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Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ
003_ギローノパーティ&マーブル
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「ホラ、来てみたら? やる気なんでしょ? さっき言ってたじゃん、生意気な奴にはオシオキが必要ー、とか。生意気な君らを僕がオシオキできるって事かな、それ?」
「ああん? 舐めてんのかっ」
「舐めないけど。それとも君ってキャンディーなの?」
「ざけんなっ!!」
「え、何。裂かれたいの、そっちの君は? うっわ、ドン引き」
小柄に見えるホワイトチョコフードの男は、皮肉っぽい口調で、見かけに似合わずポンポンとポップコーンのように煽り文句を弾き出す。アレンは少し、飛び込むのをためらってしまった。
「にしても目立ってるよねぇ、今。規律破りしてギルド出禁になるつもりなんて勇敢じゃん。こんな事してカッコイイ、って思ってるんでしょ、君ら。ははっ、そう思ってなきゃこんなダサい事出来ないもんね。それとも、君とか脳みそババロアでできてたりする?」
「バカにしやがってっ……!!」
とうとう男の一人が、持っていたフォークの槍を振り上げて構えたのを見て、アレンは横から飛び込んだ。
「おいおい酒乱か? 俺と飲み比べた時の強さはどこ行ったんだよ、ギローノ」
言いながらフォーク槍の男、ギローノのすぐ目の前に潜り込み、力を込めて飛び上がり、顎の下に掌の硬い骨を叩き込む。
「ぐぎゃっ」
ギローノは天井まで吹っ飛ぶと、ご自慢だったらしい牛角をめり込ませて宙吊りになる。ガラン、と音を立ててフォーク槍が落ちた。腕も脚も尻尾もだらりと垂れて動かないところを見るに、気を失ったらしい。
「相変わらずつまんねえ事してるじゃねえか、ギローノ! と、お前ら誰だっけ」
騒ぎの真ん中に躍り出たアレンは、トンと床に降り立って指差しながら辺りを見回した。まだギローノのパーティメンバーが周りを囲んではいるが、直接悪口を言われていない他メンバーを覚えている義理もない。
アレンが足をついた床の上に、薄い光が現れては伸び、草の絡まったサークル状の模様を描く。つまり、戦闘が始まったという事だ。
「お、お前、アレンだな!」
「おうそうだよ。で、お前は誰だよ? やるのか?」
「あ、兄貴にこんな事して、ただで済むと……」
「ただで済むわけないだろ! 天井の修理費はお前らから取ってやるからな! 見てただろお前ら、先に手出したのギローノだからな!」
アレンは有耶無耶にされないように、と周囲を見渡しながら大声で宣言した。こういうのも上都してきて覚えた事の一つだ。ギローノのパーティは完全に、アレンに気圧されてしまう。
「……君さぁ、何してんの……」
フードの青年が、なぜか感謝ではなく呆れたような言葉を漏らした。
「お、お前大丈夫か? このアレン様が来たからにはこいつらに好き勝手はさせないぜ」
「いや、何割り込んできてんの。別に助けとか求めてないんだけど」
「そうなのか? でもギローノ殴りたかったからやっぱ割り込む事にするぜ」
「いやもう割り込んだ後じゃん。っていうか君の方が悪者っぽい気が、」
と、フード男は言葉を切って体を傾けた。空いた空間を削り取るように、光る大きなスプーンが振り下ろされると、床までもアイスのように抉った。
「こっ……この生意気な!」
頭に血が上ったギローノのパーティのメンバーが、攻撃を仕掛けてきたのだ。
「……はっ、攻撃したね?」
鋭利なスプーンの攻撃を紙一重で躱した青年の、フードの中の、チョコレート色の肌がチラリと覗いた。その口は、にたり、と笑っている。
「攻撃したなら反撃されてもしょうがない、よね?」
そして、背に提げていた布包みの中身を引き抜いた。素早く部品をはめ込み、縮められていた蛇腹を引き出すと穴に飴の欠片を放り込む。
「ストロー銃……」
室内、しかも近距離での、殺しまではしないような戦闘に最も不向きな武器に、周囲がざわついた。
「おいお前、銃使いなわけ? やめとけよ、流れ弾でも周りに飛んだらどうすんだ」
「君に心配される筋合いもないけど言っておこうか。何も問題は起こらないよ。君が足を引っ張らなきゃ、ね?」
「!」
よほど腕前に自信があるのか、唇の端を吊り上げて笑う青年の足元にも、スルスルと光の円陣が光った。アレンと同じだ。これは、フードはアレンと共闘するつもりだという事を表している。
「……へっ。何かと思えばこの距離で銃かよ、ビビらせやがって」
「ギローノさんにこんな事しておいてタダで済むとは思わない事だな!」
アレン達と相対するように、5つの円陣が光りだす。こちらは木を模したデザインで色も違う。先ほどのスプーン使いに加え、細身のナイフ使い、ナプキン持ち、ピックのような杖使い、そして黒ドレスの女がいる。
……と思ったら、一つの木陣が消えた。ドレスの女が、唇を尖らせながら奥に引っ込む。
「アタシ抜けるわ」
「お、おい!」
「だって今何も持ってないもの。今夜は情熱的に誘ってくれたんだもの、丸腰の女一人居ても居なくてもアタシに圧勝を捧げてくれるんでしょう?」
「お前ギローノさんのお気に入りだからってっ!」
「やめとけ、手ぇ出したらギローノさんに何言われるか」
「……チッ」
そして、2vs4の構図ができた。アレンとフード男は4人に囲まれている構図になるが、どちらにも焦る様子はない。ただし、こちらは団結しているかというとそんなこともない。
「お前マジで銃使うのか?」
「まあね。撃たれるのがそんなに怖いなら背中合わせてれば? 振り向いて撃つかもだけど」
「そしたらこのナイフで全部斬ってやるよ」
アレンは指の間に投げナイフを2本、装備した。
「そっちこそ、投げナイフとか危なくないわけ? ノーコンで飛んでかない保証は?」
「そんな事するかよ! それに、魔菓子相手じゃないんだぜ? 手加減もするっつの」
「弱い奴ほど手加減できないって言うよね」
「俺は強いから関係ないな!」
「……はぁ。超心配」
だるそうな声で言うとフードは、アレンの横に進み出て銃を構えた。銃口が向かう側になる野次馬が慌てて逃げ始める。
「逃げ回るスライムゼリーかよ」
フードは、避難を待たずに一発撃った。ぱぁん、と軽い音がして、杖使いのピック杖が吹き飛ばされる。呆然と空っぽになった手元を見つめる杖使いに怪我をしている様子はない。そしてもう一発、銃声が響いたと思えば、野次馬の方に飛んでいた杖が撃たれたことで軌道を変え、壁に突き刺さる。飴でできた弾の破片がキラキラと光りながら散ったが、その程度を浴びても怪我人は出ない。
「さて腕前に文句は?」
「……無いな!」
壁に刺さった杖を見てようやく状況を理解した杖使いの足元から、光る木円陣が消えた。戦意喪失の印だ。
「さて、じゃ次は俺が行くぜ」
アレンは意気揚々と前方のナイフ使いに向き合った。アレンの小さい投げナイフに対し、刃渡りだけで腕ほどの長い食卓ナイフを持つ男は実のところ、さっきから攻撃をアレンに繰り出しては避けられていた。
「ちょこまか、とっ……」
「おう、そりゃサンキュー。お前らが散々見下してくれたリベリー族の特徴なんだよ、素早い・跳ぶ・強い、ってのはな」
強い、というのはアレンの個人的な主張だが、それはともかく。
「とっ!」
小さな少年にしか見えないアレンの投げた、これまた小さいナイフは、大きなナイフ剣の斬撃を全て躱して、力強くナイフ使いの額に刺さってーーナイフ使いを、勢いでそのまま後ろに倒した。そのままピクリとも動かない。野次馬から悲鳴が上がる。
しかし、瞬きするほどの時間の後、額からカラン、とナイフが落ちる。額に突き刺さっていたように見えたのは、ナイフの柄の側だった。額が少し凹んだものの、気絶しただけのナイフ使いの倒れた床から、木円陣が消える。
「勝負ありっと。……ん?」
満足気に頷いたアレンの視界の端で、白いものが揺れた。振り返ると、白い巨大なナプキンが宙を舞い、銃口とフードの青年の視界を塞いでいた。ナプキン使いによる妨害だ。時折ヒラリとナプキンが舞い上がってはそこからスプーンの抉るような攻撃が飛んでくる。流石はパーティ、といった連携だった。フードも応戦はしているが、狙いを定めなければ使えない銃は不利なようだ。下手に撃てば野次馬に当たるというのも攻撃をためらわせているのだろう。
「チッ」
フードは舌打ちをして銃を引き上げると、回避に専念する構えを見せる。それを見たアレンは、膝を少し曲げて宙に跳んだ。
「おい、邪魔するなっ!」
酒場の天井近くで一回転。上からなら視界も開けている。狙いを定めて天井を蹴る。落ちながら、勢いと体重をかけた脛をナプキン使いの肩にぶつける。よろけたところを逃さず、投げナイフの柄を腕に打ち込んでナプキンを取り落とさせる。ナプキン使いが倒れ、足元の円陣が消えると同時に、視界が開けた。
「やるじゃん?」
次の瞬間、フードの撃った三連弾が、スプーンを力強く弾き飛ばした。
転がったスプーンの柄をアレンが踏んで、全ての木円陣が光を失った。
*****
魔菓子レポート
No.005 スライムゼリー(Soliquid Jelly)
ソリキッド・広く全域に分布
Lv1 Cal:1 Bx:1
最もありふれた動く魔菓子、学術的には「ソリキッドゼリー」なのに誰もがスライムと呼ぶ半透明でぷよぷよとした物体。ほとんど害がなく、臆病で、攻撃を見せればすぐに群れで逃げ出す(逃げる向きが同じなのでいつの間にか群れになっている)。砂糖がまぶされていたり酒が入っていたりするがほとんど生態は同じ。
脅威度を表すLevel、体力を表すCalorie、菓魔力を表すBrixが全て1なのは、ソリキッド系の通常種をこれらの指標の基準にしたから。雑に、Lv10の魔菓子はソリキッドの10倍の脅威度、など言うことができる。ただし、これらの基準もレポートに記される魔菓子の脅威度も学者の間で諸説あり、ということに注意。目安程度に考えておくと良い。
Drop:ものによる
「ああん? 舐めてんのかっ」
「舐めないけど。それとも君ってキャンディーなの?」
「ざけんなっ!!」
「え、何。裂かれたいの、そっちの君は? うっわ、ドン引き」
小柄に見えるホワイトチョコフードの男は、皮肉っぽい口調で、見かけに似合わずポンポンとポップコーンのように煽り文句を弾き出す。アレンは少し、飛び込むのをためらってしまった。
「にしても目立ってるよねぇ、今。規律破りしてギルド出禁になるつもりなんて勇敢じゃん。こんな事してカッコイイ、って思ってるんでしょ、君ら。ははっ、そう思ってなきゃこんなダサい事出来ないもんね。それとも、君とか脳みそババロアでできてたりする?」
「バカにしやがってっ……!!」
とうとう男の一人が、持っていたフォークの槍を振り上げて構えたのを見て、アレンは横から飛び込んだ。
「おいおい酒乱か? 俺と飲み比べた時の強さはどこ行ったんだよ、ギローノ」
言いながらフォーク槍の男、ギローノのすぐ目の前に潜り込み、力を込めて飛び上がり、顎の下に掌の硬い骨を叩き込む。
「ぐぎゃっ」
ギローノは天井まで吹っ飛ぶと、ご自慢だったらしい牛角をめり込ませて宙吊りになる。ガラン、と音を立ててフォーク槍が落ちた。腕も脚も尻尾もだらりと垂れて動かないところを見るに、気を失ったらしい。
「相変わらずつまんねえ事してるじゃねえか、ギローノ! と、お前ら誰だっけ」
騒ぎの真ん中に躍り出たアレンは、トンと床に降り立って指差しながら辺りを見回した。まだギローノのパーティメンバーが周りを囲んではいるが、直接悪口を言われていない他メンバーを覚えている義理もない。
アレンが足をついた床の上に、薄い光が現れては伸び、草の絡まったサークル状の模様を描く。つまり、戦闘が始まったという事だ。
「お、お前、アレンだな!」
「おうそうだよ。で、お前は誰だよ? やるのか?」
「あ、兄貴にこんな事して、ただで済むと……」
「ただで済むわけないだろ! 天井の修理費はお前らから取ってやるからな! 見てただろお前ら、先に手出したのギローノだからな!」
アレンは有耶無耶にされないように、と周囲を見渡しながら大声で宣言した。こういうのも上都してきて覚えた事の一つだ。ギローノのパーティは完全に、アレンに気圧されてしまう。
「……君さぁ、何してんの……」
フードの青年が、なぜか感謝ではなく呆れたような言葉を漏らした。
「お、お前大丈夫か? このアレン様が来たからにはこいつらに好き勝手はさせないぜ」
「いや、何割り込んできてんの。別に助けとか求めてないんだけど」
「そうなのか? でもギローノ殴りたかったからやっぱ割り込む事にするぜ」
「いやもう割り込んだ後じゃん。っていうか君の方が悪者っぽい気が、」
と、フード男は言葉を切って体を傾けた。空いた空間を削り取るように、光る大きなスプーンが振り下ろされると、床までもアイスのように抉った。
「こっ……この生意気な!」
頭に血が上ったギローノのパーティのメンバーが、攻撃を仕掛けてきたのだ。
「……はっ、攻撃したね?」
鋭利なスプーンの攻撃を紙一重で躱した青年の、フードの中の、チョコレート色の肌がチラリと覗いた。その口は、にたり、と笑っている。
「攻撃したなら反撃されてもしょうがない、よね?」
そして、背に提げていた布包みの中身を引き抜いた。素早く部品をはめ込み、縮められていた蛇腹を引き出すと穴に飴の欠片を放り込む。
「ストロー銃……」
室内、しかも近距離での、殺しまではしないような戦闘に最も不向きな武器に、周囲がざわついた。
「おいお前、銃使いなわけ? やめとけよ、流れ弾でも周りに飛んだらどうすんだ」
「君に心配される筋合いもないけど言っておこうか。何も問題は起こらないよ。君が足を引っ張らなきゃ、ね?」
「!」
よほど腕前に自信があるのか、唇の端を吊り上げて笑う青年の足元にも、スルスルと光の円陣が光った。アレンと同じだ。これは、フードはアレンと共闘するつもりだという事を表している。
「……へっ。何かと思えばこの距離で銃かよ、ビビらせやがって」
「ギローノさんにこんな事しておいてタダで済むとは思わない事だな!」
アレン達と相対するように、5つの円陣が光りだす。こちらは木を模したデザインで色も違う。先ほどのスプーン使いに加え、細身のナイフ使い、ナプキン持ち、ピックのような杖使い、そして黒ドレスの女がいる。
……と思ったら、一つの木陣が消えた。ドレスの女が、唇を尖らせながら奥に引っ込む。
「アタシ抜けるわ」
「お、おい!」
「だって今何も持ってないもの。今夜は情熱的に誘ってくれたんだもの、丸腰の女一人居ても居なくてもアタシに圧勝を捧げてくれるんでしょう?」
「お前ギローノさんのお気に入りだからってっ!」
「やめとけ、手ぇ出したらギローノさんに何言われるか」
「……チッ」
そして、2vs4の構図ができた。アレンとフード男は4人に囲まれている構図になるが、どちらにも焦る様子はない。ただし、こちらは団結しているかというとそんなこともない。
「お前マジで銃使うのか?」
「まあね。撃たれるのがそんなに怖いなら背中合わせてれば? 振り向いて撃つかもだけど」
「そしたらこのナイフで全部斬ってやるよ」
アレンは指の間に投げナイフを2本、装備した。
「そっちこそ、投げナイフとか危なくないわけ? ノーコンで飛んでかない保証は?」
「そんな事するかよ! それに、魔菓子相手じゃないんだぜ? 手加減もするっつの」
「弱い奴ほど手加減できないって言うよね」
「俺は強いから関係ないな!」
「……はぁ。超心配」
だるそうな声で言うとフードは、アレンの横に進み出て銃を構えた。銃口が向かう側になる野次馬が慌てて逃げ始める。
「逃げ回るスライムゼリーかよ」
フードは、避難を待たずに一発撃った。ぱぁん、と軽い音がして、杖使いのピック杖が吹き飛ばされる。呆然と空っぽになった手元を見つめる杖使いに怪我をしている様子はない。そしてもう一発、銃声が響いたと思えば、野次馬の方に飛んでいた杖が撃たれたことで軌道を変え、壁に突き刺さる。飴でできた弾の破片がキラキラと光りながら散ったが、その程度を浴びても怪我人は出ない。
「さて腕前に文句は?」
「……無いな!」
壁に刺さった杖を見てようやく状況を理解した杖使いの足元から、光る木円陣が消えた。戦意喪失の印だ。
「さて、じゃ次は俺が行くぜ」
アレンは意気揚々と前方のナイフ使いに向き合った。アレンの小さい投げナイフに対し、刃渡りだけで腕ほどの長い食卓ナイフを持つ男は実のところ、さっきから攻撃をアレンに繰り出しては避けられていた。
「ちょこまか、とっ……」
「おう、そりゃサンキュー。お前らが散々見下してくれたリベリー族の特徴なんだよ、素早い・跳ぶ・強い、ってのはな」
強い、というのはアレンの個人的な主張だが、それはともかく。
「とっ!」
小さな少年にしか見えないアレンの投げた、これまた小さいナイフは、大きなナイフ剣の斬撃を全て躱して、力強くナイフ使いの額に刺さってーーナイフ使いを、勢いでそのまま後ろに倒した。そのままピクリとも動かない。野次馬から悲鳴が上がる。
しかし、瞬きするほどの時間の後、額からカラン、とナイフが落ちる。額に突き刺さっていたように見えたのは、ナイフの柄の側だった。額が少し凹んだものの、気絶しただけのナイフ使いの倒れた床から、木円陣が消える。
「勝負ありっと。……ん?」
満足気に頷いたアレンの視界の端で、白いものが揺れた。振り返ると、白い巨大なナプキンが宙を舞い、銃口とフードの青年の視界を塞いでいた。ナプキン使いによる妨害だ。時折ヒラリとナプキンが舞い上がってはそこからスプーンの抉るような攻撃が飛んでくる。流石はパーティ、といった連携だった。フードも応戦はしているが、狙いを定めなければ使えない銃は不利なようだ。下手に撃てば野次馬に当たるというのも攻撃をためらわせているのだろう。
「チッ」
フードは舌打ちをして銃を引き上げると、回避に専念する構えを見せる。それを見たアレンは、膝を少し曲げて宙に跳んだ。
「おい、邪魔するなっ!」
酒場の天井近くで一回転。上からなら視界も開けている。狙いを定めて天井を蹴る。落ちながら、勢いと体重をかけた脛をナプキン使いの肩にぶつける。よろけたところを逃さず、投げナイフの柄を腕に打ち込んでナプキンを取り落とさせる。ナプキン使いが倒れ、足元の円陣が消えると同時に、視界が開けた。
「やるじゃん?」
次の瞬間、フードの撃った三連弾が、スプーンを力強く弾き飛ばした。
転がったスプーンの柄をアレンが踏んで、全ての木円陣が光を失った。
*****
魔菓子レポート
No.005 スライムゼリー(Soliquid Jelly)
ソリキッド・広く全域に分布
Lv1 Cal:1 Bx:1
最もありふれた動く魔菓子、学術的には「ソリキッドゼリー」なのに誰もがスライムと呼ぶ半透明でぷよぷよとした物体。ほとんど害がなく、臆病で、攻撃を見せればすぐに群れで逃げ出す(逃げる向きが同じなのでいつの間にか群れになっている)。砂糖がまぶされていたり酒が入っていたりするがほとんど生態は同じ。
脅威度を表すLevel、体力を表すCalorie、菓魔力を表すBrixが全て1なのは、ソリキッド系の通常種をこれらの指標の基準にしたから。雑に、Lv10の魔菓子はソリキッドの10倍の脅威度、など言うことができる。ただし、これらの基準もレポートに記される魔菓子の脅威度も学者の間で諸説あり、ということに注意。目安程度に考えておくと良い。
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