Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

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Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

013_ランチタイム&魔法談議

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「おりゃっ!」

 デザートナイフ大剣「幻鏡剣シルエットミラー」が強く岩に叩きつけられる。ギルドでの討伐難度はLvラベル300、なかなかの難敵であるはずの魔菓子スイーツ、フロッシーショコラは、アレンの手であっさりと元の鞘に押し固められた。魔菓子討伐というよりただの流れ作業だ。

「二度目ともなると、君に対する呆れよりもフロッシーへの憐れみを感じるね」
「それどういう意味だ?」
「じゃ、そろそろギルドに連絡するから」

 ずっとドロシーを閉じ込めた水晶檻を監視していたライズは、まだ目を離さないまま腕輪に指を当てた。一度切れてしまった腕輪だが、魔力を流すと簡単に自己修復する機能が付いているためライズが手に取っただけで環状に戻っている。
 ずっと触れていると、接点から魔力を吸った腕輪は赤い文様を浮かび上がらせた。魔法陣が描かれるように模様が描き足されていく。アレンは興味津々に腕輪を見つめた。

「へー、普通の腕輪ってそういうギミックあるんだな」
「ギミックというか、これ通信用の普通の魔法陣だよ。君これまではどうしてたの?」
「陽級認定試験の時は、なんか分厚い腕輪渡されたな。魔力無い奴用だって。輪が二重構造? になってて、その間に魔力の塊みたいなの、んーと」
「魔力りゅう?」
「そう魔力瘤! が、サンドされてるらしい。連絡取る時は押すとプチってなるんだけどこんな風に魔法陣出てこなかったぞ」
「多分、操作者と魔力の主が違うから変に誤作動しないように二層の間に流してるんじゃない?」

 そんな話をしていると、腕輪が震え、幻影ホログラムが宙に映し出された。羊角と触角の受付嬢ファニーの顔だ。同時に声も聞こえてくる。

『……通信開始、開始、こちらファニー。お二人とも大丈夫ですか? ご用件をどうぞ』
「通信良好、こちらライズ。二人とも元気。だけど」
「聞いてくれよ! 色々あったんだよ!」
『えっと、今そちらは安全なんですね? でしたら、落ち着いて、話すのはお一人にして状況説明お願いします』

 ライズ(時々割り込むアレン)の話を聞くうちに、ホログラムのファニーの顔はさっと青ざめ、次にだんだんと赤くなっていった。しまいには、今にも怒鳴りだしそうな様子で巻き毛を震わせる。

『……分かりました。ドロシーさんの身柄は、ちゃんと、きっちりと、責任を持って、ギルドでいただきますね』

 ただし顔は、怖いくらいに笑顔になった。



 一つしか渡されないのにパーティ全員の離脱に使える腕輪には、当然、装着者以外を転送する機能もついている。ファニーの指示で操作すれば簡単に、ドロシーは魔法陣に飲み込まれてダンジョンから離脱していった。

『……はい、転送完了、無事にドロシーさん捕獲……失礼、保護しました。本来他パーティの認定試験中には入れないはずなのにどうやって侵入したか諸々含め、これからしっかり彼女とお話しさせていただきますね』

 美人のファニーが微笑むともちろん可愛いのだが、なぜか今の彼女の顔を直視するのは恐ろしい。幸い、怖い笑顔はすぐに心配げな表情に戻った。

『それで、その……先ほども確認しましたが、本当に、このまま認定試験続行されるんですか?』
「ああ。大丈夫なんだよな、ライズ」
「ん。日を改めるのも面倒だしね」
『トラブルがあったということで、離脱しても誰にも文句は言わせませんよ?』
「いや、大丈夫。ぶっちゃけ俺そんな疲れてないしな」

 流石のアレンもプラリオネとの継戦では疲れてたのだが、ドロシーとの魔法戦の間に回復しつつあった。戦いながら回復というのも変な話だが……。それを言うならライズも、上級魔法を数発撃った後とは思えない余裕だ。

『……では、くれぐれも、くれぐれも! 気をつけてくださいね。休憩はしっかり取ってください。ご武運を! ……通信終了、終了』

 腕輪から魔法陣が消え、ホログラムも消える。

「はー、あっさり終わったな」
「終わるのはまだ先だよ。帰ったら僕ら事情聴取受けなきゃいけないだろうし、考えるだけで面倒臭い。でもまあ、パーティメンバーがあんな事件起こしたんだし、ギローノ=ラトスネットもギルドから忠告受けるんじゃない?」
「ああ、そういやギローノあいつのパーティだったな。まあ、酒場で絡むくらいならともかく、今回のはヤバいもんな。認定試験場への侵入に妨害、魔菓子のなすりつけか? ギローノまでいくか分かんねえけど、俺たち狙ったってそういう事だよな」
「ま、今は迷宮ダンジョンに集中。って言いたいところだけど、休憩取った方が良さそうかな」
「……確かに、腹は減ったな」

 念のため索敵用火魔法ウィルオウィスプで警戒しながら、アレンとライズは、近くの乾いた地面に腰を下ろした。と思えばアレンは上半身も地面に倒した。

「はぁー、疲れたと思ってなくても休むと悪くないな」
「それ疲れたと思ってないの君の綿飴脳だけだから。体は疲れてるから。で、飯は何持ってきたの?」
「俺? トゲ魚サンド」

 アレンは寝転がったまま荷物を漁る。行儀が悪いし、おっさんっぽさがあるのだが、アレンがやると子供がごろごろしているだけの可愛い光景になってしまうのだから恐ろしいものだ。取り出された三角形のパンから大きく飛び出す棘を見て、ライズはため息をつく。

「昨日から思ってたけど、君、トゲトゲ魚好きなんだね……」
「何だよ、トゲ魚サンドはクラレット国のソウルフードだぞ? そういうお前は?」

 ライズは小さめのサンドイッチを取り出した。

「ベーコンの乾パンサンド。を、炙って食べる。あとお茶」
「あ、いいなそれ! トゲ魚も温めてくれよ!」
「……いいけどさ。はいお茶」
「サンキュ」
「と、あと腕輪も。あれは『デカい敵1匹』として考えていいでしょ」
「確かにな」

 トゲトゲ魚はトゲや骨が多く身も硬い、好き嫌いの分かれる食材だ。しかし海に面しないクラレット国では日持ちのするトゲトゲ魚の料理が多い。中でもフライは見慣れない者には鮮烈な見た目ながら、超火力で丸ごと揚げた結果、実は旨味が濃い身がホロホロ食感になり、棘はパリパリと噛み砕けて楽しいと国外へ人気が逆輸出し始めている。ただそれでも外側は硬い。クラレット国内ですら毎年のように口内に棘を刺してしまう犠牲者を出している罪深い料理でもある。そんな危険物を無造作に柔らかいパンの中に隠してサンドイッチにするのはクラレット国民だけだろう。バリバリと恐ろしい音を立てて食べるアレンにため息をつきながら、ライズは紅茶を飲んで一息つく。

「……で、さっきの事なんだけど。君、ドロシーの水魔法効いてなかったのは何で?」
「あ、あれ、不発とかじゃなかったのか?」

 アレンは首を傾げる。

「魔法は発動してたよ。頭の上に魔法陣出てきてたでしょ?」
「えー、でもけっこう不発って見るぞ?」
「君の周り、どんな魔法使い初心者ばっかりなの?」

 水や空気など属性に合った自然が近くにあり、正しく詠唱していれば、標的に当たらない事はあるにせよ魔法が不発することはないのだが、ライズにはもう説明するのも面倒だった。

「んー、何でだろうな? 分かんねえ」
「魔法が一切効かない訳じゃないだろうしね。今調理の火に炙られて少し頰赤くなってるし」
「そうなんだよな! やっぱりあいつ魔法ミスったんじゃねえ?」
「無いから」

 食事中も2人はどこかツンケンとしていたが、会った時からこの態度をお互い貫いている以上、平和と言ってもいいだろう。クラレットのことわざにもある、「関係を知りたければ同じ麦のパンを食え」と。

 そしてその平和は、食事時のように短いものだった。





「よし、食ったし飲んだしそろそろ行くか……ん?」

 アレンは立ち上がりかけたところで、眉をひそめて今度は前に屈む。

「どうしたの」
「なんか揺れてないか?」
「揺れ……僕には分かんないけど、調べておこうか」

 索敵魔法のウィルオウィスプは火の玉を飛ばすもので、空間にいる敵には効果的だが地下に潜む敵は見つけられない。ライズは地味にハイコストだが空振りに終わったこの魔法をさっさと解除して、新たに魔法を詠唱しようとした。



 その時、どこからか声がした。

「その必要は無いよ、観客オーディエンス。デザートはいかがかな?」

 つい先ほどまで掛けていた索敵魔法には引っかからなかった。アレンも気づけなかった。二人のすぐ近くに、1人の黒い礼装を着た男が、いつの間にか立っていたのだ。
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