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-81℃ 玄のほろろ
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「待て! クソッ、どこ行った……」
中年刑事は子供の人影を追ってエントランスを駆け抜け、一階の左奥へ走った。子供。刑事の頭には1人、ここに居てもおかしくない少年の姿がよぎる。
ほとんど窓も割れているが、奥へ行けばある程度壁も床も綺麗な状態のままだ。カーペットを踏んづける足は柔らかい。当然、泥だらけの足跡が点々と残っている。
(多分1人じゃないな)
思いながら刑事は一瞬立ち止まる。
足跡が二手に分かれてそれぞれ別の扉へ向かっていた。
今度はギリギリ見える。大人と子供。どちらの先の扉も閉まっている。
(……落ち着け。スターラーは子供じゃねえ。それに女だ。なら俺が行くべきは……)
懐中の携帯は当然鳴らない。刑事は懐に手をやって浅く息をつき、大きな足跡の方へと向かった。扉の前で少しだけ様子をうかがい、一気に扉を開けて踏み入る。
警察官ではなく、私怨を抱える一個人として。
今だけは服務規定もモラルも忘れて、取り出した拳銃をセーフティを外して構えながら。事件に数多く巻き込まれてきたこの男が銃を抜く経験が無いはずもなく、慣れて馴染んだ動作を行いながら――
「手を上げろ! 警察だ!」
――咄嗟に出てしまったのは、悲しくも中年男の何十年に染みついた言葉だった。
部屋の端で何かが揺れる。
とっさに刑事はソレを撃つ。撃ってしまう。
ぴったり頭の中心を射抜いた手腕は見事と言うべきか――扉が開かれたことでロープがゆるみ、簡単な仕掛けが作動してゆっくり倒れかけていた古い人間の遺体は、壊れて向こう側へと崩れ落ちた。
(罠だと?!)
刑事は慌てて部屋の奥へと進む。幸い、部屋の奥にはそれ以上の罠や待ち伏せの人が見当たらない。
「何でこんな中途半端な罠を……」
刑事は呟く。気味が悪い。罠を作ったはいいものの、結局別の部屋で待ち伏せる事にしたのだろうか。
(……遺体に悪い事しちまった)
拳銃を手放す事なく、目だけで軽く黙祷する。
(ここに他の奴が居るなら、拳銃の音が聞こえちまってる。もしかしたら「警察だ」って声も……クソ。逃げられる前に早く追わねえと)
中年男は結局、ドアの影に隠れていた誰かからスタンガンを押し当てられるまで、カーペットについていたのが大人1人分……部屋に入る足跡だけだった事を思い出せなかった。
「がっ……?!」
「悪いけど」
動けなくなった刑事の背後から、若い青年の声がする。
「俺たち、警察に捕まる前にやる事があるんで!」
中年刑事は子供の人影を追ってエントランスを駆け抜け、一階の左奥へ走った。子供。刑事の頭には1人、ここに居てもおかしくない少年の姿がよぎる。
ほとんど窓も割れているが、奥へ行けばある程度壁も床も綺麗な状態のままだ。カーペットを踏んづける足は柔らかい。当然、泥だらけの足跡が点々と残っている。
(多分1人じゃないな)
思いながら刑事は一瞬立ち止まる。
足跡が二手に分かれてそれぞれ別の扉へ向かっていた。
今度はギリギリ見える。大人と子供。どちらの先の扉も閉まっている。
(……落ち着け。スターラーは子供じゃねえ。それに女だ。なら俺が行くべきは……)
懐中の携帯は当然鳴らない。刑事は懐に手をやって浅く息をつき、大きな足跡の方へと向かった。扉の前で少しだけ様子をうかがい、一気に扉を開けて踏み入る。
警察官ではなく、私怨を抱える一個人として。
今だけは服務規定もモラルも忘れて、取り出した拳銃をセーフティを外して構えながら。事件に数多く巻き込まれてきたこの男が銃を抜く経験が無いはずもなく、慣れて馴染んだ動作を行いながら――
「手を上げろ! 警察だ!」
――咄嗟に出てしまったのは、悲しくも中年男の何十年に染みついた言葉だった。
部屋の端で何かが揺れる。
とっさに刑事はソレを撃つ。撃ってしまう。
ぴったり頭の中心を射抜いた手腕は見事と言うべきか――扉が開かれたことでロープがゆるみ、簡単な仕掛けが作動してゆっくり倒れかけていた古い人間の遺体は、壊れて向こう側へと崩れ落ちた。
(罠だと?!)
刑事は慌てて部屋の奥へと進む。幸い、部屋の奥にはそれ以上の罠や待ち伏せの人が見当たらない。
「何でこんな中途半端な罠を……」
刑事は呟く。気味が悪い。罠を作ったはいいものの、結局別の部屋で待ち伏せる事にしたのだろうか。
(……遺体に悪い事しちまった)
拳銃を手放す事なく、目だけで軽く黙祷する。
(ここに他の奴が居るなら、拳銃の音が聞こえちまってる。もしかしたら「警察だ」って声も……クソ。逃げられる前に早く追わねえと)
中年男は結局、ドアの影に隠れていた誰かからスタンガンを押し当てられるまで、カーペットについていたのが大人1人分……部屋に入る足跡だけだった事を思い出せなかった。
「がっ……?!」
「悪いけど」
動けなくなった刑事の背後から、若い青年の声がする。
「俺たち、警察に捕まる前にやる事があるんで!」
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