93 / 105
-97.8℃
7°F イン・ザ・バーミキュライト
しおりを挟む女は眼鏡に息を吹きかけて、ハンカチで埃を拭った。レンズが傷つくのは分かっているが洗いに立つ気にもなれない。
「模倣犯の可能性がある2件、特殊案件として除外した3件を除き、気温が■℃以下、あるいは前日比-■℃の日の0時~29時の間に全ての犯行が行われている。更に一般的には、早朝1時~3時頃が■℃前後である日。警戒区域は……皿達千」
無人の部屋のデスクの上にみっともなく、普段は針金のように伸ばしていた背を丸めて頭を投げ出す。
「人のぬくもりが恋しい、か」
女は刑事だ。それも、時流にうまく乗り、コネでも何でも使って一課のトップに昇りつめた女だ。好き勝手できる権限と余裕と金が欲しかった。そして得た。からかい甲斐のある部下も捕まえた。代償に失って惜しかったのは視力くらい。もう先に目的はない。その地位をキープできるだけの事をするだけだ。そのはずだった。
「過去は消えない。双方が忘れるか死にでもしない限り葬る事は叶わない。当然のことだったよな」
女は呟く。思考をそのままアウトプットするかのように口にする。
「あの事件からもう■年。あの少年も、とっくの昔に大人だ」
無人の部屋で、言い聞かせるように声に出して言う。
「あれだけの過酷を生き延びて長い後遺症も無かったんだ、さぞや健康で丈夫に育っただろう。もしかすると、心も、」
女の手元には小さな雪降る街の地図の一部が映し出されたタブレットがある。様々な統計から絞り込まれた、ただ1点の小さな区域。住民が隣にはリスト化されて並ぶ。
「報いを受けるべき者は司法の報いは受けた。それで少年は、満足――」
そのリストの一列だけが塗り潰された。
「――するわけがないよな」
「……誰の話ですか?」
女は、鶏ガラのような体を少し軋ませた。その動作の中に、急に人が現れた驚きも独り言を聞かれた焦りの発露も全部含めて抑えこんだ。素早く指がフォルダを閉じる。一瞬でも閉じれば、全ては複数のパスワード入力を要求する頑丈な電子の海底に沈む。
「何でもないさ。君、忘れ物でも取りに来たのかい?」
「そうなんですよ、実は」
二人の視線はねじれて、全く噛み合いもしない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
旧校舎のシミ
宮田 歩
ホラー
中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる