64 / 105
-64℃ プディングカラメル糸
しおりを挟む
『何が起きた?』
『何が何やらです』
もし情報屋に理性を十全に働かせる余裕があったならばこの無意味な返答はしなかっただろう。無事に片が付けば盛大に虚仮を笑ってやろうというものだ。
情報屋の報告から確認しよう。まず僕が監視カメラのリアルタイム映像にアクセスする直前に事は始まっていた。探偵の連れていた少女が何らかの理由で昏倒したのだ。僕がアクセスした時点で異常はないように見えたのだから意外にも店内は冷静だったらしい。そんなものか。人が倒れた程度で人間は他者に興味を示さない。探偵という連れが居たのだから対処する必要性も感じなかっただろう。
情報屋の見る限りでは探偵は少女の容体を心配する様子を見せ続けていた。救急へ電話もしていた。
そして探偵は救急が来る前に少女を抱えてカフェから走り去った。
現在情報屋が追跡中だ。
『今思えばですが、おかしかったんですよ。普通店内で連れが倒れればまず最初に頼るべきは店員だったでしょうに、電話以外は何もしなかったんです』
『全くもって有意義なご意見だ。起きた瞬間に僕へ報告を上げていれば数分前に気づけただろう』
『……申し上げたいことは色々ありますけど、ワタクシ金が惜しいのでやめておきます』
『僕からは情報がある』
『はい?』
『伝え損ねていたが「妹」の正体に見当がついた』
数秒の沈黙。
『なんでそんな重要な事を黙ってたんですか?!』
『……探偵は警察時代に一度PTSDを発症して入院している』
『それはワタクシも把握済みです。捜査中に事件に巻き込まれ、一時的な精神錯乱状態に陥ったと聞いていましたが』
『「あなたがお兄ちゃん?」』
『はい?』
『当時先輩にあたる刑事が見舞いに来た際に探偵が女児のごときあどけない声でそう言ったそうだ。あの探偵が』
『あの、って……女性に対して失礼ですよ。前から思ってましたけど』
下らないな。僕は探偵のことを女性と認識したことは無い。
『まあ、ワタクシはお金が惜しいので何も異論を唱えませんよ、もちろん。つまり探偵さんは二重人格だと仰りたいんですね?』
『そして探偵の「妹」であるもう一つの人格が「うずまき文字」で恐らくは「スターラー」……戯言のような話だ』
実に滑稽で荒唐無稽だ。
『……探偵さん自身は、ご自身の二重人格の言動をどこまで知っているのでしょうね……』
僕の今一番の希求をわざわざ文章に起こしてくれて有難い限りだね。頼りになるよ情報屋。
『何が何やらです』
もし情報屋に理性を十全に働かせる余裕があったならばこの無意味な返答はしなかっただろう。無事に片が付けば盛大に虚仮を笑ってやろうというものだ。
情報屋の報告から確認しよう。まず僕が監視カメラのリアルタイム映像にアクセスする直前に事は始まっていた。探偵の連れていた少女が何らかの理由で昏倒したのだ。僕がアクセスした時点で異常はないように見えたのだから意外にも店内は冷静だったらしい。そんなものか。人が倒れた程度で人間は他者に興味を示さない。探偵という連れが居たのだから対処する必要性も感じなかっただろう。
情報屋の見る限りでは探偵は少女の容体を心配する様子を見せ続けていた。救急へ電話もしていた。
そして探偵は救急が来る前に少女を抱えてカフェから走り去った。
現在情報屋が追跡中だ。
『今思えばですが、おかしかったんですよ。普通店内で連れが倒れればまず最初に頼るべきは店員だったでしょうに、電話以外は何もしなかったんです』
『全くもって有意義なご意見だ。起きた瞬間に僕へ報告を上げていれば数分前に気づけただろう』
『……申し上げたいことは色々ありますけど、ワタクシ金が惜しいのでやめておきます』
『僕からは情報がある』
『はい?』
『伝え損ねていたが「妹」の正体に見当がついた』
数秒の沈黙。
『なんでそんな重要な事を黙ってたんですか?!』
『……探偵は警察時代に一度PTSDを発症して入院している』
『それはワタクシも把握済みです。捜査中に事件に巻き込まれ、一時的な精神錯乱状態に陥ったと聞いていましたが』
『「あなたがお兄ちゃん?」』
『はい?』
『当時先輩にあたる刑事が見舞いに来た際に探偵が女児のごときあどけない声でそう言ったそうだ。あの探偵が』
『あの、って……女性に対して失礼ですよ。前から思ってましたけど』
下らないな。僕は探偵のことを女性と認識したことは無い。
『まあ、ワタクシはお金が惜しいので何も異論を唱えませんよ、もちろん。つまり探偵さんは二重人格だと仰りたいんですね?』
『そして探偵の「妹」であるもう一つの人格が「うずまき文字」で恐らくは「スターラー」……戯言のような話だ』
実に滑稽で荒唐無稽だ。
『……探偵さん自身は、ご自身の二重人格の言動をどこまで知っているのでしょうね……』
僕の今一番の希求をわざわざ文章に起こしてくれて有難い限りだね。頼りになるよ情報屋。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
旧校舎のシミ
宮田 歩
ホラー
中学校の旧校舎の2階と3階の間にある踊り場には、不気味な人の顔をした様なシミが浮き出ていた。それは昔いじめを苦に亡くなった生徒の怨念が浮き出たものだとされていた。いじめられている生徒がそのシミに祈りを捧げると——。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゴーストバスター幽野怜
蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。
山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。
そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。
肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性――
悲しい呪いをかけられている同級生――
一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊――
そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王!
ゴーストバスターVS悪霊達
笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける!
現代ホラーバトル、いざ開幕!!
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる