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山の端さっど

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-70℃ 冬の第七話「青蝋燭」

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「人の背ほどの巨大な百本蝋燭を構えた百物語、しかも年の暮れの催しへ自分を呼んでいただけるとは思いませんでした。おまけに大トリとは光栄の限りです。

 そういえば、百物語を終えたときに起きるとされる事は様々ですが、一説によれば青行燈あおあんどんという女の鬼妖怪が現れるそうですね。まだ自分は遭ったことがありませんが、青行燈らしき存在に遭ったという幽霊のお話は聞いたことがあります。



『良かったですねぇ、坊や。あんたの火はきれーいに燃え上がってうまく留まった』

 こんな風に小粋ぶった声を、幽霊に向かって掛けたのは、首から蝋燭の芯が伸び頭の代わりに大きな火を灯した着流しの男でした。

『おっと、死後すぐってぇのは何が起きたか思い出せないんだった。坊や、あんたが百物語をやったのは覚えてますかい? あっしとの賭けの内容は? こいつがあんたの命を表す蝋燭だってのは?』

 彼は死因すら覚えていませんでしたが、目の前で燃える大量の蝋燭を見ているうちに一つのことを思いつきました。落語の「死神」です。この蝋燭男はまさか死神で、一面の蝋燭はみな、生きている誰かの命の火なのでしょうか。
 ふと幽霊は、自分と同じ幽霊なのでしょうか、火の玉がいくつも周囲に漂っているのを感じました。

『百物語は交霊術って言いやすがね、霊が降りてくんのはここなんですよ。あっしの仕事場に入り込んで蝋燭をよぉく見張ってる。ほら、あそこの20本をご覧なさい。一人につき五話の怪談だ』

 蝋燭男が指さした先では煌々と火が燃えておりました。

『ああやって命を燃やして交霊に必要なエネルギーを支払うんですよ。ほら、もう百話が語られるところです』

 全ての火が強く燃え上がったかと思えば、くっついて、ぷかり、と蝋燭を離れて漂い始めました。と同時に、漂っていた幽霊が次々、火の消えた蝋燭へ向かって飛び込んでいきました。

『これだけの火が燃え盛るんだ、どんな不気味な事が起きたって不思議じゃあござんせんでしょう?』

 幽霊は、自分の体が蝋燭へ吸い込まれていくのを感じました――




 ――幽霊に話を聞いたといっても、自分が会ったのは普通の人間にしか見えないお方だったのです。はてさて、死神と行った賭けとは何だったのでしょうね。
 さて、今日は早めに失礼いたします。少し変わったお客霊の話を伺う予定がありまして……ですので、最後の蝋燭の火消しという大イベントは残る皆さま方でぜひ、ごゆっくりと」
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