暖をとる。

山の端さっど

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-66℃ 鈴めく啓示

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「今日はご機嫌だな、『死神』」
「……悪いな」

 出先で襲撃されて連絡が取れなくなった上、夜になって事件現場を発見して通報してきた中年刑事に、同僚は眠そうな声を掛けた。

「悪いも何もねえよ。事件はタイミング待っちゃくれねえし――ふぁああ」

 たっぷりと欠伸が続く。刑事は目をそらした。何度も見た光景が今は他の刑事やら鑑識やらでごった返している。どこから湧いたのか野次馬もいる。もっと目をそらす。

(記憶を頼りにした方がマシだな)



 彼らが到着するまでの間、刑事は遺体を観察し続けていた。

 白骨がむき出しになってはいたが、刑事の目から見ても遺体ホトケは死後半月も経っていなかった。
 骨は腐り落ちて風化したにしては異様に綺麗だった。綺麗に膝から下だけが骨で、肉のには、止血されて人為的な処置がされていた。医療的に満点かはともかく、綺麗に。
 対照的に、肉の側には縛られたような痕や、床ずれと言うにはグロテスクすぎる褥瘡じょくそう、鋭い刃物でついた傷痕があった。痩せ細った手首には紐で鈴がくくりつけられていた。
 どこからどう見ても――



「これも気になる証拠だな」

 同僚の言葉に、刑事は我に帰る。同僚は、起こされた遺体の服の背中側にピンで留められていたラベルを指差していた。

「!」
「なんて描いてあるんだか」

 読みにくいうずまきだらけのデザイン文字は、刑事には不思議と一瞬で読めた。



『年末のやつ失敗໒꒱』



「……現場には痕跡が残っているんだったな」
「ああ。隣の部屋に住んでたっぽい痕跡があるらしい」

 刑事はそれを聞くなり隣の部屋に走った。

「おい?」

 同僚の声を背中に入った部屋の中に、廃材の寄せ集めで囲われ、少しだけ綺麗に整えられた「基地」があった。

(仮住まいとはいえ廃墟に住める。しかしその中でも守りを意識した秘密基地になっているか)

 床の上にはゴザやカーペットが敷き詰められている。スーツケースと大きなバッグとくたびれたソファー、それらを覆っていたらしい何枚もの大きなブルーシート。そして、本格的なテント。

(意外と寒さや埃の対策はされている。冬にも本気で寝泊まりできそうだ)

 テントの中には布団や服があるらしい。覗きこむと、甘い香りが鼻をついた。

(……やはり)

 刑事は目に映る全てを手がかりとして脳に焼きつける。

(スターラーは、女だ)
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