暖をとる。

山の端さっど

文字の大きさ
上 下
81 / 105

-81℃ 玄のほろろ

しおりを挟む
「待て! クソッ、どこ行った……」

 中年刑事は子供の人影を追ってエントランスを駆け抜け、一階の左奥へ走った。子供。刑事の頭には1人、ここに居てもおかしくない少年の姿がよぎる。

 ほとんど窓も割れているが、奥へ行けばある程度壁も床も綺麗な状態のままだ。カーペットを踏んづける足は柔らかい。当然、泥だらけの足跡が点々と残っている。

(多分1人じゃないな)

 思いながら刑事は一瞬立ち止まる。
 足跡が二手に分かれてそれぞれ別の扉へ向かっていた。
 今度はギリギリ見える。大人と子供。どちらの先の扉も閉まっている。

(……落ち着け。スターラーは子供じゃねえ。それに女だ。なら俺が行くべきは……)

 懐中の携帯は当然鳴らない。刑事は懐に手をやって浅く息をつき、大きな足跡の方へと向かった。扉の前で少しだけ様子をうかがい、一気に扉を開けて踏み入る。

 警察官ではなく、私怨を抱える一個人として。
 今だけは服務規定もモラルも忘れて、取り出したをセーフティを外して構えながら。事件に数多く巻き込まれてきたこの男が銃を抜く経験が無いはずもなく、慣れて馴染んだ動作を行いながら――



「手を上げろ! 警察だ!」

 ――咄嗟に出てしまったのは、悲しくも中年男の何十年に染みついた言葉だった。



 部屋の端で何かが揺れる。
 とっさに刑事はソレを撃つ。撃ってしまう。

 ぴったり頭の中心を射抜いた手腕は見事と言うべきか――扉が開かれたことでロープがゆるみ、簡単な仕掛けが作動してゆっくり倒れかけていた古い人間の遺体は、壊れて向こう側へと崩れ落ちた。

(罠だと?!)

 刑事は慌てて部屋の奥へと進む。幸い、部屋の奥にはそれ以上の罠や待ち伏せの人が見当たらない。

「何でこんな中途半端な罠を……」

 刑事は呟く。気味が悪い。罠を作ったはいいものの、結局別の部屋で待ち伏せる事にしたのだろうか。

(……遺体に悪い事しちまった)

 拳銃を手放す事なく、目だけで軽く黙祷する。

(ここに他の奴が居るなら、拳銃の音が聞こえちまってる。もしかしたら「警察だ」って声も……クソ。逃げられる前に早く追わねえと)



 中年男は結局、ドアの影に隠れていた誰かからスタンガンを押し当てられるまで、カーペットについていたのが大人1人分……部屋に入る足跡だけだった事を思い出せなかった。

「がっ……?!」
「悪いけど」

 動けなくなった刑事の背後から、若い青年の声がする。

「俺たち、警察に捕まる前にやる事があるんで!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旧校舎のシミ

宮田 歩
ホラー
中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...