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山の端さっど

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-78℃ 土産物ベリータルト

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(ふざけるな)

 時速100キロでフルフェイスのヘルメットに頭を包んでの移動中に多くの情報を入手し処理することは不可能だ。それでも最低限の情報は自動処理してイヤフォンから音声通知として送られてくるよう設定してあった。
 認めよう。最低限だ。それ以上の事は高速を降りてバイクを一度止めるまで不明だったのは確かだ。しかし「死神」が指示に逆らって乗り物まで入手し情報屋の付近まで接近してきた場合のアラートなど想定できるものか。

 ……落ち着け。現状を分析しろ。
 まず情報屋からの連絡は途絶えた。接続が拒否されてリダイヤルできないということは死神との接触は不可避だったか。今後どう動くかは不明だが今僕に介入できる事はない。

(ならば目の前の事に注力すべきか)

 探偵からの一通のメールに。



『悪いな、今力になれなくて。俺は目下捕らわれの身だ。お前さんは来ない方がいい。実は俺って大量猟奇殺人鬼なんだぜ? ふざけた話だよなあ。スターラーに、俺に殺されたくなかったら来るなよ』



(ふざけているのはお前だ。探偵)

 僕がそんな文言で怖気づくとでも思ったか? まるで自分がスターラーであるかのようにミスリードして僕が騙されるとでも思ったか。探偵がスターラーだったのならその事実に衝撃を受けて僕が歩みを止めるとでも思ったか。
 ふざけるな。

 今の探偵の状況は不明だ。詳細が不透明な以上これを送ったのが探偵とも断ずる事はできない。一時的に探偵の意識に戻っていたとしていつまで続く?
 そもそも捕らわれとは何だ。ただ読めばスターラーに物理的に捕らえられていると読める。しかし悠長にこのようなメールを送る隙はあるらしい。スターラーが一度も殺害対象を監禁していた事例が無い事からもピースが合わない。そもそも探偵に通信環境をみすみす与えるなど愚の骨頂だ。
 となれば無知の第三者が絡むのか。あるいは精神的な「捕らわれの身」か――



「……探偵はつくづく愚かだ」



 文章を精査する暇は無かったのだろう。だからこのような本音の漏れた文が出来る。

 そもそもスターラーと会う「約束」のある僕が引き返す可能性など考慮に値しないがもし約束など無かったとしよう。
 探偵が捕らわれたと聞いて慎重になり一度引き返す事はあるだろう。しかし万が一にも――探偵を救いに駆けつける気を無くす僕などいるものか。

 それとも僕が来ると確信してわざとこう書いたのか? もしそうならとんだ悪女がいたものだ。なあ探偵。
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