暖をとる。

山の端さっど

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-68℃ 純夜の白湯

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 この感覚には覚えがある。忘れもしない三年の長距離走。校外にコースを設定され車通りの少ない道を走らされたあの時だ。コース監視役の先生の死角を走る間ずっと僕は数分前に出発してとうに先を進んでいるはずの輩に進路を邪魔され続けていた。実力的には勝負にもならないであろう相手の背後に付かねばならない心中を今でも僕は覚えている。
 後手に回らされ続ける屈辱。

「……なんという様だ」
『なんと?』
「独り言だ」
『またですかー』

 情報屋は車で探偵……「妹」を追跡している。スピーカーで通話だけ繋いでいる状態だ。

『っと! 参りましたね。このままだと3分でワタクシ撒かれます』
「何?」
『今日のワタクシが調査機材たっぷりの大型車に乗っているのをお忘れで? このままですと車種の通行制限がある道路に入られて回り道する間に消えられます。どうやら追跡に気づかれてますね。まあずっと同じルートをついてくる大型車がいれば警戒もしますか……』
「ならば……」

 チッ。こんな時に「死神」に付けていた監視エマージェンシーコールが入った。何だ? 保護対象の脱走? そういえば指示を忘れていたが……

「っ! ……情報屋。右に車線変更しろ」
『はい? でもこれ右折の』
「どうせ2分30秒後には見失う車だ」

 間違いない。「チノフィリアの代筆」を保護した際に念のため付けた発信機の反応が情報屋の後ろからずっと追けている。かなりハイペースで距離を詰めている。……バイクか。情報屋の車が右折の意志を見せても進路をぶらさない。やはり追っているのは「妹」だ。

『ああもう、右折しちゃいましたよ! もう何も分かりませんからね!』
「それでいい。次は適当な所で左折してバイパスを目指せ」
『勝算はおありなんですよね?!』
「ああ」

 彼女が「妹」を追う理由は不明だが置いておこう。今はただ食らいついてやろうじゃないか。出遅れたランナーから狩人への転身だ。
 しばし位置情報が止まる。再び車速で走り出す。そのタイムラグの間に車を変え距離を詰めた情報屋は更に後を追う。

『ところで先ほどの河原の近くに警察が来ていましたが』
「ふむ?」

 追跡は順調だ。僕は片手間に情報を収集する。

「殺人死体……」

 そういえば気絶させた「死神」をあの辺りに置いてきたと報告があったか。連絡を取ってみよう。情報が手に入り出した。良い傾向だ。
 ああ素晴らしいね。うかつに報復もできない授業と違ってこの競争は実に楽しいじゃないか。
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