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山の端さっど

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 ローテーブルの上に足を乗せるのは実に下品な行為だが足置きがローテーブルの形をしているのに問題はあるだろうか?
 そんな論を暇潰しに探偵にぶつけた事がある。

『そこで妥協しなくても、少し待ちゃハイテーブルに足を乗せられるようになるだろ』

 当時の僕はその中に身長差からなる優越感を感じ取り数日探偵とのコミュニケーションを絶った。
 今思えばその対応こそが稚拙なやり口だった。数日とはいえ貴重な契約期間を自ら捨てるなど若かったものだ。



 ところで僕は追懐に時間を浪費するほど暇ではない。必要に応じて記憶を引き出す。

『なあ、降参だ。俺は何をしちまった? 原因に気づけなかった事込みで反省するからどうかお許しを。俺にもう一度チャンスをいただけないか? 前払いの契約期間中に打ち切られるのは性に合わねえんだよ』

 留守電を確認して息を吐く。
 これが探偵と距離を取る最も自然な方法だった。探偵にまた癇癪故の過ちを成したと思われるのはそれこそ癪だが致し方ない。



 さて、何から取り掛かろうか。

 まず情報屋から裏取りも無しに送られてくる細かな有象無象を整理すべきだ。
 なかなか連絡を寄越さない「死神」にも見張りを貼り付けなければ。
 それから急に連絡が取れなくなった「ピープ」の状況を探っておくか。何か事情があるはずだ。あそこまで心を折ってなお反抗する意志があのノイズに残存しているとは思えない――

「……!」

 やっと来たか。「死神」からだ。
「死神」には「渦巻き文字」を警察署内に持ち込んだ可能性のある容疑者を全てリストアップするよう命じてあった。やけに時間が掛かったのは気になるがまだ不自然という程でもないだろう。暗号化されたファイルをスキャンして捨てサーバーで開く。

「……なるほど、遅れるわけだ」

 ファイルには大量の写真が収められていた。全てパソコン画面や物々しいファイル蔵の資料――警察関係者の極秘資料だ。そこに「死神」個人の意見まで入っている。
 驚いたな。ここまでやれとは言っていない。ここまで掘り下げたところで役に立たない情報ばかりだ。

「くくく……」

 なあ。こんな物が僕のような頭脳のもとに流出などしてしまったら何だってできてしまうじゃないか。

 そうだ。探偵が刑事だった頃の資料を見てやろう。僕は面白半分で写真からスキャンされた文字データをスクロールした。





 なるほど警察は無能ではない。

「……妹」

 僕が必死に探していた答えがこれ程無造作に転がっているのだから。
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