暖をとる。

山の端さっど

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-61℃ ボロ布夜の星

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「あー……俺、何やってんだよ……」

 もしカラオケ店のバイトをしていた女子が監視をサボらず真面目に働いていれば、ささやかな騒ぎの顛末として、仰向けに床に横たわるクラスメートの姿を監視カメラの端に見つけただろう。最近様子がおかしい彼の事を心配して駆けつける事もできた。密かに想いを寄せていた彼に言葉を掛けて助け起こせただろう。
 もっとも、彼女がいくら優しくしたところで彼――クライの心を開く事はできなかった。結果として、スマホを弄っていて正解だった。
 邪魔を受けなかったクライはみぞおちに受けたダメージがおさまってもまだ動かずにいた。動けなかった。

「いや、俺、ダサすぎだし……バカかよ、何が『好きです』だよ……いきなり過ぎだろ……バカかよ」

 元々クライは、ここにいるはずではなかった。そもそも、出会ったのも偶然だった。

「いや、だってたまたまとはいえ会ったらチャンスだって思うじゃん……」

 偶然出会ってからも、あんな事をするためにクライは女性を誘ったわけではなかった。

「クソ、スターラーの事聞き出そうとしてたのになんで俺……あんな事したんだ……?」

 の為に必要な情報を探るはずだったのだ。


 
「…………ってか、ヤベ俺、会う約束してたのに!」

 待ち合わせをしていた「白杖の少女」のことをようやく思い出し、クライは慌てて起き上がる。

「と、とりあえず」

 電話を掛けるが、全く繋がらない。

「充電切れとか……いやまさか」

 とにかくこれはまずい。クライはこの番号以外に少女との連絡手段を知らないのだ。
 クライは伝票をひっ掴んで部屋を出た。

「ご利用ありが――えっ、クライじゃん!」
「お、ここでバイトしてたんだ。知らなかった」
「えー、えっ、え、じゃああの女の人と一緒に来てたの? 誰? まさか彼女?!」
「違えよ。ホント恋バナ好きだなー、お前。とりあえずもう出なくちゃいけなくなってさ。会計頼む」
「あ、会計ならあの女の人が済ませていったから、時間延長無いなら要らないよ?」
「うわ……うわー、マジか……いやそうだよな……出すって言ってたもんな……」
「何かあったの?」
「大人って凄ぇ……」





 完璧に打ちのめされた青年がカラオケを出たとき、駅前商店街を救急車のサイレンが通り過ぎる所だった。野次馬がカフェの前に集まっている。慌てた様子で救急車の後を追う大荷物の女性が肩にぶつかった。

「痛っ」

 謝罪の言葉もなく女性は走り去る。

「何なんだよ……?」
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