70 / 105
-70℃ 冬の第七話「青蝋燭」
しおりを挟む
「人の背ほどの巨大な百本蝋燭を構えた百物語、しかも年の暮れの催しへ自分を呼んでいただけるとは思いませんでした。おまけに大トリとは光栄の限りです。
そういえば、百物語を終えたときに起きるとされる事は様々ですが、一説によれば青行燈という女の鬼妖怪が現れるそうですね。まだ自分は遭ったことがありませんが、青行燈らしき存在に遭ったという幽霊のお話は聞いたことがあります。
『良かったですねぇ、坊や。あんたの火はきれーいに燃え上がってうまく留まった』
こんな風に小粋ぶった声を、幽霊に向かって掛けたのは、首から蝋燭の芯が伸び頭の代わりに大きな火を灯した着流しの男でした。
『おっと、死後すぐってぇのは何が起きたか思い出せないんだった。坊や、あんたが百物語をやったのは覚えてますかい? あっしとの賭けの内容は? こいつがあんたの命を表す蝋燭だってのは?』
彼は死因すら覚えていませんでしたが、目の前で燃える大量の蝋燭を見ているうちに一つのことを思いつきました。落語の「死神」です。この蝋燭男はまさか死神で、一面の蝋燭はみな、生きている誰かの命の火なのでしょうか。
ふと幽霊は、自分と同じ幽霊なのでしょうか、火の玉がいくつも周囲に漂っているのを感じました。
『百物語は交霊術って言いやすがね、霊が降りてくんのはここなんですよ。あっしの仕事場に入り込んで蝋燭をよぉく見張ってる。ほら、あそこの20本をご覧なさい。一人につき五話の怪談だ』
蝋燭男が指さした先では煌々と火が燃えておりました。
『ああやって命を燃やして交霊に必要なエネルギーを支払うんですよ。ほら、もう百話が語られるところです』
全ての火が強く燃え上がったかと思えば、くっついて、ぷかり、と蝋燭を離れて漂い始めました。と同時に、漂っていた幽霊が次々、火の消えた蝋燭へ向かって飛び込んでいきました。
『これだけの火が燃え盛るんだ、どんな不気味な事が起きたって不思議じゃあござんせんでしょう?』
幽霊は、自分の体が蝋燭へ吸い込まれていくのを感じました――
――幽霊に話を聞いたといっても、自分が会ったのは普通の人間にしか見えないお方だったのです。はてさて、死神と行った賭けとは何だったのでしょうね。
さて、今日は早めに失礼いたします。少し変わったお客霊の話を伺う予定がありまして……ですので、最後の蝋燭の火消しという大イベントは残る皆さま方でぜひ、ごゆっくりと」
そういえば、百物語を終えたときに起きるとされる事は様々ですが、一説によれば青行燈という女の鬼妖怪が現れるそうですね。まだ自分は遭ったことがありませんが、青行燈らしき存在に遭ったという幽霊のお話は聞いたことがあります。
『良かったですねぇ、坊や。あんたの火はきれーいに燃え上がってうまく留まった』
こんな風に小粋ぶった声を、幽霊に向かって掛けたのは、首から蝋燭の芯が伸び頭の代わりに大きな火を灯した着流しの男でした。
『おっと、死後すぐってぇのは何が起きたか思い出せないんだった。坊や、あんたが百物語をやったのは覚えてますかい? あっしとの賭けの内容は? こいつがあんたの命を表す蝋燭だってのは?』
彼は死因すら覚えていませんでしたが、目の前で燃える大量の蝋燭を見ているうちに一つのことを思いつきました。落語の「死神」です。この蝋燭男はまさか死神で、一面の蝋燭はみな、生きている誰かの命の火なのでしょうか。
ふと幽霊は、自分と同じ幽霊なのでしょうか、火の玉がいくつも周囲に漂っているのを感じました。
『百物語は交霊術って言いやすがね、霊が降りてくんのはここなんですよ。あっしの仕事場に入り込んで蝋燭をよぉく見張ってる。ほら、あそこの20本をご覧なさい。一人につき五話の怪談だ』
蝋燭男が指さした先では煌々と火が燃えておりました。
『ああやって命を燃やして交霊に必要なエネルギーを支払うんですよ。ほら、もう百話が語られるところです』
全ての火が強く燃え上がったかと思えば、くっついて、ぷかり、と蝋燭を離れて漂い始めました。と同時に、漂っていた幽霊が次々、火の消えた蝋燭へ向かって飛び込んでいきました。
『これだけの火が燃え盛るんだ、どんな不気味な事が起きたって不思議じゃあござんせんでしょう?』
幽霊は、自分の体が蝋燭へ吸い込まれていくのを感じました――
――幽霊に話を聞いたといっても、自分が会ったのは普通の人間にしか見えないお方だったのです。はてさて、死神と行った賭けとは何だったのでしょうね。
さて、今日は早めに失礼いたします。少し変わったお客霊の話を伺う予定がありまして……ですので、最後の蝋燭の火消しという大イベントは残る皆さま方でぜひ、ごゆっくりと」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
旧校舎のシミ
宮田 歩
ホラー
中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

一ノ瀬一二三の怪奇譚
田熊
ホラー
一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)はフリーのライターだ。
取材対象は怪談、都市伝説、奇妙な事件。どんなに不可解な話でも、彼にとっては「興味深いネタ」にすぎない。
彼にはひとつ、不思議な力がある。
――写真の中に入ることができるのだ。
しかし、それがどういう理屈で起こるのか、なぜ自分だけに起こるのか、一二三自身にもわからない。
写真の中の世界は静かで、時に歪んでいる。
本来いるはずのない者たちが蠢いていることもある。
そして時折、そこに足を踏み入れたことで現実の世界に「何か」を持ち帰ってしまうことも……。
だが、一二三は考える。
「どれだけ異常な現象でも、理屈を突き詰めれば理解できるはずだ」と。
「この世に説明のつかないものなんて、きっとない」と。
そうして彼は今日も取材に向かう。
影のない女、消せない落書き、異能の子、透明な魚、8番目の曜日――。
それらの裏に隠された真実を、カメラのレンズ越しに探るために。
だが彼の知らぬところで、世界の歪みは広がっている。
写真の中で見たものは、果たして現実と無関係なのか?
彼が足を踏み入れることで、何かが目覚めてしまったのではないか?
怪異に魅入られた者の末路を、彼はまだ知らない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる