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000_「魔菓子と食器のものがたり」
しおりを挟むむかしむかしのことです。この世界は、「自然」というものでみちあふれていました。チョコフレークのかわりに畑とおなじ土が地面で、植物がどこにだって生えていました。魔菓子の代わりに動物たちが、みんななかよくくらしていました。空の雲ももっときれいで、飴の代わりに雨というお水がふり、海をつくっていたのです。
ある日、わるいわるい魔菓子の王が綿あめ雲にのってやってきて、世界じゅうに虹色の飴水をふらしてから、すべてがかわってしまいました。飴水にふくまれる砂糖が、動物も植物もおかしくして、魔菓子に変えてしまったのです。それだけではありません。わるいわるい魔菓子の王はわるいなかまをつれてきました。わるいわるい綿あめ雲は、わるいなかまのために、わるい綿あめ雲を作って、空をおおってしまいました。
これはこまりました。だって、飴水がおちつづけると、たべものがなくなってしまうのです。植物がなければお家もつくれません。お水ものめません。この世界の王様はおおきなおおきな水晶のかさをつくりましたが、ちっぽけな自然しか守ることができませんでした。おまけに、動物も植物もモンスターになっておそってくるのです。
「魔菓子をたおして、世界をとりもどすのだ」
この世界の王様のことばに、みんながんばりました。
力のあるひとも魔菓子にさわることはできません。羽をもっているひとも、綿あめ雲のある大空まではとべません。でも、みんなはがんばりました。魔菓子をやっつけることのできる「食器」をつかい、聖樹に力をもらって空にとべるようにしました。とてもたいへんなことでしたが、いつしか魔菓子をたおせるようになったのです。
クラレット国のひとりの若ものが、わるい綿あめ雲をひとつ、たおしました。すると、空からぽっかりとひとつ、わるいあめ雲がきえて、そのしたの地面が、海が、植物がよみがえりました。かれが、ゆうめいな「はじまりの勇者」です。
魔菓子をたおすひとを冒険者、わるい綿あめ雲をたおしたひとを勇者とよんでいます。そしていま、勇者は30ひきいじょうもいるのです。どんなにたいへんでも、いつか世界じゅうを自然でいっぱいにできると信じて。
◇◇◇
「今日のお話はここまで。さあ、お休み」
「「「おやすみ!」」」
大きな木を切り抜いて作られた家の中で、母親が手を叩くと、何人もの子供達がひょこひょこと並んだベッドに飛び込んでいった。みな背が低く小さい、小人と呼ばれる種族だ。
「……おや、アレン、どうしたんだい?」
その中で1人、ブルーベリーの目をひときわ輝かせた少年が、ベッドにまだ入らずにじっと絵本を見ていた。
「母ちゃん、俺、勇者になる!」
「……そうかい。あんたなら立派な冒険者になるだろうよ。さ、もう寝な」
母親は微笑んでアレンをベッドに押し込んだ。
少年はまだ知らない。少年の住む地方を一歩出れば、背が低く幼く見えるリベリー族は一人前と認められない事を。「リベリー」という語自体が、「お人形」の意味で使われているという事を。
しかし、この少年が数々の偏見を打ち破って実力で勇者に成り上がる事も、誰も知らない。
*****
魔菓子レポート
No.001 エバグリバウム(EverGreen Baumkuchen)
植物・バウム系
バウム系の魔菓子は、スコーンのように上部が膨れ上がった大型のバウムクーヘンの総称。エバグリは、バウム系の中でも、堅焼きで上部が緑色(抹茶味のことが多い)、一年の変化が少ない特徴を持つものを指す。特に大型のものには、よく小型生物が住んでいる。
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