暖をとる。

山の端さっど

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-79℃ 背中の収穫鎌

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 成果に結びつくことは少ないが、ここ何十年の経験からくる中年刑事の勘は「嘘つき」と「ヤバい事に足突っ込んでる奴」を見逃さない。早朝に山中に居る挙動不審な女性と「プレコシティ」への呼びかけ、刑事を見た時の信じられないという表情、バイク痕から分かる目的地の方向。それだけで刑事が進むべき道を確信するには十分だった。

「運転させて悪かったな」
「いえ、どうせぶらり旅の予定だったので。刑事さんのお役に立てて何よりです。ところであの女性、ほとんど話も聞かず帰してしまって良かったんでしょうか?」
「免許証は見たし、違反っていってもしょっ引くようなもんじゃないからな。それに、この先には俺一人で行く」
「おや?」
「そろそろ下ろしてくれ。ここから先は危険だ」
「なにもこんな雪の中で降りなくとも」
「あんたみたいなのを危険に遭わせないのが俺の仕事だ。雪で道が埋まる前に帰れよ」

 親切な声を半ば強引に振り切って刑事は車を降りた。

(この先に何があるっていうんだ?)

 既に車の中で携帯は圏外になっている。無駄に叩いてみたが何が起こるわけもなかった。灯代わりにはなるだろうが、経験則で気温の低いときには電池の減りが早い。刑事は懐深くに携帯を押し込んで歩き進めた。
 本格的な防寒着など着ていないが体力と意地と多少の運で、刑事は洋館――らしき廃墟にたどり着いた。

「これは……」

 車やら機械やらが大量に不法投棄されたゴミの山に囲まれた2階建ての建物はかつての別荘だったのだろうか。玄関が開いて風雪が吹きこんでいるのが見える。なるほど、拠点の雰囲気は「半白骨死体」の現場に似ていた。

(この中にスターラーが居るのか?)

 刑事は首を振る。そんな事は入ってみなければ分からない。そもそもスターラーと会ってどうするつもりなのか、刑事自身にもまだ分からなかった。

(いざって時は……)

 懐を少しだけ確認し、あとは前だけを向いて建物へ入っていく刑事には後ろが見えていない。刑事が来たのとは別の、裏手から来る道があることも、刑事の様子を廃棄物の山の陰から伺う人物の姿も見えていない。
 ただ、前を誰かが行くのが見えた。

「待てっ!」

 刑事は走り出した。
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