Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

文字の大きさ
上 下
4 / 21
Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

003_ギローノパーティ&マーブル

しおりを挟む
「ホラ、来てみたら? やる気なんでしょ? さっき言ってたじゃん、生意気な奴にはオシオキが必要ー、とか。生意気な君らを僕がオシオキできるって事かな、それ?」
「ああん? 舐めてんのかっ」
「舐めないけど。それとも君ってキャンディーなの?」
「ざけんなっ!!」
「え、何。裂かれたいの、そっちの君は? うっわ、ドン引き」

 小柄に見えるホワイトチョコフードの男は、皮肉っぽい口調で、見かけに似合わずポンポンとポップコーンのように煽り文句を弾き出す。アレンは少し、飛び込むのをためらってしまった。

「にしても目立ってるよねぇ、今。規律破りしてギルド出禁になるつもりなんて勇敢じゃん。こんな事してカッコイイ、って思ってるんでしょ、君ら。ははっ、そう思ってなきゃこんなダサい事出来ないもんね。それとも、君とか脳みそババロアでできてたりする?」
「バカにしやがってっ……!!」

 とうとう男の一人が、持っていたフォークの槍を振り上げて構えたのを見て、アレンは横から飛び込んだ。

「おいおい酒乱か? 俺と飲み比べた時の強さはどこ行ったんだよ、ギローノ」

 言いながらフォーク槍の男、ギローノのすぐ目の前に潜り込み、力を込めて飛び上がり、顎の下に掌の硬い骨を叩き込む。

「ぐぎゃっ」

 ギローノは天井まで吹っ飛ぶと、ご自慢だったらしい牛角をめり込ませて宙吊りになる。ガラン、と音を立ててフォーク槍が落ちた。腕も脚も尻尾もだらりと垂れて動かないところを見るに、気を失ったらしい。

「相変わらずつまんねえ事してるじゃねえか、ギローノ! と、お前ら誰だっけ」

 騒ぎの真ん中に躍り出たアレンは、トンと床に降り立って指差しながら辺りを見回した。まだギローノのパーティメンバーが周りを囲んではいるが、直接悪口を言われていない他メンバーを覚えている義理もない。
 アレンが足をついた床の上に、薄い光が現れては伸び、草の絡まったサークル状の模様を描く。つまり、戦闘が始まったという事だ。

「お、お前、アレンだな!」
「おうそうだよ。で、お前は誰だよ? やるのか?」
「あ、兄貴にこんな事して、ただで済むと……」
「ただで済むわけないだろ! 天井の修理費はお前らから取ってやるからな! 見てただろお前ら、先に手出したのギローノだからな!」

 アレンは有耶無耶にされないように、と周囲を見渡しながら大声で宣言した。こういうのも上都してきて覚えた事の一つだ。ギローノのパーティは完全に、アレンに気圧されてしまう。

「……君さぁ、何してんの……」

 フードの青年が、なぜか感謝ではなく呆れたような言葉を漏らした。

「お、お前大丈夫か? このアレン様が来たからにはこいつらに好き勝手はさせないぜ」
「いや、何割り込んできてんの。別に助けとか求めてないんだけど」
「そうなのか? でもギローノ殴りたかったからやっぱ割り込む事にするぜ」
「いやもう割り込んだ後じゃん。っていうか君の方が悪者っぽい気が、」

 と、フード男は言葉を切って体を傾けた。空いた空間を削り取るように、光る大きなスプーンが振り下ろされると、床までもアイスのようにえぐった。

「こっ……この生意気な!」

 頭に血が上ったギローノのパーティのメンバーが、攻撃を仕掛けてきたのだ。

「……はっ、攻撃したね?」

 鋭利なスプーンの攻撃を紙一重で躱した青年の、フードの中の、チョコレート色の肌がチラリと覗いた。その口は、にたり、と笑っている。

「攻撃したなら反撃されてもしょうがない、よね?」

 そして、背にげていた布包みの中身を引き抜いた。素早く部品をはめ込み、縮められていた蛇腹を引き出すと穴に飴の欠片を放り込む。

「ストロー銃……」

 室内、しかも近距離での、殺しまではしないような戦闘に最も不向きな武器に、周囲がざわついた。

「おいお前、銃使いなわけ? やめとけよ、流れ弾でも周りに飛んだらどうすんだ」
「君に心配される筋合いもないけど言っておこうか。何も問題は起こらないよ。君が足を引っ張らなきゃ、ね?」
「!」

 よほど腕前に自信があるのか、唇の端を吊り上げて笑う青年の足元にも、スルスルと光の円陣が光った。アレンと同じだ。これは、フードはアレンと共闘するつもりだという事を表している。

「……へっ。何かと思えばこの距離で銃かよ、ビビらせやがって」
「ギローノさんにこんな事しておいてタダで済むとは思わない事だな!」

 アレン達と相対するように、5つの円陣が光りだす。こちらは木を模したデザインで色も違う。先ほどのスプーン使いに加え、細身のナイフ使い、ナプキン持ち、ピックのような杖使い、そして黒ドレスの女がいる。

 ……と思ったら、一つの木陣が消えた。ドレスの女が、唇を尖らせながら奥に引っ込む。

「アタシ抜けるわ」
「お、おい!」
「だって今何も持ってないもの。今夜は情熱的に誘ってくれたんだもの、丸腰の女一人居ても居なくてもアタシに圧勝を捧げてくれるんでしょう?」
「お前ギローノさんのお気に入りだからってっ!」
「やめとけ、手ぇ出したらギローノさんに何言われるか」
「……チッ」

 そして、2vs4の構図ができた。アレンとフード男は4人に囲まれている構図になるが、どちらにも焦る様子はない。ただし、こちらは団結しているかというとそんなこともない。

「お前マジで銃使うのか?」
「まあね。撃たれるのがそんなに怖いなら背中合わせてれば? 振り向いて撃つかもだけど」
「そしたらこのナイフで全部斬ってやるよ」

 アレンは指の間に投げナイフを2本、装備した。

「そっちこそ、投げナイフとか危なくないわけ? ノーコンで飛んでかない保証は?」
「そんな事するかよ! それに、魔菓子スイーツ相手じゃないんだぜ? 手加減もするっつの」
「弱い奴ほど手加減できないって言うよね」
「俺は強いから関係ないな!」
「……はぁ。超心配」

 だるそうな声で言うとフードは、アレンの横に進み出て銃を構えた。銃口が向かう側になる野次馬が慌てて逃げ始める。

「逃げ回るスライムゼリーかよ」

 フードは、避難を待たずに一発撃った。ぱぁん、と軽い音がして、杖使いのピック杖が吹き飛ばされる。呆然と空っぽになった手元を見つめる杖使いに怪我をしている様子はない。そしてもう一発、銃声が響いたと思えば、野次馬の方に飛んでいた杖が撃たれたことで軌道を変え、壁に突き刺さる。飴でできた弾の破片がキラキラと光りながら散ったが、その程度を浴びても怪我人は出ない。

「さて腕前に文句は?」
「……無いな!」

 壁に刺さった杖を見てようやく状況を理解した杖使いの足元から、光る木円陣が消えた。戦意喪失の印だ。

「さて、じゃ次は俺が行くぜ」

 アレンは意気揚々と前方のナイフ使いに向き合った。アレンの小さい投げナイフに対し、刃渡りだけで腕ほどの長い食卓ナイフを持つ男は実のところ、さっきから攻撃をアレンに繰り出しては避けられていた。

「ちょこまか、とっ……」
「おう、そりゃサンキュー。お前らが散々見下してくれたリベリー族の特徴なんだよ、素早い・跳ぶ・強い、ってのはな」

 強い、というのはアレンの個人的な主張だが、それはともかく。

「とっ!」

 小さな少年にしか見えないアレンの投げた、これまた小さいナイフは、大きなナイフ剣の斬撃を全て躱して、力強くナイフ使いの額に刺さってーーナイフ使いを、勢いでそのまま後ろに倒した。そのままピクリとも動かない。野次馬から悲鳴が上がる。
 しかし、瞬きするほどの時間の後、額からカラン、とナイフが落ちる。額に突き刺さっていたように見えたのは、ナイフのの側だった。額が少し凹んだものの、気絶しただけのナイフ使いの倒れた床から、木円陣が消える。

「勝負ありっと。……ん?」

 満足気に頷いたアレンの視界の端で、白いものが揺れた。振り返ると、白い巨大なナプキンが宙を舞い、銃口とフードの青年の視界を塞いでいた。ナプキン使いによる妨害だ。時折ヒラリとナプキンが舞い上がってはそこからスプーンの抉るような攻撃が飛んでくる。流石はパーティ、といった連携だった。フードも応戦はしているが、狙いを定めなければ使えない銃は不利なようだ。下手に撃てば野次馬に当たるというのも攻撃をためらわせているのだろう。

「チッ」

 フードは舌打ちをして銃を引き上げると、回避に専念する構えを見せる。それを見たアレンは、膝を少し曲げて宙に跳んだ。

「おい、邪魔するなっ!」

 酒場の天井近くで一回転。上からなら視界も開けている。狙いを定めて天井を蹴る。落ちながら、勢いと体重をかけたすねをナプキン使いの肩にぶつける。よろけたところを逃さず、投げナイフの柄を腕に打ち込んでナプキンを取り落とさせる。ナプキン使いが倒れ、足元の円陣が消えると同時に、視界が開けた。

「やるじゃん?」

 次の瞬間、フードの撃った三連弾が、スプーンを力強く弾き飛ばした。

 転がったスプーンの柄をアレンが踏んで、全ての木円陣が光を失った。



 *****


魔菓子スイーツレポート


No.005 スライムゼリー(Soliquid Jelly)
ソリキッド・広く全域に分布
Lvラベル1 Calカロリー:1 Bx糖度:1

 最もありふれた動く魔菓子スイーツ、学術的には「ソリキッドゼリー」なのに誰もがスライムと呼ぶ半透明でぷよぷよとした物体。ほとんど害がなく、臆病で、攻撃を見せればすぐに群れで逃げ出す(逃げる向きが同じなのでいつの間にか群れになっている)。砂糖がまぶされていたり酒が入っていたりするがほとんど生態は同じ。
 脅威度を表すLevelラベル、体力を表すCalorieカロリー、菓魔力を表すBrix糖度が全て1なのは、ソリキッド系の通常種をこれらの指標の基準にしたから。雑に、Lv10の魔菓子はソリキッドの10倍の脅威度、など言うことができる。ただし、これらの基準もレポートに記される魔菓子の脅威度も学者の間で諸説あり、ということに注意。目安程度に考えておくと良い。

Drop:ものによる
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...