暖をとる。

山の端さっど

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-60℃ 冬の第六話「密室」

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「さて、この土地では『雪の谷』を作るほどの豪雪が降るそうですね。幸い、今回の自分は見る事ができなさそうです。ああいえ、他意などありませんよ。ただ、昔の体験を思い出しまして。幽霊から聞いた話ではないのですが、よろしいでしょうか?



 あれはまだ修行中だった自分が、剃髪を後悔するような夏でした。帽子を忘れて頭の皮を陽に焼いてしまい、しばらく炎症に悩まされていたのです。

 やっと熱気の引いた夜、自分はなんとなく散歩に出掛けました。今にして思えば導かれていたのでしょうか。がたん、と音がしたかと思えば、自分は公衆電話ボックスの中に居ました。
 入った記憶もなければ出ようにも扉が開きません。近くには人も居ません。そして当の電話も、しいんと静まり返って小銭を入れても何を押しても応答しないのです。
 自分の年代の子らの間では、干からびるまで電話ボックスに閉じ込められるという怪談が流行っておりました。自分はさっそく不気味になって叫んだり叩いたり、色々としてみたのですが何も反応がありません。いつでも持ち歩いていた数珠が懐にない事に気がついて自分はぞおっとしました。当時は物に頼らなければ霊力を使えないと思っておりましたから。
 泣き疲れて座り込むと、夜とはいえ夏と思えない寒気が地面からは襲ってきます。
 ああ、先ほどまでここを歩いていたのに、と土を握りしめて、ふと気がつきました。電話ボックスの床はなく、下はただの地面なのです。おまけによく見れば、電話ボックスがあるのは先ほどまで自分が散歩していた道の真ん中でした。まるで歩いていた自分の真上に底の抜けた電話ボックスが降ってきたかのようです。
 それに気づいたとたん、自分は全てが分かったような気がしました。後から考えればそれも不思議なのですが、とにかく、誰かが上から電話ボックスを自分に被せただけで不思議など何も起きていないのだ、そう自分は感じたのです。そう思うと急に元気が湧いてきました。電話ボックスの扉を押すと扉は開き、そしてそのまま家へ帰ったのです。
 その翌日から、電話ボックスの怪談はぱったりと聞かなくなりました。



 主観の話でとりとめがなくなってしまいましたね。見越し入道という妖怪は恐れなければ小さくなって消えるといいます。恐れない事が異常への一番の対処なのかもしれません。おや、どうされました? え? 急な吹雪で道路が塞がった? 今日は帰れない? ……おやまあ」
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