暖をとる。

山の端さっど

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-83℃ レモンサプライズ

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 拙いのは元より予測していた。

「子供じゃーんうそー! さすがにうそでしょ? えーやだー大柄ー!」

 予測外は3点。この最奥に到達するまでに誰も見かけなかった事。「妹」の背後に見覚えのある女が血塗れで転がっている事。そして突入から1分も要さずにこの僕が武力制圧されかけている事だ。

「てか銃持ってないし。誰ー?」

 言葉の途中でも飛んでくるナイフが僕を射抜こうとする。一度壁に突き刺されば容易には引き抜けない。まるで銃弾だ。探偵のアクションとも全く違う。
 しかし僕は以前……どこかでこの身のこなしをイメージした事があったらしい。そのお陰か刃物やあらゆる護身具を破壊されても命だけは残っている。

 ……ああ。探偵に不必要な筋肉が付いていた記憶があった。あれは貴様に必要な肉だったわけだ。

「誰か? 貴様の『兄』の彼氏だ。宜しく」

 ……攻撃が止まった。

「お兄ちゃんの?」
「ああ」
「えっ待って待って待ってよちょっとぉーあーもーヤバー! 言ってよー!」

 おいおい。攻撃の手を止めてくれるほどのジョークを言った覚えは無いんだが?

「えー、ねえねー、どうやってモノにしたの? てゆーかお兄ちゃんかわいくないけどいーの?」

 まるで恋愛話に興じる盲目な乙女だ。勘弁してくれ。
 虫唾が走る。
 探偵の顔でそんな姿と仕草をするな。
 貴様は――

「貴様は、探偵ではない!」

 探偵の脳から生まれただけの膿が探偵を騙るな。

 僕は靴で足元から跳ね上げたナイフを掴み、マフラーに包まれた首を突き刺した。



「……えぅわっ?」

 やはりお喋りに夢中になっていて見えなかったか。聞こえなかったか――

 ――傷口を焼き口を塞いだだけで放置された哀れな女が必死に這いずって床に落ちていた貴様のナイフを僕の足元へと蹴ったのを。

 良い切れ味のナイフだ。マフラーを突き破り、確かに肉を突き通して骨まで当たって止まった感触がした。
 これで詰みだ。



 僕はナイフを手放して手を上げた。

「降参だよ」
「もーいーの? 面白いのにー」

 首を切られて死なない化け物か。ここで元気に立っているなら僕には倒せない。負けを認めないほど僕は愚かではない。

(死ぬのか)

 よりにもよって探偵と同じ手に掛けられて。
 いかなる死も想像しうる。しかしいかなる死も受け入れられるものか。
 死の直前まで僕はーーくそ。身体が震える。ふざけるな。ここにきて気絶や自死などしない。それこそ惨めな敗走だ。

「どーしよっかなー」

 素早くナイフの柄が頭を打つのを最後まで目で捉えて
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