暖をとる。

山の端さっど

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27°F 白花満ちる棺桶

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「白花のピアニスト」は病死ではなく、毒死だった。



 そのニュースは一課を、そして世間を瞬く間に駆け巡る。
 一見事件性はなく、病院関係者でも気づかなかった毒。「スターラー」の死体損壊を受けて検死が行われていなければ、明るみに出る事は無かっただろう。

「まるでスターラーが教えてくれたみたいだなぁ」

 中年の剽軽ひょうきんな刑事は首筋に手をやった。
 呑気とか薄っぺらいとか言われるし性根が曲がっているとも言われる。刑事になったのは正義感より、気になる事件を最先端で追いかけるのが面白いと思ったからだ。玉石混交の事件に二十年揉まれ続けて角は取れたが、こういう話はやはり今でも面白い。

 一方で、同じ年に就職してから何かと縁のある同期はむっつりと嫌な顔をする。
 冴えないが妙に事件解決に関わることが多い、一課の「死神」だ。この男はとりわけ、スターラーに良い印象を持っていない。

「ファンの仕業か」

 科捜研によれば、とあるに多く含まれることで知られる、珍しい毒らしい。まだ調査中だが、病室に飾られた花の中に混ぜられていたのだろう。
 毒性は低い。長い間慢性的に吸い続けていなければ、あるいは病で弱っていなければ、死に至る事はなかっただろう。まさにあの病室は死の棺桶だったわけだ。

「しっかし妙だよなあ」
「何がだ」
「だって病院だぜ? そんで部屋全体に花置いてたんだぜ?」

 呑気に刑事は「死神」の目の前で手を振った。

「もし精密機器置いてなかったとしても、毎日床にバラ撒かれた花粉の掃除するなんて俺はごめんだ。俺が担当なら、花粉がくっついてない花だけ飾るだろうな」
「――そうか!」
「それに一応、病院ではあんまり花粉が落ちない花とか、花粉取った後の花贈んのがマナー……おーい、話の途中で勝手にいなくなんなよ。……あ、戻ってきた」
「出るぞ!」
「あー? はいよ」



 まあ、そういうわけで。
 それから数日後、「死神」と呑気な刑事は、毒花の花粉を食事などに混ぜていた看護師を無事、逮捕する。ファンからの花には調査の限り、一輪も毒は無かった。

「よ、お手柄だったな」
「……ああ、良かった」

 のらりくらりしているのが好きな刑事が、自分から捜査方針に口出しするのが嫌で、それとなくヒントを出して「死神」に気づいてもらった……なんて事実は無いので、呑気な刑事は今日も同期を少しおだてて一歩引いた場所で呑気にしている。
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