暖をとる。

山の端さっど

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-87℃ 囁く星影

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「ふん。スターラーではないな。下の戦闘音の片方か」

 過程は省略。ひとり屋根裏に突入したクライが、縛られて転がされている少年を揺さぶって起こしたとき、少年の第一声はそれだった。

「っ……騒がずに俺の言うことを聞い……聞けよ。急いでるんだ」
「ウィークポイントを脅す相手に教えてどうする。せめて『グズグズすれば殺す』とでも言い換えろ。何のために拳銃を持っている?」
「あ……」
「おおかた戦闘でいも……あの女を封じているうちに貴様が上を調べに来て僕を見つけたというところか。いかにも遊兵だな。そこの女を運ぼうとして失敗した形跡からして彼女の救出をミッションとしていると。そして力が足りずやむなく僕の力を借りようとしたものの不慣れなやり方で貴重な時間を浪費している」

 目が覚めてからいつの間に状況を把握したのか、事実ばかりを少年はスパスパと言った。

「……お前は、スターラーさんに連絡してきた……」
「その質問に価値はあるか? 無ければ早く選べ。一人で気絶した人間を運びながら戦闘区域を脱出するか。僕の拘束を解いて助力を乞うか。どうやらスターラーは苦戦しているんだろう?」
「……分かった」

 クライは少年の拘束を切った。

「まず邪魔を下ろすか」
「邪魔?」
「まだ貴様の事じゃないさ。そこら中に転がっている備品の中に寝袋や服やシーツがあるだろう。結んで繋げ。体を包んで命綱を静かに垂らせばそこの窓から雪の上へ下ろせるだろう」



 虫に食われたり劣化してボロボロになっていた埃だらけの備品の中から、雪の上に降ろしても大丈夫そうな耐寒装備、強度を保てそうなシーツ、遠くからでも目立つ色布などを掘り起こして準備するまでしばらく時間が掛かった。少しだけ弱まった雪風の中に血まみれの女の子が無事落とされるまで、さらにしばらくの時間。その間ずっと、階下の音は止まなかった。



「……これで良し。残弾は?」
「えっと」

 クライは簡単に少年に銃を引ったくられた。

「……3か。残っているのに撃たなかったのか?」
「……」
「無言は非生産的な時間だ。遊兵に戦闘を期待する者など居ない――まあ良いさ。好都合だ」

 そして少年はクライを撃った。



 その一部始終をクライと繋がる通信機で聞いていたから、わたしはすぐに彼に、

「上から撃たれる!」

 そう警告できたというだけなのだ。

「クライ? クライ! 大丈夫? 返事して!」

 返事は、たっぷりのうめき声と、一つだけ。

「……あの子も、逃がせました……」
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