暖をとる。

山の端さっど

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-88℃ 完熟パイン生ジュース

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「……チッ」

 スターラーを撃った弾丸は避けられて急所を外した。

 無力化すべき人間が三人。銃弾も3。撃った経験もあった。まずは眼前の邪魔を排除。直後にスターラーを天井から悠々と急襲。うまくいけば「妹」まで撃つ予定だった。

(女が居たとは)

 下の状況を確認しなかった僕のミスだ。

 反撃を受ける前にと屋根裏扉から飛び退くが積まれていたジュースの紙パックにぶつかりバランスを崩す。

「ちょっとー! 銃きらーい!」

 下から投げつけられた投げナイフが次々と天井板に刺さって突き破る。その一つが僕の利き足を貫いた。

「ぐっ!」

 破裂した紙パックのジュースが傷口に染みる。ストレートのパイナップル。ああ。趣味が悪いな。近くの包帯まで濡れた。
 負傷した事は既に勘付かれているだろうが矜持として叫ばないよう布を噛みしめて足を引き抜く。包帯で縛るが応急処置にもならない。

 弾はあと1発。階下の頭数が減るまで待つか?

(無理だ)

 戦闘を止めて様子を窺っている。僕が黙っていれば二人いや三人がかりで排除に掛かってきてもおかしくない。位置でも武器性能でも優位を取っているのは一応僕だ。

 降参してみるか? まあしないが。

「妹」。貴様がいる限り降参も離脱も絶対にしない。
 ようやく脅威として意識してもらえた。この「遊兵」すら片腕を脱臼していたというのに僕が無傷で捕縛なんて不名誉だと思っていたんだ。
 後悔させてやる。死を覚悟した僕に生き恥を晒させた罪を知れ。
 貴様を捕らえた暁には此処のような山奥に幽閉してやろうか。もう何もできないよう拘束して首輪をつけてやる。探偵もきっと理解してくれるだろう――

「……はっ」

 自嘲が肺の付け根から飛び出す。

 下らない嘘を吐くべきじゃないな。
 何が「彼氏」だ。何が「理解してくれるだろう」だ。僕はせいぜい数年の契約を持つだけのただの雇用主じゃないか。なあ探偵。
 クソ。考えろ。どうすれば――



 どうすれば、探偵を死なせずに済む?







「……なぁ、お前って強欲、だな……」

 弱々しい声が服の裾を掴んでいた。

「何だと?」
「そうだろ……俺、お前の考えてる事、見えるからさ……スターラー撃ってまで、あの女助けようとして……今も、諦めてない、馬鹿だ……」
「違う」
「違わない……」

 こんなか弱い腕が、僕を引きずり倒す。力よりも体重とバランスの問題なのだろう――脇腹に床から生えたナイフが刺さる。

「諦めよう……もう、全部手に入れられる状況じゃ、無いだろ……」

 冷たい――
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