうではない。・・・・知行に充てる土地がないのだ。」
 主君の言葉に由布雪下は破顔した。
「殿、そのような事は心配御無用。私の知行千五百石から五百石、殿が五百石ひねり出せば、私も小野殿も同じ千石でございます。」
「・・・雪下・・・かたじけない。早速、宗麟様に直談判して参る。」
 立花道雪はすぐに主君大友宗麟に願い出て、小野和泉をもらい受けた。

 小野和泉はこの話を聞き、一生立花家を支えようと心に誓った。
 更に小野和泉が立花家への忠節を誓う出来事があった。
 由布雪下は、道雪に小野和泉が家老になれるかどうか自分以外の家臣で札入れをして欲しいと進言した。
 その札入れを道雪が承諾すると、由布雪下は皆に札入れをお願いして回り、小野和泉は何の手柄も上げぬまま、立花家家老になったのだ。
 
 小野和泉は生涯で22の大きな合戦と無数の戦に出陣している。道雪への激しい忠誠心で小野和泉は合戦で鬼と化す。67か所の傷、5つの鉄砲傷、7つの槍傷を負い、大友家・立花家から68通もの感状を受け取っている。
 同じく由布雪下も戦場の傷は65か所、感状は70通、一番乗り、一番槍、一番首は数が知れなかった。由布雪下と小野和泉、この2人の勇将が立花軍の強さの象徴となっている。
 
 ある合戦で道雪はこの2人を本陣に呼んだ。
「雪下、和泉、必殺の陣を教えよう。」
 呼ばれた2人は顔を見合わせた。
「殿、そのような陣があるのでございましたら、是非お教え下さい。」
「まずは相手を見定め、戦の仕様を決める。さすれば、我が軍に負けは無い。」
「今まで通りでございます。」
 由布雪下が無愛想な顔で応える。
「そして、軍を分け、一軍は相手の陣に向け、定法通りの仕掛けをする。もう一軍は鉄砲や夜襲を仕掛ける。2つの軍の大将は雪下と和泉である。」
「それも、今まで通りでございます。」
 由布雪下は再び応えた。
「最後まで聞くがよい。毎日指揮を入れ替わるがよい。さすれば、毎日戦の仕様が変わる。」
「あー、相手は堪らぬでしょうな。我ら2人が競い合います故・・・。」
 由布雪下も小野和泉も合点がいった。
「はっ、はっ、はっ、そうであろう。良い思案であろう。」
「殿も人が悪い。」
 この後、立花軍は敵の正面に陣取る正軍、奇襲や後方を攪乱する奇軍を由布雪下と小野和泉が1日毎に交代で率いることになった。縦横無尽に攻める立花軍に敵は憔悴し、崩壊していく。
 こうして、立花道雪の武名は更に上がっていった。

 この頃、筑前・筑後・肥前・肥後・豊前・豊後・日向・大隈・薩摩、これら九つの国をまとめて“九州”と皆が呼ぶようになってきた。 鎌倉幕府・室町幕府の威権も届かない“九州”であるが、海外との交易は盛んで、国内で唯一朝鮮との交易が行われている。
 朝鮮との通商には朝鮮国王から貿易を認められた図書(銅印)が必要であるが、朝鮮国王は頻発する倭寇に困り、その取り締まりを西日本の有力大名大内氏・少弐氏・大友氏の3人に頼み、その対価として通商の図書を渡した。だが、大内氏は毛利元就に、少弐氏は龍造寺孝信に滅ぼされてしまった。残るは立花道雪の主君大友宗麟のみとなっている。
 博多の豪商たちは唯一の図書を持つ大友宗麟の支配を望み、所司代を受け入れ、多額の税と地子銭を納めてきた。
そして、この朝鮮国王の図書を使い、大友宗麟の御用商人島井宗室など博多商人は大友家領国で造られる樟脳や銅・銀、硫黄、扇子、屏風、蒔絵、筑前で作られる筑前左文字刀などの刀剣などを朝鮮に輸出した。朝鮮からは、綿布・朝鮮人参・虎皮・茶道具の高麗茶碗などを日本に持ち込み、大いに儲けてきた。

 博多の繁栄で潤う九州一の大名大友宗麟を窺うのが少弐氏を倒し、実質的に大友氏に代わって肥前を差配するようになった“肥前の熊”龍造寺隆信と薩摩・大隅から北上を狙う島津義久である。
 この暗闘に加わってきたのが、中国地方を制した毛利元就である。もう15年も前から北九州へ侵攻し、博多を狙っている。このとき、毛利氏に内応したのが筑前の秋月種実や大友宗麟の家臣高橋鑑種などである。
 大友家の猛将立花道雪は毛利の大軍相手に奮戦し、主君を裏切った高橋鑑種を倒し、立花城と岩屋城と宝満城を落城させ、博多を奪還した。この戦功を機に、立花道雪が立花城・岩屋城・宝満城を差配することとなった。
 
 この戦で立花道雪とともに奮戦したのが吉弘鎮理(高橋紹運)である。吉弘鎮理は大友家の政治・外交・軍事を司る加判衆6人のうちの一人吉弘鑑理の次男である。若い時から落ち着きがあり、度量が広いと専ら評判の若武者であった。
“吉弘鎮理様は幼いのに相当な人物でございます。沈思黙考する姿は禅僧の様でございますし、弓も相当に腕が立つそうでございます。”
“あのようなお方が将来の大友家を支えるのでございましょう。”
 大友家の国侍たちは吉弘鎮理の器量と篤実さを信じ、そのように噂した。そして、大友家の将来を支える吉弘鎮理が誰と婚儀を結ぶかが、国侍たち皆の関心事となった。
“吉弘鎮理様の婚儀のお相手が決まったそうじゃ。”
“誰じゃ、はよ教えよ。”
“侍大将斉藤鎮実の妹宗雲じゃ。”
“あー、そうであるか。あの美しき黒髪の・・・。皆の憧れの姫ではないか・・。”
 吉弘鎮理は宗雲の容色よりも温和な人柄に惹かれ、この婚姻を承諾した。だが、九州に出陣してきた毛利軍との戦が長引き、約束した婚儀の日までに戦が終わりそうにない。吉弘鎮理は侍大将斉藤鎮実がいる陣地を訪れ、婚儀の延期を申し入れることとした。
「斉藤様、申し訳ございませぬ。未だ毛利軍は門司に留まっている故、婚儀を行うことができませぬ。婚儀を伸ばそうと思っております。何卒、お許しを。」
 すると宗雲の兄斉藤鎮実は苦渋に満ちた表情で平伏した。
「吉弘様、申し訳ございませぬ。妹との婚儀を白紙にして頂くことはなりませんか?」
 いつも温和な吉弘鎮理もこの返事には気色ばんだ。
「何故でございますか。婚儀を伸ばすと言ったからでございますか。」
「いえ、そのようなことではございません。」
 斉藤鎮実は大きな体を必死に畳んで、頭を土にこすりつけた。
「では、どうしてでございますか。こればかりは合点がゆきませぬ。将来の伴侶として、自らを支えて頂きたいと思っておりましたのに。」
 吉弘鎮理は声を荒げ、斉藤鎮実に詰め寄った。
「・・・実は妹は1カ月前に痘瘡に罹ってしまいました。命は取り留めましたが・・・・。」
 この時代、天然痘は多くの人の命を奪う伝染病であった。命を取り留めても、顔と体中はいぼだらけとなり、容貌は一変してしまう。実際、妹の顔はあばただらけで面影がないほどに変わってしまった。
「すると、お顔が変わったからと言うことでございますかな。斉藤様。」
「吉弘様、お察しください。もう以前の妹宗雲ではございませぬ。とても嫁には出せませぬ。」
 平伏を続ける斉藤鎮実に、吉弘鎮理は優しい言葉を掛けた。
「これは思いも寄らぬ言葉を聞くものです。斉藤様、どうぞお顔をお上げください。斉藤家は武勇の誉れ高き武人の家でございます。その家と縁を持ちたいと思い、婚儀を了承したのでございます。そして、私が妹様に惹かれたのは心根であって容色ではございません。病気で心根は変わりませぬ。」
「ああ、吉弘様。それでは・・。」
「はい。痘瘡ごときで、どうして武士の約束を違える事ができましょうか。」
 この話は大友家中に広まり、ますます吉弘鎮理の評判は高まった。また、吉弘鎮理の見立て通り、嫁に迎えた宗雲の優しい心根に皆が惹かれ、母の如く慕うようになっていった。そして、吉弘鎮理は息子の統虎を授かった。
 
 その2年後の永禄12年(1569)、主家の大友宗麟と立花道雪に呼ばれ、吉弘鎮理は宗麟の居城臼杵城に出向いた。
「鎮理殿、よう参った。」
 大友宗麟は宗雲との婚儀で男を上げた吉弘鎮理の顔を見つめ、微笑んでいる。立花道雪は主君に代って、話を進めた。
「毛利氏との戦はご苦労であった。我が軍の中でも特に鎮理殿の軍は奮っておったな。礼を言う。」
 大友家の軍神と崇められる57歳の立花道雪から、直々に戦を褒められるのは誠に名誉なことである。このとき、まだ23歳の吉弘鎮理はただただ平伏することしかできなかった。
「鎮理殿、頭を上げよ。我が軍を裏切った高橋鑑種を倒し、立花城と岩屋城と宝満城を手にしたのは覚えていよう。」
「はい。」
「鎮理殿には高橋の名を継いでもらい、岩屋城と宝満城を任せようと思っておる。」
 思いもかけぬ話に吉弘鎮理は顔を紅潮させた。そして、一瞬間を置いて、道雪に尋ねた。
「道雪様、思いもかけぬお言葉でございます。一つお教え頂いても宜しいでしょうか?」
「よい、申せ。」
「立花城はどうなるのでしょうか?」
「さすがは鎮理殿、そこはやはり気になるであろう。だが、大丈夫。私が立花城へ入るつもりである。」
「ああ、それはこの上ない頼もしき事でございます。道雪様、戦のみならず万事にわたり、御指南ください。」
 平伏する姿に道雪は更に声を掛けた。
「もともと、そのつもりである。お主は見どころがある故、是非にと殿にお願いした。将来はお主が大友家を支えるつもりで仕えるのだ。」
「はい。よろしくお願いします。」
 これを機に吉弘鎮理は、道雪に倣って頭を丸め、高橋紹運と名乗るようになった。

高橋紹運はすぐ眼前に大宰府天満宮を望む岩屋城に入城し、立花道雪の訪問を待った。この岩屋城は遥か昔、朝鮮から渡ってきた百済人が縄張りをして、大宰府を守る為に四
王寺山(410m)の中腹に築いた城である。
 そして、この山城を守る為に山の麓には高さ5間の堤と深さ2間の濠が掘られたが、今は土手となって残っている。
 その土手を越えて、祇園守紋を掲げる立花道雪一行が岩屋城を目指して進んでくるのが見えた。
 高橋紹運は岩屋城三の丸で立花道雪の到着を待った。
「道雪様、わざわざのお越し痛み入ります。」
「うむ、一度この筑前を如何に治めるか、紹運殿とゆっくり話をしたかった。」
 立花道雪は輿に担がれ、高橋紹運は歩いて、岩屋城本丸に辿りついた。
 眼下に大宰府と筑紫野の山々が拡がって見える。
「紹運殿、目の前の宝満城は如何であった。」
 岩屋城の本丸からは大宰府天満宮を見下ろすことができる。
 その大宰府天満宮の背後から連なる急峻な宝満山に建てられたのが宝満城である。
 岩屋城と宝満城はまさしく双子城のように大宰府を見下ろしている。
「はい、さすがは行者が開いた修行の為の霊山でございます。山は険しく、岩場ばかりで山道は急勾配でございます。出入りは南の城門からしか出来ませぬ故、敵が攻めるにはなかなか難儀な城かと思います。」
「そうであろう。南を閉じれば、敵は攻めるのが難しくなる。それでは、この岩屋城は如何じゃ。」
「はい、宝満城より多くの工夫を施さねばなりませぬ。これよりの戦は鉄砲で決まります。城を攻める敵を鉄砲で狙いやすくすることが肝要でございます。また、敵を登りにくくするよう、工夫せねばなりませぬ。」
「よろしい。紹運殿、それでは良いことをお教えしよう。」
 道雪は輿を担ぐ近習の足袋を持ってこさせた。
「これが今日わしを担いでくれた男の足袋である。これで分ることがあるであろう。」
ここ数日天気は良く地面は乾いているが、足袋の裏側は小さな砂でひどく汚れていた。
「道雪様、全く気付きませんでした。この山は滑りやすいのでございますね。」
 道雪が諭したのはこの山を覆う花崗岩は粗く、また雨水に弱く、すぐ砂に砕けて滑りやすくなるということである。
「少しでも雨が降れば、敵は登りにくくなる。登り口に雨が流れるようにすれば、盤石であるな。」
 高橋紹運の気づかぬ視点で、道雪は戦の理を教えた。
 
 立花道雪は雷に打たれ半身不随になってから、人の助けを借りなければ、日常生活もままならない。それ故、身の回りの世話をして輿をかつぐ近習や近侍たちへの気遣い、農民に対しての心配りは優しさに溢れている。
 ある日、高橋紹運が合戦の相談で立花城に行った時の話である。話がすっかり長引き、日も暮れて2人の前に夕食の膳が用意され始めると、一人の近侍が誤って、高橋紹運の膳をひっくり返してしまった。
 道雪の近侍はすぐさま頭を畳にこすりつけた。同席していた道雪も紹運にすぐ頭を下げた。
「紹運殿、私の家臣が不調法ですまなかった。」
「ご心配なさらずに。」
「紹運殿、この男、常日頃より戦の稽古ばかりしておる。だから、こういった席に慣れぬ。只、戦に出れば、鍛えぬいた腕で相手を倒し、我が軍を勝利に導く大事な男である。我が軍の宝故、ご容赦下され。」
「道雪様、私は全く気にしておりません。さあ、顔を上げるがよい。」
 面目を施す道雪の言葉に近侍は瞳が潤んでいる。
「これは強き武士の面構えでございますな。このような武士に食事の用意をさせたのは、私が長居したせいでございます。申し訳なかった。」
 高橋紹運も兵を愛する男である。このように立花道雪は自分の家臣の失敗を一切怒ることをしなかった。こうして救われた近習やそれを伝え聞いた同輩達は、道雪の勝利の為に命を削って戦うのだ。
 
 また、道雪は合戦に勝つ為の準備を怠らなかった。博多商人が道雪に南蛮からの鉄砲を試し打ちで披露した時がある。道雪は、弓矢の間合いの遥か遠くから敵を倒すこの武具がこれからの合戦を左右するであろうと一瞬で理解した。道雪は少しずつ高価な鉄砲を買い集め、家臣には刀や槍の稽古と同じように鉄砲の修練を徹底させた。
 そして、今では千挺余りを有する鉄砲隊となっている。道雪自慢の鉄砲隊が武名を挙げた合戦がある。
 
 6年前の永禄12年(1569)、交易で潤う博多を狙った毛利軍4万と大友軍3万5千が雌雄を決した多々良川の戦いがあった。この合戦で毛利軍最強の小早川隆景は立花軍の猛攻に苦しめられた。屈強な近習に担がれた立花道雪の輿、そしてその輿を囲む騎馬隊と長槍隊は道雪の采配に従い、毛利勢へ躊躇なく突っ込んでいく。
 その突撃を支えたのが、8百挺の鉄砲を有する道雪秘蔵の鉄砲隊である。この鉄砲隊の猛射が毛利軍の攻めを凌ぎ、九州から毛利軍を退かせる大きな力となった。翌年の姉川合戦で使用された織田軍の鉄砲が5百挺であることからすると、一大名の家臣としていかに多くの鉄砲を持っていたのかが分る。
 
 この立花軍の強さを一番肌で感じていたのが、高橋紹運率いる高橋軍である。君臣一体となった激しい攻めは高橋軍の良い見本となっていた。弓や槍はもちろんのこと、自慢の鉄砲隊で敵を圧倒する姿を何度も見てきている。
 それで岩屋城と宝満城の家臣たちは立花家に倣い、鉄砲の稽古に時間を割いた。龍造寺氏・島津氏が侵攻して来れば、この岩屋城と宝満城、そして立花城との連携で大軍を食い止めなければならない。高橋紹運は鉄砲の稽古場で足軽たちに腕を競わせ、鉄砲稽古の後には槍や剣などを修練させた。
 高橋紹運の跡継ぎ統虎も家中で一番の弓の腕を持つ世戸口十兵衛から、毎日弓と剣の手ほどきを受けている。統虎は身体とほぼ同じ長さの長弓を引き、近くの巻藁を狙っている。もう2年ほどこの稽古を続けているが、既に百発百中の腕となっている。
「統虎様、射形は固まりました故、遠くの的を射てみましょう。」
「はい、宜しくお願いします。」
 高橋統虎にとって初めての遠くの的である。見本となる世戸口十兵衛の構えを食い入るように見つめた。十兵衛はすっと流れるような所作で足を拡げ、弓と頭が一直線になった状態から左手で弓を前に突きだし、右手で弦を引っ張った。
 一瞬の静寂の後、矢は放たれ的の真ん中に命中した。十兵衛は5本の矢を次々と放ったが、全て的の真ん中に吸い込まれていった。
「統虎様、まずは今までの形のまま射ることが大事でございます。さすれば、いずれ的に当たります。」
 緊張した統虎であったが、初めてでは珍しく10本中6本の矢が的に突き刺さった。
「いかがであったか。十兵衛。」
 統虎は誇らしげに語ったが、十兵衛はかぶりを振った。
「統虎様、何本当たったかなどは、今はどうでも良いことでございます。そのお心がお見苦しい。」
「・・・そうでありますか。」
「はい、今まで、統虎様には弓を射る形を教えて参りましたが、これよりは心を教えて参ります。弓は心でございます。弓を放った後の心が、残心でございます。」
「残心でございますか。」
「はい、弓を放った後に当ったかどうかなどと心煩わしてはなりませぬ。ただ、弓を射ることだけに専心すればよいのです。的を狙ってなどなりませぬ。」
「的を狙わねば、当らぬではないですか?」
「お心が良ければ、的は当たります。そういうものでございます。さあ、次はまた5本参りましょう。」
 難解な十兵衛の教えであるが、統虎はいかなる時も心に波立てぬよう稽古を続けた。刀の修練も同様である。剣を振り己の剣を磨いたが、心乱れぬよう常に心を練った。毎日、その心がけで修練に励んでいると、日頃の振る舞いも大人びてくる。父高橋紹運の若い時と同じように、“貫禄があるお世継ぎ“と皆に噂されるようになっていった。
 
 1581年(天正9年)、高橋統虎は15歳と思えぬほどの貫禄が身についている。この統虎の姿に将器を見出したのが道雪お気に入りの勇将薦野三河である。薦野三河は“誾千代姫の婿に”と道雪に強く薦めている。
 誾千代姫が生まれる前のことであるが、道雪は子宝に恵まれず、この薦野三河に名跡を譲ろうと考えたことがある。妻・仁志姫の連れ子・政千代姫を娶らせようとしたが、薦野三河は“何卒、御一族からお世継ぎをお選び下さい。”と固持した。その後、政千代姫が12歳の若さで夭折し、その話は消えてしまったが、それ以来薦野三河は立花家の跡継ぎを懸命に捜した。
 色々な人物を見たが、高橋紹運の長男統虎しかいないと考えている。道雪は最初聞く耳を持たなかった。
“鮎の小骨を箸でとっていた跡取りであろう。”
 だが、熱心に統虎を薦める薦野三河の言葉に一度器量を試してみようと考え、高橋紹運に手紙を送った。
“統虎殿の男試しをして進ぜよう。明後日、立花城で待っている。”
 道雪直々の誘いは断れない。高橋紹運は承諾し、世戸口十兵衛と統虎を立花城へ向かわせた。
 
 鰯雲が秋空いっぱいに広がっている。実り多い田畑が広がる筑紫平野を2人は急いでいる。
「統虎様、今日の御用件は聞いておいでですか?」
「いや、男試しとしか聞いておらぬ。」
 見当が全くつかぬまま、立花山手前あたりまで来ると、誾千代姫が近習2名を連れて、田畑を見回りしているのが見えた。
 
 端正な顔立ちの誾千代姫は女城主としての貫禄が備わり始めている。ょうど秋の刈入れ時期、誾千代姫の進むあぜ道には多くの農民たちが平伏している。その中を颯爽と馬に跨りながら進む誾千代姫の姿に高橋統虎は少し嫌悪を抱いた。統虎の一番身近な女性は母宗雲である。疱瘡で顔中がいぼだらけの醜い容貌であるが、優しく包み込むように育ててくれた母が女性の理想像である。
 統虎からすると、居丈高で貫禄を見せつけて進む誾千代姫の騎乗姿はあまり気持ちいいものではない。だが、立花城城主誾千代姫の姿を見かけたからには、挨拶せねばならない。高橋統虎と世戸口十兵衛は馬から降り、誾千代姫が寄ってくるのを待った。
 
 誾千代姫を乗せた馬が少しずつ近づき、高橋統虎の前で止まった。
「その方、高橋統虎であろう。」
「はい、御無沙汰しております。」
「よう、参った。今日は弓の腕前を見せてくれるそうであるな。楽しみにしておる。」
「はっ。」
 高橋統虎はこの会話で、自分の弓の披露があることを知った。
“今日は自分の弓を持ってきておらぬ。初めての弓で弓矢を射なければならぬのだな。”
 誾千代姫の後姿を見送りながら、高橋統虎は腹を決めた。

 立花山中腹の大手門で立花道雪の家老由布雪下が厳しい顔で待っているのが見えた。由布雪下はあまり今回の男試しを快く思っていない。
“紹運様のお世継ぎを試して、何の意味があるのか。”
 統虎と世戸口十兵衛2人はそのまま無愛想な由布雪下に案内され、大きな馬場を見渡す立花山東の屋敷まで案内された。輿に乗った道雪もすぐ屋敷の大広間に現れた。
「統虎殿、ようこそおいでになった。今日は真剣による試合の披露を行う。」
「そうでございましたか。」
 高橋統虎は、“この試合後に弓の披露である。”と思った。統虎らが馬場を見ていると、縄で縛られたざんばら髪の侍2人が連れてこられた。
「統虎殿、やつらはこの城を探索に参った毛利の隠密である。」
 道雪は2人に聞こえるよう大声で言い放った。
「お主らに侍としての死に場所を与えよう。2人とも斬りあうがよい。生き残った者は我らの兵と戦う機会を与えよう。」
 隠密は捕まったが最後、酷い拷問を受けて死ぬか、獄中で牢死するだけである。その辱めを受けず、斬り合えると聞き、ざんばら髪2人の視線は激しく絡み合った。
 
 猿ぐつわも縄も全て解かれ、2人に剣が渡された。馬場には槍を構えた立花家の兵20名余りが囲んでいる。もし、この2人が良からぬ事を考えたとしても、すぐ槍で突き殺されるはずである。
「それでは始めよ。」
 立花家家臣たちも見守る中、2人の斬り合いが始まった。既に2人の眼は吊上っている。一心不乱に剣を振る若い侍に対し、もう一人の初老の侍は馬場を旋回しながら巧みに身を躱していく。2人の力量の差は歴然であった。
 若い侍が上段に構え渾身の一振りを振り下ろすと同時に初老の侍は抜き打ちで若い侍を袈裟切りした。血煙がぱっと飛び散り、若い侍の眉間から夥しい血が流れおち、そのまま前のめりで倒れ込んだ。即死である。
 初老の男が右手で刀を空中で一閃すると、刀に付いた血がふわっと空中で散った。同時に初老の侍は周りをぐるりと睨んだ後、左手で自らの腹を開き、一気に刀を突き差した。
「むっ、ぐっ、ぐっ。」
 自分の腹を突き刺しただけでは人は死にきれない。初老の侍がうずくまると道雪は“介錯せよ。”と大声で叫んだ。
 すぐさま、縁側に控えていた由布雪下が馬場へ下り、“ごめん”と頭を下げて、うつむいた首を抜き打ちで斬り落とした。首から流れでる大量の血が馬場に沁み込んでいく。あっという間の出来事であった。

 その姿をじっと凝視していた高橋統虎を道雪は手招きした。
「統虎殿、ここへ来るがよい。」
 道雪の目の前に統虎は座らされた。すると道雪は直垂の中に手を伸ばし、統虎の心の臓をまさぐってきた。統虎は身じろぎせず、ただ身を任せた。
「ふむ、脈は全く乱れておらぬ。統虎殿の肝は太そうであるな。よし、それでは弓の腕前を見せてもらおう。用意せい。」
 統虎は十兵衛と共にすぐに屋敷裏手の弓場へ連れて行かれた。統虎は用意された多くの弓から、自分の長弓とよく似た長さの弓を選び、弦の固さを確かめた。
“これならば、いけるであろう。”
 統虎には気負いもためらいもない。座禅を組み、気を静め、その時が来るのを待った。

 しばらく経って、弓場に道雪を乗せた輿と立花城城主の誾千代姫が現れた。輿に担がれた道雪は、世戸口十兵衛に声を掛けた。
「十兵衛殿、高橋家中一の腕を見せてくれ。」
 十兵衛は平伏し、立ち上がった。立花家武将たちが見つめる中、十兵衛は先ほど選んだ弓を左手で持ち、矢筒を右肩に掛け、的の方向に半身を構えた。担いだ矢筒から、右手で矢を取るとそのまま弓は的へ向かって弾き飛んでいく。凄まじい十兵衛の早弓である。矢は寸分違えず遠くの的の真ん中に突き刺さっていく。
 5発全てを的に命中させると十兵衛は頭を下げた。
 
 立花家武将たちは正確な腕前は勿論の事、十兵衛の弓を射る動きの早さに感嘆し、声もあげられなかった。十兵衛の腕前に及ぶ者は立花家中にいない。戦になれば、この弓で多くの敵を血祭りにするはずである。
「見事であった。それでは、統虎殿、腕を見せてくれ。」
 道雪が声を掛けると、統虎はゆっくり眼を見開いた。統虎の視線の先にあるのは的だけとなっている。立花道雪や見物客の姿は一切気にならない。後は十兵衛の教え通り、ただ射るばかりである。
 統虎は弓を構えると十兵衛と同じようにすぐに弓を射た。この一射は的のすぐ上を通り過ぎたが、統虎は初めて使うこの弓を理解した。間髪入れずに統虎は次の弓を手に取る。
 狙いを定めるというより、ただいつも通りの動きで弓を放った。
“ぱん。”
 的に弓が刺さり、乾いた音が響いた。統虎は残りの弓も的に当て、合計5射のうち4射を命中させた。
 立花道雪は高橋統虎の顔を凝視したが、弓が当たっても表情を変えない統虎に感心した。
“世戸口十兵衛の教えが良いのであろう。”
 
 道雪は、弓の披露を終えた高橋統虎を立花山真ん中の尾根の竹林に囲まれた自慢の茶室に招いた。道雪は博多商人島井宗室や神谷宗湛らとの付き合いで、茶の湯に親しんでいる。若き高橋統虎も茶の湯の作法は一通り学んでいる。
道雪は下半身が不自由と思えぬほど、優雅に茶を点てた。
 威儀を正した統虎が道雪の所作に魅入っている。お互い無言のまま、茶を喫した後、道雪がつぶやいた。
「統虎殿、あの2人は親子であったわ。」
 統虎は戦った2人を偲び、無言で頷いた。
「統虎殿であれば、どのようにしておった。」
 道雪の問いかけに統虎は少し間をおいて応えた。
「私ならば・・・・・・刀を受け取った後、道雪様を狙います。」
「はっはっはっ。豪気なことであるな。良い答えを聞いたわ。」
 一刻ほど過ごした後、統虎は道雪の茶室を後にした。
 
 まだ、岩屋城へ急げば戻れる時間である。世戸口十兵衛は中腹の大手門で待っている。統虎は、道雪の家老由布雪下とその近習と一緒に下山した。その途中、統虎は秋の恵みである栗のいがぐりを踏みつけてしまった。
 統虎は草履を履いたまま足を上にあげ、近侍に無言でいがぐりを取るよう促した。すると、由布雪下が無言のまま近付き、草履の裏に刺さったいがぐりを思い切り統虎の足裏に押し付けた。いがぐりの針が足裏に突き刺さり、倒れこんだ統虎に由布雪下は言い放った。
「統虎殿、いがぐりぐらい、ご自分で取りなされ。」
 あまりの仕打ちであったが、統虎は頭を下げた。
「御尤もなことでございます。」
「うむ、よろしい。」
 統虎は草履からいがぐりを取り、何事もなかったように下山し、世戸口十兵衛とともに立花城を去っていった。

 道雪が佇む茶室に、由布雪下、小野和泉、そして薦野三河が集まってきた。
「三河、お主が誾千代の婿に推した統虎殿、だいぶ成長してきたな。あの斬り合いを見ても、心の臓はそのままであったわ。」
 道雪の言葉に反応したのは由布雪下であった。
「殿、私は統虎殿に呆れております。先ほど、私の近侍に草履に刺さったいがぐりを取らせようとしておりました。腹が立ちました故、思い切りいがぐりを押し付けてやりました。」
「雪下、統虎殿は高橋家の跡継ぎである。跡継ぎはそのように育てられておる故、罪はない。許してやれ。」
 小野和泉が由布雪下に加勢した。
「殿、鮎の一件を思い出してください。武士の習いを知らぬ跡継ぎでございます。」
「お主らは誾千代の跡目相続の宴を覚えておらぬか。統虎殿は私が教えた通り、鮎をがぶりと食っておった。お主らは酒を飲んで見ておらなかったであろう。それにお主らも見ておったであろう。初めて使う弓で大した腕であった。」
 再び、由布雪下が食って掛かった。
「弓など出来て当たり前・・・。道雪様、この立花城の城主は誰かお教えください。」
「何を言う。誾千代ではないか。」
「そうでございましょう。私どもは皆誾千代姫を城主として、そして立花家の跡継ぎとしてお慕いしております。」
 由布雪下の言葉に小野和泉も応えた。
「道雪様、我ら家臣は誾千代姫に一生仕えて参ります。それ故、誾千代姫に婿などというお話は聞きとうございませぬ。誾千代姫もこのまま御一人でという覚悟でいらっしゃると思います。」
 重臣2人の熱い忠誠心に立花道雪の言葉も震えた。
「和泉の言う通り。誾千代は跡目相続の儀より生まれ変わった。女として生きる気持ちは捨てておるであろう。だが、雪下、和泉、本当にそれで良いと思うか?答えよ。」
 由布雪下と小野和泉は沈黙した。
「我らは古より家名を残すことを重んじてきたはず。本来の道理であれば、やはり婿を入れるのが筋であろう。三河に教えてもらったわ。」
 控える薦野三河は平伏したままである。沈黙の中、由布雪下は重い口を開いた。
「殿、道理は分り申した。ただ、我らはその道理をはるかに超えて、誾千代姫に肩入れしております。誾千代姫が健気に頑張っておられる姿に皆心打たれたのでございます。相当な男でなければ、婿として認められませぬ。」
「私も由布殿と同じでございます。婿として立花家へ参っても、相応しくなければ、私が討ってみせましょう。」
 激烈な言葉であったが、道雪にとっては嬉しい言葉である。
「お主らの気持ちは分った。誾千代を思う気持ちは嬉しいばかり。何と言っても、誾千代はわしの一人娘である。相応しい者でなければ、婿にさせるつもりは無い。それ故、もう少し思案する。三河、これからも色々報せよ。」
 平伏する薦野三河も、誾千代姫には相当な肩入れをしている。だが、薦野三河は高橋統虎には将器として圧倒的な器量があると予感している。こうして高橋家と本人が全く知らぬ間に、統虎は誾千代姫の婿候補となっていった。

 そんなこととは露知らず、高橋統虎は世戸口十兵衛と弓と刀の稽古に励んでいる。既に弟直次も統虎と一緒に稽古を始めている。兄が無心に弓を放つ姿は、弟の良き見本であった。
「兄上、巻藁の稽古はいかほどなされましたか?」
「2年ほどであった。直次もまずは弓を射る動作に馴れることである。素早く弓を構え、射る。今、直次は弓を引くと手が痛いであろう。」
「はい、私にはまだ腕の力がないようです。」
「毎日、弓を射れば腕の力はついてくるし、素早く射ることも出来るようになる。全ては戦に備えての稽古である。巻藁を敵と思い射れば、早く上達するであろう。」
「はい、兄上。」
 弟直次は神妙なほど兄統虎に心服している。真摯に稽古に取り組む兄の姿に憧れ、自分も必死に修練を重ねていく。この幼少期の稽古が、互いを信じて戦う兄弟の強い絆の原点となった。

 誾千代姫は静の薙刀を振るう姿を食い入るように見つめている。
“美しく、強い。静のようになりたい。”
 長さ5尺の薙刀を自在に操り、円弧を描く立ち姿はまるで舞っているかのようである。
「それでは、誾千代姫様、立ち合いをいたしましょう。」
「はい。宜しくお願いします。」
 薙刀の立ち合いは長い木刀で代わりに行われる。狙ったところに寸止めするが、たまに肌を打擲し、痣となってしまう。圧倒的な差の2人であったが、今では立ち合いの5本に1本は誾千代姫がとるほどに上達している。
 
 静は長い木刀を下段に構え、するすると誾千代姫に近づいていく。静の間合いを嫌い、後ろへ下がるとすぐに稽古場の壁である。こうなると静の木刀で押され、受け身となって、ずるずる負けてしまう。誾千代姫は呼吸を整え下段に構え、自分の木刀を静の木刀にふわっとかぶせていった。静の木刀がわずかに動いたところを一気に自分の身体を使って寄せ、その力を使って手首を返すとそのまま木刀は寸止めできずに、静の脇腹を痛打した。
「静、大丈夫か。」
「ごほっ、・・・お見事でございます。」
 静はうずくまりながら、誾千代姫を褒めた。
「誾千代姫様、今の返しは男でも返せませぬ。諦めず、よく気魂で跳ね返しました。」
「静にはいつも押されて負けていた故、このままではいかぬと思い、気張りました。」
「押されても引かぬお心が大事でございます。今日はここまでとさせてください。今日はもう立ち合いできませぬ故・・・。」
 この立ち合いで自信を得た誾千代姫は薙刀の稽古にますます没頭していくようになった。
 誾千代姫は鉄砲の稽古も始め、立花城城主として相応しい成長を見せていった。
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