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響間
銀の子と聖アステリズム
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銀の瞳と髪をもつ少年は、やさしい青年の付き人をしている。彼の近くはいつもキラキラとしているので、少年にはちょっとまばゆい。まばゆいので、寝起きには目をパチパチさせながら「(おはようございます)」と声をかける。
「おはよう。……顔は洗ってきたのかい?」
「(はい! お目々はかゆくありません)」
新聞を読みながらにっこりしてくれる青年はやっぱり、太陽みたいにキラキラだ。近づいていいのか、いつも不思議に思ってしまう。せめて、と少年は首もとにつけたリボンをちょっと整えてから少しだけ近づいて、テーブルに花瓶をおいた。
「(きょ、今日のお花は、いただきものです)」
今いる国で作られたという、青い青いお花が三本。はじめてみた時はびっくりして青年に迷惑をかけてしまったことを思いだす。あれから、花瓶をおくときは慎重に動くことにしている。
「うん、綺麗だ。ありがとう」
「(はい!)」
「……おいで、『無会』」
「(はいっ!)」
少年は目を輝かせて青年に駆けよる。青年はあまり呼んでくれないが、少年はそう呼ばれるのがすきだ。ほんとうの名を持たない少年にとって、今だけの呼び名でも青年が呼んでくれることは喜びだった。
「こら、走ってはいけないと言っただろう?」
そう言いながらも、青年の顔はほころんだ。その主人の顔が、たまらなく少年は好きなのだ。
「(あの、カーフィです。どうぞ)」
「ありがとう」
少年には苦くてとても飲めないものを飲む青年は、少年の憧れだ。カップに満たされた黒いカーフィの表面から、くるくると白い湯気が出てきて青年の顔を包むのを、少年はとても綺麗だと思う。
「今日は何か郵便はあったかい?」
「(あっ)」
「いいよ、今からゆっくり確認しておいで」
「(はい……)」
郵便を確かめ忘れていた事にがっくりしながら、少年はしぶしぶ、そして急いで青年のテーブルをはなれる。
「転ばないようにね」
「(はい!)」
やはり、青年はやさしい。
*
「(こちらです)」
青年のところに届く手紙とか包みは、とても多い。少年は少しもたもたしながらも、青年のテーブルに全てを運んだ。
「ありがとう。こちらの山は、そのまま片付けちゃっていいかな。これとこれと、それからーー」
奥に置いた封筒を見つけて、青年の顔色が、すっ、と変わった。
「……へえ」
少し声が低くなったような気もする。青年はそのまま、その黒い封筒を手に取った。小さく「⁂」というマークが白抜きされている。
少年は首をかしげる。さっき持ってきたとき、黒い封筒なんてあっただろうか、と。
「感光して黒変する仕掛けか。面白い、ね」
青年は、ちょっと笑う。それが、少年にはちょっとこわく思えたのは……たぶん、気のせいだ。
ぱっと封筒を開いた青年は、中のこれまた黒い紙を開いてすばやく読んでいく。カーフィに手をつけることもなく読み終わると、ふっ、と明るい顔になった。
「うん、良い知らせだ。ありがとう、他は全て片付けて良いよ」
上機嫌な声だ。少年に話しかけてくれるときよりも楽しそうな……。
ふと、花瓶にささった3本の花があの封筒のマークに似ている気がして、少年はもやもやした気持ちを抱え込んだ。お花をくれるのは女の人で、女の人と話してるときの青年は、とても楽しそうだから。
少年は、手紙や包みの山に手をかけて、顔をくもらせた。
「どうしたんだい?」
「(かと……いえ、鏡華さま……こわいです、ぼく)」
「心配要らないよ、『無会』。私もお前も傷つくような事はない」
優しい声色にもどった青年は、そう言って頭を撫でてくれるけれど、少年の心が晴れることはない。
少年がこわいのはきずつくことなんかではなくて、青年のこころが少年から離れていくことだから。
「おはよう。……顔は洗ってきたのかい?」
「(はい! お目々はかゆくありません)」
新聞を読みながらにっこりしてくれる青年はやっぱり、太陽みたいにキラキラだ。近づいていいのか、いつも不思議に思ってしまう。せめて、と少年は首もとにつけたリボンをちょっと整えてから少しだけ近づいて、テーブルに花瓶をおいた。
「(きょ、今日のお花は、いただきものです)」
今いる国で作られたという、青い青いお花が三本。はじめてみた時はびっくりして青年に迷惑をかけてしまったことを思いだす。あれから、花瓶をおくときは慎重に動くことにしている。
「うん、綺麗だ。ありがとう」
「(はい!)」
「……おいで、『無会』」
「(はいっ!)」
少年は目を輝かせて青年に駆けよる。青年はあまり呼んでくれないが、少年はそう呼ばれるのがすきだ。ほんとうの名を持たない少年にとって、今だけの呼び名でも青年が呼んでくれることは喜びだった。
「こら、走ってはいけないと言っただろう?」
そう言いながらも、青年の顔はほころんだ。その主人の顔が、たまらなく少年は好きなのだ。
「(あの、カーフィです。どうぞ)」
「ありがとう」
少年には苦くてとても飲めないものを飲む青年は、少年の憧れだ。カップに満たされた黒いカーフィの表面から、くるくると白い湯気が出てきて青年の顔を包むのを、少年はとても綺麗だと思う。
「今日は何か郵便はあったかい?」
「(あっ)」
「いいよ、今からゆっくり確認しておいで」
「(はい……)」
郵便を確かめ忘れていた事にがっくりしながら、少年はしぶしぶ、そして急いで青年のテーブルをはなれる。
「転ばないようにね」
「(はい!)」
やはり、青年はやさしい。
*
「(こちらです)」
青年のところに届く手紙とか包みは、とても多い。少年は少しもたもたしながらも、青年のテーブルに全てを運んだ。
「ありがとう。こちらの山は、そのまま片付けちゃっていいかな。これとこれと、それからーー」
奥に置いた封筒を見つけて、青年の顔色が、すっ、と変わった。
「……へえ」
少し声が低くなったような気もする。青年はそのまま、その黒い封筒を手に取った。小さく「⁂」というマークが白抜きされている。
少年は首をかしげる。さっき持ってきたとき、黒い封筒なんてあっただろうか、と。
「感光して黒変する仕掛けか。面白い、ね」
青年は、ちょっと笑う。それが、少年にはちょっとこわく思えたのは……たぶん、気のせいだ。
ぱっと封筒を開いた青年は、中のこれまた黒い紙を開いてすばやく読んでいく。カーフィに手をつけることもなく読み終わると、ふっ、と明るい顔になった。
「うん、良い知らせだ。ありがとう、他は全て片付けて良いよ」
上機嫌な声だ。少年に話しかけてくれるときよりも楽しそうな……。
ふと、花瓶にささった3本の花があの封筒のマークに似ている気がして、少年はもやもやした気持ちを抱え込んだ。お花をくれるのは女の人で、女の人と話してるときの青年は、とても楽しそうだから。
少年は、手紙や包みの山に手をかけて、顔をくもらせた。
「どうしたんだい?」
「(かと……いえ、鏡華さま……こわいです、ぼく)」
「心配要らないよ、『無会』。私もお前も傷つくような事はない」
優しい声色にもどった青年は、そう言って頭を撫でてくれるけれど、少年の心が晴れることはない。
少年がこわいのはきずつくことなんかではなくて、青年のこころが少年から離れていくことだから。
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