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山の端さっど

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 身体が拘束されてる? 大声上げても誰にも聞こえない? それが何だ。指は自由で、おまけにネットに繋がってる。こんなイージーな状況があるもんか。ただの誘拐なら、俺は口笛でも吹いてたはずだった。
 それがどうだ。
 必死こいて指の運動しながらマイクテストすることになるとはな。

 誤算だらけだ。予想を遥かに越えてとんでもない事をしてやがった妹。2人の人質。
 そして、無駄に焦って、に送っちまった文面。

「3、2、1……音声で悪いな。口しか使えないんだ。で、俺を殺してくれないか」

 簡潔にまとめんのはだるいな。俺のしょうがねえ妹について。目の前にぶら下がってる嬢ちゃんたちについて。
 自分でケリつけられれば良かったが、俺が自殺すると嬢ちゃんたちも死んじまう。助けようにも数字錠は6桁だ。警察も頼れない。

「俺との入れ替わりを狙うのはやめておけ。無理に入れ替わった直後は不安定なんだ。頭をやるなら殺す気でやれ。というより殺せ。妹を確実に殺してくれ。頼む」

 さて、そろそろアクセスできる。あと何か言うことは……

「……うっかり情けねえ事、相棒に吐いちまってな。多分ここに来ちまう。できれば……いや無理か。勿論覚悟して来るんだろうし、元凶は俺だし、武装した奴を助けてくれとは言えねえな。忘れてくれ」

 ……色々言い過ぎたが編集する暇はなかった。
『相棒は子供なんだ、手加減してくれ』なんて禁句は言わないぜ。そんな事言ったらあの世で相棒に殺されちまうからな。

 音声データを送信して痕跡を雑に削除。
 ここまで整えておけば、後は何も気づかず妹がこの場所への招待状をスターラーに送ってくれるだろう。

「……お前が俺の一部だなんて、最後まで認められなくてごめんな」

 さて、やることは全て終わって心残りばっかりだ。









 じっと黙って、ただ目をつぶっていた。息をひそめていた。
 ただ、何も知らないって顔で吊られていた。
 私は臆病者だ。

 女の人の様子は明らかにおかしかった。でも勇気が出なかった。カフェに連れ込まれたとき、さも私の体調を心配してくれるフリをされた事とか、気分で殺されそうだった事とか。何もかも怖かった。

「音声で悪いな……」

 急に話し始めた時にも、びっくりするだけで何もできなかった。
 二重人格。どこか物語のように聞いていた。

 私にはもう何もできない誰かの、初めて知った物語。

(『一部』なんかじゃ、たぶん……絶対、ない)

 私は心の中で呟く。
 だって、全然違う声だ。
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