脱出ホラゲと虚宮くん

山の端さっど

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ナナフシギ喫茶@廃高等学校B

ななきつ⑶

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「『よくある質問 ①Q.ここって何処なの? A.旧私立わたくしりつ馬麟ばりん高等学校跡でございます』だとよ」

 Frequently Asked Questions、通称FAQ。頻繁に尋ねられる質問、だから「よくある質問」。「FAQファックって読むの? マジで? プクククク」ってフグみたいに笑ってた英語赤点常連のマブダチ、マヤのための解説だよ☆

 というわけで、こんばこんにちあるいはおはよう皆さん、現在時刻も分からない屋城蓮子やしろれんこだけどそろそろ名乗りはいらないかしら。なんせ、もう3回目だし知名度はうなぎ登りだしこの顔を見れば他に言葉は不要でしょう? ……とか言ってみても誰も見てないからねこの生放送は! ノットオンエア。メイク崩れてきたから映ってない方が良いまである、はい。

「……化粧直すか?」
「えっいや、大丈夫そんな時間取んなくていい」

 あたしはホラー映画で環境の悪さに真っ先に文句ぶー垂れてヒッキーになったり独り行動したり化粧したがったりするワガママお嬢様ポジションじゃあないからね。電波君でもおまDKでもテケらないテケ子ちゃんでもどーんと来いってんだ。

「で、どことも知らない学校だって分かってもどうしようもないんだけど他の質問は?」
「待ってろ。『②Q.何のためにここに誘拐したの? A.誘拐ではありません。お近くにいらしたのでご招待致しました。この辺りは物騒ですので、しばしお安らぎいただければと思います』」
「お安らぎって……」

 あと、ご招待は誘拐のソフトな言い方って10年前から言われてるから! 初めてのお使いの時にママンから聞いた。

「『③Q.何をさせられるの? A.現在我らが喫茶店』……喫茶店と書いてカフェってルビ振ってあるな……『喫茶店カフェでは各店舗を巡るミステリーツアーを行なっております。クリア者には豪華景品を用意しておりますので、どうぞご挑戦くださいませ』
「ミステリーツアー?」
「って書いてあるな」

 虚宮うつみやそれがし君は首をすくめて、あたしに虫眼鏡を手渡した。デカい重い。

「何これ」
「このFAQに挟んであった。明らかに怪しいだろ? 何か気になるものがあったら見てくれ」
「え、探偵気取ってるみたいで恥ずかしいんだけど」

 デカい虫眼鏡持ち歩くとか許されるの、図書館でホームズ読んで浮かれた小学生まででしょ? いやミステリーツアーらしいけどさ?

「……『探偵は死なない』ってルール知ってるか?」
「え?」
「まあ大体のケースで、探偵役になってる奴は殺されない。そいつが死ぬとからな。持ってれば生き残れるかもしれないぞ?」
「持っとく」

 決めたわ、決めましたわ、あたし探偵になる。OK、ベイカー街あたりで渦巻くチミチミモーリョーの謎ども掛かってきな! ところで謎って、「ビーカーに次の目的地が書いてある」くらいの易しさなのかな。だといいな。

「もうすぐ着くぞ、3年2組」
「ど、どうよ……?」
「中にいるな。……コスプレしたヤバそうな奴らが」

 いかにも中華料理店みたいな赤メインの飾り付けがされた教室内には、キョンシーがいた。それと多分パンダの着ぐるみ。
 キョンシーってあれね? よくフィクションで見るような、腕前に出して中華風の服と帽子被って、あと顔にお札垂らした腐らない死体ね? 腐ってないから分かんないけど、多分ただのコスプレした人間じゃないよねあれ? ……だってヤバい感じに千切れ~かけの~レフティアームだもんね! 左腕肘周りのお肉すっかり無くなって骨見えてますよー、わあ腕細っ、羨まし……くないっ! てなもんよ。これは死者ですわぁ、だってめっちゃ背中寒いもん、カイロカイロ、ふぅ。

「気をつけろよ。キョンシーって設定によっちゃゾンビと同じように傷つけられただけで感染するからな」
「設定って何……?」
「RPGなら吸血鬼だろうと『やけど』するだけなんだけだけど、多分即死ポイントだろうなここは。もしくは血清イベント」
「何の電波受信してんの?」
「まあ客として文句がなければ大丈夫だろ」

 あわれ、電波君はあたしの心の準備を気遣いもせずに教室のドアをオープンザドアーして入っていった。待ってよ! あたしは後を追っかける。(視聴者諸君はこういう時、待てる余裕を見せつける男になろうな! あたしからの懇願だよ!)
 とーーキョンシーが、跳ねた。

 みんな知ってますか。私は今知りました、キョンシーって本当に跳ねるんですね。世界新記録ニューレコードでそうなバッタ並みの跳び。はい。そのまま虚宮の方に距離詰めてった。あ、パンダの着ぐるみがキョンシーひっ掴んで止めた。めっちゃ滑らかに関節動くな着ぐるみ!

[ちょ、ドリっち~。テンション上がっても跳んでったり噛み付いたりしちゃダメだって~。お客ゾンビ化しちゃうアルよ?]
[ふむ、つい舞い上がってしまってな……すまない、客人。怪我はないか……アルか?]
「とりあえず怪我が有るみたいに聴こえて誤解があるからその取ってつけたような語尾やめろよ」

 ああああ、またバケモノと会話始めたよこの人!!!
 キョンシーもパンダぐるみも変な口調だし、もう何から突っ込みゃいいの? あたしはひとまず助かってるのかなこれ? 安全圏に居るとついつい観察しちゃうよね。このキョンシーは多分男? 今のファッショントレンドは前に突き出してる骨チラ見せの腕と、3cmくらい伸びてそうなその鉤爪かな! これはもう間違いなく「本物」。カメラ持ってないけど写真が高く売れそう。特殊メイクとかCG写真って言われるんだろうけどね。

[あ、えーと、うん、オキャクサマイラッシャイマセオセキヘドーゾアルよ?]

 思いついたようにパンダが身振り手振りを交えながらエスコートしてくる。あたしはがっつり話を始めたキョンシー&虚宮を放っておいて席に着いた。円卓だ、ターンテーブルじゃんこれ。ぐるぐる回せる奴。あ、お冷どーも。気づけば、そんなリアルでは喋ってないのに意外と喉乾いてた。
 ……水飲んでから気づいたけど、もしかしてこんな怪しいところで出されたものホイホイ飲んじゃうあたしって神経ヤバいのかも。手遅れだけど。

[ご注文はこちらアルよ~、シェシェ!]

 あたししか席に着いてないのに、パンダはさっとお茶の準備を始めた。うーん、良いのかな? 電波君を見てみたら、やっぱり話は盛り上がってる感じ。というか謝謝シェシェ(ありがとう)って言うの本来店員じゃなくてあたしよね?

 ん? キョンシーがあたしを見た。あ、何かあたしに手振ってる? 左腕で3回、右腕で3回、また左腕でさんかーい。あ、仕草はちょっと可愛い。でもすぐによそ向いちゃった。

 というか、勝手に円卓に皿とかセイロとか並べられてるけどいいの、これ? それも量が多いんだけど、フードファイトでもしろって?

「えっと、メニューは?」
[少しだけ待つアルよ~。今準備してるアル~、深呼吸でもして落ち着くアル]

 うーん、何だろう。居心地悪いけど席立つのもお行儀悪いよね。
 暇だから深呼吸しながら飲茶ヤムチャの話とかしちゃう? 飲茶って料理のジャンルじゃなくて、点心(小皿に乗った料理とかお菓子、果物)を中国茶で食べるご飯外食事のことなんだよね。実はご飯食べてもいいオヤツタイムらしい。詳しくは知らんけど。
 ……まだ暇だよ! パンダは何か取りに厨房の奥行っちゃったし、キョンシー・電波君ペアはまだまだ盛り上がって話してるし。
 ……。
 ……。

 ……諸君、止めないでくれ。私は禁断の遊びに手を出す事に決めたんだ。誰も見てない今がチャンスなのだよ。いいね? あたしと君等の秘密だ。
 ……いけっ、ターンテーブル回し時計回り編~!
 うわー、最初重い感じあるけど勢いつくとめっちゃ回る~! 行儀悪いけど楽ーしいー! あ、まって本気で楽しい。逆回転もしちゃえ。

「ん?」

 おや、反時計回りにはあんまり回らない。んん? いや、どう回してもピッタリ一回転して止まっちゃう。ターンテーブルってこういうものだったっけ? 弱く回しても一回転するからこれはこれで面白いけど……。
 なんて考えてるうちに奥からパンダが戻ってくるのが見えて、あたしは大人しくテーブルと両手を元の位置に戻して澄まし顔。証拠隠滅はお手の物よ。まあ、キョンシー君と虚宮君には見られてるけどね!

[ドリっち~、そろそろお客を席に案内するアル。よろろ~]
[む、すまんな。では虚宮殿、こちらに来てくれ]
「ああ、悪かったな時間取って」

 虚宮氏はテーブルの上、10枚の皿とその上のポットやらセイロやらをじろっと見て、あたしの右隣の席に座る。

[はいは~い、それでは改めて、あたしはパンダ。で、こっちがドリっち。よろしくアル~]
[うむ、ドリーだ……アル。しばし宜しく頼むぞ、客人]

 そこで二人の店員(?)が挨拶した訳なんだけど。ジャーナリストの魂に賭けて、ドリー(キョンシーの方ね)は落ち着いた口調と違ってめっちゃピョンピョン跳び回ってる事だけは伝えとく。好きな近所のお姉さんが大学から帰省してきて浮かれてるガキんちょかよ。田舎に帰るとめちゃ生きのいい敬語骨チラ鉤爪キョンシーがいる。……誰が帰るかそんな実家! あー困りますーおやめくださいー家に帰るとキョンシーが必ず生きてるふりをしていますー。知恵袋に質問しなきゃー。どうして欲しいのかこの先どこに行きたいのか全く分かりません誰か教えてくださいー。
 ふざけた事を考えてるあたしと違って、虚宮は何か真剣に考えているみたいだった。

[ではでは喫茶店カフェ飲茶での催しは~! 運否天賦ウンプテンプの円卓ゲーム! アルよ~]
[この円卓を回し、客人が止める。客人は、二人の目の前に止まった皿のどちらかを飲食する……アル。これを5回行う]
[もちろん中には『ハズレ』もあるから、気をつけるアルよ~?]

 え、待って待って、おどけた仕草でとんでもないこと言ってくれたなコスプレガール&キョンシーボーイ?

「え、テーブルに乗ってる中に明らかにヤバそうなの4つもあるんだけど……!」

 6皿は綺麗なんだよね。中に花が沈んでるジャスミンのポットが花違いで2種類、美味しそうな人参スープ、可愛い桃まんじゅうの載った蒸篭、ごま団子、ナッツとドライフルーツのカラメル掛けみたいなもの。
 残りがヤバい。黒くてプルプルしたものが載ったお皿、干からびた虫っぽいものが載った皿、闇鍋感のある液体の入ったポットが一つ(テーブル回した時に嗅いだけど臭いからしてダメ、絶対飲みたくない)、でラストが……見た目は殻付き卵なんだけど、その、殻が取れた上から覗くに……多分、毛蛋マオタンと呼ばれるものじゃないかなー? はい【グロ注意報】ぴっぴっぴっ、知らないその子もうろ覚えのあの子も調べるなら気をつけて。マジの画像が検索トップに出てくるからね。

「目の前のソレとかならまあ、問題ないだろ」

 まあ、料理が来る前に席決めたとはいえ、ヤバい点心の真正面に座ってたくないからね。ヤバそうなの来てたら席変えてますよ。今のあたしの目の前は桃まんじゅうちゃん。いいね!

「質問がある。ターンテーブルから点心や茶を取った後はどう配置替えするんだ? 常に客の前には2枚皿が置かれるんだろう?」
[順番は変えず、客人が取った後の空いた場所に料理を寄せる。右の客人が取った皿の右の皿、左の客人ならその左が次の『客人の前の皿』となる]
「分かった」

 ふと閃いた事があって、あたしは虚宮に小声で言った。

「あのさ、そういえば、このテーブル、回り方が変なんだけど」
「ん?」
「かくかくしかじか回ってぐるうり。これ、なんか使えない?」
「なるほどな。……なら、普通にいけそうだな」
「いけそうって?」
「7択問題程度の運があれば、毒を踏まずにクリアできる。お手柄じゃないか、探偵」
「はあ……」

 褒められてるの?
 よく分かんないから状況を確認しようかな。今のあたしの手前は桃まん、そこから左回りにジャスミン茶(赤花)、人参スープ、虫のミイラ、ごま団子、暗黒ポット、グロ卵、黒いプルプル、ジャスミン茶(青花)、で虚宮の前にカラメルナッツ。

「ほとんど食えるな」
「毒々しいのいっぱいあるよ?!」
「3つだけだぞ?」
「……あの黒いプルプルとかミイラ?」
「それは毒じゃない」
「ええ……明らかエイリアン系じゃん……」
「なんで毛蛋は知ってるのに冬虫夏草と皮蛋ピータンは知らないんだよ」

 安全だろうが食べたくないの!

「じゃあ結局、何が毒で何が毒じゃないの?」
「あの黒いポットと青い花の茶と人参のスープ」

 飲茶のくせして飲める茶は1つだけかよ! てか、あの暗黒はやっぱり暗黒なのね。

「スープはダメなの?」
「高麗人参には薬効を増す作用があるのは知ってるか?」
「知らない」
「まあ、理科室も図書館も玄関も探索スルーしたから知らないよな」
「んん?」
「とにかく、単体では毒にならなくとも、組み合わせによって毒になる食材があるって話。人参入ってなきゃいけたんだけどな」

 わお。毒って言い切ったよこの人。

「じゃあ、暗黒はともかく、あっちのお茶はなんでダメなわけ?」
「あれ綺麗だけど毒花だからな」
「えっ」

 毒だったわ。

「確認するけど、時計回りに回した時には変な回り方はしなかったんだよな?」
「と思う。というか、ハイスピードで回るから狙って止めたりできなさそうだよね……」
「そこ弄れたらゲーム成り立たないからな」
「むう」

 諦めてあたしはテーブルに頬杖をつく。しょうがないからやってやりますよ。グロ系来たらお隣さんに食べてもらう気マジ120%だけど。

 じゃあ宿題といきますか。あたしの妄想の視聴者諸君、次回までにこの「円卓ゲーム」、どんな風に攻略するのが一番いいか考えてきてね。



 ……ま、あたしは考えないから答え合わせとかしないけど(ただし小声で言い残す)。
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