暖をとる。

山の端さっど

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-58℃ 量産品野菜ジュース

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 室温のジュースを飲む。べったりとした甘味と執拗な人参の風味が口内と味蕾に絡み付く。無論好みの飲料にこのような表現は用いない。探偵が出してくるから多少のビタミンと食物繊維を摂取する事にしているだけで僕自身はこのような似非健康飲料を好まないのだ。

『連絡あり。しばし待つ』

 真っ暗な画面に文字を浮かび上がらせる。数分もしないうちに画面は更新された。

『今ゆっくり見る余裕無しです。それより、探偵さんが子供と一緒にワタクシの居るカフェに入ってきたんですよ!』
『子供?』

 写真が送られてくる。探偵に支えられるようにソファー席に座っているのは13歳前後の顔色の悪い女子だ。……白杖らしきものが見えるな。

『そのまま観察し可能なら盗聴を試みろ』
『了解です! 今なら注意散漫そうですからできそうです』

 やり取りが途絶える。
 ……手順を誤ったな。伝えようと思えば一文だったというのに伝え損ねた。
 現在使っているチャットは既読にしたメッセージやメディアファイルが自動消去される仕組みになっている。偽装メッセージを防ぐロック機能もある。今もし情報屋が探偵に見つかったとしても画面は反応せず真っ暗だ。僕とやり取りしていたことはバレない。
 しかし僕がメッセージを書き加えれば情報屋が既読にするまで画面にその内容は残ってしまう。もし探偵に先に見られればその内容が筒抜けだ。そのような間の抜けた情報漏洩などしてたまるものか。

 他の手段で情報屋へ注意を促すことは可能だ。しかしバイブにしろ画面にフラッシュを発生させるにしろ少なからずあの察しの良い探偵に気づかれる可能性が生じる。

(今更情報屋が探偵への警戒を怠る事などないだろう)

 後回しにしても問題など生じ得ないはずだ。胸中の胸騒ぎを無視して僕は再びジュースのストローを口に含みホットドッグの細片を喉奥へ流す。
 ……腹に食物が収まるというのは確かに悪くない。少し狭窄していた視野が広がったようだ。
 不安要素へはいくらでも手を打てば良いだけの事じゃないか。

 僕は監視カメラへの広域ハックへ割いていたメモリを少しだけ減らす。写真から割り出した「カフェ」の地点を特定し付近のハック可能な録画媒体へアクセスを仕掛ける。全体は無理だったが情報屋の姿くらいは捉えることができた。
 これで次善だ。



 予測不能が発生する可能性だけは予測し得たこの監視の鎖はその後直ぐに呆気なく崩れる――店内に駆け込む救急隊員という予測不能によって。
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